【大戦3】混色混戦

電脳戦潜アプリェーリ イベントノベル(テーマ)ヴァイオレット・コンピューティング制作 しまだ納品 2023年05月12日 22時13分41秒

 ――色が溢れていく。
 何も存在しなかったはずの空間に、今日もまたバトルに相応しい景色が描写される。
 今か今かとバトルの始まりを待つファンの前で、モニターに映し出されたのは人けのない市街地の映像だった。
 撮影用のドローンが、フィールドの中央にてバトル開始時間を待っている二つのチームに近づいていく。
「やあやあ! 配信を見てるみんな! あーんど今回のチームメイトのみんな!」
 ニコニコと陽気な笑みを浮かべて、D3-vit(ダーヴィト・バルシュミーデ)はファンに……そして味方へと挨拶をする。楽しげに喋り始めた彼を見て、自然と笑顔になった視聴者も多いことだろう。
「今日も陽気なビットおじさんだよ★ 今日も張り切ってバトっちゃおう!」
 バトルの成績は良くはないが、コミカルなパフォーマンスが世間で受けており、子供から老人まで幅広い世代に人気。それが、D3-vitという名のデュープだ。
「楽勝じゃん?」
 余裕そうな笑みを浮かべるギャルが、あの家族愛に関するCMに出演しているリトル・ユンファ(ミリア・クロステル・ヴァリス)だとは、信じられない者も中にはいるかもしれない。
 バトルを前にして、『兄を探している健気な女の子』というキャラ設定は鳴りを潜め、本来の性格であるサディスティックな一面がすっかり顔を出してしまっている。ちなみに、リトル・ユンファには実際には兄などいない。
「チーム戦なんて初めてだよ」
 表情は真剣なままだが、どこかワクワクとした様子のジャンシーン(ナーディル)の瞳は、無邪気に輝いていた。
 バトル自体も楽しみだが、相手が使う戦術や武器も小柄なデュープは気になって仕方がない様子だ。
 存外好奇心が強いジャンシーンは、先ほども、控室からフィールドまで向かう途中に敵チームの者とも話をする機会があったので、ついつい話しかけてしまったほどだ。
「打ち合わせどおりにやれば、きっと大丈夫! あたしの薬の範囲に巻き込まれないようにだけは、注意してね!」
 巨大な機械腕を動かして手を振り、カメラにアピールをしつつも、WallnutS(ウォルナ・パイパース)は仲間にそう忠告をする。
 今日のバトルに備え、連携の打ち合わせはある程度ならしてきた。
 同じヴァイオレット・コンピューティングのD3-vitとは特に緻密に話し合ってきたし、翡翠電脳公社に所属している二人とも作戦や敵チームの情報共有を済ませてある。
 四人はこれから始まるバトルに思いを馳せながらも、開始時刻を待つ。

 そんな彼らと対峙しているのは、白と青を纏った者たち。
 シュヴァーン・エレクトロニクスとアルセドに所属しているデュープたちの数も、当然揃いの数がいる。
 堂々と胸を張り、自信ありげな笑みを浮かべるのは王華(上梨 鳳果)だ。
「私の活躍から、目を離さないでくださいませ! 後悔はさせませんわ!」
 カメラに向かってそう言い切り、彼女はパチリとウインクを決めてみせる。そして、足元から目を逸したせいで、うっかりとその場で転びかけた。
 そんなドジっ子な姿も普段の高貴な振る舞いとのギャップがあって良いと、ファンたちはモニターの向こうで歓声をあげる。
「いつも応援ありがとうございます。今日のバトルも、皆さんのご期待に応えられるよう尽力します」
 瑛梨(各務原 瑛梨)は丁寧にお辞儀をし、ファンにそう声をかけている。
 同じチームの仲間たちにも、しっかりと挨拶をすることを忘れない。彼女を表すのに、適した言葉はやはり品行方正だろう。
「……」
 隣にいるNoëL (ノエル=ウィスタリア)は、カメラがこちらに向けられることに気付き、ドローンを一瞥した。リムである両目が、その刹那恐らくファンの視線と交錯し、そしてすぐに逸らされる。
 武芸者はただ、静かに戦いの始まりを待っているようだ。
「……よろしく頼む」
 同じく、どこか機械的なデュープが一人。
 HAUY(アウィン=アイフェル)は眼鏡の位置を調整し直すと、その無機質な、けれども鮮やかなアウイナイトの瞳で自身の武器の調子を確認し直していた。

