遥かなるドゥジンの宴

キャラクターノベル制作 ウケッキ納品 2023年08月15日 09時48分59秒

●遥かなるドゥジンの宴

 森の奥にある研究所兼自宅。
 そこの一室にて【ストレガ・L・リベルガストラ】は近々開かれるドゥジン教徒の礼拝の為、準備をしていた。
 彼女の机に所狭しと並んでいるのは、綺麗に装丁された本の数々。
 その内容は風呂の考察から唐揚げの極めた揚げ方、魔獣の解体方法など多岐に渡るストレガの研究資料たちだ。
 これらはここでの研究や彼女の冒険稼業での経験を生かして書かれた物で、長年の保存を考えて装丁も職人に頼んでしっかりと整えている丈夫な物だ。挿絵はストレガ自身が描いている。まあまあ金の掛かっている代物たちだ。
 ストレガはそれらをドゥジンの礼拝にて公開する為にまず分類分けをしていたのだった。かなりの数がある為、事前に整理しなければ持ち運ぶことすら難しいだろう。彼女の背後にはジャンル分けが終わった本が木箱に詰められ積まれている。
 研究資料の本を整理しながらストレガは考えた。
 ドゥジンの礼拝では、毎回のようにそれぞれの信者たちの議論が白熱化し、熱い戦いを繰り広げる場合がある。
 己の信念を曲げず、意見を戦わせ白熱した議論を展開する姿はドゥジン教徒として正しい姿だとストレガは思った。
 人のエロスに対する願望、欲求、羨望はその全てがある意味、正しい。それらを押し付けることは良いとはされないが、自分が納得する形で主張し、議論を白熱化させるのならば、ドゥジンの神も許してはくれるだろう。
 そもそも、ドゥジンは絵画の神と呼ばれ、絵の神、文筆の神、記憶の神、表現の神が統合された存在だ。
 その特性故、信者たちは石や紙などに絵物語をしたためる。記憶を表現し、文章や絵によって形と成す。それは統合されたドゥジンの本質かも知れない。定かではないが。
 それぞれがその絵物語に尋常ではない熱意を向ける為、議論も白熱化しやすいとも言える。
 まあ、その情熱が行き過ぎてしまい、音に聞こえし英雄や信心深く崇拝している神をやたらと可憐な姿で描いたり、性別が逆転してしまうこともある為、それぞれの関係者から良い目で見られないのも事実だが。
「神は多様な面を持つと聞く……様々な姿が見えるのもまた神性の現れではと思うのだ。とはいえ、他の信徒が怒るのも仕方はないとは思うが」
 ふう、と息を吐いてストレガはぐっと伸びをする。分類分けは単純な作業ではあるが、数があるとなるとまあまあ疲れる。肩をぐるぐると回し、疲れを少しでも解消しようと試みる。
 扉がノックされ、彼女が返事をすると入ってきたのはストレガの助手の少年【レゼル】であった。彼も今回はストレガの手伝いとして初参加する。手には飲み物が入った木のコップが二人分、握られていた。
 果実を搾って味を調味料で整えたレゼルお手製のジュースを二人はくつろぎながら飲む。爽やかな味とほのかな酸味が疲れた頭に心地よい。
「生き返るのだぁ……うむ、渡したレシピは使いこなしているようなのだ。前よりも味が格段にあがっている」
 にこっと笑って、ストレガはレゼルの頭を撫でた。少々恥ずかしそうにしながらも、レゼルは照れ臭そうに笑う。
「いえいえ、その、ストレガ様のレシピが凄いんですよ。僕なんかまだまだで……」
「そんなことはないのだ。この酸味がある、というのは果実で酸味がある物を砕いて潰し入れたのだ? そういうアレンジができるのは使いこなしている証拠なのだ」
 ジュースを飲み終えたストレガは本を整理し、木箱に詰める作業へと戻った。レゼルも加わり、作業は手際よく進んでいく。
 彼の手伝いもあり、日が暮れる頃には何とか本の整理を終え、ドゥジンの礼拝に持っていく本を木箱に詰め終わった。
「ふぃー、終わったのだぁーーっ! これで、明日の朝に積み込み作業を行えばいいのだ」
「お疲れ様です、ストレガ様。無事に終わりましたね」
 部屋の中心に設置されている魔獣の羽を詰めた、ふわもこのクッションへダイブするストレガ。柔らかいクッションの心地よさに顔が緩む。
「今日はここで寝るのだ……少年、朝は早いからゆっくり休むのだー」
「はい、了解しました。ではおやすみなさい、ストレガ様」
 部屋を出ていこうとするレゼルだが、背中から声が掛かって足を止める。
 見れば、眠そうなストレガがジト目でレゼルを見ていた。少々眠気で寝ぼけているようだ。
「どこへ行くのだー? 早く、こっちに来るのだ。寝ないと疲れは取れないのだー」
「えっ、でもストレガ様、ここには寝られるような所がそのクッション以外なく……」
 ストレガが転がっているのは彼女お手製のクッション。サイズはそこそこ大きく、標準的なベッドサイズはある特別製だ。ここで一緒に寝る、ということは抱き合って寝るということになる。
「あの、流石にストレガ様の邪魔をするわけには……」
「いいのだー、はーやーくーねーるーのーだぁーー!」
 ばしばしとクッションを叩いて催促するストレガの下に行くとレゼルは案の定、抱き枕のようにされ眠りにつく。勿論、寝るまで時間が掛かったことは言うまでもない。
 翌朝、早朝。
 眠い目を擦りながらレゼルが玄関へと向かうと、元気よくストレガは荷台へと積み込み作業を始めていた。
 木箱を二つ重ねて持ち上げるとストレガは危なげもなく、荷台へと木箱を積んだ。
 くるっと振り返り、にこやかな笑顔をストレガは見せる。上手く寝付けなかったレゼルと違って、きっと快眠だったのだろう。
「おはよう、少年! 積み込み作業は始まっているのだ。手伝って欲しい」
「は、はいっ! 今行きます!」
 荷台の前に山となって積まれている木箱の一つを持ち上げようとするレゼルだが、びくともしない。
 その間にストレガはひょいひょいと木箱を持ち上げると、荷台へと積んでいく。一般人と授恵者では身体能力が違う。レゼルにとっては重労働でも彼女にとってはさほど辛い作業ではない。
 一生懸命持ち上げようと木箱と格闘しているレゼルにストレガは不思議そうな顔を向ける。
「少年、何をしているのだ?」
「うぎぎぎ、何って、持ち、あげ、ようとっ! して……ますぅっ!」
 顔を真っ赤にしながら力をこめているが、本がぎっしりと詰まった木箱はびくともしない。
 ストレガは溜め息をつきながらレゼルの肩をぽんっと軽く叩く。
「いいか、少年。手伝って欲しいのはそこではないのだ。木箱の側面に刻印がある。積み込み忘れがないか、リストと照合して欲しいのだ」
「あ、なんだ……そっちでしたか、あはは」
 レゼルは荷台に乗せられていたリストを持って、木箱に積み忘れがないか照合していく。ストレガはその間にてきぱきと木箱を荷台に積んでいった。役割分担は大事である。
「そういえば、今回は研究資料の本も結構な数持っていくのですね?」
「うむ、現地で閲覧自由にして公開するのだ。知識は人を豊かにする、その一助ができるならよいのだ」
 誰かの知識は誰かの為になる。
 新たな知識は新たな技術を生む為の土壌となるのだ。

