【雷甲】暗躍、知略、爆殺
電脳戦潜アプリェーリ イベントノベル(テーマ)翡翠電脳公社制作 螺子巻ゼンマイ納品 2023年05月01日 00時04分02秒
雷甲討伐は、協力戦である。
それは翡翠が宣言し他社も同意した、本イベントの表の顔だ。
けれど企業闘争とは、笑顔の裏に真意を隠し持つもの。
「皆様、今宵も月は見えていますか?」
日暮れ過ぎの戦場で、翡翠のデュープは仲間へ問うた。
Code:UA 玉兔。なよ竹のかぐやを思わす美麗なデュープの問いに「ふむ」と空を見上げたのは、ヴァイオレットから派遣されたデュープCP-WorM。
「あれが実景かどうか――等と言う話ではないのだろうな」
戦場の空には、確かに月が浮かんでいる。
それが現実の風景なのか、映像なのか……Code:UAの問いがそうした事実の確認でない事はCP-WorMも察していた。
「見えているわよ。同じ月って保証は無いけれどね?」
明白に答えたのは、ロビンに所属するデュープFix4g5。
彼女の含みを持たせた言い方に、「そう」と玉兔は薄く答える。
(……え。その反応でいいの?)
内心で戸惑うのは、玉兔と同じく翡翠に所属する鵙-玖。
表情だけは綺麗に整えているが、その心中は穏やかでなかった。
というのも……Fix4g5は爆弾魔として有名なデュープだったからだ。
映像も確認したが、どうにも『悪女』という感じがして、少し怖い。
そんな彼女が同じものを見ているとは限らないと答えるのだから、不穏と言わざるを得ないのだけれど……
「何、どうあれやる事は変わらん。お前たちは好きに動けばいい」
「良いのね? なら、遠慮なく遊ばせて貰うから……気を付けなさい」
CP-WorMの言葉にFix4g5が浮かべた笑みは、妖艶という他なく。
大人っぽい表情とはああいうものかなと観察しながら、鵙-玖は一言だけ告げる。
「あの月は映像よ。現実の風景を投射しただけの」
きっと輝きは本物と変わらない。
だけどどうしようもなく、偽物なのだ。
●
戦闘開始と共に響いたのは、Fix4g5が放った爆弾の衝撃だった。
スタート五秒で立ち上る黒煙に、けれど表情を変えるデュープはいない。
「あら、流石に頑丈ね?」
やがて煙の向こうから、雷甲が威容を示し迫りくる。
ダメージは――無いわけではないが、効いている内に入らないだろう。
「噂には聴いていたが、大分装甲は硬いようだな」
「これで解体出来るようなら、ただの重機よ。ふふ、面白いじゃない」
嬉し気なFix4g5の様子に、CP-WorMはキセルを片手に息を吐く。
好きに動けとは言ったものの、これでは自分が目立てないのではないか。
(まぁ、いい。俺は俺のやり方で目を惹くだけだ)
そう考えながら、ゆらり。
キセルを揺らすと、火皿から紫煙の如く文字列が湧き昇る。
(あれはなにかしら……?)
彼の不思議な道具を横目に見ながら、鵙は己の脚に取り付けられた箱の一つ手を触れ、開く。
と――ぶおん。フィールドの端に、五メートルを超す巨大なデュープの姿が出現した。
それは、鵙の箱に秘されたホログラム生成装置によって生み出された幻影である。
人であれば、これが幻だと断定するのにそう時間はかからないだろう。
けれど人のような直感を抱かぬ雷甲は、幻影を脅威と見て攻撃せざるを得ない。
銃弾が虚しく空を撃つ中、CP-WorMは真っ直ぐに雷甲へと歩む。数発牽制される程度なら、躱す事に苦労は無い。
中距離まで詰め寄った彼は、そしてキセルを強く振り上げた。
ふわり。キセルの動きに連動し、火皿から昇る文字列が鞭の様に踊る。
さながらそれは、光のアートの如く。美しくCP-WorMの周囲を飾る光は、さらりと雷甲の機体を撫ぜた。
触れた拍子に、ばちり。火花は小さく生まれるが、しかし火力と言うには乏しい。
(なにか別の効能があるのでしょうね)
文字列に触れぬよう気を付けながら、前へと出る玉兔は考える。
叶うなら、その効果が確かめられるまで手出しは控えたかったが……それでは協力戦は成り立たない。
鉄扇、《八花芒月》を大きく広げ、彼女は雷甲の側面へと回り込んだ。ザン、ザンッ! 体をしならせ、舞う様に数度、雷甲の装甲に斬撃を加える。単に斬っても効果が薄いとは理解していたが、同じ個所を何度も削れば、その限りではない。
