踊れ、受け攻め裁判所! クロサイト被告はむちむち!
キャラクターノベル(グループ)制作 むぎあき納品 2023年10月02日 10時59分11秒
「レピドがいなくなったぁ?」
冒険者ギルド職員、ペデラ・ウォーカーは届いた一報に眉間に皺を寄せていた。
レピド・クロサイト。ペデラとは顔見知り以上の仲と言っても良いちょっぴり訳アリのホムンクルスだ。
彼も一端の冒険者。長期不在は珍しいことではない筈だ。わざわざ報告が入ったということは、何かしらのトラブルに巻き込まれたということか。
直近でレピドと仕事を共にした冒険者が得た情報によると、見慣れない服装の仮面の男達がレピドに接触していたそうだ。
「こっちも不確かな情報だけど、会話を聞いた人もいるらしくてね」
『貴方、マジのホムンクルスですと!?』
『……? そうだが、驚くほどのことか?』
『これは失敬、我々の地元では滅多にお目に掛かれないもので』
思いっきり怪しい。何とも思わなかったのだろうか、と目頭を抑えるペデラを宥めるわけではないが、既に有志が集って彼の捜索に当たってくれているらしい。
レピドもやわな奴ではない。きっと無事に帰ってくるだろうと背中を押され、ペデラは帰路に着いた。
……筈だったんだけどなあ。
■
「被告人のご友人ですか?」
「ペデラ。どうした、頼み事か?」
「どうしたもこーしたもねぇんだけど」
どこだここは。自宅の扉の向こうに見たこともない部屋が広がっていたばかりではなく、失踪したはずのレピドと不審者二名にお出迎えされて、ペデラはずるずると部屋の中央、椅子と長机が並ぶ所へ引きずりこまれてしまった。
どういう状況なんだ、とレピドにアイコンタクトを贈るが、勿論伝わる筈もなくグッと親指を立てられて終わり。何を分かったつもりでいるんだこいつは。
「この“裁判所”に入り込めるのは客人のみ――ということは、貴方は被告と親しい間柄なのは間違いない。裁判長、証人として彼にもこの場に立って頂くということでよろしいでしょうか?」
(裁判……?)
何故レピドが、こいつらの正体は? 次から次へと湧く疑問に混乱するペデラの肩をレピドが叩き、“それ”を指差しながら言った。
「下手な真似はしない方がいい、多分――」
「……冗談だろう?」
比喩ではなく、山のような体格の老人。明らかに人の範疇にないものが、巨大な椅子に腰掛けたまま2人を黙して見下ろしている。
体格と裏腹につぶらな瞳をにっこりと細め、“裁判”の始まりを告げるべく手にした木槌を振り上げたのだ。
――そして現在に至るのだが。
「で、どこまで進んでましたっけ?」
「俺がむちむちでもえるという話をしていた途中だった筈だ」
「そうでしたね!」
「待て待て待て待て」
レピドの発した単語の破壊力に頽れそうになった膝をどうにか支えるペデラ。
もしやこいつら、ドゥジン教の手の者か? とも怪しんだが、何だってレピドを狙ったのか。どうにも知り合いのドゥジン教徒とは雰囲気が違う。
「ペデラ、俺はもしかして太ったのか……? そうならもっと早く言って欲しかったんだが」
ホムンクルスとして再びの生を受けたレピド。趣味は食事、それから猫ちゃん。
元暗殺者としての記憶がそうさせるのか、太ってたらどうしよう……とお腹周りを擦っている。弁護士と検事を名乗る二人組は「「可愛いですねぇ」」と何故かレピドのリアクションにご満悦のようだ。
「無知属性は受け的にも攻め的にも美味しい要素ですからね! 大人バブ可愛い。身体に石が埋まってるって何そのヒロイン属性」
「ホムンクルス……いいですねぇ。わざわざ“こちらまで”出張してきた甲斐がありましたよ」
「ばぶかわ……?」
(いかん、これは)
聞いたことの無い単語でじわじわと連中の知識を吸収しようとしているレピド、これはいけない。
名付け親として彼が謎の勢力に毒されていくのを黙って見過ごすわけにはいかない。
過保護? いいえ、ちゃんとした大人の義務ってやつです!
