【大戦2】デュープ・レジェンズ
電脳戦潜アプリェーリ イベントノベル(テーマ)翡翠電脳公社制作 空根 漣納品 2023年05月07日 22時37分33秒
――これは真実の法廷である。
機械的なアナウンス。配信用カメラドローンがデュープバトルのフィールドを縦横無尽に飛び回っている。
五社合同のエキシビジョンマッチ。ストレート、ラウンドルール採用。1ラウンド2分で、5ラウンドファイナル。
フィールドの安全地帯は2分毎に縮小し、安全地帯外へ出れば継続してダメージが入る。
――法廷においては、戦いで勝ち取ったものこそが真実。
フィールド中央にはひらけた台地。近接戦闘をするには絶好の場所だが、遠距離狙撃の恰好の的にもなり得る。
台地の周りは低い堀。堀の底や台地へ至る為のスロープ、階段、はしごが各所に設置されている。
それらの更に外側で乱立する障害物。高低差のある円柱や四角柱、身を隠せるパーティション等が配置されている。
――それが真実以外の何物でもない事を、我々は全ての証人の前に宣言する。
台地の上空。東西に別れた計八人のデュープが対面していた。
企業内から選出された二名、または一名が二チームに分かれてスクワッドを組み、並んでいる。
フィールド東側にはシュヴァーン・エレクトロニクスとアルセド、ロビン・テクノロジーズ、三社のロゴ。
対してフィールド西側では、ヴァイオレット・コンピューティングと翡翠電脳公社、二社のロゴが映し出されていた。
――参加者は肉体と精神の一切を賭け、真実を明らかにせよ。
EAST、左からTMSCOAE-2 “タクミ”(近衛・巧)、thxra/sh(明坂 桜侍)、QoH:Am@nE(乃木平 天音)、CSBNT-7 “タチバナ”(紙屋 橘)の四人。
WEST、左から鵙-玖(アヴェラ・ウッチェロ)、SA2-821(猪原城・美雲)、アイリィ(ファナン・ハリーリー)、Arthur:Ω(烏丸・九郎)の四人。
それぞれが対面する“敵”を睨み付け、或いは薄く笑って、開始の宣誓を待っていた。
――セッション・スタート!
●
ガキィン! バトル開始とほぼ同時に、アマネとアイリィの武器が鬩ぎあう。
「わたくしの“処刑執行”を受け止めるなんて、お前は打首よ!!!!」
あはは! と高笑いしながらアマネは大鎌を振り、アイリィから距離を取った。大鎌の柄をバトンの様にクルクルと両手で回し、構え直す。動く度に薔薇の花びらやトランプ等の豪華で綺麗なエフェクトが辺りへ散った。
充分に薔薇の花びらが舞い散った後、カツリ、とアマネの片足が一歩前へ出て、高いヒールを鳴らす。右手が頭上へ高く伸ばされ、左手で腰に“処刑執行”を抱え持ちながらのキメポーズは、きちんと配信用ドローンで映された。
「きれーい! でも今日はストレートバトルだから、負けないよ!」
「し、知ってるわよ! ビジュアルバトルじゃない事くらい!」
不敬者! とアマネは再びアイリィへ大鎌を振る。その大鎌を今度は受けず、後ろ飛びで避けたアイリィ。自身のアックスを振り被り、大きく縦に一振り。反動で前転した彼女は続けざまもう一振り叩き込み、フィールド中央の台地へ二つの陥没痕が刻まれた。
中央台地でアマネとアイリィの近接バトルが繰り広げられている。その少し外側。堀の底へ追い込まれるタチバナの姿があった。彼を追い詰めているのはたくさんの鵙-玖。いや、彼女の姿を写したホログラム。
鵙たちから降り注ぐナイフの雨を、タチバナはお手製の小型爆弾と煙幕弾でなんとかしのいでいた。
「くっそ面倒だな!」
煙幕の中なら命中精度も落ちるだろう。そう思っていたのだけれど、如何せん数が多い。しかも、彼が使用した煙幕弾に紛れて、鵙-玖がチャフ付き煙幕弾を転がしていた。チャフの影響でタクミの援護とも遮断されているタチバナは、本物とデコイとの見分けが付かない状況にある。
「全部壊しちまえばいいか!?」
全部壊せば本体にも当たる筈だ。大雑把で乱暴だが、確実性はある。
「それはどうかしら。私の回避も一流よ?」
当てられる物なら当てて見せろと言わんばかりに、煙幕の中から鵙の声が聞こえた。煽られて黙っていられる程冷静な男であったなら、彼はきっと“賑やかし”等していないだろう。
「いーぜぇ、来いよ! 吹っ飛ばしてやる!」
気配で叩き込んだハンマーは、風圧で辺りの煙を僅か晴らした。そこへ撃ち込まれるサクラのビームガン。ビッ、ドゥン! と派手にはじけたビームの照射先は、チャフを撒いていた鵙の煙幕弾だった。
「ナーイス!」
『タチバナさん正面十時と三時に射出ドローン。本体は移動済みです』
チャフが切れ、届いたタクミの声にタチバナは小さく舌打ちを零す。鵙-玖と一対一をしているつもりでいたが、彼女は既に煙幕を脱していた。
●
「始まりましたわエキシビジョンマッチ! 大人数でのバトルは心躍りますわね! それじゃあいつものアレ、いっきますわよー!」