(ただ……読み辛いですね)
こうした仕込みが功を奏するのには、時間が掛かる。
味方の動き方によっては、悠長なことをせず一挙に刈り取った方が撮れ高を得られるだろう。かといって最初から全力を出せば、他社の情報を握れないばかりか、自身の戦い方も今後の敵へと明かす事になる。
企業への貢献と、興行への貢献。
二者のバランスを取ろうと考えた折、彼らは相当な曲者と言えた。
一方で、翡翠にとって有利なのは、玉兔と鵙の二人をチームに加えられた事だ。
玉兔が様子を窺う間にも、鵙は二匹の昆虫型ドローンを戦場に放っている。
表向きは、戦闘時の死角をカバーする為の小型機器。けれどこの昆虫たちには、他企業のデュープの情報収集という役割も与えられている。
上空を飛翔する昆虫の目は、戦場で暗躍するFix4g5の動きを確りと捉えていた。
Fix4g5は雷甲の左右へと地雷を設置して、雷甲の動きを制限していたのだ。
もし大きく動けば、そこには地雷原。隠されずばら撒かれた爆弾を、雷甲が強いて踏み抜く事は無いだろう。
鵙はその設置範囲をドローンで確認し、触れぬよう気を付けながら雷甲の後方へ回った。
後ろにも罠を仕掛けるためだ。鵙が設置するのは、高硬度ワイヤーを用いた足止め用のトラップである。
左右へ駆ければ地雷を踏み、後ろへ下がれば網へと掛かる。幻影に気を取られている間に行く場所を失った雷甲は、知ってか知らずか、目前の敵へと刃を振るう。
「ふむ……これは受けられんな」
「構いません、私が」
退きながら呟くCP-WorMと雷甲の狭間に、玉兔が割り込んだ。
開いた鉄扇を斜めに向けて、敵の刃を滑らせ流す。
地面を叩いた刃に脚を乗せ、ひらりと舞い跳び腕の関節にも傷を付けておく。
(ここで勝負は掛けられませんが)
見所は、そろそろ欲しい。
そんな彼女の想いを知ってか知らずか、ふわり。彼女の真横をCP-WorMの文字列が走り、彩る。
「……念のため聞いておきますがその紫煙、触れない方が良いモノですよね?」
「気にかかるならば、な。今回の狙いは雷甲だけだ、安心しろ」
CP-WorMの返答に、玉兔は静かに眉を寄せた。
これは……逆か? この男を泳がせるべきではない?
玉兔は損得を計算し、息を吐く。まぁ良いだろう。好きにさせても、私の懐は痛まない。
そして玉兔が雷甲へと意識を戻し――雷甲が幻影への攻撃を諦めた頃、戦況が動いた。
ぎぎ、ぎ。雷甲の関節が不安定な挙動を見せたのだ。そしてデュープへ戻る筈だった射撃の狙いは、明後日の方向へと向いてしまう。
「……コードが効いたのかしら、CP-WorMちゃん?」
「その様だ。存外時間が掛ったが……それだけ保護が手厚かったのだろう」
Fix4g5の問いに、CP-WorMは頷く。
翡翠の技師も侮れないか。どうあれ、毒は回り始めた。
「いくら装甲が硬かろうが、ウイルスは僅かな綻びから侵蝕する」
関節部から、或いは味方が付けた傷から。
文字列は雷甲の回路に侵食し、蝕んでゆく。
狂った蟷螂は虚空に刃を振るいながら、フラフラと酔ったように動き回った。
そして――
「あらぁ……そっちは危ないわよ?」
雷甲の足がツンと地雷の一つに触れ、起爆。連鎖した爆発が、雷甲の右側面の装甲を焼き、歪ませた。
プスプスと黒煙を上げる雷甲の姿に、ふっとFix4g5が笑みを零す。
「私が自分で追い込みたかったけれど……まぁ良いわ、無様で面白かったから」
「そうか。だが仕事は終わりではないようだぞ」
敵はまだ健在である。
絶えず文字列の鞭で雷甲を打ちながら、CP-WorMは語る。
「そうねぇ……いい壊し方も思いついたから、そろそろ決めに掛かりましょうか?」
Fix4g5は答えながら、二、三の爆弾を雷甲へと放った。
目的はダメージではなく、動かねばと判断させる事。目論見通り、留まる事を恐れた雷甲は動き……自ら網へと掛かる。
「玉兔」
「ええ、そうですね」
刹那、鵙と玉兔が駆けだした。
雷甲が掛かったのは、先刻鵙が仕掛けたワイヤー群。少しの間、雷甲の脚を縛る罠。
他社二人が決着を腹積もるなら、情報収集はここまでだ。鵙が雷甲の下部に潜り込む一方、玉兔はじゃらりと八花芒月の刃をバラし、仕込まれたワイヤー《cage/yarn》を振るい、雷甲の剣を抑え込んだ。
