【電脳戦潜】二つ、華、開いて
電脳戦潜アプリェーリ イベントノベル(テーマ)ヴァイオレット・コンピューティング制作 樫木間黒納品 2023年06月27日 22時01分21秒
仕込みの途中、アリア・ティーダは綺麗な“華”を目にした。
そこらの道端。特別なステージがセットされている訳でもない。にも関わらずそこにスポットライトがあるかのように、“華”は「ここにいるよ」と強く主張して咲き誇る。
一瞬で目を奪われたアリアは、思わず“華”に声をかけた。
「おっ、ダンサーさん? しかも上手だし可愛いっ!」
“華”はピタッと踊りを止める。小さな“華”は邪魔をされたとかそういった事は感じていないようで、突然話しかけてきた年上のお姉さんにも満面の笑顔を向ける。
「えへへ、ありがとう!」
「ねねっ、もっと踊っているトコ見せてくれないかな?」
「いいよ!」
二つ返事で“華”は踊りを再開する。
――一通り踊り終えた辺りで、アリアは踊り子を食事に誘った。
踊り子をたいそう気に入った彼女は、この場だけの出会いで終わらせたくなかったのだ。
「えへへ、おねーさんがお金持つから一緒に行かないっ?」
「わっ! 行く行く!!」
見ての通り、踊り子に警戒心というものはない。すんなり誘いに乗って、アリアの紹介する喫茶店へ一緒に入って行った。
●
踊り子は「踊風」と名乗った。衣服から想像できる通り、彼はアルセドに所属するデュープ。ヴァイオレット・コンピューティングに所属するアリアとは敵同士になるが――それはそれ。
仕事中の関係を試合の外に持ち込まないデュープは少なくない。アリアも踊風もそういう部類の人間であるというだけの話だ。
「……本当に、好きな物を頼んでいいの!?」
「勿論だよ。デザートを付けても構わない。
だって、お姉さんだからねっ!」
「そ、それならパンケーキもつけちゃおうかな……!」
ドキドキとワクワクが入り混じった顔で、メニューを眺める踊風は何とも愛らしい。爛々と輝く瞳はずっと見ていて飽きないくらいだ。
たっぷり悩んで踊風はミルクセーキとパンケーキを、アリアは珈琲とビターなチョコレートケーキのセットを頼んだ。
ふんわりとしたクリームの乗った、これまた生地もふわふわのパンケーキに舌鼓を打ちつつ踊風はさっきの踊りの感想をせがむ。
「ねぇねぇ、ボクの踊りどうだった?」
「すごく良かったよっ! 綺麗な華がね、くるくる咲いて回っているようでさ……」
踊りは専門外だから、ちゃんと褒め言葉になっているかわからないけど。
ちょっぴり感じる不安とは裏腹に、踊風はご満悦の様子。うっとりした顔で語るアリアから、どれだけ気に入ったかちゃんと伝わったようだ。
それから踊っている時はどんな気分か、どういうこだわりがあるか。逆にアリアは何の用事であの辺りを歩いていたかという話に、お互いの頼んだスイーツの感想も言い合って。
「アリアさんも一口どう?」
「もらおうかなっ! あーん……ん~~~~美味しいね!
じゃあこっちも、ボクからのお返しだねっ。どうぞ!」
「わぁ、もらうもらう! あーん……」
恋人のように、しかし恥ずかし気もなく食べさせ合って笑い合う。
色んな所がボリュームに溢れた女性と少女のように華奢な少年。外見年齢には大きな差はあるが、まるで同年代の友人のように楽しく会話を続けていた。
「踊風クンは、踊るのがすっごく好きみたいだねっ!」
「うん! 試合やイベントのお仕事がない日でも、今日みたいに路上でよく踊ってるんだ」
「ふむふむ……」
外を見る。楽しい時間は過ぎていくのもあっという間。赤く傾く太陽を見てそろそろメインイベントの頃合いかなと一考する。
「実は、ボクがこのお店を紹介したのはねぇ。お客さんも使えるステージがあるからなんだ」
踊風の目の色が変わる。彼女がそういう事はつまり、
「踊風クン、今からステージに立ってみないかな!?」
「やる! やってくる!!」
踊風の行動は速い。返事も待たずに店員に向かって小走り。許可を貰って踊風の即席ライブの開催が決まった。
●
流れる音楽に合わせて踊風は発条のように、自由自在に全身を弾ませる。その場でジャンプして宙返り、と屋内である事を感じさせないのびのびとした動きが他の客や店員達をも魅了する。
それに加えてアリアがタイミングよく小道具を使って音や火花を鳴らす。この演出も非常に評判が良かった。
ライブは大盛況の内に終わり、店を出た二人はすぐそこで足を止める。
「あの演出、もしかしてアリアさんが?」
「そうだよっ。お店の中だから控えめにしたけど、いつもは派手に――」
そう言いつつ、彼女はスイッチを押した。カフェの近くの路上にあった標識やオブジェが――大輪の花火が空を舞った。
仕事のために壊していい物に仕込んでおいた火薬だが、ちょっと早めに使っても問題はあるまい。
「綺麗……」
花火に呼応して、感動のあまり踊風は溜息を漏らす。