フィールド外周に建つ一際高い円柱。その頂上で黄色いひよこ……ではなく、LoL.SPKyを構えたサニー・ハニーが立っていた。彼女の周りに配信用カメラドローンが集まっている。
「スマイルいっぱい見せてくださいませー! 3・2・1 は、にぃ―――っ!!」
ニィ、と特大晴天花丸笑顔がサニーの周りへ集ったカメラドローンに映った。配信コメントには応援スタンプと投げ銭が乱舞し、彼女の笑顔を飾っている。
「現在の状況は、中央台地でシュヴァーンのクイーンオブハート、アマネ様と! ヴァイオレット期待の新人、アイリィ様が! 大! 激! 突! ちゅう! ですわ!」
ビシッ、とカメラドローンたちを誘導するように、サニーの片手が中央の台地で戦闘中である二人を示した。数台のカメラドローンがそちらへ飛び去るのを確認後、彼女は「続いてぇ!」とクルクル回るパフォーマンスを見せながら言う。
「自分で撒いた煙に巻かれてまんまと騙されたロビンのタチバナ様! まだお堀の中にいらっしゃいますわ!」
ビシィ! と再び指し示す動きに、カメラドローンが堀の中から駆けあがるタチバナを抜いた。気付いた彼が顔を向ければ「後でぶっ飛ばして差し上げますわ!」とLoL.SPKy越しに宣戦布告の声が響く。
「お、可愛くてうるさいひよこがステージ始めてんじゃん」
いつでも来いとの意を込めて、タチバナはサニーの足元へ虹色閃光グリッターを投げ込んだ。
サニーが“上”でパフォーマンスをしている頃、“下”のArthur:Ωは、ゆうるり、と目を細める。
(いい具合に目立ってちょーだい。俺の代わりに、な?)
物陰に隠れた彼の視線は、晴れ行く煙幕のその向こうを窺っていた。先程から宙を駆けているサクラが、身を隠したアーサーや鵙を炙り出す為に狙撃してきている。
サクラの狙いは正確だった。恐らくは向こうの優秀な支援を受けて軌道補正がなされているのだろう。遠距離ビームガンでの狙撃に睨まれれば、こちらの動きも制限されてしまう。
(アレ、厄介だな。……堕としておくか)
重々しいマスク型拡声器の中で、ニィ、とアーサーの口の端が上がっていた。
クルクルと良く回り、良く喋るサニーのオンステージがフィールド高所で開かれている。タチバナの投げ込んだ虹色閃光グリッターも良い仕事をしていた。
ほぼライブステージのようになってはいるが、現在彼女はきちんとバトルに参加中だ。自陣に情報支援系が居ない事を利点と捉え、LoL.SPKyで増幅させた『Vol.JJJ』が、バトルフィールドの大半を覆っている。
『フィールド……動く……アレは……』
切れ切れに聞こえて来るタクミの声。フィールド高所を派手に飛び回るサクラは、タクミからの支援情報と自身の目で得られる情報とを擦り合わせる。
大人数バトルでは個人行動をしない事が基本だし、重要だ。一人で動けばあっという間に人数差で詰められて、ダウンを取られてしまう。ただし、情報共有と後方支援が得られる状況であれば、話は変わって来る。タクミのビットや戦況把握能力は情報の伝達や味方のカバー、フォローにおいて最も優秀だと言えるだろう。
今回のスクワッドメンバーは誰も彼もデュープバトルのエキスパートばかりだから、尚更一人で何でもやろうとせず、仲間に任せられる物は任せてしまった方が良い。更に、遠距離攻撃手段を所持し高所も高速で移動出来るサクラなら、タクミから共有される戦況や仲間の状況を有効的に活用する事が出来た。援護射撃も高所なら介入が容易だから。
だが、中央台地で行われているアマネとアイリィの近接バトルは、サクラが援護で手を出す隙など無かった。アマネの高笑いが断続的に聞こえているけれど、それへ応えるようにアイリィの楽しそうな声もある。あのバトルへ援護と称して狙撃する事は、配信映え的にも好ましくない。
サクラは敵個体の機動力を削ぐ目的へ立ち回りを変えた。特に、タチバナと対峙していた鵙-玖の脚を打ち抜きたい。未だはっきりとその姿を捉える事が出来ていないのは鵙とアーサーの二名だ。どちらも接近を許せば、こちらの被害が甚大になる可能性を秘めている。
けれど、サニーの広範囲『Vol.JJJ』が彼らの姿を探しにくくしていた。先にサニーを落としてしまうのが手っ取り早い。支援役や妨害役のデュープを真っ先に落とす事はバトルの定石であるし、そろそろライブオンステージもお開きにして貰おう。
サクラが高所を高速移動し、サニーの元へ瞬く間に肉薄する。気付いたサニーはLoL.SPKyをサクラへと構えて、目一杯息を吸い込んだ。
「そう簡単にやられませんのよ! 『http://Vol.DDD そっくりそのままお返しですわーーーー!!!』」
「チィッ!」
超至近距離での高出力ビームはLoL.SPKyにより増幅された衝撃波の壁で弾かれ、サクラの頬を掠めてフィールド上空へと消えていく。
『サクラさん足元、右後方に敵影あり。今なら撃てます』
