昨日の敵は今日の友

電脳戦潜アプリェーリ イベントノベル(テーマ)翡翠電脳公社制作 ウケッキ納品 2023年06月02日 14時13分36秒

●昨日の敵は今日の友

 人々の娯楽となっているデュープバトルは何も一対一ばかりがウリではない。
 対戦カードが揃った場合、企業の合意の上でチームバトルが開催されることもあるのだ。
 対エネミーではなく、デュープ同士の熱いチームバトルは観客を熱狂させる。

 歓声が響く中、デュープ控室に【c.Lock/10ct(クロト クロフォード)】の姿がある。
 彼は軽薄そうな笑みを浮かべながら手に持った情報端末をスイスイと操作していた。
「あはは、やっぱ前評判は向こうの方が上って感じだねー、ミリオンくん」
 クロトがちらっと眼をやると隣で【ミリオンゴッドファーザーズ(ジェイムズ ライベン)】が左腕に装備されたガントレットを整備している。ガントレットは時たまリールがテスト稼働し、ピロピロと特有の音を鳴らしている。
「そうなのよぉ、おじさん負け続きで人気ないからさぁ……ああ、負けてくんねぇかなぁ、あちらさん」
 賄賂を渡し可能であるならば勝ちを譲ってもらう。契約継続の為にそんな勝利の仕方さえいとわない男、それがミリオンだった。
「そりゃぁ無理だと思うよー? だって相手はあの……っと噂をすればってやつかなー?」
 控室の扉がこんこん、と叩かれ二人のデュープが部屋に入ってくる。対戦相手の【F-Quartz(ファイアクオーツ)(レピド・クロサイト)】と【VA/Ltvers(アルトヴェルス)(毒苺)】だった。
「ここが相手の控室か。なに、俺に手折られる憐れな雑草の顔でも見ておこうと思ってな」
「初めましてぇ、今日はぁよろしくお願いしますねぇ?」
 サディスティックな制服に身を包み此方を蔑んだような視線で睨むクオーツと対称的に穏やかな印象を受けるアルトのコンビを見て、ミリオンは顔を引きつらせる。
「うえぇえっ!? 相手ってあんたらなのかよぉっ、あー駄目だ……これ、勝てる気がしねえよ。なあ、契約ピンチなおじさんの為に負けてくれたりは――」
 後頭部を擦りながら低姿勢で相手の出方を窺うミリオンを見て、溜め息をつくとクオーツは背中を向けて部屋から出ていこうとする。そんなクオーツにミリオンは手を伸ばすが、その手はばしっとクオーツによって弾かれる。
「思った以上のクズだな。ここにいるだけ時間の無駄だ。安心したよ、アンタが簡単に踏みにじれそうなゴミで」
 それだけ言い残してクオーツは去っていく。申し訳なさそうに深く礼をしてクオーツの後をアルトは追い、共に去って行った。
 アルトの去っていく姿を見て、ミリオンはクロトに申し出る。
「よし、俺はあのやばそうな野郎じゃなくってあの大人しい子と戦うぞ。はは、あれならおじさんでも何とかなりそうだ、それに可愛いしな!」
「あー……あっちの子は――――ま、いいか。いひひ、可愛い子とのダンス、楽しんできなよ、ミリオンさん」
 アルトの普段の顔の裏に潜む本性を、以前対戦したことから知っているクロトだったがあまりにも嬉しそうなミリオンの姿に黙っていることにしたらしい。勿論、その方が面白いからだ。