今日一番の笑顔の“華”を咲かせた事に対する満足の笑顔。こうして二輪の華々の一日は締めくくりを迎えるのだった。
そこらの道端。特別なステージがセットされている訳でもない。にも関わらずそこにスポットライトがあるかのように、“華”は「ここにいるよ」と強く主張して咲き誇る。
一瞬で目を奪われたアリアは、思わず“華”に声をかけた。
「おっ、ダンサーさん? しかも上手だし可愛いっ!」
“華”はピタッと踊りを止める。小さな“華”は邪魔をされたとかそういった事は感じていないようで、突然話しかけてきた年上のお姉さんにも満面の笑顔を向ける。
「えへへ、ありがとう!」
「ねねっ、もっと踊っているトコ見せてくれないかな?」
「いいよ!」
二つ返事で“華”は踊りを再開する。
――一通り踊り終えた辺りで、アリアは踊り子を食事に誘った。
踊り子をたいそう気に入った彼女は、この場だけの出会いで終わらせたくなかったのだ。
「えへへ、おねーさんがお金持つから一緒に行かないっ?」
「わっ! 行く行く!!」
見ての通り、踊り子に警戒心というものはない。すんなり誘いに乗って、アリアの紹介する喫茶店へ一緒に入って行った。
●
踊り子は「踊風」と名乗った。衣服から想像できる通り、彼はアルセドに所属するデュープ。ヴァイオレット・コンピューティングに所属するアリアとは敵同士になるが――それはそれ。
仕事中の関係を試合の外に持ち込まないデュープは少なくない。アリアも踊風もそういう部類の人間であるというだけの話だ。
「……本当に、好きな物を頼んでいいの!?」
「勿論だよ。デザートを付けても構わない。
だって、お姉さんだからねっ!」
「そ、それならパンケーキもつけちゃおうかな……!」
ドキドキとワクワクが入り混じった顔で、メニューを眺める踊風は何とも愛らしい。爛々と輝く瞳はずっと見ていて飽きないくらいだ。
たっぷり悩んで踊風はミルクセーキとパンケーキを、アリアは珈琲とビターなチョコレートケーキのセットを頼んだ。
ふんわりとしたクリームの乗った、これまた生地もふわふわのパンケーキに舌鼓を打ちつつ踊風はさっきの踊りの感想をせがむ。
「ねぇねぇ、ボクの踊りどうだった?」
「すごく良かったよっ! 綺麗な華がね、くるくる咲いて回っているようでさ……」
踊りは専門外だから、ちゃんと褒め言葉になっているかわからないけど。
ちょっぴり感じる不安とは裏腹に、踊風はご満悦の様子。うっとりした顔で語るアリアから、どれだけ気に入ったかちゃんと伝わったようだ。
それから踊っている時はどんな気分か、どういうこだわりがあるか。逆にアリアは何の用事であの辺りを歩いていたかという話に、お互いの頼んだスイーツの感想も言い合って。
「アリアさんも一口どう?」
「もらおうかなっ! あーん……ん~~~~美味しいね!
じゃあこっちも、ボクからのお返しだねっ。どうぞ!」
「わぁ、もらうもらう! あーん……」
恋人のように、しかし恥ずかし気もなく食べさせ合って笑い合う。
色んな所がボリュームに溢れた女性と少女のように華奢な少年。外見年齢には大きな差はあるが、まるで同年代の友人のように楽しく会話を続けていた。
「踊風クンは、踊るのがすっごく好きみたいだねっ!」
「うん! 試合やイベントのお仕事がない日でも、今日みたいに路上でよく踊ってるんだ」
「ふむふむ……」
外を見る。楽しい時間は過ぎていくのもあっという間。赤く傾く太陽を見てそろそろメインイベントの頃合いかなと一考する。
「実は、ボクがこのお店を紹介したのはねぇ。お客さんも使えるステージがあるからなんだ」
踊風の目の色が変わる。彼女がそういう事はつまり、
「踊風クン、今からステージに立ってみないかな!?」
「やる! やってくる!!」
踊風の行動は速い。返事も待たずに店員に向かって小走り。許可を貰って踊風の即席ライブの開催が決まった。
●
流れる音楽に合わせて踊風は発条のように、自由自在に全身を弾ませる。その場でジャンプして宙返り、と屋内である事を感じさせないのびのびとした動きが他の客や店員達をも魅了する。
それに加えてアリアがタイミングよく小道具を使って音や火花を鳴らす。この演出も非常に評判が良かった。
ライブは大盛況の内に終わり、店を出た二人はすぐそこで足を止める。
「あの演出、もしかしてアリアさんが?」
「そうだよっ。お店の中だから控えめにしたけど、いつもは派手に――」
そう言いつつ、彼女はスイッチを押した。カフェの近くの路上にあった標識やオブジェが――大輪の花火が空を舞った。
仕事のために壊していい物に仕込んでおいた火薬だが、ちょっと早めに使っても問題はあるまい。
「綺麗……」
花火に呼応して、感動のあまり踊風は溜息を漏らす。
今日一番の笑顔の“華”を咲かせた事に対する満足の笑顔。こうして二輪の華々の一日は締めくくりを迎えるのだった。