サニーが『Vol.JJJ』を『Vol.DDD』へ変更した一瞬のうちに、タクミのビットは敵影全てを捉えていた。そのうちのひとつ、高所で身体を捻るサクラの足元に蠢く闇が妖艶に瞳を細めて笑っている。
声に従い、身を翻したサクラがビームガンを構え、放った。それと同時にサニーはサクラへ『Vol.AAA』を叫ぶ。まともに衝撃波を身に受けたサクラは、高所から地面へと叩き付けられた。落ちた先はサクラのビームガンに胸部装甲を削り取られたアーサーの目と鼻の先だ。
残りHPを素早く確認し、体勢を立て直そうとするサクラ。アーサーの攻撃は物理ではない。防ごうと思って防げるものでは無いし、サニーの追撃もないとは言い切れない。
サクラのカバーへ動こうとするタクミは、その意識を一瞬他へ割いた。まばたきよりも短い彼の隙へ、アーサーはゆるりと声を染み込ませる。
「“丸裸になったアンタが見てぇんだよ”……せいぜい楽しく踊ってくれ」
クツクツと笑う闇の色。アーサーの狙いは最初からタクミだった。大人数バトルにおいて戦況把握と情報共有は勝利へ直結する。どちらも高精度でこなせるタクミの後方支援力は、敵対するうえで厄介極まりなかった。
「くっ……。フィールド南、タチバナさんの、HP七割。サクラさんのHP、四割。アマネさんのHP六割」
アーサーの攻撃により、タクミは自身の思考を全て口へ出すようになっている。仲間の現HPをはじめ、彼らにどういう支援をしようとしていたのか、自分含めた仲間たちがどう動こうとしているのかも、全て。
「サクラさん、ビームガン出力上昇。援護、ビットシールド展開、ブレード、」
思考が口に出る状態だとしても、タクミは迷わず直刀型のブレードをアーサー目掛けて振った。
「おっと、アンタ根性あるねぇ」
タクミの行動そのものに制限を掛けるような汚染としなかったのは、アーサーからのちょっとしたファンサービスのつもりだったのだけれど。バトル中のタクミの思考に「口に出して恥ずかしい言葉」など傍から無かった事は、アーサーの誤算と言えるだろうか。
「2対1なの忘れんなよクソ野郎!」
強い力でアーサーの肩が掴まれ、引かれる。振り向きざま胸の中心に硬い物が押し付けられた。ドゥン! と放たれたサクラの超至近距離最大出力ビームガンは、アーサーの胸に大きな風穴を開ける。
「……へぇ、やるじゃん」
ゆうるり、と黒い瞳がタクミとサクラを越して細く笑った。
「わたくしの事も思い出してくださいましーー! 『http://Vol.A∞ 両方吹っ飛びやがれですわーーー!!!』」
黒い瞳の見やった先。フィールド高所から飛び降りたサニーは、落下しつつLoL.SPKyを構えた。アーサーへ一撃喰らわせているサクラと傍のタクミ目掛けて『Vol.A∞』を解き放つ。
●
サクラとサニーが高所で最初の激突をした、一方その頃。一時的に回復したタクミのビットから情報を得たタチバナは、彼らのフォローが必要だと瞬時に判断し向かおうとしていた。
配信用カメラドローンへの映りも考慮して、壁面を蹴り、飛び、翔けるパルクール。だが、彼の行く手を阻むよう唐突に、鵙-玖の姿が眼前へ現れた。
「貴方の相手は私」
「うおっ!?」
驚き八割、可愛い顔が至近距離で見られてラッキー二割の反応を示したタチバナ。とはいえ彼も百戦錬磨のデュープの一人だ。驚きこそすれ、取り乱すことは無く、眼前に現れたのなら好機と自身の得物を振った。
彼のハンマーはホログラムで煙幕に映る鵙-玖の姿を二分する。と、煙の切れ間から彼目掛けて複数のナイフが飛んで来ていた。
「ぃ! あっぶね」
リム化している左手でナイフを弾いた彼は、安堵する間もなく迫り来る鵙の大群へ気付く。それらがデコイである事は、三度目となれば容易に理解出来るものだ。デュープ情報収集において彼の右に出る者はいないとまで言わしめるその分析力で、タチバナは怯まず鵙の大群へと足を駆ける。
デコイでもそうでなくても全部ぶっ壊すつもりで振るわれるハンマーが、その軌道を受け流されて地へ陥没痕を刻んだ。
「……!」
ハンマーより先に足を踏み出し、返す刀ならぬ、返すハンマーで振り抜く。またもや流された手応えのないハンマーは、タチバナの背後をそのままの勢いで薙ぎ払っていた。そうして、ガキンッ! と金属音と共に受け止められる。
「みぃつけた」
「くっ!」
タチバナの後方右側、彼の武器が最も届きにくい場所に、鵙の本体が構えたナイフで彼のハンマーを防いでいた。
『後方四時本体』
タチバナのハンマーが受け流された時、アーサーと対面していたタクミからの支援情報がタチバナへ短く届いていた。ただ、それが届けられていなかったとしても、タチバナのハンマーは鵙-玖の本体へ一撃を喰らわせていた事だろう。タクミからの情報でその一撃はより正確に、より確実に、鵙-玖のHPへダメージを与える事となった。
パシュン、とチャフ付き煙幕が鵙-玖とタチバナ両方を包む。
「逃がすかよ!」
鵙-玖が煙幕を脱する気だと踏んだタチバナが叫び、ハンマーを振った。