「あんたら、そいつに何の用があるんだ?」
「ああ、申し訳ございません! 我々こういうものでして」
瞬きの間に仮面の男両人がサッとペデラの前に現れて、思わずうおっと一歩後退ったが、差し出された小さな紙は取り敢えず拝借。
「……ウケ弁護士、セメ検事?」
「いかにも。我々、神聖にて公平なる受け攻め裁判の進行役!」
「ロスガリア大陸に数多いる筈のまだ見ぬ受けちゃんを探し求め、クロサイト被告を目に留めた訳でございます」
――受け、攻め?
(……いや待て、思い出した。コイツらやっぱソッチ系じゃねぇか!)
要するに彼らはレピドをネタに薄くて濃厚な妄想を繰り広げているのだ。これはいけない!
「お言葉ですがね弁護人。被告人から“申告”があったではありませんか」
「アレはノーカウントでしょ!?」
ペデラが真っ青にした顔をギギギ……とレピドに向ける。
「お前、なんか余計なこと言ったか?」
「ああ、受けと攻めどちらかと聞かれた」
「それで」
「……俺は攻めだろう?」
妙に得意げなレピドにペデラが頭を抱える。
恐らくレピドの事だから、戦闘スタイルの攻め手か受け手かという意味で答えたのだろうが、それ見た事かと言わんばかりに腕を組んで勝利を確信している検事の様子を見る限り、当人の真意は二の次らしい。
「待ってレピドたそ……! 受けっ、ディフェンダーも良い物ですよっ!? 一度体験してみれば分かりますっ」
「向き不向きというものはある。それに俺の身体は攻撃を受け止めるには脆い、と思う」
「んんっ、とっても意味深……!」
「どこも深くねぇから」
既にレピドの攻め認定は揺るがないものとして勝利を確信したらしいセメ検事。再びペデラに近づき、じっとその容貌を観察し始めた。
「なんだよ、いや近い、仮面の圧凄い」
猛烈に嫌な予感がする。まだ終わらないのかこの裁判という名の茶番は。
「貴方、もしかして被告人攻めの受けでいらっしゃる……?」
「ウケチャン!?」
レピドにフラれたショックから立ち直ったウケ弁護士がきびきびとした動きでペデラに迫れば、便乗してレピドもそれに付き従う。
「……アンタは受けだったのか。そうか、勉強になった。覚えておく」
「忘れろ即刻! いらん知識を貪欲に貪るな、腹壊すぞ!」
「まぁまぁ。ところでクロサイト被告。彼のことはどう思っていらっしゃるのかお聞かせいただいても?」
とりなすような素振りとウケ弁護士へのブロックを同時にこなしつつ、頑なな保護者ではなくレピドから言質を引き出しにかかる検事。
レピドは変わらず顔色の悪いペデラをきょろりと見て一言。
「ペデラの事は(人間として)好きだ」
「おいい!?」
「真面目で面倒見がいい奴だ。あと、石(鉱石)がとても好きらしい」
「フゥン……石ね?」
レピドの賢者の石にも目を付けていたらしい弁護士がその発言に目を付ける。
あとそれから、もういい止めろと口論する二人を愛おし気に眺めながらセメ検事に向き直る。
「聞きましたよね今の」
「……なるほど、証人が眠っている被告人の髪をそっとかき上げ、震える手でそっと人ならざる証に触れる。実に美しいシチュ……悔しいですが捗りますね」
「何がだよ!?」
やっぱ無知っ子は受けだよね! と裁判はペデレピ優勢ややリバ傾向で終結を迎えた。
という夢を見たんだが。
彼も失踪期間中の記憶が無い上に、同じ夢を見たというのだから気味が悪い。
要らん事覚えたレピドへの対応に大変な苦労をする羽目にはなったが、いずれあの夢の事も忘れるだろう、多分。
冒険者ギルド職員、ペデラ・ウォーカーは届いた一報に眉間に皺を寄せていた。
