彼にとって、それは光芒のような

電脳戦潜アプリェーリ イベントノベル(テーマ)シュヴァーン・エレクトロニクス制作 ウケッキ納品 2023年04月25日 11時54分07秒

●彼にとって、それは光芒のような

 歓声に沸く会場の裏で。
 微かな電気だけが照らす廊下の椅子に新人デュープ【ロクロウ】がうな垂れた状態で座っている。
 彼は初の試合で何もできず、相手に翻弄されたまま負けてしまったのだ。
 勿論、所属企業からは叱責を受け彼の自信はズタズタに引き裂かれてしまっている。
「俺は……どうして、こんなに――」
「こんなに――なんだ?」
 ハッとしてロクロウが振り向くとそこにいたのは大きなパンダ……ジャイアントパンダに見える【ハッタ・ムラムラ】だった。
 静かに歩き、ハッタは彼の前に立つ。ロクロウは顔を上げずに呟くように答えた。
「貴方には……とても強い貴方には、わかりませんよ。俺の、気持ちなんか」
「……わかるさ。おれだって最初から強かったわけじゃない。デビュー戦なんか酷いものだった。何もできずに、ボコボコだ」
「え……貴方程の人が?」
 ロクロウの隣にゆっくりと腰掛けるとハッタは缶コーヒーを渡す。ロクロウはそれをお礼と共に受け取った。
「力任せに腕を振るっても、全くと言っていい程に届かなかった。理想は遠く……遥か彼方にある様に思えたんだ」
 器用に缶コーヒーをあけるとハッタは大口を開けて、口内へコーヒーを流し込む。飲み終わった缶をぐしゃっと片手で潰した。
「だがそこで出会ったんだよ。いや、到達した……というのに近いのか。ジャイアントパンダ教という、教理の――真理へと」
「教理の真理……」
 ハッタは潰した缶コーヒーをゴミ箱に放り投げる。ゴミ箱にカンっと潰れた缶コーヒーは見事に投入された。
「ああ、ジャイアントパンダを求めるんじゃない、おれが、ジャイアントパンダになればいいんだと!」
「え、はっ、えぇ!? そんなの無理じゃ……」
 すっと立ち上がったハッタはロクロウの肩を掴み、強い瞳で見つめた。
「いいか、無理じゃない。確かに形は難しい、だがな、その心がジャイアントパンダであるならば、それはジャイアントパンダになったといっても過言ではない。なれるのだ、君も、私のようなジャイアントパンダに!」
「俺も……ジャイアント、パンダに……なれる……っ!」

 それから数日後、ロクロウはリベンジ戦に挑む。ジャイアントパンダ教の信者として堂々と名乗りを上げながら。
 その戦いはデビュー戦とは違い、見事初勝利を収めたという。
 そんな彼の頭にはパンダの耳が装着されていた。彼なりの志の証として。

登場キャラクター

アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0