薔薇に捧ぐ
電脳戦潜アプリェーリ イベントノベル(テーマ)シュヴァーン・エレクトロニクス制作 阿瀬 春納品 2023年05月11日 20時38分23秒
帯電した空気が震えている。
一歩を踏み出すごと、身体のどこかしらに紫の稲妻が小さな龍のかたちして走る。それは痛みを伴うはずであろうに、
「さあ、覚悟を」
鍛え上げた躰に雷の嵐を纏って堂々と歩みを進めるその姿は、冠された二つ名『雷霆の楔』に恥じぬ。
覚悟など、と対戦者のデュープが嗤う。轟く雷鳴に震える手で大柄な身に似合いの電磁大槍を構え直す。戦う意志を放棄せぬその姿に、スフェーン・ケラヴノスは莞爾と笑った。
雷光宿す剣を正眼に構え、呼気を整える。
即時振り下ろす一刀は、古代アリーナを模した仮想空間を揺らがす衝撃波となった。大岩さえ砕く凄まじい風に、対戦者はそれでも踏みとどまるも、
「遅い」
一瞬のうちにスフェーンは相手の懐深く踏み込む。雷光帯びた剣を一閃すれば、槍持つ巨躯は容易く吹き飛んだ。それを追うはスフェーン自身ではなく、炯々と輝く稲妻。
アリーナに深々と稲妻が突き立つ。
轟、と雷音が響き渡る。眩い光が全てを呑みこむ――
●
「まさに雷嵐騎士! 完璧な勝利でしたね!」
興奮した様子のインタビュアーの後ろには、警備員たちが必死に抑えるファンの姿がある。
「ありがとう」
淡々と応じつつ、ファンに向けて片手を上げる。端正で誠実な微笑みに黄色い悲鳴が飛ぶも、スフェーンの足取りは緩まない。
「CM撮影に企業の広報、オフィシャルファンブックの撮影等、日々お忙しくされているようですが、不調により療養中の恋人とは――」
企業及びファン公認の恋人についてインタビュアーが言及した途端、ファンたちからブーイングの声が飛ぶ。それを片手を上げることでそっと押しとどめ、スフェーンは規範的な騎士じみて穏やかに笑んだ。
「勝利は全て、彼女に捧げるよ」
『彼女』と口にした瞬間、端然たる騎士のまなざしが熱情を帯びた。
色眼鏡に隠した一瞬の炎には気づかず、インタビュアーの問いかけはヒートアップする。
「彼女が復帰する可能性は?! タッグを組んだ熱いバトルはまた観られるのでしょうか?!」
「秘密だ」
五月蠅く重ねられる言葉をするりと躱し、スフェーンは次の仕事の場へと向かう。
(俺の薔薇)
表情には一切出さず、恋人を想う。
(逢いたい)
本当は、一瞬だって離れていたくないのに――
一歩を踏み出すごと、身体のどこかしらに紫の稲妻が小さな龍のかたちして走る。それは痛みを伴うはずであろうに、
「さあ、覚悟を」
鍛え上げた躰に雷の嵐を纏って堂々と歩みを進めるその姿は、冠された二つ名『雷霆の楔』に恥じぬ。
覚悟など、と対戦者のデュープが嗤う。轟く雷鳴に震える手で大柄な身に似合いの電磁大槍を構え直す。戦う意志を放棄せぬその姿に、スフェーン・ケラヴノスは莞爾と笑った。
雷光宿す剣を正眼に構え、呼気を整える。
即時振り下ろす一刀は、古代アリーナを模した仮想空間を揺らがす衝撃波となった。大岩さえ砕く凄まじい風に、対戦者はそれでも踏みとどまるも、
「遅い」
一瞬のうちにスフェーンは相手の懐深く踏み込む。雷光帯びた剣を一閃すれば、槍持つ巨躯は容易く吹き飛んだ。それを追うはスフェーン自身ではなく、炯々と輝く稲妻。
アリーナに深々と稲妻が突き立つ。
轟、と雷音が響き渡る。眩い光が全てを呑みこむ――
●
「まさに雷嵐騎士! 完璧な勝利でしたね!」
興奮した様子のインタビュアーの後ろには、警備員たちが必死に抑えるファンの姿がある。
「ありがとう」
淡々と応じつつ、ファンに向けて片手を上げる。端正で誠実な微笑みに黄色い悲鳴が飛ぶも、スフェーンの足取りは緩まない。
「CM撮影に企業の広報、オフィシャルファンブックの撮影等、日々お忙しくされているようですが、不調により療養中の恋人とは――」
企業及びファン公認の恋人についてインタビュアーが言及した途端、ファンたちからブーイングの声が飛ぶ。それを片手を上げることでそっと押しとどめ、スフェーンは規範的な騎士じみて穏やかに笑んだ。
「勝利は全て、彼女に捧げるよ」
『彼女』と口にした瞬間、端然たる騎士のまなざしが熱情を帯びた。
色眼鏡に隠した一瞬の炎には気づかず、インタビュアーの問いかけはヒートアップする。
「彼女が復帰する可能性は?! タッグを組んだ熱いバトルはまた観られるのでしょうか?!」
「秘密だ」
五月蠅く重ねられる言葉をするりと躱し、スフェーンは次の仕事の場へと向かう。
(俺の薔薇)
表情には一切出さず、恋人を想う。
(逢いたい)
本当は、一瞬だって離れていたくないのに――