【控談】風のまにまに、歓語にふけり
電脳戦潜アプリェーリ イベントノベル(テーマ)シュヴァーン・エレクトロニクス制作 鍵島納品 2023年05月17日 11時05分15秒
五つの企業から集められたデュープ達が、この控室で各々の時間を過ごしている。
中央に設営されたモニターには、鎬を削ってバトルに興じる者達が映し出されていた。屯するデュープの士気を上げんという意図が暗にあるのだろう、が。
息つく暇も無い程のバトル。目にも耳にも派手なバトル。白い制服の者が負けを迫られているバトル――。
紅い瞳を移ろわせて視界からモニターを外し、発展した街を見渡せる窓際へと足先を向け、緩慢に両腕を擡げて耳元を覆う。
精神集中。……出来ない。どうしてか。
滑らせた両掌で頬を撫で。滑らせて、首回りを覆う機器を弱い力で握り込む。
「ねぇ、見てよ。あそこ、ほら! あのビルに映ってるバーチャル広告のオムライス、すっごく、美味しそうじゃない?」
「!」
思わずとため息を落としかける太刀風(アスカ・タチカゼ)の背後から、明るい声色が飛んでくる。
視界に割り入って来た指先が示す先を見れば、成程確かに、とろりとしたチーズが掛けられたケチャップソースのオムライスが投影されているではないか。
あぁ、と言葉少なに応える太刀風。ふと声の主へ顔を向ければ、肩を上下させた、性差の曖昧なアルセド所属のデュープが居た。
控室の隅で、準備運動に耽っていた姿には見覚えがある。いつかのモニターで、見た、ような。
確か、そう。踊風(ヴェーチル シーヤ)という名前だった、ような。でも、不躾に名前を呼ぶのは気が引ける。
じっと見つめる太刀風に、 あ! と小さな声を零して、そのひとは軽快にくるりと回って愛想よく手を振っていた。
「ボクはアルセドの踊風だよ。名前にも入ってるぐらいには、踊るのが好きなんだ」
「……シュヴァーンの、太刀風。よろしく」
「うん! よろしくね!」
そっと片手を差し出される。おずおずと差し伸べてみれば、がっちり、力強く握られ上下にぶんとひと振り。
はつりと瞬く太刀風をよそに、青い長髪をふわりと靡かせて踊風は笑って見せる。
「準備運動も終わって、ちょっと手持ち無沙汰になってたんだ。少し話をしてもいいかな?」
「……どうぞ」
気分転換には、なるかもしれない。
精神を集中出来ずにもやもやを抱えているよりは、ずっと有意義な時間になってくれるだろう。
突飛な雑談の持ちかけだが、嫌な気もせず。太刀風は首を縦に振った。
「んとねーボクの趣味は踊ることでしょ。好きな食べ物はぁ……オムライス!」
「趣味……は、兎も角。食事には、あまりこだわらない」
「そうなんだ。じゃあ、好きなものとかは?」
「……どうだろう。ブシドー?」
なにそれ? ごはん? きょとりと銀色の瞳を大きく瞬かせる踊風に、返す言葉に詰まる太刀風。
ブシドーの概念を告げるならば、そうだな……。
「どんな相手でも、正々堂々と戦う。搦め手より、真っ向勝負一本に絞る」
「うーん。あんまり見たことないかなぁ」
「シュヴァーン特有の性質かもしれない。けど、他の企業所属の者とお互いにそれで噛み合ったら……きっと、楽しんでいる。……のかもしれない」
「って言うと、ストレートバトルが多い?」
「大抵は。今日もそう」
「ボクも今日はストレート、ちょっと久しぶりなんだよね!」
少し緊張しちゃうよ! 頬を掻いてはにかむ踊風が、両足をふらりぷらりと投げて動かした。自然とストレッチに耽っているのか、眼下で忙しなく動いている黒い脚。
はッとした風に両足を床に着けると、振動伝わってたかな、などと申し訳なさそうに眉を下げていた。
「いいや」
大丈夫。ぽつりと呟いた太刀風は、自らの唇が微かに緩んでいることを自覚する。
話し込んでいるうちに、いつの間にか緊張が解けて。気持ちもほぐれてきていたらしい。
「そーだ! 太刀風さん、緊張っていえば!」
「ん」
「緊張をほぐす運動知ってるんだけど、一緒にやらない?」
どんな運動? 小首を傾げて暗に尋ねると、踊風は椅子に腰掛けたままだらりと垂れた腕で拳を作る。
続いて息を吸いながら肩をぐーっと上げて耳元へ近付け、息を吐きながらストン! 肩を落とした。
「こうだよ!」
……なんだろう。蛸が、海中で、ふよふよ浮かんで泳ぐアレっぽさが過ぎった。
解りやすくてちょっぴりコミカルな踊風の動きは、想像力を膨らませるふしぎな魅力があった。のかもしれない。
緊張に効く踊りもあるんだよ! ぴょんと跳ねるように椅子から立ち上がり、続け様に軽快なステップを踏む姿を、太刀風は瞳に見据えていた。
不意のこと。名前を呼びだすAIの声が響いた。きょろと周囲を見渡すと、踊風は名残惜しそうに肩を竦める。
「出番が来ちゃった。それじゃ! 太刀風さん、お互いに頑張ろうね!」
「うん……頑張ろう。ありがとう、踊風」
互いの健闘を祈る言葉は、形式ばっておらず心地の良いフランクさで。