 数十分後、対戦ステージ。
 荒れ地が再現され、ごつごつとした岩が乱立するステージの上を一目散に逃げているミリオンの姿。追いかけながらレーザー射撃しつつ笑っているのはアルトだった。乱暴な口調と積極的な攻撃、控室での振る舞いは影も形もない。
「はーっはっはっは! おらおらぁっ、その図体は飾りかよォッ! 逃げるだけがアンタの戦い方かっての!」
「ぎぃいやぁぁああーーー! 全然、さっきと違うじゃねぇかぁあーー! た、助けてぇえーーッッ!」
 横目で遠くを逃げるミリオンと追いかけるアルトの姿を見て、サイバーウィップで地面を叩いて音を鳴らして見せるクオーツ。鞭からはばちばちと緑色の電流が迸っている。
「あっちは思った以上に早く片が付きそうだ……こちらも急ぐとしようか、無駄な時間は過ごしたくないのでな」
「つれないねー、クオーツくん。もっと楽しく戦おうよー? 僕も簡単に君にはやられないからさー」
 へらへらと軽薄な笑いを浮かべるクロトにイラっとしたクオーツは挨拶とばかりに鞭を振るう。容赦ない一撃、素早く振るわれた鞭をかわすことは容易ではない。当たる……筈だった。
 半歩、身体をずらして踏み込んだクロトは、にやっと笑いながら片手の銃のバレルで鞭を受け止め、いなすように弾く。そのまま低姿勢でクオーツの懐に飛び込んだ。
「実はさ、今日のために制服アレンジしたんだけど見て見てー? にひひ、君の制服も超可愛いー! あとでよく見せてねー!」
「くっ、ふざけているのか!?」
 体の回転を利用して鞭を瞬時に戻すと、クオーツは接近したクロトを引き剥がそうと鞭を振るう。弧を描いた鞭と振り上げられた足のヒールがクロトを狙うが、寸前の所で彼に当たらない。
「今のどうやったの!? マジ神じゃんっ! その動きカッコいいー! 惚れちゃうよー!」
 口調はふざけているが、回避から振るわれる、銃を鈍器として使ったクロトの攻撃は的確にクオーツの急所を狙っている。軽薄そうな笑みの奥に侮れない性格をクオーツは見た。

 クロトとクオーツが熱戦を繰り広げているその時、ミリオンは完全にアルトに押されぼろぼろの状態だった。
(はぁ、はぁ……HPゲージはもう三分の一以下、出る役はクソばかり。畜生、今日の俺は運に見放されたのかよぉ)
 手元の銃をくるくると回しながら、アルトは獲物を品定めするかのような視線で彼を見る。
「おいおい、もう鬼ごっこは終わりかよ? ははっ、もっとかかってこいや。命のやり取りってのはなぁ、もっと血が沸き上がるようなもんだろうがぁ!」
 チャキッと銃口をミリオンに向けるとアルトはレーザーを三連射する。
「うわぁぁっ!? アブねぇ!? いきなり撃つんじゃねぇよ! おじさん、死んじゃうでしょうが!」
「知るかよぉ! 戦いってのは、戦闘ってのはぁッ! そういうもんだろうがぁあ!」
 走って逃げるミリオンの足元を追いかける様に撃ち抜いていくアルトは逃げる獲物を追い詰める昂揚感に体を震わせていた。
「俺だってな、逃げるだけじゃないんだっての!」
 覚悟を決めた顔を浮かべたミリオンはレーザーに撃ち抜かれながらも、アルトに向かって急接近。そのまま勢いよく拳を振るった。だがその拳はレーザーブレードの柄でガードされ、直撃には至らない。
「残念だったなぁっ! それじゃあ届かねえよッ!」
「いいんだ、届かなくって。こいつが狙いだったんだからな!」
 打撃の衝撃で回り出したガントレットのリールが虹色に輝く。次々に繰り出される打撃でリールに777が揃った。
 ガントレットからアシストタイム、と音声が流れる。
「来たぜ、来たぜぇ! ここだけは俺の独壇場だぁあーー! ライト、レフト、アッパー! ワンツーッッ!」
 再びリールが回転し777が揃った瞬間、ミリオンの繰り出すパンチが次第に加速していく。目にも止まらないパンチの連撃がみるみるうちにアルトのHPゲージを削っていった。
 歯を食いしばったアルトはダメージに耐えつつ、袖から毒のワイヤーを放つ。ミリオンの身体に毒が撃ち込まれ、口の端から泡が出た。だが彼は止まらない。
「分の悪い賭けだがな、俺はそいつに賭けたんだよォっ!」
「何っ!? くそっ止まれよ、このデカブツがぁぁ!」
 アルトの攻撃に耐えながら、再び回ったリールにアルパカのマークが揃う。大量のアルパカのホログラムが表示され、その流れに乗る様にミリオンは上昇した身体能力を頼りにアルトを押し出すように抱え、走る。彼の身体の傷はリールの効果で回復していった。
「くそっ!? 何しやがるぅ! 離せっ!」
「おじさんな、負けられないんだよ、大事な奴の為に。一人じゃ無理だけどよぉ、相棒がいるなら……やれることもあるわなぁ! クロトぉおーー!」
 走るミリオンの目の前にはクオーツと対峙するクロトの姿があった。走るミリオンを見て、クロトは上空に飛び上がる。
「あはは、まさか俺の技を決め手にするなんてね……でも面白いよ、それ。行くよ、RA.in-BIT!」
 空中から放たれた色とりどりの無数の弾丸が雨のように降り注いだ。
「ぐぅああああーー!」
「ちっ、やりたがったなあああッ!」
 無数の着弾によって粉塵が舞い上がる。少しして煙が晴れると、倒れているのはクオーツとアルトだった。二人のHPゲージは残り僅か。
 着地したクロトはゆっくりと近づき、銃を構える。
「それじゃ……二人共、おやす――――」
 トリガーに指を掛けたその瞬間、けたたましい警戒音が鳴り響いた。モニターには突発事象発生の文字。
 マイクを持った実況者が立ち上がる。
「おっとぉ、ここで飛び入り参加者の参戦だぁあー! シュヴァーン・エレクトロニクス所属の【illusion(イヴェール・イリュジオン)】! 天使様の降臨だぁあー!」
「なんだよ……何が起きてるんだ、これ!?」
「ちっ、企業の奴らやりやがった! 仕組まれてたんだよ、この演出! 悔しいが、前座ってことだ。こっちはな!」
 苦々しい顔でアルトが見つめる視線の先。空に浮かび上がるのは天使の姿。機械の羽を広げた熾天使。
 illusionは冷たい視線を向ける。
「今回の敵はあれですか。お手並み拝見と行きましょう」
 急速に高度を下げながら滑空するillusionにクロトは牽制代わりに銃を放つ。だが全てillusionの展開するシールドに阻まれてしまった。
「まずは一人……」
 ビーム刃の付いた槍を振るい、死神が命を刈り取る様にクロトを狙ったillusionだったが、その刃は空振りする。
 鞭によって、クオーツがクロトを引っ張り攻撃の軸から彼をずらしたのだった。
「えっ、えっ、なんで?」
「……飛び入りに勝利をかっさらわれるってのは気に食わん。手を貸せ」
 見れば向こうも共闘を決めたのか、アルトとミリオンが即席ながら連携をしつつ、illusionに対峙している。だがその攻撃はシールドで防がれ、あまり効果的なダメージは与えられていない。
「わかるだろう、あのシールドがある限りこっちのダメージは通らない。だがあいつもデュープだ、完璧なはずがない」
「確かにねー、展開し続けてるならオーバーヒート狙い、とか?」