銃撃は既に当たらない。抵抗できぬ雷甲の手足の関節に、鵙が暗器で傷を付け――ふらり。そこへ合流したFix4g5が、数個の爆薬を彼女へ手渡した。
「さぁ、楽しみましょう?」
「――意図は分かりました」
妖艶な誘いに、努めて人形のような表情で応えて。
傷を付けた関節に、二人で爆薬を貼り付けて行く。
「準備は終わりました?」
「はい。あとはいつでも」
返答を聴き、急ぎ鉄扇を回収する玉兔。
鵙と共に雷甲から離れたFix4g5は、パチンと指を鳴らす。
戦場が、揺れた。
連鎖する爆風は、傷ついた雷甲の手足を引き千切り、吹き飛ばす。
「あは……あははははぁッ!! 最ッッッ高!!!」
破片が飛び散る中、高笑いするFix4g5。
煙が晴れた時、そこに残っていたのは、見るも無残な姿となった鉄の塊だった。
●
――調査結果。
CP-WorMの文字列は注意が必要。
特にチーム戦では、最優先での優先処理を提案。
雷甲のデータは(爆破によって)破損しており、ウィルス自体の情報は不足。
また、雷甲のデータにアクセスされた痕跡アリ。
Fix4g5に関しては、映像の通り。
爆破への執着と思考力は驚異の一言である。
「特別報酬、期待できるでしょうか」
「あって欲しいわね。なんていうか……」
ただ戦うより、どっと疲れてしまったから。
鵙の言葉に玉兔は頷く。CP-WorMにも、出し抜かれてしまったと言って良いだろう。
けれど最大の勝者は、やはりこの戦いを存分に楽しんだFix4g5なのだろうなと、鵙は思うのだった。
それは翡翠が宣言し他社も同意した、本イベントの表の顔だ。
けれど企業闘争とは、笑顔の裏に真意を隠し持つもの。
「皆様、今宵も月は見えていますか?」
日暮れ過ぎの戦場で、翡翠のデュープは仲間へ問うた。
Code:UA 玉兔。なよ竹のかぐやを思わす美麗なデュープの問いに「ふむ」と空を見上げたのは、ヴァイオレットから派遣されたデュープCP-WorM。
「あれが実景かどうか――等と言う話ではないのだろうな」
戦場の空には、確かに月が浮かんでいる。
それが現実の風景なのか、映像なのか……Code:UAの問いがそうした事実の確認でない事はCP-WorMも察していた。
「見えているわよ。同じ月って保証は無いけれどね?」
明白に答えたのは、ロビンに所属するデュープFix4g5。
彼女の含みを持たせた言い方に、「そう」と玉兔は薄く答える。
(……え。その反応でいいの?)
内心で戸惑うのは、玉兔と同じく翡翠に所属する鵙-玖。
表情だけは綺麗に整えているが、その心中は穏やかでなかった。
というのも……Fix4g5は爆弾魔として有名なデュープだったからだ。
映像も確認したが、どうにも『悪女』という感じがして、少し怖い。
そんな彼女が同じものを見ているとは限らないと答えるのだから、不穏と言わざるを得ないのだけれど……
「何、どうあれやる事は変わらん。お前たちは好きに動けばいい」
「良いのね? なら、遠慮なく遊ばせて貰うから……気を付けなさい」
CP-WorMの言葉にFix4g5が浮かべた笑みは、妖艶という他なく。
大人っぽい表情とはああいうものかなと観察しながら、鵙-玖は一言だけ告げる。
「あの月は映像よ。現実の風景を投射しただけの」
きっと輝きは本物と変わらない。
だけどどうしようもなく、偽物なのだ。
●
戦闘開始と共に響いたのは、Fix4g5が放った爆弾の衝撃だった。
スタート五秒で立ち上る黒煙に、けれど表情を変えるデュープはいない。
「あら、流石に頑丈ね?」
やがて煙の向こうから、雷甲が威容を示し迫りくる。
ダメージは――無いわけではないが、効いている内に入らないだろう。
「噂には聴いていたが、大分装甲は硬いようだな」
「これで解体出来るようなら、ただの重機よ。ふふ、面白いじゃない」
嬉し気なFix4g5の様子に、CP-WorMはキセルを片手に息を吐く。
好きに動けとは言ったものの、これでは自分が目立てないのではないか。
(まぁ、いい。俺は俺のやり方で目を惹くだけだ)
そう考えながら、ゆらり。
キセルを揺らすと、火皿から紫煙の如く文字列が湧き昇る。
(あれはなにかしら……?)