 やがて、バトルの開始時間が訪れた。
 バトルタイプはストレート。参加デュープは八名。
 制限時間の間に、残ったHPを四対四で競い合うエキシビジョンマッチだ。
「これは真実の法廷である」
 ジャッジの声に、それぞれのチームリーダーの宣誓が続く。
 そして今日もまた、バトルが始まる。
「参加者は肉体と精神の一切を賭け、真実を明らかにせよ。セッション・スタート!」

●
(とは言え、僕は若い子たちと違ってか弱いからなあ)
「遠くから、みんなの応援といきますか!」
 D3-vitは一人、味方から離れ敵チームの居そうな方角とは反対へと進む。
 今回は味方の援護を中心に動くつもりだ。
 相手の攻撃範囲外から応援……という名の狙撃をすることに決めた彼は、近くにきていたドローンに気付くとカメラ目線でアピールをする。
「いっておいで、僕のお花ちゃん達!」
 その言葉を合図に、戦場に花が舞った。D3-vitの周囲を浮遊するのは、花の形をした浮遊兵器。
「これだけの距離があったら、安全そうだけどね~! ……うんうん、分かってるよ~。油断は禁物、だよね!」
 むろん相手の声など聞こえるはずもないのだが、まるでカメラ越しに視聴者と話しているかのように、D3-vitは会話を続ける。
 一応接近戦用に短銃は所持しているものの、やはり近づかれると弱い。位置がバレて集中攻撃されないためにも、彼は常に移動をしながら狙撃の機会を伺うつもりだ。
「狙撃に集中してる時に敵襲があったら怖~い! 気をつけよ。痛いのは嫌だからね~!」
 そう言って大げさに震えてみせるが、戦闘に対する恐怖心などは感じないように調整済みだ。この怖がりようも、言ってしまえばパフォーマンスでしかない。
 実際のD3-vitは、ただ楽しんでいた。このゲームのようなバトルを。
 D3-vitはカメラに自然と目線をやりながらも、花を操る。そのレーザーが敵を貫くチャンスを、彼は遠くから伺うのだった。

 同時刻。一人の狙撃手はビルの屋上から、じっと地上を見下ろしていた。
 機動力を活かし高所を確保したHAUYは、移動する砲台として、一撃必殺を狙っていくつもりだ。
 リムである彼の両の目は、スコープの代わりとなり遠くまで見ることができる。
 鮮やかな青が見つめる先。敵チームのデュープの一人の姿を、HAUYは捉える。
 敵は一人ずつ、減らしていきたい。数を減らせば、その分有利だ。
 眼鏡の奥のアウイナイトが、その黄緑を――否、紅を捉える。
 狙いの先にいるのは、リトル・ユンファだった。