 早朝に始めた為か、昼になる前には積み込みが終わり、ストレガとレゼルは研究所兼自宅を出発してドゥジンの礼拝に向かった。
 荷台でゆらゆらと揺られながら、レゼルはストレガに聞いてみる。
「今回の礼拝はどういった感じの集まりなんですか?」
 ドゥジンの礼拝は開催者にもよるが、礼拝ごとにテーマが決まっていたりする場合がある。料理系オンリーや薬草系オンリーのように決まったジャンルのみ参加可能、というものまであるようだ。
「今回のテーマは何でもありなのだ。何でもありというテーマであるがゆえに、変わったものも見られるかもしれないのだ」
 そう説明するストレガは少々楽しそうだった。自分以外の者が集めた知識の一端に触れるというのは彼女にとって刺激的なものに違いない。まだ見ぬ知識への渇望は底が知れないのだ。
「レゼルはドゥジンがどういった神なのか、どのくらい知っているのだ?」
「え、そうですね……色々と統合された神様だと、としか」
 ではこれを、とストレガは数枚の資料をレゼルに渡す。
「まず、一つ目を見てみるのだ」
「どれどれ……可愛い女の子が書かれていますね。波打ち際で楽しそうに遊んでます」
「では次に二つ目を見るのだ」
「はい、あ、今度は筋骨隆々な方が筆で何かを描いていますね? 絵画、でしょうか」
 レゼルはストレガから貰った資料を興味深く眺めている。
「それじゃあ、最後の奴を見るのだ」
「これですね? 今度は綺麗なお姉さんが描かれています。布の表現や質感、細部まで凝った感じが伝わってきますよ」
 興味津々に資料を見比べているレゼルにストレガは衝撃の事実を伝える。
「今の本の人物は……全て同一人物なのだ」
「え? 待ってください、同一って……性別まで違いますよ!?」
 目を見開いたレゼルは驚いた顔でぞれぞれの資料を見比べてみる。いわれてみれば、若干ではあるが顔の特徴や髪型が少々似ているように見えなくもない。
「ドゥジン信徒は、石や紙などに絵物語を書き写す。己の信仰心を力に変えて。そこは知っているのだ?」
「ええ、そういった信仰なんだということは知っています」
「統合された神であるドゥジンは複数の側面を持つ神なのだ。どういった姿であろうとも、それはドゥジン。描いた信徒がそう言うならばそれはドゥジンなのだ」
 可愛い女の子だろうと、筋骨隆々な男性だろうと、きれいなお姉さんだろうと、それが全てドゥジンならば、ドゥジンなのだ。それを表現しているのがドゥジンシともいえる。
「それは、ドゥジンしか描かれていないが他にも遥か昔の英雄や他の神を様々な姿で描いている信徒もいる。要は信徒の数だけドゥジンシもあると言えるのだ」
 とはいえ、他教徒からはいい目で見られていない場合もあるのだが、とストレガは説明に付け加えた。
「ドゥジンという神様には様々な可能性があるんですね? 不思議な神様だなぁと」
「そうなのだ。それゆえ、礼拝会場では議論が白熱化してしまうこともある。だがそれもまた信徒の姿。他人に迷惑を掛けないように配慮しているのならば、認められるべきなのだ」
 白熱化するのはいいが、殴り合いに発展したり他の信徒の本を咎めるなどしてはいけない。それらをドゥジンはきっと許さないだろうとストレガは話す。
「そうですね、確かに自分が神様だったら……楽しく書いてくれる分にはいいですけど、それが原因で信徒同士で喧嘩されるのは嫌ですから」