「逃げられないのは貴方。さようなら」
バチン、と何かがタチバナの右腕を噛む。
「残念! そっちに武器はねぇよ!」
タチバナのハンマーは鵙-玖のHPへ致命的ダメージを与えた。今度こそダウンが取れた手応えもある。ならばここに長居は無用だ。早く仲間のカバーへ向かわなければ。
タチバナが煙幕の中から脱しようと足を動かすと、途端右腕が何か強い力で引かれた。バランスを崩して転ぶ彼の右腕は、不自然に引き上げられているようだ。一体なんだ、と自身の右腕を見上げる。丁度煙幕が晴れたそこには、壁に固定された罠へガッチリ噛み付かれた自身の右腕があった。
「ぉあッ!? なん、抜けねぇ!?」
鵙-玖はデコイを使い、虚実混ぜた手数で攻める暗殺者タイプだと、戦闘中のタチバナは分析していた。その分析は正しい。けれど本当に暗殺者タイプであるならば、同じ戦法を何度も同じ敵へ見せやしない。
鵙-玖の目的は敵戦力の分散、および足止め。数的有利の状況を作り出し、各個撃破する目的があった。デコイでの派手な陽動も、わざと同じ戦法でしか戦わなかったのも、全ては罠に気付かせない為の囮でしかない。
「タチバナ様! ここで遭ったが百年目! ですわっ!」
「ンゲッ!」
LoL.SPKyを構えるサニーに、顔を青くするタチバナ。彼の背後にはラウンド進行に伴う“安全地帯縮小”を示す円が迫っていた。
「本日は晴天なり! 局所的に橙色の花火が撃ちあがるでしょう! 『http://Vol.A∞ 吹っ飛びやがれなのですわーーー!!!』」
「たーまやーってかぁー! 覚えてろぉ可愛いひよこーーー!!!」
ROUND OVER――
――thxra/sh →K.O. Arthur:Ω
――SA2-821 →K.O. thxra/sh
――SA2-821 →K.O. TMSCOAE-2 “タクミ”
――CSBNT-7 “タチバナ” →K.O. 鵙-玖
――CIRCLE DOWN → CSBNT-7 “タチバナ”
NEXT FINAL ROUND――
●
「あっはははは! ほらほらどうしたの! もっと踊ってごらんなさいな!」
サクラがサニーと対峙し、タチバナが鵙-玖に苦戦を強いられている頃。中央台地ではアマネとアイリィの熾烈な打ち合いが繰り広げられていた。
彼女たちはセッション開始早々に互いを獲物と定め、戦っている。攻守バランスの優れたアマネに有利だと思われていた戦いは、新人故に恐れを知らないアイリィの一見無謀とも思える突撃攻撃で白熱し、盛り上がった。
「力ならあたしだって負けないんだから!
アイリィのアックスが振るわれる度、中央台地に亀裂や陥没痕も増える。刻々と悪くなる足場。そこにアマネの大鎌が薔薇の花弁やトランプのエフェクトを散らす。
キンキンと高く響く剣戟。合間に地を揺らす破壊音。両者の戦いは五分と言ってもよいだろう。しかし経験の差は出る物。徐々にダメージを蓄積させていくアイリィは、比例して呼吸も荒くなっていた。
「この程度で息が上がるなんてお子様ねぇ!」
「マダマダっ、若いから体力あるもん!」
「キィッ! 口答えはおよしッ! おまえは打首! 打首だよ!」
ブワッ、とアマネの“処刑執行”が薔薇の花弁を辺りへ散らす。アイリィの視界からアマネの姿が消えたのは一瞬であったが、その一瞬で彼女との距離を詰める等ハートの女王様Am@nEには造作もなかった。
「アッ! しまったっ!」
肉薄するアマネにアイリィの反応は遅れ、アックスを振るう事が出来ない。万事休すかと思われた、まさにその時。
「本日は晴天なり! 局所的に橙色の花火が撃ちあがるでしょう! 『http://Vol.A∞ 吹っ飛びやがれなのですわーーー!!!』」
大音量で叫ばれたサニーの『Vol.A∞』が、中央台地をも揺らした。元々アイリィのアックスによって亀裂や陥没が出来ていた中央台地は、サニーの放った衝撃波の余波で崩壊する。当然、その上に居たアマネもアイリィも崩壊に巻き込まれる訳で。
「わ、わっ、わぁーー! サニーお姉ちゃーーーん!!」
「不敬! 不敬! ふけぇーーーい!!! お前も打首にしてやるわ!!!」
ガラガラと崩れ落ちた中央台地。大小様々な瓦礫に埋もれ、アマネとアイリィは身動きが取れない。そうしているうちにも“安全地帯の縮小”は続いていた。
「ハッ!? あら? どうして中央台地が崩れているのかしら??」
はて? と首を傾げて、完全に崩れてしまった中央台地跡を眺めるサニー。程なくして彼女の頭上に“WINNER!”と表示された。
ROUND OVER――
――CIRCLE DOWN → アイリィ
――CIRCLE DOWN → QoH:Am@nE
――WINNER:WEST SQUAD
――鵙-玖(翡翠電脳公社)
――SA2-821(翡翠電脳公社)
――アイリィ(ヴァイオレット・コンピューティング)
――Arthur:Ω(ヴァイオレット・コンピューティング)
――CONGRATULATION!!
