ホームランダービー

キャラクターノベル制作 革酎納品 2023年06月25日 12時37分00秒

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 ロスガリア大陸の各地では、様々な鉱石が産出される。
 生活に直結する実用的な鉄や銅の鉱山もあれば、装飾目的等で使用される宝石の類が採掘される鉱山もあり、その種類は実に様々だ。
 この日、ルアンナ・ミュラーが治癒師エネリア・ベルトンと共に訪れたのは前者、即ち鉄鉱山だった。
 勿論ふたりは鉱夫ではない。その為、ここまで足を運んだのは採掘が目的ではない。
 実のところ、この鉱山から鉱夫達が戻ってこなくなった為、捜索に当たって欲しいとの依頼が冒険者ギルドに貼り出された。その依頼を受けて、ふたりは当該の鉱山に足を運んできたという訳である。
 ただの捜索ならば、態々冒険者を雇い入れる必要も無かっただろう。
 ところがここ最近になって、件の鉱山近くで岩蜘蛛と通称されるクリーパーが目撃される様になっており、鉱山内部も危険な状態に陥っている可能性が推測された。
 その為、今回ルアンナとエネリアの両名が問題の鉱山に足を運ぶことになったという訳だ。
「何かあった様ですね」
 坑道内に足を踏み入れてから、ルアンナは地面に散乱する採掘道具や生活紋具などをランタンで照らし出しつつ、周囲に警戒の視線を流した。
 争った跡というよりも、我先に逃げ出して荷物をそこかしこに放り出したまま散乱している、と表現した方が正しいだろう。
 兎に角、この坑道内で作業に勤しんでいた鉱夫達は緊急事態に直面し、慌ててどこかへ逃げ去った。
 問題は今、彼らがどこに居るのか。そして何が起きたのか。
 この二点を解明しない限り、ルアンナとエネリアの仕事は決して終わらない。
「奥に行ってみましょ。足跡は全部、坑道の内部に向かっているみたいだし」
 エネリアの分析を受けて、ルアンナは再び歩を進め始めた。
 やがてふたりは、大きなドーム状の広い空間に辿り着いた。ここから更に奥へと進む坑道が幾つも見えたが、しかしルアンナはそこで歩を止めた。
 何かが、居る。それも相当な数だ。
 ランタンの照明範囲の外側、濃い闇に覆われた天井付近や奥の壁に沿って、幾つもの動く気配。どうやら、人間ではなさそうだ。
「例の、岩蜘蛛でしょうか」
 手にしていたランタンを足元にそっと置いてから、攻撃魔法発動の態勢に入るルアンナ。その傍らでエネリアは照明用紋具を最大光量で起動した。
 その瞬間、ふたりの背筋に悪寒が走った。
 このドーム状の広い空間、その全ての天井や壁に、大型犬程はあろうかという蠢く岩の塊がびっしりと張り付いていたのである。
 そのいずれもが蜘蛛の様な形状を見せ、頭部には通常の蜘蛛とは明らかに異なる巨大な単眼が煌めいている。魔獣の類かとも思われたが、ルアンナはこれら全てをクリーパーだと直感した。

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 凄まじい爆音が闇に覆われた地下空間内で殷々と響き渡る。
 オレンジ色の炎が、薄暗い天井付近を明々と照らし出した。
 ルアンナが先手を打ち、最も近い位置の敵に爆炎を叩き込んだのである。だが、手応えが無い。
「……余り、効いていませんね」
「厄介ね。あの岩の様に見える甲殻は、対魔法耐性も兼ね備えているみたい」
 紅の魔女と呼ばれる様に、ルアンナの火炎魔法は相当に威力が高い。そのルアンナの魔術を以てしても表面を軽く焼く程度の打撃しか通らないとなると、確かにこれは面倒な相手だ。
 ならば次に打つべき手は、と思考を巡らせ始めたところで、岩蜘蛛共の反撃が始まった。
 天井に張り付いていた群れが壁に沿って降りてきて、口から白い何かを放ってきた。
 どうやら、糸だ。それも若干の粘性を帯びており、ルアンナとエネリアの四肢に纏わりつき始めた。
 一本ずつならどうってことはない。だがこれだけの数で一斉に絡みついてくると、強力な戒めとなってふたりの動きを阻害する立派な武器と化した。
 だが幸いにもルアンナは魔術師だ。機動力を主とする軽戦士ではない。多少手足が動きづらくなったところで彼女の魔法攻撃そのものが失われる訳ではない。
 問題は、あの岩の如き甲殻だ。あれをどう攻略すべきか。そんなことを考え始めたルアンナだが、更に想定外の事態に見舞われた。
「あ……あいたたた!」
 突然エネリアが悲鳴を漏らしながら防御姿勢を取った。と思った次の瞬間には、ルアンナの全身にも鋭い痛みが走り始めた。
 一部の岩蜘蛛共が胴部背面から、糸ではない別の何かを飛ばしてきているのである。
 それは、甲殻の一部を弾丸の様に飛ばして遠隔攻撃武器と化した礫弾であった。この礫弾も一発一発だけを見れば大した破壊力ではない。だがこれ程の速度で連続して叩き込まれれば、皮膚が裂け、筋肉が傷み、いずれは骨にまでその衝撃が達するだろう。
 このまま無防備に礫弾の的にされていては、いずれふたり揃って岩蜘蛛共の餌食だ。
「あぁ、もう! 何なんですか、これは!」
 容赦無く襲い掛かる礫の雨に、ルアンナは半ばやけくそ気味に愛用の杖を振るった。
 礫の雨は無差別に飛んでくるから、薙ぎ払う様に振るわれた杖にも一部が当たり、岩蜘蛛方面へと打ち返されてゆく。
 ところが、それら打ち返された礫の一部が壁に張り付いていた数体の岩蜘蛛の頭部――もっと正確にいえば、大きな単眼に命中した。
 己の武器で思わぬ反撃を喰らった格好の岩蜘蛛は、そのまま地面に落下して仰臥した。
 その瞬間、ルアンナとエネリアは見た。
 岩蜘蛛の腹部が、やけにぶよぶよとした柔らかそうな皮膚で構成されていることを。

