サウナを作ろう! それは魅惑の蒸気

キャラクターノベル制作 ウケッキ納品 2023年06月11日 23時46分53秒

●サウナを作ろう! それは魅惑の蒸気

 ゴールディの某所にある【ストレガ・L・リベルガストラ】の自宅兼研究所。
 その一室にて、ストレガは机に向かっていた。傍らにはハーブティーが入ったポットとティーカップが置かれている。
「ふむ……サウナにて火傷をしないのは身体が纏う空気の層のせい。熱伝導率が――」
 どうやら彼女はサウナに関する研究を纏めているようで、ゲルを使った移動式サウナのデータから新たな案を企画していた。
 集まってきたデータに彼女なりの推論を書き記しながら視線は外さずにハーブティーを飲む。爽やかな香りが頭をすっきりさせていく。
 屋内乾燥にサウナが使えるのでは? と思った彼女は以前作った移動式サウナのデータと照らし合わせ、目的の屋内乾燥ができるか検証しているようだ。
「ゲル式ではどうしても構造的に無理がある。屋内乾燥に使うならいっそ設計からやり直すべき? それなら……」
 少し考えた後で、ストレガは羽ペンを走らせる。 
 100℃近いサウナに人が入っても問題ない理由はいくつもあるが、その一つは乾燥しており湿度が低く抑えられていることだ。
 それゆえに高温のサウナに入っても人がすぐに火傷する事態になっていない。
 だが、ここで屋内乾燥させようとすると問題が出てくる。
「濡れた物を干せば湿度が上がってしまうのだ……それでは火傷の可能性が出てくると」
 普通にサウナを使う分には問題はないが、同時に濡れた物を乾かそうとするならば湿度の上昇は避けられない。多少なら問題はないだろうが、日常的な洗濯となると話は別だ。
「ならば、同時でなければいいのだ! 別々に小屋を建ててドアの解放を……」
 数十分後。
 助手の少年【レゼル】がそろそろ空になったであろうハーブティーのポットを回収しに部屋にやってくる。
 疲れた様子で目を閉じ天を仰いでいるストレガの隣にあるポットを回収しながら、レゼルは資料に目をやった。そこには二つの連結された立派な小屋の設計図が記されている。
「ストレガ様、今度は建築でもなさるのですか?」
 レゼルの言葉に反応して目を開けたストレガはぐっと伸びをしながらその問いに答える。
「うむ、ゲル式では構造的に問題があったのだ。そうなると建ててしまった方が早いのだー」
「そうですか。えと、ですがこの規模になると……その、お金が結構掛かってしまうのでは?」
 レゼルの心配も最もだ。ストレガが記した設計図は一般的な家屋サイズの小屋であり、密閉性や設置するストーブ、配管なども考えると大工や建築士に協力を仰ぐことになるだろう。そうなればまあまあの額が掛かってしまう。それこそ軽く少々良い家が建つぐらいには。
「問題ないのだ。金というのは回さねば意味がない。持っているならば使うべき。少年、しっかり覚えておくのだー?」
 立ち上がったストレガはレゼルの頭をわしゃわしゃと撫でると設計図を持って部屋を出ていく。きっと大工や建築士と話をつけに行くのだろう。
 研究の為ならば労力も金も惜しまない、そんな研究者としてのストレガの姿勢を彼は尊敬していた。ある一点を除いては。
「お出かけですね……ってストレガ様!? なんでそこで着替えてるんですかぁぁ!?」
 出かけようとしたストレガは着替えの為に衣服を脱いだ。レゼルがいようとお構いなしに豊満な乳房を晒す彼女の行動に彼はいまだ悩まされ続けている。まあ、男性諸君にとっては羨ましい悩みではあるが。
 そう、羞恥心。そこが彼にとって彼女の気になるというか、心配な所だった。
(見せても構わないっていうのはいいんですが、無用に襲われてしまわないか心配ですよ、本当に!)
 とはいえ授恵者であるストレガの強さを考えれば、並みの男性ではほぼ返り討ちにあうだろう。そのような心配など無用だ。
 それでもレゼルが彼女を心配するのは、ストレガが尊敬する大切な先生でもあるからかもしれない。