機械的なアナウンス。配信用カメラドローンがデュープバトルのフィールドを縦横無尽に飛び回っている。
五社合同のエキシビジョンマッチ。ストレート、ラウンドルール採用。1ラウンド2分で、5ラウンドファイナル。
フィールドの安全地帯は2分毎に縮小し、安全地帯外へ出れば継続してダメージが入る。
――法廷においては、戦いで勝ち取ったものこそが真実。
フィールド中央にはひらけた台地。近接戦闘をするには絶好の場所だが、遠距離狙撃の恰好の的にもなり得る。
台地の周りは低い堀。堀の底や台地へ至る為のスロープ、階段、はしごが各所に設置されている。
それらの更に外側で乱立する障害物。高低差のある円柱や四角柱、身を隠せるパーティション等が配置されている。
――それが真実以外の何物でもない事を、我々は全ての証人の前に宣言する。
台地の上空。東西に別れた計八人のデュープが対面していた。
企業内から選出された二名、または一名が二チームに分かれてスクワッドを組み、並んでいる。
フィールド東側にはシュヴァーン・エレクトロニクスとアルセド、ロビン・テクノロジーズ、三社のロゴ。
対してフィールド西側では、ヴァイオレット・コンピューティングと翡翠電脳公社、二社のロゴが映し出されていた。
――参加者は肉体と精神の一切を賭け、真実を明らかにせよ。
EAST、左からTMSCOAE-2 “タクミ”(近衛・巧)、thxra/sh(明坂 桜侍)、QoH:Am@nE(乃木平 天音)、CSBNT-7 “タチバナ”(紙屋 橘)の四人。
WEST、左から鵙-玖(アヴェラ・ウッチェロ)、SA2-821(猪原城・美雲)、アイリィ(ファナン・ハリーリー)、Arthur:Ω(烏丸・九郎)の四人。
それぞれが対面する“敵”を睨み付け、或いは薄く笑って、開始の宣誓を待っていた。
――セッション・スタート!
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ガキィン! バトル開始とほぼ同時に、アマネとアイリィの武器が鬩ぎあう。
「わたくしの“処刑執行”を受け止めるなんて、お前は打首よ!!!!」
あはは! と高笑いしながらアマネは大鎌を振り、アイリィから距離を取った。大鎌の柄をバトンの様にクルクルと両手で回し、構え直す。動く度に薔薇の花びらやトランプ等の豪華で綺麗なエフェクトが辺りへ散った。
充分に薔薇の花びらが舞い散った後、カツリ、とアマネの片足が一歩前へ出て、高いヒールを鳴らす。右手が頭上へ高く伸ばされ、左手で腰に“処刑執行”を抱え持ちながらのキメポーズは、きちんと配信用ドローンで映された。
「きれーい! でも今日はストレートバトルだから、負けないよ!」
「し、知ってるわよ! ビジュアルバトルじゃない事くらい!」
不敬者! とアマネは再びアイリィへ大鎌を振る。その大鎌を今度は受けず、後ろ飛びで避けたアイリィ。自身のアックスを振り被り、大きく縦に一振り。反動で前転した彼女は続けざまもう一振り叩き込み、フィールド中央の台地へ二つの陥没痕が刻まれた。
中央台地でアマネとアイリィの近接バトルが繰り広げられている。その少し外側。堀の底へ追い込まれるタチバナの姿があった。彼を追い詰めているのはたくさんの鵙-玖。いや、彼女の姿を写したホログラム。
鵙たちから降り注ぐナイフの雨を、タチバナはお手製の小型爆弾と煙幕弾でなんとかしのいでいた。
「くっそ面倒だな!」
煙幕の中なら命中精度も落ちるだろう。そう思っていたのだけれど、如何せん数が多い。しかも、彼が使用した煙幕弾に紛れて、鵙-玖がチャフ付き煙幕弾を転がしていた。チャフの影響でタクミの援護とも遮断されているタチバナは、本物とデコイとの見分けが付かない状況にある。
「全部壊しちまえばいいか!?」
全部壊せば本体にも当たる筈だ。大雑把で乱暴だが、確実性はある。
「それはどうかしら。私の回避も一流よ?」
当てられる物なら当てて見せろと言わんばかりに、煙幕の中から鵙の声が聞こえた。煽られて黙っていられる程冷静な男であったなら、彼はきっと“賑やかし”等していないだろう。
「いーぜぇ、来いよ! 吹っ飛ばしてやる!」
気配で叩き込んだハンマーは、風圧で辺りの煙を僅か晴らした。そこへ撃ち込まれるサクラのビームガン。ビッ、ドゥン! と派手にはじけたビームの照射先は、チャフを撒いていた鵙の煙幕弾だった。
「ナーイス!」
『タチバナさん正面十時と三時に射出ドローン。本体は移動済みです』
チャフが切れ、届いたタクミの声にタチバナは小さく舌打ちを零す。鵙-玖と一対一をしているつもりでいたが、彼女は既に煙幕を脱していた。
●
「始まりましたわエキシビジョンマッチ! 大人数でのバトルは心躍りますわね! それじゃあいつものアレ、いっきますわよー!」
フィールド外周に建つ一際高い円柱。その頂上で黄色いひよこ……ではなく、LoL.SPKyを構えたサニー・ハニーが立っていた。彼女の周りに配信用カメラドローンが集まっている。