 そんな話をしながらしばらく荷台で揺られていると、今回のドゥジンの礼拝の場所に着いた。
 受付で記名をした上で、ストレガは事前に購入していた参加チケットを二人分提出した。受付はそれを受け取り、スタンプを押す。一部をもぎってストレガに返した。
 歩いて会場に入るストレガの後からレゼルは付いていきながら辺りを見回している。こういう場になれていない彼にとって興味深い物ばかりなのだろう。
「今のチケットはなんです? 見慣れない物でしたけど」
「ああ、これは参加者であるかどうか、不審な人物でないかどうかを見分けるものなのだ。開催者によって違いはあるが、今回の開催者はこうやって自衛策をとることにしたようなのだ」
 ドゥジンの礼拝は他教徒に良く思われていない場合がある。その為、ある程度どのような人物が参加しているのかを把握していないと大きな騒動になりかねない。公開している中には貴重なものもあるかも知れないからという所もある。
「なるほど、そういうことも考えなくてはならないのに、礼拝を開催するのは何故なんです? 危険なら個々人でやる方がいいのでは」
「それはみんなで見せ合った方が楽しいからに決まってるのだ。自分が知らない知識の切り口、考え方に触れるのは新鮮で刺激に溢れているのだ!」
 ストレガとレゼルは申し込んでいた場所につくと、用意された机の上に本を並べていく。今回は結構な数を持ってきている為、ジャンルごとに目次も作っている。
 木箱の配置も完了し設営は完了。ふうっと息をついたレゼルへストレガはある衣装を渡した。
「えっと、ストレガ様……これは、一体?」
「レゼルの衣装なのだ。私はこのままでいいが、目を引くにはある程度、注目される衣装が必要なのだ!」
 改めて、渡された衣装をレゼルは見た。薄布で構成された肩だしの衣服に、短めのスカートと足先から太ももまでを覆う履物が用意されている。どう見ても女性ものだった。
「あ、あの、ストレガ様、これ、女性ものじゃ……」
 肩をポンと軽く叩きストレガは、ぐっと親指を立てる。そして不敵な笑みを浮かべた。
「男の娘、というものもあるのだ。少年は可愛い顔立ちをしているからきっと似合うのだ。それでお客さんのハートを鷲掴んで色んな人が本を見てくれると嬉しいのだ!」
 あ、これは説得無理ですねと感じだレゼルは更衣室で大人しく渡された衣装を着て、ストレガの元へ戻る。その間にも何人かの男性にナンパされたのは言うまでもない。
「そんなに女の子に見えるんでしょうか……?」
 若干、しょぼくれているレゼルにストレガは飲み物を渡す。受け取ったレゼルは衣装を汚さないように気を付けながら飲んだ。
「それだけ少年の魅力が高いということなのだ。その魅力に今回の礼拝の成功は掛かっている。期待しているぞ、少年!」
 ストレガの力強い説得を受け、吹っ切れたレゼルは任せてくださいと意気込んだ。

