竜の里に生きる者
キャラクターノベル制作 真柄 葉納品 2023年08月15日 09時00分22秒
『ここには世の春が全て詰まっている』
そう口にした旅人がいた。
ここは竜の里『ドラグエンダ』。極北の征竜を慕い、敬い、崇拝する人々が暮らす竜の加護を受けし地だ。
全てが凍てつく極寒の極北にあって、ここだけは常春。暖かなそよ風が緑の草木を揺らし、人々の笑顔が絶えない理想郷であった。
「これでよしっと、後は――――」
そして、その最たる場所こそがこの『竜の花園』。
この場所で見れない花はない。
そういわれる通り、ここでは一年を通してロスガリア大陸中の花が時と場所を選ばず咲き誇っていた。
「――――征竜様、偉大なる加護に感謝を」
両手いっぱいの花を供えたアイナ・フレイヴァルツは、『竜の花園』の中心部に立つ『征竜の石碑』の前に跪き、祈りを捧げる。
アイナがこの里へ来てもうすぐ1年になる。
運命に迷い、絶望の中で生きていたあの時、あの信者たちとの出会いがなければ、今この里にいることもなかっただろう。里の人々は優しく、どこの者とも知れないアイナを温かく迎え入れてくれた。今となっては信仰において、里の者にも引けを取らないと自負している。
「おはよう、アイナ。今日も精が出るねぇ」
「本当に信心深い子だ」
祈りが終わって、いつものように石碑を綺麗に磨いていたら毎日の礼拝を欠かさない老夫婦がやってきた。老夫婦は祈りの場所を譲ったアイナに微笑むと、『征竜の石碑』の前に跪き、深い祈りを捧げる。
征竜への祈りは、人によって千差万別。膝をつき深く祈る人もいれば、一礼で終える人もいる。瞳を閉じて沈黙の祈りを捧げる人もいれば、大仰に祝詞を唱えるなんて人もいた。
今でこそ、こういう自由な信仰も『信仰』の一つなんだって思うけど、この里に来た当初はとても驚いた。『ハイアルブ』を崇めるフィルエスの民とは、その在りようがまったく違うんだから。
フィルエスの中で育った私にとって、それはとても新鮮で輝いて見えた。
あまりに感動したので、何とかこの感動を共有したくて里の皆に話をしたら、「そんなかしこまったものじゃない」とか「それが普通なんじゃ?」とか、誰もこの感動を共感してくれなくてちょっぴり悲しくなったのを覚えている。
本当に、征竜様を慕う彼らは自由で、フィルエスの民のような縛られた信仰みたいな感じじゃ全然ない。
それもそのはず、フィルエスの民の信仰の対象『ハイアルブ』は限られた『巫女』にしか言葉を交わせない存在だけど、極北の征竜様は直接お姿を現して言葉をくださるから、より身近にその存在を感じられるからだと思う。
「これも征竜様のご威光のおかげです」
アイナは老夫婦に朗らかな笑みを返した。
「はは、なんと敬虔な。まるで『巫女』のようじゃな」
「ええ、本当に」
「そ、そんな、私が『巫女』なんて、恐れ多いですっ……!」
老夫婦の冗談に慌てて首を振る。
『征竜の巫女』は征竜様直々にその資質を認められた存在。今はヒルルクさん、そして帝国の皇子様がその任についていると聞いている。
ヒルルクさんはこの里の出身だし、敬虔(?)な信徒だって聞くからわかるけど、皇子様は何で巫女に選ばれたんだろう……。
「それじゃ、私たちはいくよ」
「……あっ、はい! ありがとうございましたっ!」
突然声をかけられて、慌てて返事をする。考え事をしていたので、お返事が頓珍漢なことになったら、老夫婦がくすくすと笑われてしまった。
恥ずかしくて視線を下げると、お婆さんの小さな手で頭を撫でられる。
「これからも征竜様の為に頑張るんだよ」
老夫婦はそう言い残して『竜の花園』を去っていった。
「……はぁ、恥ずかしかった」
老夫婦の姿も見えなくなり、ほっと一息ついたのも束の間、入れ替わるようにこちらに歩いてきている人物の姿が目に入る。
「マリウスさん……?」