「スマイルいっぱい見せてくださいませー! 3・2・1 は、にぃ―――っ!!」
ニィ、と特大晴天花丸笑顔がサニーの周りへ集ったカメラドローンに映った。配信コメントには応援スタンプと投げ銭が乱舞し、彼女の笑顔を飾っている。
「現在の状況は、中央台地でシュヴァーンのクイーンオブハート、アマネ様と! ヴァイオレット期待の新人、アイリィ様が! 大! 激! 突! ちゅう! ですわ!」
ビシッ、とカメラドローンたちを誘導するように、サニーの片手が中央の台地で戦闘中である二人を示した。数台のカメラドローンがそちらへ飛び去るのを確認後、彼女は「続いてぇ!」とクルクル回るパフォーマンスを見せながら言う。
「自分で撒いた煙に巻かれてまんまと騙されたロビンのタチバナ様! まだお堀の中にいらっしゃいますわ!」
ビシィ! と再び指し示す動きに、カメラドローンが堀の中から駆けあがるタチバナを抜いた。気付いた彼が顔を向ければ「後でぶっ飛ばして差し上げますわ!」とLoL.SPKy越しに宣戦布告の声が響く。
「お、可愛くてうるさいひよこがステージ始めてんじゃん」
いつでも来いとの意を込めて、タチバナはサニーの足元へ虹色閃光グリッターを投げ込んだ。
サニーが“上”でパフォーマンスをしている頃、“下”のArthur:Ωは、ゆうるり、と目を細める。
(いい具合に目立ってちょーだい。俺の代わりに、な?)
物陰に隠れた彼の視線は、晴れ行く煙幕のその向こうを窺っていた。先程から宙を駆けているサクラが、身を隠したアーサーや鵙を炙り出す為に狙撃してきている。
サクラの狙いは正確だった。恐らくは向こうの優秀な支援を受けて軌道補正がなされているのだろう。遠距離ビームガンでの狙撃に睨まれれば、こちらの動きも制限されてしまう。
(アレ、厄介だな。……堕としておくか)
重々しいマスク型拡声器の中で、ニィ、とアーサーの口の端が上がっていた。
クルクルと良く回り、良く喋るサニーのオンステージがフィールド高所で開かれている。タチバナの投げ込んだ虹色閃光グリッターも良い仕事をしていた。
ほぼライブステージのようになってはいるが、現在彼女はきちんとバトルに参加中だ。自陣に情報支援系が居ない事を利点と捉え、LoL.SPKyで増幅させた『Vol.JJJ』が、バトルフィールドの大半を覆っている。
『フィールド……動く……アレは……』
切れ切れに聞こえて来るタクミの声。フィールド高所を派手に飛び回るサクラは、タクミからの支援情報と自身の目で得られる情報とを擦り合わせる。
大人数バトルでは個人行動をしない事が基本だし、重要だ。一人で動けばあっという間に人数差で詰められて、ダウンを取られてしまう。ただし、情報共有と後方支援が得られる状況であれば、話は変わって来る。タクミのビットや戦況把握能力は情報の伝達や味方のカバー、フォローにおいて最も優秀だと言えるだろう。
今回のスクワッドメンバーは誰も彼もデュープバトルのエキスパートばかりだから、尚更一人で何でもやろうとせず、仲間に任せられる物は任せてしまった方が良い。更に、遠距離攻撃手段を所持し高所も高速で移動出来るサクラなら、タクミから共有される戦況や仲間の状況を有効的に活用する事が出来た。援護射撃も高所なら介入が容易だから。
だが、中央台地で行われているアマネとアイリィの近接バトルは、サクラが援護で手を出す隙など無かった。アマネの高笑いが断続的に聞こえているけれど、それへ応えるようにアイリィの楽しそうな声もある。あのバトルへ援護と称して狙撃する事は、配信映え的にも好ましくない。
サクラは敵個体の機動力を削ぐ目的へ立ち回りを変えた。特に、タチバナと対峙していた鵙-玖の脚を打ち抜きたい。未だはっきりとその姿を捉える事が出来ていないのは鵙とアーサーの二名だ。どちらも接近を許せば、こちらの被害が甚大になる可能性を秘めている。
けれど、サニーの広範囲『Vol.JJJ』が彼らの姿を探しにくくしていた。先にサニーを落としてしまうのが手っ取り早い。支援役や妨害役のデュープを真っ先に落とす事はバトルの定石であるし、そろそろライブオンステージもお開きにして貰おう。
サクラが高所を高速移動し、サニーの元へ瞬く間に肉薄する。気付いたサニーはLoL.SPKyをサクラへと構えて、目一杯息を吸い込んだ。
「そう簡単にやられませんのよ! 『http://Vol.DDD そっくりそのままお返しですわーーーー!!!』」
「チィッ!」
超至近距離での高出力ビームはLoL.SPKyにより増幅された衝撃波の壁で弾かれ、サクラの頬を掠めてフィールド上空へと消えていく。
『サクラさん足元、右後方に敵影あり。今なら撃てます』
サニーが『Vol.JJJ』を『Vol.DDD』へ変更した一瞬のうちに、タクミのビットは敵影全てを捉えていた。そのうちのひとつ、高所で身体を捻るサクラの足元に蠢く闇が妖艶に瞳を細めて笑っている。