 数時間後、ストレガの姿は町にある、とある大工の家にあった。机にはストレガの設計図が広げられている。
「こりゃまた大規模な小屋だな。おい、本当に住居とかそういうスペースはいらないんだな?」
 真剣な眼差しで資料とにらめっこしている大工の問いかけにストレガはこくりと頷いて見せた。
「うむ、必要ないのだ。それと使用する木材の指定はできるのだ?」
「使用する木材の指定? ああ、構わないぞ。こっちで持ち合わせのない材料だったら取り寄せに少し時間は貰うがな」
 ストレガはバックから別の小さな資料を取り出して大工に渡す。そこには断熱性の高い木材の優先リストが纏められていた。
「なるほどなぁ。ちょうどこの木材たちなら持ち合わせがあるぜ。だがよ、この規模の小屋に使うとなると……結構掛かるぞ?」
 心配そうな顔を見せる大工の前にストレガは金が入った袋をどかっとおいて見せる。材料代と手間を掛けさせるサービス料を含んだ十分な量の金だった。
 袋を広げて中を確認した大工の目が丸くなる。
「どれどれ……ってお前さん、こんなに。おい、額を間違えてねぇか?」
「いや、間違っていないのだ。材料費とその他の手間賃。それだけあれば足りるのだ?」
 袋の口をきゅっと締めた大工はとてもいい笑顔でストレガに握手を求める。ストレガはそれに応え、二人はしっかりと握手した。
「勿論だぜ! ははは、こんだけ払ってくれたんだ。最高の仕事を約束するぜ、期待しといてくれよ!」
 大工の家を後にし、自宅兼研究所へと戻っていくストレガとレゼル。レゼルは先程の金額に疑問を抱き、彼女に問いかけた。やはり多すぎではと。その問いにストレガは歩きながら答える。
「あれは大工の技量に付けた値段なのだ。わかりやすく言うならば、あなたの腕にはこの金額の価値がある、そういった意味になる。きちんとした職人ならば、誠意ある対応をしてくれるはずなのだー」
「なるほど、相応の働きには相応の対価をということですね」
 そんな話をしながら、ストレガとレゼルは風呂に使うハーブ類やサウナ後の食事の材料などを買って帰路につくのだった。

 数週間後、立派に完成したサウナ&乾燥室兼脱衣所の小屋の前にストレガとレゼルは立っていた。
「ふわぁあ……あらためて見ると立派ですね」
 断熱効果の高い木材で建築された連結された二つの小屋は手前が脱衣所、奥がサウナとなっている。脱衣所とサウナを繋ぐ扉は解放したままにもできる設計となっており、サウナの熱を脱衣所に直接送る事も可能だ。
 レンガ造りのストーブ部分はサウナ側に設置され、薪入れは此方から行う。
 内部を見回っていたレゼルがストーブから脱衣所に伸びるコルクで覆われた見慣れないパイプを見つけた。
「コルク、ですよねコレ。あの、ストレガ様……これは一体?」
 問いかけられたストレガはちょっと胸を張って得意気に答えた。ふふんっと少し自慢げな顔が可愛い。
「ふふふ……それはこの本から得た技術を使ってみた【試製・断熱コルクパイプ】なのだ! ストーブから脱衣所に扉を介さずに温風を送る温風パイプをコルクで包んだ、これで断熱効果はマシマシなのだ!」
 ストレガは掲げるこの本は【テルマエ・シェレリス・クゥエベリット】。古書店にて見つけたどこかの国の年代不明の技術書らしい。
「ですが、それでは脱衣所が制限なく熱くなってしまうのでは?」
「それについては問題ない。ここにレバーがあって、これを倒すことで温風を遮断する。これなら好きなように温度を調節できるのだ」
 感心しながらレゼルは小屋の壁を見る。すると隙間には何かが詰められているようだった。
 小屋を建てる際、木材の歪みや形状によりある程度の隙間はできてしまう。今回は断熱が大事とのことで隙間は徹底的に白い壁材で埋められているようだ。
「ストレガ様、壁の隙間は泥で埋めたのではないのですか? 何か白いような……」
「泥では断熱性が少々劣る。今回は予算に糸目はつけずに大理石や石灰石を混ぜた壁材【エスタ・ウォール】を使用したのだ。漆喰という壁材に近いものなのだー」
 今回、壁材に選ばれたのは泥ではない。大理石や石灰石を主成分とした壁材で、断熱性能や吸湿性能に優れる。その歴史は古く、少々値が張るが泥に比べると性能は格段に上をいく。
「本当に惜しみなく使いましたね、えっともしかしてあれ以上予算出したりしてます?」
 レゼルの言葉に、腕を組んで満足そうに小屋を眺めるストレガの横顔は晴れやかな物だった。きっと追加で予算を出したのだろう。いくらかは定かではないが。
 予算を増額されたからだろうか、ストーブの周りはしっかりとレンガ造りであり、その周りには物干しがない火事防止仕様。ついでに小屋の外に物干し場を併設してくれた上、少々遠くにあった風呂場までサウナ近くに移設してもらえた。やはり金の力は素晴らしい。
 徹底的に仕事をしてくれた職人たちに深い敬意と感謝を想うストレガなのであった。