咲き誇る花園の中を貫く小道を、石碑へと向かってくるエルフの青年。
彼の名前はマリウスといい、この竜の里『ドラグエンダ』のまとめ役をしている偉い人だ。そして、あの『征竜の巫女』ヒルルクの父でもある。
「マリウスさんが花園に来るなんて珍しい。何かあったのかな?」
彼は里のまとめ役という立場なので普段は里でのお仕事が忙しく、この花園へ来ることは滅多にない。
何か特別な用でもあるのか。たしかに、なんだか……。
「アイナか」
「お、おはようございます。……何かあったんですか?」
神妙な表情にも見えるマリウスに、アイナは恐る恐る問いかける。
なんだか無性に嫌な感じがした。何がと言われても説明できないが、お腹の底に黒い泥が溜まっていく様な、そんな感覚。
「ああ、ちょっと征竜様にご報告することがあってね」
不安げに瞳を揺らすアイナに心配をかけまいとしたのか、マリウスは小さく微笑み「大丈夫だ」と口にする。
「えっと……私は席を外した方がいいですよね」
「いや、別にいてくれても構わない。そもそも、征竜様とお話しできるかもわからないからね」
マリウスはおどけるように肩をすくめて見せた。それはまるで、久々に放蕩息子に面会する親のようだ。
ほかの宗教なら不敬に当たるだろうこんな態度も、竜の里の住民たちは平気で行う。ここに来た当初は、信仰対象に対してなんてことを! と肝を冷やしたものだけど、住民たちは全然気にしないし、征竜様も罰をお与えになるなんてこともない。
これが征竜信仰の本来の姿なのかと、いつも驚かされる。ほんとにフィルエスとは真逆の信仰だ。
そんなことを思っているうちに、マリウスは石碑に手を当て瞳を閉じている。
征竜様が不在であればすぐに目を開くのだけど、ずっと閉じているということはうまく繋がれたみたい。
しばらくして、マリウスがゆっくりと瞳を開いた。
「……征竜様、いらっしゃったんですね」
「ああ、タイミングが良かった。無事報告できたよ」
「そうですか、それはよかったです」
征竜様はちゃんと信者の事を考えて『あちら側』で待っていてくれたんだ、流石征竜だなと、アイナが一人感慨に浸っていると、マリウスが「そうだ」と手を叩いた。
「アイナ、もし手が空いているのならエルマのところへ行ってもらえないだろうか。人手が欲しいらしいんだ」
「エルマさんのところですか?」
思わずオウム返しに聞いてしまった。
エルマというのは、マリウスの妻。征竜の巫女ヒルルクの母に当たる女性だ。とても優しく大らかな母性溢れる人で、この竜の里でもかなりの古参であり、里の相談役なんかも引き受けてたりする、いわゆる長老格な人物だ。
そんな人が人手を求めているなんて、何か大変なことが起きているのかもしれない。
「わ、わかりました。お役に立てるかどうかわかりませんが、精一杯頑張ります……!」
「え? ああ、よろしく頼むよ……?」
アイナはマリウスに頭を下げると、急いで里へと向かった。
●
「エルマさん、マリウスさんに言われて来ました。何をお手伝いしたらいいですか」
花園から戻り、里の中でも立派な――――とはいえ、あくまで里基準。造りはとても質素だ――――マリウス夫妻の家にやってきたアイナは、玄関先にエルマの姿を見つけて声をかけた。
「あら、アイナ。いいところに来てくれたわね。ささ、中に入って」
「はいっ!」
エルマはいつもと変わらぬ朗らかな笑みを浮かべ、アイナを家へと招き入れる。
「そ、それで、お手伝いって何をすればいいんでしょうか」
「お手伝い?」
「はい、マリウスさんに言われました。エルマさんが人手を求めているって。私にできることなんてそんなにありませんけど、精一杯頑張りますので何でも言ってくださいっ!」
「まぁ、マリウスったら、そんなことを。……まったく、あれほど主語と述語ははっきりと言いなさいと言っているのに……今夜はお仕置きね」