声に従い、身を翻したサクラがビームガンを構え、放った。それと同時にサニーはサクラへ『Vol.AAA』を叫ぶ。まともに衝撃波を身に受けたサクラは、高所から地面へと叩き付けられた。落ちた先はサクラのビームガンに胸部装甲を削り取られたアーサーの目と鼻の先だ。
残りHPを素早く確認し、体勢を立て直そうとするサクラ。アーサーの攻撃は物理ではない。防ごうと思って防げるものでは無いし、サニーの追撃もないとは言い切れない。
サクラのカバーへ動こうとするタクミは、その意識を一瞬他へ割いた。まばたきよりも短い彼の隙へ、アーサーはゆるりと声を染み込ませる。
「“丸裸になったアンタが見てぇんだよ”……せいぜい楽しく踊ってくれ」
クツクツと笑う闇の色。アーサーの狙いは最初からタクミだった。大人数バトルにおいて戦況把握と情報共有は勝利へ直結する。どちらも高精度でこなせるタクミの後方支援力は、敵対するうえで厄介極まりなかった。
「くっ……。フィールド南、タチバナさんの、HP七割。サクラさんのHP、四割。アマネさんのHP六割」
アーサーの攻撃により、タクミは自身の思考を全て口へ出すようになっている。仲間の現HPをはじめ、彼らにどういう支援をしようとしていたのか、自分含めた仲間たちがどう動こうとしているのかも、全て。
「サクラさん、ビームガン出力上昇。援護、ビットシールド展開、ブレード、」
思考が口に出る状態だとしても、タクミは迷わず直刀型のブレードをアーサー目掛けて振った。
「おっと、アンタ根性あるねぇ」
タクミの行動そのものに制限を掛けるような汚染としなかったのは、アーサーからのちょっとしたファンサービスのつもりだったのだけれど。バトル中のタクミの思考に「口に出して恥ずかしい言葉」など傍から無かった事は、アーサーの誤算と言えるだろうか。
「2対1なの忘れんなよクソ野郎!」
強い力でアーサーの肩が掴まれ、引かれる。振り向きざま胸の中心に硬い物が押し付けられた。ドゥン! と放たれたサクラの超至近距離最大出力ビームガンは、アーサーの胸に大きな風穴を開ける。
「……へぇ、やるじゃん」
ゆうるり、と黒い瞳がタクミとサクラを越して細く笑った。
「わたくしの事も思い出してくださいましーー! 『http://Vol.A∞ 両方吹っ飛びやがれですわーーー!!!』」
黒い瞳の見やった先。フィールド高所から飛び降りたサニーは、落下しつつLoL.SPKyを構えた。アーサーへ一撃喰らわせているサクラと傍のタクミ目掛けて『Vol.A∞』を解き放つ。
●
サクラとサニーが高所で最初の激突をした、一方その頃。一時的に回復したタクミのビットから情報を得たタチバナは、彼らのフォローが必要だと瞬時に判断し向かおうとしていた。
配信用カメラドローンへの映りも考慮して、壁面を蹴り、飛び、翔けるパルクール。だが、彼の行く手を阻むよう唐突に、鵙-玖の姿が眼前へ現れた。
「貴方の相手は私」
「うおっ!?」
驚き八割、可愛い顔が至近距離で見られてラッキー二割の反応を示したタチバナ。とはいえ彼も百戦錬磨のデュープの一人だ。驚きこそすれ、取り乱すことは無く、眼前に現れたのなら好機と自身の得物を振った。
彼のハンマーはホログラムで煙幕に映る鵙-玖の姿を二分する。と、煙の切れ間から彼目掛けて複数のナイフが飛んで来ていた。
「ぃ! あっぶね」
リム化している左手でナイフを弾いた彼は、安堵する間もなく迫り来る鵙の大群へ気付く。それらがデコイである事は、三度目となれば容易に理解出来るものだ。デュープ情報収集において彼の右に出る者はいないとまで言わしめるその分析力で、タチバナは怯まず鵙の大群へと足を駆ける。
デコイでもそうでなくても全部ぶっ壊すつもりで振るわれるハンマーが、その軌道を受け流されて地へ陥没痕を刻んだ。
「……!」
ハンマーより先に足を踏み出し、返す刀ならぬ、返すハンマーで振り抜く。またもや流された手応えのないハンマーは、タチバナの背後をそのままの勢いで薙ぎ払っていた。そうして、ガキンッ! と金属音と共に受け止められる。
「みぃつけた」
「くっ!」
タチバナの後方右側、彼の武器が最も届きにくい場所に、鵙の本体が構えたナイフで彼のハンマーを防いでいた。
『後方四時本体』
タチバナのハンマーが受け流された時、アーサーと対面していたタクミからの支援情報がタチバナへ短く届いていた。ただ、それが届けられていなかったとしても、タチバナのハンマーは鵙-玖の本体へ一撃を喰らわせていた事だろう。タクミからの情報でその一撃はより正確に、より確実に、鵙-玖のHPへダメージを与える事となった。
パシュン、とチャフ付き煙幕が鵙-玖とタチバナ両方を包む。
「逃がすかよ!」
鵙-玖が煙幕を脱する気だと踏んだタチバナが叫び、ハンマーを振った。
「逃げられないのは貴方。さようなら」