踊風の笑顔に僅かな眩しさを覚えながら。太刀風は控えめな微笑みを浮かべて、別れの挨拶と共に彼を見送った。
中央に設営されたモニターには、鎬を削ってバトルに興じる者達が映し出されていた。屯するデュープの士気を上げんという意図が暗にあるのだろう、が。
息つく暇も無い程のバトル。目にも耳にも派手なバトル。白い制服の者が負けを迫られているバトル――。
紅い瞳を移ろわせて視界からモニターを外し、発展した街を見渡せる窓際へと足先を向け、緩慢に両腕を擡げて耳元を覆う。
精神集中。……出来ない。どうしてか。
滑らせた両掌で頬を撫で。滑らせて、首回りを覆う機器を弱い力で握り込む。
「ねぇ、見てよ。あそこ、ほら! あのビルに映ってるバーチャル広告のオムライス、すっごく、美味しそうじゃない?」
「!」
思わずとため息を落としかける太刀風(アスカ・タチカゼ)の背後から、明るい声色が飛んでくる。
視界に割り入って来た指先が示す先を見れば、成程確かに、とろりとしたチーズが掛けられたケチャップソースのオムライスが投影されているではないか。
あぁ、と言葉少なに応える太刀風。ふと声の主へ顔を向ければ、肩を上下させた、性差の曖昧なアルセド所属のデュープが居た。
控室の隅で、準備運動に耽っていた姿には見覚えがある。いつかのモニターで、見た、ような。
確か、そう。踊風(ヴェーチル シーヤ)という名前だった、ような。でも、不躾に名前を呼ぶのは気が引ける。
じっと見つめる太刀風に、 あ! と小さな声を零して、そのひとは軽快にくるりと回って愛想よく手を振っていた。
「ボクはアルセドの踊風だよ。名前にも入ってるぐらいには、踊るのが好きなんだ」
「……シュヴァーンの、太刀風。よろしく」
「うん! よろしくね!」
そっと片手を差し出される。おずおずと差し伸べてみれば、がっちり、力強く握られ上下にぶんとひと振り。
はつりと瞬く太刀風をよそに、青い長髪をふわりと靡かせて踊風は笑って見せる。
「準備運動も終わって、ちょっと手持ち無沙汰になってたんだ。少し話をしてもいいかな?」
「……どうぞ」
気分転換には、なるかもしれない。
精神を集中出来ずにもやもやを抱えているよりは、ずっと有意義な時間になってくれるだろう。
突飛な雑談の持ちかけだが、嫌な気もせず。太刀風は首を縦に振った。
「んとねーボクの趣味は踊ることでしょ。好きな食べ物はぁ……オムライス!」
「趣味……は、兎も角。食事には、あまりこだわらない」
「そうなんだ。じゃあ、好きなものとかは?」
「……どうだろう。ブシドー?」
なにそれ? ごはん? きょとりと銀色の瞳を大きく瞬かせる踊風に、返す言葉に詰まる太刀風。
ブシドーの概念を告げるならば、そうだな……。
「どんな相手でも、正々堂々と戦う。搦め手より、真っ向勝負一本に絞る」
「うーん。あんまり見たことないかなぁ」
「シュヴァーン特有の性質かもしれない。けど、他の企業所属の者とお互いにそれで噛み合ったら……きっと、楽しんでいる。……のかもしれない」
「って言うと、ストレートバトルが多い?」
「大抵は。今日もそう」
「ボクも今日はストレート、ちょっと久しぶりなんだよね!」
少し緊張しちゃうよ! 頬を掻いてはにかむ踊風が、両足をふらりぷらりと投げて動かした。自然とストレッチに耽っているのか、眼下で忙しなく動いている黒い脚。
はッとした風に両足を床に着けると、振動伝わってたかな、などと申し訳なさそうに眉を下げていた。
「いいや」
大丈夫。ぽつりと呟いた太刀風は、自らの唇が微かに緩んでいることを自覚する。
話し込んでいるうちに、いつの間にか緊張が解けて。気持ちもほぐれてきていたらしい。
「そーだ! 太刀風さん、緊張っていえば!」
「ん」
「緊張をほぐす運動知ってるんだけど、一緒にやらない?」
どんな運動? 小首を傾げて暗に尋ねると、踊風は椅子に腰掛けたままだらりと垂れた腕で拳を作る。
続いて息を吸いながら肩をぐーっと上げて耳元へ近付け、息を吐きながらストン! 肩を落とした。
「こうだよ!」
……なんだろう。蛸が、海中で、ふよふよ浮かんで泳ぐアレっぽさが過ぎった。
解りやすくてちょっぴりコミカルな踊風の動きは、想像力を膨らませるふしぎな魅力があった。のかもしれない。
緊張に効く踊りもあるんだよ! ぴょんと跳ねるように椅子から立ち上がり、続け様に軽快なステップを踏む姿を、太刀風は瞳に見据えていた。
不意のこと。名前を呼びだすAIの声が響いた。きょろと周囲を見渡すと、踊風は名残惜しそうに肩を竦める。
「出番が来ちゃった。それじゃ! 太刀風さん、お互いに頑張ろうね!」
「うん……頑張ろう。ありがとう、踊風」
互いの健闘を祈る言葉は、形式ばっておらず心地の良いフランクさで。
踊風の笑顔に僅かな眩しさを覚えながら。太刀風は控えめな微笑みを浮かべて、別れの挨拶と共に彼を見送った。