●
「横に跳んで!」
「はぁ!?」
 と聞き返す間すら惜しいのだろうということは、ジャンシーンのいつになく緊迫した声から察することができた。
 だから、リトル・ユンファとWallnutSは言われた通り跳ぶ。
 直後、爆音が響き渡った。先ほどまで彼女が居た場所に、小規模なクレーターができている。
 それは銃撃というよりも、砲撃。高火力の一撃が自分を狙っていたという事実に、「まっじぃ!?」と彼女は声をあげた。
「どんだけやべー火力なの!? ってか、どっから撃ってんだよ!?」
 周囲を見渡しても、敵影らしきものはない。恐らく敵チームのスナイパー、HAUYだろう。
「こっちからも攻めてかなきゃ、やっばいかもじゃん! 一方的にやられるなんて、性に合わないっつの!」
 リトル・ユンファは焦ったようにそう言うと、早々に狙撃手を見つけ得意の接近戦に持ち込むために走り出す。
 もう一発、放たれた高火力の一撃。直撃こそしなかったものの、爆風が近くにいたリトル・ユンファを襲う。
 仮想空間といえど痛みは感じる。……はずだ。でも、今のリトル・ユンファは、その痛みの感覚が薄い。
 先ほど、WallnutSが「サポートグレネード! 強化を受けて!」と言いながら、チームに使ってくれた薬のおかげだ。
 痛覚を和らげる効能のある薬、という話には半信半疑だったが、さすがヴァイオレット・コンピューティングに所属しているデュープ。
 薬液の扱いはお手のものな彼女が使った薬は、たしかにリトル・ユンファが本来感じるはずだった苦痛を軽減してくれていた。
「行かせませんわ!」
 高らかな声が、彼女たちを阻む。キューブでジャンシーンたちが近くにいることを知った、王華とNoëLだった。
 王華のキューブは、その能力によって色を変える。
 今浮いているのは敵の場所を探知するための黄色、そして奇襲を防ぐために白色のキューブだ。
 NoëLはリムである両目で、現在の戦況を読む。
 そして王華に、HAUYのもとに行くように視線で示す。王華は、すぐにNoëLの言わんとしていることを察し、一瞥した後頷いた。
「ええ、おまかせくださいませ!」
「……ああ」
 NoëLはそう言い放つと同時、瞬時にリトル・ユンファに刀を振るう。
 その刀をモーニングスターで受けながらも、彼女は叫んだ。
「二人は先行って!」
「リトル・ユンファ?」
「だいじょうぶなの!?」
 心配そうなジャンシーンたちの声が耳に届くが、リトル・ユンファはそれを振り切り一人敵の方向へと進む。
 先ほどの銃撃で、狙撃手のだいたいの位置は分かった。
 早く行かなくては、逃げられてしまうだろう。
「アタシだって!」
 しかし、両脚がリムであるジャンシーンなら、急げば追いつけるかもしれない。一人で向かうよりは、誰かがついていてくれた方が良い。
 そして、それはリムを持たず接近戦しか出来ないリトル・ユンファよりも――。
「こんな役!! やりくたくないけど!!! もっと派手に活躍したいけどっっ!」
 だから、リトル・ユンファはあえて目立つ行動をとり、敵の注意を引く。
「でも勝てればなんでもいい!! 勝つためならなんでもするっつーの!!! 早く行けよっ!」
 ジャンシーンとWallnutSが弾かれたように走り出す。
 流星のように駆けるジャンシーンを相手が追いかけるつもりなら、自分が全力で足止めしようと決めたリトル・ユンファだったが、NoëLはただ静かに彼女のことを見つめていた。
 鮮やかに駆けていったジャンシーンに、追いつくことは不可能だとNoëLは察していた。
 ゆえに、今は目の前にいるリトル・ユンファと戦うことを選んだのだ。
(陽動役を食い止めておくことは、こちらにとっても利点がある)
 冷静にそう判断したNoëLは、日本刀型の武器を構える。
 シュヴァーン・エレクトロニクスに所属するデュープ、NoëL。二つ名は――SAMURAI。
 リトル・ユンファにリムはない。
 だが、NoëLもまた、義眼以外は純粋な身体能力と剣の腕だけで勝敗を積み重ねてきたデュープだ。
 引退間近のベテランデュープの前で、みんなの妹は強気に笑う。
「強そうなアタシを、先に潰しとこうって魂胆かよ? お見通しだっつの!」
 口喧嘩を仕掛け気を引きながら、リトル・ユンファはトゲ付きのモーニングスターを振り回す。しかし、NoëLが挑発に乗る様子はない。
 振るわれる刀。色のないNoëLの世界に、刃先の輝きが光を添える。
 配信を見ていた視聴者たちは、自然と息を呑んでいた。見る者を魅了する、研ぎ澄まされた一種の美しさに。
 その剣技を間近で受けながら、リトル・ユンファは舌打ちをする。
(ちっ、敵もバカじゃないか。仕方ないな……!)
 目指すはただ、勝利。勝利。勝利だけ。
 それが今のリトル・ユンファを動かす原動力。そのためなら何だってできる。
 だって、リトル・ユンファはデュープであり、みんなの――。
 自らのHPが削られるのも構わずに、彼女はNoëLの懐に潜り込む。
 NoëLの動態視力でなければ、彼女が自ら刃先へと向かってきた様は見えなかっただろう。
 自然と避けようと、NoëLの体は動く。はずだった。
 それが叶わなかったのは、突然異様な気配にその行動を妨害されたからだ。
 D3-vitが操る花型兵器が、SAMURAIの周囲に浮かんでいた。
 放たれたジャミング電波が、NoëLの判断を一瞬だけ鈍らせる。
「これが! 妹の!! 仕事おぉぉぉ!!!」
 揺れる紅花。みんなの妹は、その身ごとNoëLにモーニングスターを叩き込んだ。