バチン、と何かがタチバナの右腕を噛む。
「残念! そっちに武器はねぇよ!」
タチバナのハンマーは鵙-玖のHPへ致命的ダメージを与えた。今度こそダウンが取れた手応えもある。ならばここに長居は無用だ。早く仲間のカバーへ向かわなければ。
タチバナが煙幕の中から脱しようと足を動かすと、途端右腕が何か強い力で引かれた。バランスを崩して転ぶ彼の右腕は、不自然に引き上げられているようだ。一体なんだ、と自身の右腕を見上げる。丁度煙幕が晴れたそこには、壁に固定された罠へガッチリ噛み付かれた自身の右腕があった。
「ぉあッ!? なん、抜けねぇ!?」
鵙-玖はデコイを使い、虚実混ぜた手数で攻める暗殺者タイプだと、戦闘中のタチバナは分析していた。その分析は正しい。けれど本当に暗殺者タイプであるならば、同じ戦法を何度も同じ敵へ見せやしない。
鵙-玖の目的は敵戦力の分散、および足止め。数的有利の状況を作り出し、各個撃破する目的があった。デコイでの派手な陽動も、わざと同じ戦法でしか戦わなかったのも、全ては罠に気付かせない為の囮でしかない。
「タチバナ様! ここで遭ったが百年目! ですわっ!」
「ンゲッ!」
LoL.SPKyを構えるサニーに、顔を青くするタチバナ。彼の背後にはラウンド進行に伴う“安全地帯縮小”を示す円が迫っていた。
「本日は晴天なり! 局所的に橙色の花火が撃ちあがるでしょう! 『http://Vol.A∞ 吹っ飛びやがれなのですわーーー!!!』」
「たーまやーってかぁー! 覚えてろぉ可愛いひよこーーー!!!」
ROUND OVER――
――thxra/sh →K.O. Arthur:Ω
――SA2-821 →K.O. thxra/sh
――SA2-821 →K.O. TMSCOAE-2 “タクミ”
――CSBNT-7 “タチバナ” →K.O. 鵙-玖
――CIRCLE DOWN → CSBNT-7 “タチバナ”
NEXT FINAL ROUND――
●
「あっはははは! ほらほらどうしたの! もっと踊ってごらんなさいな!」
サクラがサニーと対峙し、タチバナが鵙-玖に苦戦を強いられている頃。中央台地ではアマネとアイリィの熾烈な打ち合いが繰り広げられていた。
彼女たちはセッション開始早々に互いを獲物と定め、戦っている。攻守バランスの優れたアマネに有利だと思われていた戦いは、新人故に恐れを知らないアイリィの一見無謀とも思える突撃攻撃で白熱し、盛り上がった。
「力ならあたしだって負けないんだから!
アイリィのアックスが振るわれる度、中央台地に亀裂や陥没痕も増える。刻々と悪くなる足場。そこにアマネの大鎌が薔薇の花弁やトランプのエフェクトを散らす。
キンキンと高く響く剣戟。合間に地を揺らす破壊音。両者の戦いは五分と言ってもよいだろう。しかし経験の差は出る物。徐々にダメージを蓄積させていくアイリィは、比例して呼吸も荒くなっていた。
「この程度で息が上がるなんてお子様ねぇ!」
「マダマダっ、若いから体力あるもん!」
「キィッ! 口答えはおよしッ! おまえは打首! 打首だよ!」
ブワッ、とアマネの“処刑執行”が薔薇の花弁を辺りへ散らす。アイリィの視界からアマネの姿が消えたのは一瞬であったが、その一瞬で彼女との距離を詰める等ハートの女王様Am@nEには造作もなかった。
「アッ! しまったっ!」
肉薄するアマネにアイリィの反応は遅れ、アックスを振るう事が出来ない。万事休すかと思われた、まさにその時。
「本日は晴天なり! 局所的に橙色の花火が撃ちあがるでしょう! 『http://Vol.A∞ 吹っ飛びやがれなのですわーーー!!!』」
大音量で叫ばれたサニーの『Vol.A∞』が、中央台地をも揺らした。元々アイリィのアックスによって亀裂や陥没が出来ていた中央台地は、サニーの放った衝撃波の余波で崩壊する。当然、その上に居たアマネもアイリィも崩壊に巻き込まれる訳で。
「わ、わっ、わぁーー! サニーお姉ちゃーーーん!!」
「不敬! 不敬! ふけぇーーーい!!! お前も打首にしてやるわ!!!」
ガラガラと崩れ落ちた中央台地。大小様々な瓦礫に埋もれ、アマネとアイリィは身動きが取れない。そうしているうちにも“安全地帯の縮小”は続いていた。
「ハッ!? あら? どうして中央台地が崩れているのかしら??」
はて? と首を傾げて、完全に崩れてしまった中央台地跡を眺めるサニー。程なくして彼女の頭上に“WINNER!”と表示された。
ROUND OVER――
――CIRCLE DOWN → アイリィ
――CIRCLE DOWN → QoH:Am@nE
――WINNER:WEST SQUAD
――鵙-玖(翡翠電脳公社)
――SA2-821(翡翠電脳公社)
――アイリィ(ヴァイオレット・コンピューティング)
――Arthur:Ω(ヴァイオレット・コンピューティング)
――CONGRATULATION!!