「え?」
「ふふ、なんでもないのよ。説明がちょっと足りなかったみたいだから補足させてもらうわね」
「は、はいっ」
アイナがぐっと拳に力を入れて身構えていると、エルマはくすくすと笑ってから、小さな袋を取り出した。
「はい、どうぞ」
「……これは、なんですか?」
「開けてからのお楽しみよ」
不思議そうに見つめるアイナに、エルマは小袋を手渡した。
「え?」
「開けてみて。それから、感想を聞かせてほしいの。ほら、作るのは100年ぶりくらいだから、正直あんまり自信がなくて」
「作る?」と首をかしげながらも、アイナは言われた通り小袋を開ける。
すると中から、甘い香りが漂ってきた。
「これって……”クッキー”ですか?」
「そう、正解! よかったわ、ちゃんと見ただけでわかってもらえて。ささ、お味の方も確かめてくれる? 南のように食材が豊富にあるわけじゃないから、在り合わせで作ったんだけど、結構自信作なのよ?」
そう言って嬉しそうに微笑むエルマ。しかし、アイナは『在り合わせ』というワードに、若干の不安を覚えた。
この竜の里は確かに春のような温暖な気候ではある。しかし、季節が春しかないということは、春の作物しか育たないということ。
「えっと……よければ材料を教えてもらえたりは――――」
そう言ってチラリとエルマを見るも、相変わらずの笑顔と「気にせず食べなさい」という無言の圧が返ってきた。こうなれば覚悟を決めるしかない。
アイナはごくりと喉を鳴らし、袋から星型のクッキーを取り出すと――――一気に口に放り込んだ。
「…………あ、おいしい」
「本当! ああ、よかったわ。さて、南出身のアイナから高評価も貰えたことだし、みんなにもおすそ分けしなくちゃ。アイナも一緒にいく?」
「あ、はい。ご一緒しますっ!」
こうして、アイナは沢山の小袋を抱え家を出たエルマの後を追った。
これが竜の里『ドラグエンダ』の日常。
極北の征竜の加護に包まれながら、信者たちは穏やかな信仰に生きている――――。
そう口にした旅人がいた。
ここは竜の里『ドラグエンダ』。極北の征竜を慕い、敬い、崇拝する人々が暮らす竜の加護を受けし地だ。
全てが凍てつく極寒の極北にあって、ここだけは常春。暖かなそよ風が緑の草木を揺らし、人々の笑顔が絶えない理想郷であった。
「これでよしっと、後は――――」
そして、その最たる場所こそがこの『竜の花園』。
この場所で見れない花はない。
そういわれる通り、ここでは一年を通してロスガリア大陸中の花が時と場所を選ばず咲き誇っていた。
「――――征竜様、偉大なる加護に感謝を」
両手いっぱいの花を供えたアイナ・フレイヴァルツは、『竜の花園』の中心部に立つ『征竜の石碑』の前に跪き、祈りを捧げる。
アイナがこの里へ来てもうすぐ1年になる。
運命に迷い、絶望の中で生きていたあの時、あの信者たちとの出会いがなければ、今この里にいることもなかっただろう。里の人々は優しく、どこの者とも知れないアイナを温かく迎え入れてくれた。今となっては信仰において、里の者にも引けを取らないと自負している。
「おはよう、アイナ。今日も精が出るねぇ」
「本当に信心深い子だ」
祈りが終わって、いつものように石碑を綺麗に磨いていたら毎日の礼拝を欠かさない老夫婦がやってきた。老夫婦は祈りの場所を譲ったアイナに微笑むと、『征竜の石碑』の前に跪き、深い祈りを捧げる。
征竜への祈りは、人によって千差万別。膝をつき深く祈る人もいれば、一礼で終える人もいる。瞳を閉じて沈黙の祈りを捧げる人もいれば、大仰に祝詞を唱えるなんて人もいた。
今でこそ、こういう自由な信仰も『信仰』の一つなんだって思うけど、この里に来た当初はとても驚いた。『ハイアルブ』を崇めるフィルエスの民とは、その在りようがまったく違うんだから。
フィルエスの中で育った私にとって、それはとても新鮮で輝いて見えた。