 小屋の見回りを済ませたストレガは風呂を沸かすことにした。サウナも風呂も楽しむということは薪の消費量が凄いことになるのだが、今回は消費量を考えないことにしていた。たまの散財はいいものだ、とのことらしい。
 風呂をレゼルが沸かしてくれている間にストレガはサウナ後の休憩用の為、飲み物や料理を用意していた。
 風呂やサウナに入る前にしっかりと用意を整えるのは大変ではあるが、これもより良いサウナ体験の為。そう思えばこの準備の作業も楽しいものに変わっていく。
 ストレガはまず、ココナッツの実を用意する。用意したココナッツの実は熟しておらず緑色の若い実だ。
 丈夫な刃物を取り出し、ココナッツの上部を強く叩いて円形に傷を入れていく。傷が一周回りきるくらいついたら一番深い傷に刃物を差し込んで、テコの原理でぐっと押し上げていく。ばこっと上部が開き、内部が丸見えとなった。なみなみとしたココナッツジュースがそこにある。
 ココナッツジュースを木のコップに移すとストレガは料理の準備に入った。
 今回作る料理はサウナあがりに適した濃い味の料理、鳥の唐揚げだ。しかも今日はいつもと違ったレシピを用意。【ミィ・フレキソム・ポールム】という本に記されていたレシピだ。
 まず、使用するのは鳥の胸肉。厚めの身を二枚にスライスした後、適度に叩く。
 それを小分けに切ってボールに移したら、にんにく、胡椒、塩、小麦の粉をまぶし水と共に混ぜていく。
 ある程度粘質になったら、乾いた小麦の粉、粉末にしたパン、じゃがいもの粉末を均等に入れて混ぜ合わせた“特製の粉”をまぶして熱した油で揚げていく。
 狐色に揚がったら別の皿に移して油を切りながら休ませて完成。二度揚げはしない。
 それらをきちんと保存したストレガは早速風呂場へと向かった。服を脱いで全裸になる。
「温度はもう十分なのだ、少年も早く来るのだー」
「ええ、また僕も入るんですか!?」
「当たり前なのだ、二度沸かすよりも一緒に入って一回で風呂も洗濯も済ませた方が効率いいのだ」
 ストレガは当たり前のことを言っているのだが、彼も男の子。やはり恥ずかしいようだった。
 だが羞恥心がないストレガ相手には恥ずかしいから遠慮する、と言っても意味がない。それに助手として置いて貰っている以上、家主の言うことには従うべきだ。
 前を隠しながら、レゼルは風呂に入るとやはり何も隠していない素っ裸のストレガが迎える。恥ずかしそうにレゼルは目をそらした。
「ふむ、少年よ。そろそろ慣れたらどうなのだ? それに雄はこういう状況を喜ぶものではないのか?」
 レゼルは椅子に座ったストレガの背中を洗いつつ、その言葉に反応する。
「う、嬉しくないって言ったら嘘になりますけど、その、こう思いっきり見せられると……直視するには恥ずかしいと言いますか」
「ふふ、そうか。雄といっても、反応は様々。実に興味深いのだ。いずれ、そういう研究にも協力してもらうかもしれないのだ。少年なら色々と協力してくれるわけだし、期待してるのだー」
 あえてどういう研究なのか、はっきり言わないストレガにわたわたと慌てるレゼル。ストレガはそんなレゼルの反応を見て楽しく笑うのだった。