彼の不思議な道具を横目に見ながら、鵙は己の脚に取り付けられた箱の一つ手を触れ、開く。
と――ぶおん。フィールドの端に、五メートルを超す巨大なデュープの姿が出現した。
それは、鵙の箱に秘されたホログラム生成装置によって生み出された幻影である。
人であれば、これが幻だと断定するのにそう時間はかからないだろう。
けれど人のような直感を抱かぬ雷甲は、幻影を脅威と見て攻撃せざるを得ない。
銃弾が虚しく空を撃つ中、CP-WorMは真っ直ぐに雷甲へと歩む。数発牽制される程度なら、躱す事に苦労は無い。
中距離まで詰め寄った彼は、そしてキセルを強く振り上げた。
ふわり。キセルの動きに連動し、火皿から昇る文字列が鞭の様に踊る。
さながらそれは、光のアートの如く。美しくCP-WorMの周囲を飾る光は、さらりと雷甲の機体を撫ぜた。
触れた拍子に、ばちり。火花は小さく生まれるが、しかし火力と言うには乏しい。
(なにか別の効能があるのでしょうね)
文字列に触れぬよう気を付けながら、前へと出る玉兔は考える。
叶うなら、その効果が確かめられるまで手出しは控えたかったが……それでは協力戦は成り立たない。
鉄扇、《八花芒月》を大きく広げ、彼女は雷甲の側面へと回り込んだ。ザン、ザンッ! 体をしならせ、舞う様に数度、雷甲の装甲に斬撃を加える。単に斬っても効果が薄いとは理解していたが、同じ個所を何度も削れば、その限りではない。
(ただ……読み辛いですね)
こうした仕込みが功を奏するのには、時間が掛かる。
味方の動き方によっては、悠長なことをせず一挙に刈り取った方が撮れ高を得られるだろう。かといって最初から全力を出せば、他社の情報を握れないばかりか、自身の戦い方も今後の敵へと明かす事になる。
企業への貢献と、興行への貢献。
二者のバランスを取ろうと考えた折、彼らは相当な曲者と言えた。
一方で、翡翠にとって有利なのは、玉兔と鵙の二人をチームに加えられた事だ。
玉兔が様子を窺う間にも、鵙は二匹の昆虫型ドローンを戦場に放っている。
表向きは、戦闘時の死角をカバーする為の小型機器。けれどこの昆虫たちには、他企業のデュープの情報収集という役割も与えられている。
上空を飛翔する昆虫の目は、戦場で暗躍するFix4g5の動きを確りと捉えていた。
Fix4g5は雷甲の左右へと地雷を設置して、雷甲の動きを制限していたのだ。
もし大きく動けば、そこには地雷原。隠されずばら撒かれた爆弾を、雷甲が強いて踏み抜く事は無いだろう。
鵙はその設置範囲をドローンで確認し、触れぬよう気を付けながら雷甲の後方へ回った。
後ろにも罠を仕掛けるためだ。鵙が設置するのは、高硬度ワイヤーを用いた足止め用のトラップである。
左右へ駆ければ地雷を踏み、後ろへ下がれば網へと掛かる。幻影に気を取られている間に行く場所を失った雷甲は、知ってか知らずか、目前の敵へと刃を振るう。
「ふむ……これは受けられんな」
「構いません、私が」
退きながら呟くCP-WorMと雷甲の狭間に、玉兔が割り込んだ。
開いた鉄扇を斜めに向けて、敵の刃を滑らせ流す。
地面を叩いた刃に脚を乗せ、ひらりと舞い跳び腕の関節にも傷を付けておく。
(ここで勝負は掛けられませんが)
見所は、そろそろ欲しい。
そんな彼女の想いを知ってか知らずか、ふわり。彼女の真横をCP-WorMの文字列が走り、彩る。
「……念のため聞いておきますがその紫煙、触れない方が良いモノですよね?」
「気にかかるならば、な。今回の狙いは雷甲だけだ、安心しろ」
CP-WorMの返答に、玉兔は静かに眉を寄せた。
これは……逆か? この男を泳がせるべきではない?