●
「行くよ、star2rail(スタートレイル)」
くるりと体を反転させ、スケート靴のように鋭利な両足は地面を蹴りつけた。
 ジャンシーンはまるで跳ぶように駆ける。リムである脚部と、刺青(感覚器官)を活用して、フィールドをひらひらと逃げ回り、敵を翻弄する。
 HAUYの居るであろう位置に向かったジャンシーンたちを待ち受けていたのは、王華だけではなかった。
「私がお相手します。どこからでも、かかってきてください」
 三本の刀を携え、短刀を所持している瑛梨の姿もそこにはあったのだ。電子ブレードを抜く構えをしながら、瑛梨は真っ直ぐな視線でジャンシーンとWallnutSを射抜いた。

 HAUYは自分が孤立せず、孤立させないために味方のデュープとは距離をとりすぎないようにしながら行動をしていた。そして逆に、敵のデュープを孤立させようと考えている。
 一人走るジャンシーンを誘導するためにも、彼は位置を変えて狙い撃つことに決めた。
 反重力ボードで、いっきにビルの下へと移動したHAUY。スナイパーらしからぬ機動力で地面に降り立ったHAUYは、そして、すぐに違和感に気付いた。
 自身の周囲に、糸がある。いつの間にか、ジャンシーンの武器、星に願いを(ウィッシュ アポン ア スター)は立体的な網を作り上げ、HAUYのことを囲んでいた。
 逃げ回りながらも目立たない色に変化させた糸をこっそりと張り巡らし、敵のことを絡め取る罠を作成していたのだろう。
「……罠か」
 糸は狙撃手の体を絡め取り、切断しようとする。それでも、HAUYは眉一つ動かさず、無機質な声音で呟いた。
「HAUY様!」
 青色に変わった王華のキューブに守られたおかげで、HAUYが致命傷を負うことだけは避けられた。
 しかし、弱った獲物をみすみす逃すつもりはない。WallnutSの機械腕が、このチャンスを手にするため、相手の頭を掴む。
「ゼロ距離から毒はきっついわよ!」
 噴射された毒霧が、HAUYの体を途端に蝕む。
 毒といえどバトル後にまで残るような後遺症はもちろんないが、このバトル中はこの毒が抜けきることはないだろう。
 一気に状況が有利になったと、安堵の息を吐こうとした時、WallnutSの近くで打撃音が響いた。
 それが自らが硬いもので殴られた音だということに、数秒彼女は気付けなかった。
 機械腕に囚われ毒を喰らいながらも、HAUYは自らの銃で近くにいたWallnutSをぶん殴ったのだ。同じく、ゼロ距離からの攻撃に、WallnutSは怯みその腕から彼を解放する。
 味方の傷を癒やすために、王華はキューブの色を緑へと変えようとした。
 けれども、それは敵の乱入によって邪魔されてしまう。
 探知用である黄色のキューブが、何かの接近を知らせてきた。
 襲い来る光。花から放たれたビームを、咄嗟に割り込んだ瑛梨が、束ねた刀で強引に切り裂いた。
「あっちゃ~、叩き切られちゃったっぽいねえ」
 遠くから様子を伺っていたD3-vitは、無茶な方法でビームが防がれたことを残念がり、大げさに肩をすくめてみせる。
 だが、D3-vitの花は一つではない。次の花型兵器が回復を妨害するために、すぐさまビームを放った。
「させないよ」
 D3-vitの位置を把握し一気に距離を詰めようとした瑛梨の前に、ジャンシーンが立ちふさがる。
「くっ……私は負けませんわ!」
 四方から襲い来るビームに苦悶の声をあげながらも、王華はそれでも堂々とそう告げる。
 かつて居た、皇河という名を持つデュープ。王華の先代。
 人々の注目の的だったそのデュープは、ただの一度も敗北をせずに引退した大スターだ。
 王華の背には、その重みが常にある。
 デュープとして、彼女は最弱と言える肉体だ。けれども、だからこそ――。
 瞬間、全てのキューブの色が一斉に変化し、橙色に染まる。
 杖術により、王華の肉体は強化される。元の体からは想像がつかない速度で、彼女は動き、最も近くにいたWallnutSとの間にあった距離を詰める。
 盾、回復、支援。今回のバトルにおいて、常に前には出ず味方のサポートに徹してきたことも、王華の作戦のうちだった。
 近接はしてこないと思わせたタイミングで、最大限の肉体強化をし杖術で接近戦を仕掛ける。
 WallnutSが、薬液入りカートリッジをさした機械腕を構えた。王華は、毒霧を躱すために噴射される位置から瞬時に移動する。
「目を伏せて!」
 しかし、彼女の機械腕から噴射されたのは霧ではない。
 それは毒でも可燃液でもなく、煙幕玉だったのだ。周囲を、煙が包み込み、王華のチームの視界を奪う。
 王華が接近戦を仕掛けてくることを、WallnutSは読んでいた。
 人気が高く、期待を向けられている王華。だからこそ、敵チームの情報を出来る限り調べていたWallnutSは、彼女の武器の特性を知ることができた。
 どこから攻撃がくるのか分からぬ煙に包まれながらも、王華は気高く微笑む。
「私の力では、まだ及ばないようですわね」
 しかし、それとて王華の計算の内。
 彼女について敵チームが調べ尽くしてきたように、王華とて過去の自分の戦いを何度も見返してきた。
 それもまた、敗北を知らぬ先代に追いつくための、努力のうちのひとつだ。
 煙が、不意に切り裂かれる。
 奇襲を仕掛けようとしていたWallnutSの前に立っていたのは、王華――ではない。
 ここが戦場であることを忘れそうになるほど、場違いに穏やかに、そして美しく微笑む少女。
「貴方なら倒せるでしょう?」
 王華の言葉に、瑛梨は満足げな笑みの花を添える。
「ええ、お任せください。ありがとうございます、王華さん」
 ちらりと、誰にもバレぬようにカメラの位置を確認し、瑛梨はフィールドを舞う。美しく戦う自分の姿を、ただ、ファンに見せたくて、魅せたくて。
「もっと、私を楽しませてください」
 配信には拾われない声量で、そっと瑛梨は呟く。未だ僅かに残る黒煙が一瞬だけ、彼女の顔を隠した。
 だから、瑛梨がその時、まるで獲物を追い詰めて楽しむ狩人のように、ひどく楽しげに笑ったことを知っているのは対峙しているWallnutSだけだ。ファンの前では決して見せない、瑛梨の一面だった。
 薬液を入れ直す時間はない。瑛梨が刀を振るほうが、ずっと速いだろう。
 しかし、彼女は突然ぴたりと刀を止め、鞘にしまった。
「……残念です。終わりの時間のようですね」
 直後、フィールドにはバトル終了を告げる音が鳴り響いた。