 そして礼拝の開始の鐘が鳴る。
 すると雪崩のように人々が会場へと入ってくるのが見えた。それでも人々はきちんと押し合わずにマナーよく歩いている。よく訓練された人々のように見えなくもない。
 ストレガたちの所にも人々はひっきりなしに訪れていた。どのジャンルの本をそこそこに人気だったが、特に料理関係の本が人気のようだった。
 男性たちからは自分で作ったら節約になりそうだという意見。
 女性や主婦たちからは、恋人や家族が喜びそうだと言われている。勿論、希望する者には、メモ書きを用意し、少量の手間賃でストレガがレシピを渡している。
 レゼルは客の応対をしながら、少し離れた位置で楽器を鳴らしながら、ボールをお手玉のようにくるくると回している者が見えた。大道芸人だろうか。
「あんな人までいるんですね、やはり奥が深い……ドゥジンの礼拝っ」
「うむ、絵画や音楽、文芸や遊戯に関する芸術家や研究に精を出した者たちの発表と、表現の仕方は様々なのだ」
 そんなストレガの所にやってくるのは、知り合いの研究者が主だった。
 彼らとストレガは議論を交わし、互いに研究成果の見せあいをおこなっているようだ。
 レゼルはというと、男性客に囲まれジャンルの説明をしながら彼らの質問をうまくいなしている。可愛いと言われて少々恥ずかしそうな顔を浮かべる所がまた人気の秘訣かも知れない。
 知り合いの研究者たちが帰った後は、ストレガは一般客の相手をレゼルに任せ、ある絵本を子供たちに読み聞かせる場を作った。
 読み聞かせるのはゴブリンのことをよく知ってもらおうと大脱出の絵本を選んでいる。礼拝の度に彼女はこうした場を設け、少しでもゴブリンに対する知識を広めようとしていたのだ。この試みは集まる子供たちに好評を博していた。
 
 熱狂していたドゥジンの礼拝は終了し撤収の時間となった。
 片づけをしながら疲れた顔をしているレゼルにストレガは近くで買って来た飲み物を差し入れる。
「ありがとうございます、ストレガ様。あ、これ変わった味ですね?」
「ふふ、これはとある魔獣から採取したコーンポタージュらしいのだ。濃厚で美味いのだー」
 魔獣なんですか、と驚くレゼルに本を一冊取り出すと、ぱらぱらとめくって、あるページを見せる。そこにはコーンポタージュを武器として使う亀の魔獣の姿があった。
「これなのだが、硬い上に熱々のコーンポタージュを圧縮して放ってくるのだ。ダマスカス鋼の装備がボロボロになるくらいには威力があった気がするのだ」
「え、ポタージュなのにですか!? どういう圧縮率してるんでしょうね……あ、でもだとするとこの砲身の中に――」
 かつてストレガが戦ったことがある、とある魔獣の話に花を咲かせながらレゼルとストレガは後片付けを進めていった。
 片づけが終わり、帰路についたストレガは荷台の上で揺られながらのんびりしているレゼルへと聞いてみる。
「初めての礼拝はどうだったのだ?」
 そう聞かれたレゼルは満面の笑みで答える。
「勿論、とっても楽しかったですよ。まあ、少しは疲れましたけど」
「それならよかったのだ。次はもっとフリフリな奴を着せてみるのもありなのだ?」
「き、着ないですからね!?」
 にこやかに笑いあいながら、ストレガとレゼルのドゥジンの礼拝は無事終わりを告げたのだった。

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アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0