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 まさかと考えたエネリアが、仰臥した岩蜘蛛の無防備な腹に魔力の弾丸を一撃、叩き込んだ。
 するとその岩蜘蛛は内部から破裂する様に、派手に爆裂して四散した。
 これだ――ふたりは咄嗟に、攻略法を見出した。
「まずは全部、叩き落としましょう!」
「打ち返す礫なら、十分足りてるしね!」
 ふたりはそれぞれの得物を振るい、飛来する礫を打ち返したり、或いは地面に落ちている礫を拾い上げて軽くトスし、それを盛大にかっ飛ばすなりして、岩蜘蛛の目に次々と反撃弾を叩き込んでいった。
 こうなるともう、形勢逆転だ。
 岩蜘蛛共は粘性糸を吐き出しての攻撃や、礫弾による遠隔攻撃をやめて、一斉にふたりの冒険者から距離を取り始めた。
 しかし打ち返される礫の方が、速度も距離も遥かに上だ。壁や天井を這いまわって逃げる岩蜘蛛の足よりも相当に速い。
「さぁ、どんどんいきますよ~!」
 全身痣だらけのルアンナだったが、攻略法を見出して形勢逆転した今となっては、この勢いを殺いではならぬとばかりにどんどん杖を振るい続けた。
 勿論、全ての礫が岩蜘蛛の大きな単眼に命中する訳ではない。だがこれだけ大量の礫があるのだから、数打ちゃ当たるの精神でどんどん杖を振り回すだけで良い。
 二発、三発、四発と連続で打ち返すうちに、そのうちの一発が岩蜘蛛頭部の単眼に命中する。たとえまぐれでも何でも良いから、兎に角も打数を稼いで打ち返し続ければ、どれかがクリーンヒットするだろう。
 ルアンナもエネリアも、得物が刃物ではなく棍状の武器だったことに幸運を覚える。
 刃状の武器は薄い為、芯が無い。その為、同じ打法でもここまで礫を遠くに飛ばすことは不可能だ。岩蜘蛛攻略の礫打ち返し策は、ふたりが杖や棍を獲物としていたからこそ成立したともいえるだろう。
「わらわらと落ちてきますね!」
 ルアンナは一定数の岩蜘蛛が地面に叩き落とされ、揃って仰臥しているところに再び爆炎を叩き込んだ。今度は確実に効いた。弱点たる腹部に破壊力を伴う熱風を浴びた岩蜘蛛共は、一斉に爆裂四散した。
 岩蜘蛛共はクリーパーだから、戦術的な発想も恐怖心を宿すことも無い。
 だが本能が危険だと察知しらしく、次々と天井へと逃れていこうとした。しかしそれよりも早く、ルアンナとエネリアが弾き返した礫が飛来し、頭部の単眼を打ち続けた。
 皮肉な話だが、単眼を守る為にはその逆側、即ち腹の方を相手に見せなければならない。だがその腹こそ、岩蜘蛛共にとっての最大の弱点だ。
 つまり、一見すると完璧な防御力を誇る岩蜘蛛共は、完全に為す術無しの窮地に陥っているのである。
 ふたりの冒険者は今や無双状態だった。

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 やがて、全ての岩蜘蛛がルアンナとエネリアの豪快なバッティングの餌食となり、片っ端から地面に仰臥させられた挙句に強力な攻撃魔法で次々と駆逐されていった。
 遭遇当初は難攻不落、絶対完璧な防御を誇ると思われていた岩蜘蛛共も、アリの一穴という訳ではないが、唯一の攻略法を見出されてしまった挙句に、こうも簡単に全滅の憂き目を見る破目となった。
 完璧なものなど、そうそうあり得ないという好例であろう。
 いずれにせよ、ルアンナとエネリアのコンビは坑道内の全ての岩蜘蛛を討伐した。
 後は時間をかけて、行方不明となった鉱夫達を探し出すだけである。
 そして、その捜索作業も然程の時間を要することは無かった。
 鉱夫達は岩蜘蛛の群れが屯していた広い空間よりも更に奥の坑道先で、狭い一室に籠城しているところを発見された。
 彼らは冒険者でもなければ、訓練を受けた兵士でもない。だが鉱山内での作業には習熟しており、不測の事態が生じた際にはどの様に行動すれば良いのかを十分に心得ていた。
 今回の場合でいえば、非常用の避難室に逃げ込むことで時間を稼ぎ、外部からの救助を待つという方策を咄嗟に取ったらしい。熟練の鉱夫達だからこそ、最も適切な回避策に出ることが可能だったのだろう。
「皆さん、お待たせしました! さぁ、もう大丈夫ですよ!」
 無事に鉱夫達を救出した笑顔のルアンナ。
 しかし彼女が一番、大丈夫ではなさそうだ。全身の痣が、兎に角凄い。その愛らしい美貌と相まって、余計に悲惨さを物語っている様に見えた。
 寧ろ鉱夫達の方が、お姉ちゃんあんた大丈夫かと心配する始末であった。

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アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0