レピド・クロサイト。ペデラとは顔見知り以上の仲と言っても良いちょっぴり訳アリのホムンクルスだ。
彼も一端の冒険者。長期不在は珍しいことではない筈だ。わざわざ報告が入ったということは、何かしらのトラブルに巻き込まれたということか。
直近でレピドと仕事を共にした冒険者が得た情報によると、見慣れない服装の仮面の男達がレピドに接触していたそうだ。
「こっちも不確かな情報だけど、会話を聞いた人もいるらしくてね」
『貴方、マジのホムンクルスですと!?』
『……? そうだが、驚くほどのことか?』
『これは失敬、我々の地元では滅多にお目に掛かれないもので』
思いっきり怪しい。何とも思わなかったのだろうか、と目頭を抑えるペデラを宥めるわけではないが、既に有志が集って彼の捜索に当たってくれているらしい。
レピドもやわな奴ではない。きっと無事に帰ってくるだろうと背中を押され、ペデラは帰路に着いた。
……筈だったんだけどなあ。
■
「被告人のご友人ですか?」
「ペデラ。どうした、頼み事か?」
「どうしたもこーしたもねぇんだけど」
どこだここは。自宅の扉の向こうに見たこともない部屋が広がっていたばかりではなく、失踪したはずのレピドと不審者二名にお出迎えされて、ペデラはずるずると部屋の中央、椅子と長机が並ぶ所へ引きずりこまれてしまった。
どういう状況なんだ、とレピドにアイコンタクトを贈るが、勿論伝わる筈もなくグッと親指を立てられて終わり。何を分かったつもりでいるんだこいつは。
「この“裁判所”に入り込めるのは客人のみ――ということは、貴方は被告と親しい間柄なのは間違いない。裁判長、証人として彼にもこの場に立って頂くということでよろしいでしょうか?」
(裁判……?)
何故レピドが、こいつらの正体は? 次から次へと湧く疑問に混乱するペデラの肩をレピドが叩き、“それ”を指差しながら言った。
「下手な真似はしない方がいい、多分――」
「……冗談だろう?」
比喩ではなく、山のような体格の老人。明らかに人の範疇にないものが、巨大な椅子に腰掛けたまま2人を黙して見下ろしている。
体格と裏腹につぶらな瞳をにっこりと細め、“裁判”の始まりを告げるべく手にした木槌を振り上げたのだ。
――そして現在に至るのだが。
「で、どこまで進んでましたっけ?」
「俺がむちむちでもえるという話をしていた途中だった筈だ」
「そうでしたね!」
「待て待て待て待て」
レピドの発した単語の破壊力に頽れそうになった膝をどうにか支えるペデラ。
もしやこいつら、ドゥジン教の手の者か? とも怪しんだが、何だってレピドを狙ったのか。どうにも知り合いのドゥジン教徒とは雰囲気が違う。
「ペデラ、俺はもしかして太ったのか……? そうならもっと早く言って欲しかったんだが」
ホムンクルスとして再びの生を受けたレピド。趣味は食事、それから猫ちゃん。
元暗殺者としての記憶がそうさせるのか、太ってたらどうしよう……とお腹周りを擦っている。弁護士と検事を名乗る二人組は「「可愛いですねぇ」」と何故かレピドのリアクションにご満悦のようだ。
「無知属性は受け的にも攻め的にも美味しい要素ですからね! 大人バブ可愛い。身体に石が埋まってるって何そのヒロイン属性」
「ホムンクルス……いいですねぇ。わざわざ“こちらまで”出張してきた甲斐がありましたよ」
「ばぶかわ……?」
(いかん、これは)
聞いたことの無い単語でじわじわと連中の知識を吸収しようとしているレピド、これはいけない。
名付け親として彼が謎の勢力に毒されていくのを黙って見過ごすわけにはいかない。
過保護? いいえ、ちゃんとした大人の義務ってやつです!