 モニターに、両チームの残りHPが表示されていく。
 差はごく僅かしかなく、最後の一人のHPが表示されるまで、どちらが勝利したのかは分からなかった。
 デュープたちの、そして視聴者たちの前で、勝利したチームとデュープの名前が表示される。
 その名は――。

●
「久々に勝てた~! ありがとう! みんなのおかげだよ!」
 フィールドを後にし控室へと戻る途中、D3-vitはチームの面々に嬉しそうに話しかけハイタッチを迫る。
 しかし、ちょうど他の者と話し込んでいたためスルーされてしまい、分かりやすく彼はこけた。
「……自分がしようか?」
 敵チームだというのに見かねたNoëLが、小さく手をあげてくれた。戦場でのクールさはどこへやら。勝負を終えてリラックスした状態のNoëLはどうやら、素の部分が出てきてしまっているらしい。
 こういった無邪気で天然な部分も、ファンにはギャップがあってこれはこれで素敵だと受け入れられている。
「やった~! 勝利おめでと~★」
 D3-vitは嬉しそうにその手のひらをタッチする。
 バトル後のデュープたちの様子も後日ファン向けの特典として公開予定なため、撮影を続けていたドローンはしっかりとそんなNoëLの姿もデータにおさめていた。

 そして、デュープたちは戻っていく。穏やかな、非日常の中に。
 彼らにとっては、バトルこそが日常だ。
 その日常の中で新たにできた絆には、チームという垣根はない。
 バトルを終えた興奮も冷めやらぬまま、彼らは控室までの道を敵味方関係なく話しながら歩いていくのだった。

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アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0