玉兔は損得を計算し、息を吐く。まぁ良いだろう。好きにさせても、私の懐は痛まない。
そして玉兔が雷甲へと意識を戻し――雷甲が幻影への攻撃を諦めた頃、戦況が動いた。
ぎぎ、ぎ。雷甲の関節が不安定な挙動を見せたのだ。そしてデュープへ戻る筈だった射撃の狙いは、明後日の方向へと向いてしまう。
「……コードが効いたのかしら、CP-WorMちゃん?」
「その様だ。存外時間が掛ったが……それだけ保護が手厚かったのだろう」
Fix4g5の問いに、CP-WorMは頷く。
翡翠の技師も侮れないか。どうあれ、毒は回り始めた。
「いくら装甲が硬かろうが、ウイルスは僅かな綻びから侵蝕する」
関節部から、或いは味方が付けた傷から。
文字列は雷甲の回路に侵食し、蝕んでゆく。
狂った蟷螂は虚空に刃を振るいながら、フラフラと酔ったように動き回った。
そして――
「あらぁ……そっちは危ないわよ?」
雷甲の足がツンと地雷の一つに触れ、起爆。連鎖した爆発が、雷甲の右側面の装甲を焼き、歪ませた。
プスプスと黒煙を上げる雷甲の姿に、ふっとFix4g5が笑みを零す。
「私が自分で追い込みたかったけれど……まぁ良いわ、無様で面白かったから」
「そうか。だが仕事は終わりではないようだぞ」
敵はまだ健在である。
絶えず文字列の鞭で雷甲を打ちながら、CP-WorMは語る。
「そうねぇ……いい壊し方も思いついたから、そろそろ決めに掛かりましょうか?」
Fix4g5は答えながら、二、三の爆弾を雷甲へと放った。
目的はダメージではなく、動かねばと判断させる事。目論見通り、留まる事を恐れた雷甲は動き……自ら網へと掛かる。
「玉兔」
「ええ、そうですね」
刹那、鵙と玉兔が駆けだした。
雷甲が掛かったのは、先刻鵙が仕掛けたワイヤー群。少しの間、雷甲の脚を縛る罠。
他社二人が決着を腹積もるなら、情報収集はここまでだ。鵙が雷甲の下部に潜り込む一方、玉兔はじゃらりと八花芒月の刃をバラし、仕込まれたワイヤー《cage/yarn》を振るい、雷甲の剣を抑え込んだ。
銃撃は既に当たらない。抵抗できぬ雷甲の手足の関節に、鵙が暗器で傷を付け――ふらり。そこへ合流したFix4g5が、数個の爆薬を彼女へ手渡した。
「さぁ、楽しみましょう?」
「――意図は分かりました」
妖艶な誘いに、努めて人形のような表情で応えて。
傷を付けた関節に、二人で爆薬を貼り付けて行く。
「準備は終わりました?」
「はい。あとはいつでも」
返答を聴き、急ぎ鉄扇を回収する玉兔。
鵙と共に雷甲から離れたFix4g5は、パチンと指を鳴らす。
戦場が、揺れた。
連鎖する爆風は、傷ついた雷甲の手足を引き千切り、吹き飛ばす。
「あは……あははははぁッ!! 最ッッッ高!!!」
破片が飛び散る中、高笑いするFix4g5。
煙が晴れた時、そこに残っていたのは、見るも無残な姿となった鉄の塊だった。
●
――調査結果。
CP-WorMの文字列は注意が必要。
特にチーム戦では、最優先での優先処理を提案。
雷甲のデータは(爆破によって)破損しており、ウィルス自体の情報は不足。
また、雷甲のデータにアクセスされた痕跡アリ。
Fix4g5に関しては、映像の通り。
爆破への執着と思考力は驚異の一言である。
「特別報酬、期待できるでしょうか」
「あって欲しいわね。なんていうか……」
ただ戦うより、どっと疲れてしまったから。
鵙の言葉に玉兔は頷く。CP-WorMにも、出し抜かれてしまったと言って良いだろう。
けれど最大の勝者は、やはりこの戦いを存分に楽しんだFix4g5なのだろうなと、鵙は思うのだった。