 風呂に入り終えたストレガはレゼルと自分の衣服を残り湯につける。
「さて、つけている間にサウナを楽しむとするのだ。さあ少年、いざサウナにいくのだ!」
 レゼルを連れてストレガはサウナへ向かう。脱衣所を通り、サウナに入ると心地よい熱気が体を包んだ。内部に用意された腰かけに二人は座る。
「か、かなり暑いものなんですね、サウナって」
「うむ、私には心地の良い暑さだが少年には少し辛いか。無理はせず、きつくなったら出るのだ」
 ストレガの言葉にレゼルはこくりと頷いた。
 それから少し時間が経ち、ストレガの額から大粒の汗が流れて胸へと落ちる。なだらかな曲線の上を汗が流れていった。
「予想以上に良いサウナになっているようなのだ。ふむ、やはり小屋にしたのは正解だったのだー」
「ですね。湿度も保たれますし、温度もちゃんと一定に保たれているようですから。密閉性ってかなり大事なんですね」
 しばしサウナを楽しんだ二人はお湯で汗を軽く流すと併設された水風呂に入る。
「つ、冷たいですぅう! な、なんで温めた後に冷やすんですかぁあっ」
「身体への温冷刺激で血行をよくする為なのだ。といっても急な体温低下で心臓にも負担が掛かる。その辺りに留意して適切に楽しむのだ」
 水風呂から上がった二人は外に用意された大きめの椅子に寝そべり、心地良い外気を楽しむ。
「なんだか、ゆったりした気分になりますね。穏やかな感じになるというか、動きたくなくなるというか」
「わかるのだ。この心地よい気分は確か……“整う”とか言うらしいのだー。ふむ、サウナ好きが増えるのもわかる気がするのだぁー」
 心地良く整った二人は、ストレガが用意していた飲み物や食事を楽しむことにした。
 机に並ぶのは特製唐揚げとココナッツジュース。にんにくの香りが食欲をそそる。
「あらかじめ用意したがゆえ、多少冷めてしまったがこのレシピは少し冷めても美味しいらしいのだ。では、いただくとするのだー」
 さくっと唐揚げを一口。じゅわっと肉汁が広がり、にんにくと塩、胡椒の味が口いっぱいに。味の濃い食べ物はサウナ後の身体によく染み渡っていく。
 ある程度唐揚げを味わってからココナッツジュースを飲む。すっきりした味わいが口をさっぱりさせ、まだまだ唐揚げを食べれそうに感じた。この組み合わせはベストだったらしい。
「ふむふむ、サウナ飯には濃い味とさっぱりした飲み物が合う、と。これは新しい発見なのだ!」
 ストレガは食べながら手元のメモに気が付いたことをメモしていく。
 
 食事を終え、サウナから自宅に戻ったストレガは資料を纏め、今日の検証結果を記していった。
「屋内乾燥は非常によく乾燥し、かつ清潔に乾いた。もう少し温度を調整して、データを集めれば最適な乾燥温度もわかるだろう、と」
 今回、服の乾燥にサウナの熱を利用したわけだが、多少の乾きムラが出てしまった。とはいえ、時間をかければしっかりと乾くあたり温度調整で解決はできそうだ。
 更にその熱を使った暖房設備についてだがこちらはまだ課題が多いようだった。
「ふむぅ、暖房を使うには湿度が……だがそれを解決するには――これをこうして……断熱コルクを……こうすれば――」
 資料の端にメモ書きをストレガは走らせていく。課題は多い方が面白いとは彼女の談だ。きっといずれ解決策を見つけるのだろう。
「最後にこの世界におけるサウナの楽しみ、娯楽として楽しめるかについて……」
 サウナは設備投資に予算はかかるが、もしも設置できれば一般大衆の娯楽にもなり得る、というのがストレガの見立てだ。
 汗を流し、健康にもいい影響を与えるサウナの存在は大衆に娯楽として十分に受け入れられる事だろう。まあ、設置することができれば、だが。
 場所の確保、場所ごとの気候の差異による改良、誰でもわかる適切な運用方法などなど。一般の娯楽とするには解決すべき部分はまだ山積みだ。
 ストレガは研究続行する必要ありと資料の最後を締めくくる。
 全ては、より良い生活の為に。

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アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0