「あんたら、そいつに何の用があるんだ?」
「ああ、申し訳ございません! 我々こういうものでして」
瞬きの間に仮面の男両人がサッとペデラの前に現れて、思わずうおっと一歩後退ったが、差し出された小さな紙は取り敢えず拝借。
「……ウケ弁護士、セメ検事?」
「いかにも。我々、神聖にて公平なる受け攻め裁判の進行役!」
「ロスガリア大陸に数多いる筈のまだ見ぬ受けちゃんを探し求め、クロサイト被告を目に留めた訳でございます」
――受け、攻め?
(……いや待て、思い出した。コイツらやっぱソッチ系じゃねぇか!)
要するに彼らはレピドをネタに薄くて濃厚な妄想を繰り広げているのだ。これはいけない!
「お言葉ですがね弁護人。被告人から“申告”があったではありませんか」
「アレはノーカウントでしょ!?」
ペデラが真っ青にした顔をギギギ……とレピドに向ける。
「お前、なんか余計なこと言ったか?」
「ああ、受けと攻めどちらかと聞かれた」
「それで」
「……俺は攻めだろう?」
妙に得意げなレピドにペデラが頭を抱える。
恐らくレピドの事だから、戦闘スタイルの攻め手か受け手かという意味で答えたのだろうが、それ見た事かと言わんばかりに腕を組んで勝利を確信している検事の様子を見る限り、当人の真意は二の次らしい。
「待ってレピドたそ……! 受けっ、ディフェンダーも良い物ですよっ!? 一度体験してみれば分かりますっ」
「向き不向きというものはある。それに俺の身体は攻撃を受け止めるには脆い、と思う」
「んんっ、とっても意味深……!」
「どこも深くねぇから」
既にレピドの攻め認定は揺るがないものとして勝利を確信したらしいセメ検事。再びペデラに近づき、じっとその容貌を観察し始めた。
「なんだよ、いや近い、仮面の圧凄い」
猛烈に嫌な予感がする。まだ終わらないのかこの裁判という名の茶番は。
「貴方、もしかして被告人攻めの受けでいらっしゃる……?」
「ウケチャン!?」
レピドにフラれたショックから立ち直ったウケ弁護士がきびきびとした動きでペデラに迫れば、便乗してレピドもそれに付き従う。
「……アンタは受けだったのか。そうか、勉強になった。覚えておく」
「忘れろ即刻! いらん知識を貪欲に貪るな、腹壊すぞ!」
「まぁまぁ。ところでクロサイト被告。彼のことはどう思っていらっしゃるのかお聞かせいただいても?」
とりなすような素振りとウケ弁護士へのブロックを同時にこなしつつ、頑なな保護者ではなくレピドから言質を引き出しにかかる検事。
レピドは変わらず顔色の悪いペデラをきょろりと見て一言。
「ペデラの事は(人間として)好きだ」
「おいい!?」
「真面目で面倒見がいい奴だ。あと、石(鉱石)がとても好きらしい」
「フゥン……石ね?」
レピドの賢者の石にも目を付けていたらしい弁護士がその発言に目を付ける。
あとそれから、もういい止めろと口論する二人を愛おし気に眺めながらセメ検事に向き直る。
「聞きましたよね今の」
「……なるほど、証人が眠っている被告人の髪をそっとかき上げ、震える手でそっと人ならざる証に触れる。実に美しいシチュ……悔しいですが捗りますね」
「何がだよ!?」
やっぱ無知っ子は受けだよね! と裁判はペデレピ優勢ややリバ傾向で終結を迎えた。
という夢を見たんだが。
彼も失踪期間中の記憶が無い上に、同じ夢を見たというのだから気味が悪い。
要らん事覚えたレピドへの対応に大変な苦労をする羽目にはなったが、いずれあの夢の事も忘れるだろう、多分。