あまりに感動したので、何とかこの感動を共有したくて里の皆に話をしたら、「そんなかしこまったものじゃない」とか「それが普通なんじゃ?」とか、誰もこの感動を共感してくれなくてちょっぴり悲しくなったのを覚えている。
本当に、征竜様を慕う彼らは自由で、フィルエスの民のような縛られた信仰みたいな感じじゃ全然ない。
それもそのはず、フィルエスの民の信仰の対象『ハイアルブ』は限られた『巫女』にしか言葉を交わせない存在だけど、極北の征竜様は直接お姿を現して言葉をくださるから、より身近にその存在を感じられるからだと思う。
「これも征竜様のご威光のおかげです」
アイナは老夫婦に朗らかな笑みを返した。
「はは、なんと敬虔な。まるで『巫女』のようじゃな」
「ええ、本当に」
「そ、そんな、私が『巫女』なんて、恐れ多いですっ……!」
老夫婦の冗談に慌てて首を振る。
『征竜の巫女』は征竜様直々にその資質を認められた存在。今はヒルルクさん、そして帝国の皇子様がその任についていると聞いている。
ヒルルクさんはこの里の出身だし、敬虔(?)な信徒だって聞くからわかるけど、皇子様は何で巫女に選ばれたんだろう……。
「それじゃ、私たちはいくよ」
「……あっ、はい! ありがとうございましたっ!」
突然声をかけられて、慌てて返事をする。考え事をしていたので、お返事が頓珍漢なことになったら、老夫婦がくすくすと笑われてしまった。
恥ずかしくて視線を下げると、お婆さんの小さな手で頭を撫でられる。
「これからも征竜様の為に頑張るんだよ」
老夫婦はそう言い残して『竜の花園』を去っていった。
「……はぁ、恥ずかしかった」
老夫婦の姿も見えなくなり、ほっと一息ついたのも束の間、入れ替わるようにこちらに歩いてきている人物の姿が目に入る。
「マリウスさん……?」
咲き誇る花園の中を貫く小道を、石碑へと向かってくるエルフの青年。
彼の名前はマリウスといい、この竜の里『ドラグエンダ』のまとめ役をしている偉い人だ。そして、あの『征竜の巫女』ヒルルクの父でもある。
「マリウスさんが花園に来るなんて珍しい。何かあったのかな?」
彼は里のまとめ役という立場なので普段は里でのお仕事が忙しく、この花園へ来ることは滅多にない。
何か特別な用でもあるのか。たしかに、なんだか……。
「アイナか」
「お、おはようございます。……何かあったんですか?」
神妙な表情にも見えるマリウスに、アイナは恐る恐る問いかける。
なんだか無性に嫌な感じがした。何がと言われても説明できないが、お腹の底に黒い泥が溜まっていく様な、そんな感覚。
「ああ、ちょっと征竜様にご報告することがあってね」
不安げに瞳を揺らすアイナに心配をかけまいとしたのか、マリウスは小さく微笑み「大丈夫だ」と口にする。
「えっと……私は席を外した方がいいですよね」
「いや、別にいてくれても構わない。そもそも、征竜様とお話しできるかもわからないからね」
マリウスはおどけるように肩をすくめて見せた。それはまるで、久々に放蕩息子に面会する親のようだ。
ほかの宗教なら不敬に当たるだろうこんな態度も、竜の里の住民たちは平気で行う。ここに来た当初は、信仰対象に対してなんてことを! と肝を冷やしたものだけど、住民たちは全然気にしないし、征竜様も罰をお与えになるなんてこともない。
これが征竜信仰の本来の姿なのかと、いつも驚かされる。ほんとにフィルエスとは真逆の信仰だ。
そんなことを思っているうちに、マリウスは石碑に手を当て瞳を閉じている。
征竜様が不在であればすぐに目を開くのだけど、ずっと閉じているということはうまく繋がれたみたい。
しばらくして、マリウスがゆっくりと瞳を開いた。
「……征竜様、いらっしゃったんですね」
「ああ、タイミングが良かった。無事報告できたよ」
「そうですか、それはよかったです」