 illusionに対峙しているミリオンは振るわれる槍を何とかいなしている状態だった。攻撃の隙をついてミリオンの背後、狙撃ポイントからロングレンジライフルへと銃を変化させたアルトが射撃する。
 だがそのレーザーはシールドを展開され、簡単に防がれてしまった。
「ちっ、またあの盾か! このままじゃジリ貧だぞ!」
「わ、分かってるっての! 盾さえ何とかなりゃ……っておい、何を前に出てやがるんだ! お前のHPゲージは!」
 ミリオンの隣を走り抜けたのはアルトだった。レーザーブレードとレーザーナイフを構え、illusionに突貫する。
「こっちに勝つはずだったのはお前らだ、ちゃんと勝利をもぎ取りやがれ! 前座の意地、見せてやるってのぉ!」
 突貫したアルトは展開されたシールドに組み付く。レーザーの刃がシールドに防がれバチバチと音を鳴らした。
「無駄ですよ? そんなことをしても」
「果たしてそうかな? 天使は余程、自信があると見える!」
 アルトの反対側からクオーツがillusionの身体に鞭を絡ませ、電撃を放つ。ホログラムではあるが、そのダメージは実際と同じ痛みに変換されている。
 顔を歪ませ、illusionは膝をついた。
「ぐっ、そのHPで……後悔、しますよ?」
「生憎、今回の勝利には興味が失せたんでね。天使を道連れに出来るなら……光栄だ」
 シールドを瞬間的に消失させ、illusionは槍を振るう。鞭を切断し、クオーツとアルトを吹き飛ばした。二人のHPゲージはゼロになる。
「うおぉおおおーーー! 負けてたまるかぁー!」
「君の攻撃、かっこいいー! でも、今は……俺の方がカッコイイよーッ!」
 両サイドから挟むように接近したクロトとミリオンの一撃がillusionの残ったHPゲージを削り取る。その瞬間、試合終了のブザーが鳴った。
 負けはしたが戦いに満足したのか、illusionは満ち足りた表情を浮かべている。
 こうして試合はクロト&ミリオンチームの勝利で幕を下ろすのであった。

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アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0