征竜様はちゃんと信者の事を考えて『あちら側』で待っていてくれたんだ、流石征竜だなと、アイナが一人感慨に浸っていると、マリウスが「そうだ」と手を叩いた。
「アイナ、もし手が空いているのならエルマのところへ行ってもらえないだろうか。人手が欲しいらしいんだ」
「エルマさんのところですか?」
思わずオウム返しに聞いてしまった。
エルマというのは、マリウスの妻。征竜の巫女ヒルルクの母に当たる女性だ。とても優しく大らかな母性溢れる人で、この竜の里でもかなりの古参であり、里の相談役なんかも引き受けてたりする、いわゆる長老格な人物だ。
そんな人が人手を求めているなんて、何か大変なことが起きているのかもしれない。
「わ、わかりました。お役に立てるかどうかわかりませんが、精一杯頑張ります……!」
「え? ああ、よろしく頼むよ……?」
アイナはマリウスに頭を下げると、急いで里へと向かった。
●
「エルマさん、マリウスさんに言われて来ました。何をお手伝いしたらいいですか」
花園から戻り、里の中でも立派な――――とはいえ、あくまで里基準。造りはとても質素だ――――マリウス夫妻の家にやってきたアイナは、玄関先にエルマの姿を見つけて声をかけた。
「あら、アイナ。いいところに来てくれたわね。ささ、中に入って」
「はいっ!」
エルマはいつもと変わらぬ朗らかな笑みを浮かべ、アイナを家へと招き入れる。
「そ、それで、お手伝いって何をすればいいんでしょうか」
「お手伝い?」
「はい、マリウスさんに言われました。エルマさんが人手を求めているって。私にできることなんてそんなにありませんけど、精一杯頑張りますので何でも言ってくださいっ!」
「まぁ、マリウスったら、そんなことを。……まったく、あれほど主語と述語ははっきりと言いなさいと言っているのに……今夜はお仕置きね」
「え?」
「ふふ、なんでもないのよ。説明がちょっと足りなかったみたいだから補足させてもらうわね」
「は、はいっ」
アイナがぐっと拳に力を入れて身構えていると、エルマはくすくすと笑ってから、小さな袋を取り出した。
「はい、どうぞ」
「……これは、なんですか?」
「開けてからのお楽しみよ」
不思議そうに見つめるアイナに、エルマは小袋を手渡した。
「え?」
「開けてみて。それから、感想を聞かせてほしいの。ほら、作るのは100年ぶりくらいだから、正直あんまり自信がなくて」
「作る?」と首をかしげながらも、アイナは言われた通り小袋を開ける。
すると中から、甘い香りが漂ってきた。
「これって……”クッキー”ですか?」
「そう、正解! よかったわ、ちゃんと見ただけでわかってもらえて。ささ、お味の方も確かめてくれる? 南のように食材が豊富にあるわけじゃないから、在り合わせで作ったんだけど、結構自信作なのよ?」
そう言って嬉しそうに微笑むエルマ。しかし、アイナは『在り合わせ』というワードに、若干の不安を覚えた。
この竜の里は確かに春のような温暖な気候ではある。しかし、季節が春しかないということは、春の作物しか育たないということ。
「えっと……よければ材料を教えてもらえたりは――――」
そう言ってチラリとエルマを見るも、相変わらずの笑顔と「気にせず食べなさい」という無言の圧が返ってきた。こうなれば覚悟を決めるしかない。
アイナはごくりと喉を鳴らし、袋から星型のクッキーを取り出すと――――一気に口に放り込んだ。
「…………あ、おいしい」
「本当! ああ、よかったわ。さて、南出身のアイナから高評価も貰えたことだし、みんなにもおすそ分けしなくちゃ。アイナも一緒にいく?」
「あ、はい。ご一緒しますっ!」
こうして、アイナは沢山の小袋を抱え家を出たエルマの後を追った。
これが竜の里『ドラグエンダ』の日常。
極北の征竜の加護に包まれながら、信者たちは穏やかな信仰に生きている――――。