大激闘! 5社対抗バトルスクランブル!
電脳戦潜アプリェーリ イベントノベル(テーマ)翡翠電脳公社制作 蓮華・水無月納品 2023年05月25日 14時38分56秒
「さぁ、今日もやって来ましたデュープバトル! 全社入り乱れてのポゼッションだー!!」
広大なフィールドに実況アナウンサーの声と、呼応する歓声が響き渡った。
「参戦するのは各社から2人ずつ! まずはシュヴァーン・エレクトロニクスから、チーム参加は珍しいUrth:RAgnaと、その相棒に選ばれたラッキーボーイ・Mithra!」
恐らく配信画面と場内モニターは各社デュープの画面に切り替わっているのだろう、そう察してUrth:RAgnaは1度顔を上げた。それから傍らできょろきょろしているラッキーボーイへと視線を戻し、おい、と声を掛ける。
「ポゼッションのルールはわかっているな?」
「はい女神様っ、映像記録でちゃんと予習してきました!」
それに返って来たMithraの返事はいまいち不安だが、予習してあるだけマシだろう。そう息を吐くシュヴァーンペアから、カメラは既にアルセドペアへと移っている。
「おっと、愛らしい2匹の猫が参戦だー! 着ているのは『La Fuga del Gatto)』の猫系バトルスーツ、白猫・bian6と黒猫・nero9!」
アナウンサーの声に合わせて、bian6とnero9は視線を交わして頷き合い、一対のように手の平の肉球をカメラへと向けながら微笑んで寄り添い、ポージング。Fugaの専属モデルでもある2人の立ち姿はさすが、様になっている。
そんなアルセドペアへの歓声が冷めやらぬうちに、次にカメラが映し出したのは紫の企業カラーに彩られた2人。
「続いてはヴァイオレット・コンピューティング、何とペア結成したてのニューカマー! 『✽anthologia✽』rhymetellerとARtxxxdJINN!」
「よろしくー!!」
その言葉にrhymetellerがARtxxxdJINNの手を掴み、ぴょんぴょん飛び跳ねながら観客にアピールをする。必然的にがくがくと揺れるARtxxxdJINNの方はと言えば、観客へ向けた笑顔が少しだけ疲れていた。
というのも実は、rhymetellerとはなぜかシェアハウスも一緒、どころか部屋も一緒という間柄。なぜか。他に余ってる部屋がたくさんあるのに、なぜか。
ゆえに色んな意味で疲れた雰囲気のARtxxxdJINNを、補って余りあるほど元気で強気なrhymetellerの笑顔は画面からパッと消え、現れたのはロビンペア。
「お次はガタイの良いデュープペア、ロビン・テクノロジーズからはナガルとHEZが参戦だ! さぁ、今日はどんなバトルを魅せてくれるのか!?」
期待を煽るアナウンスに、ナガルがシザーネイルをしゃきんと光らせ不敵に笑って見せた。ファンサービスに熱心な事だ、と相棒にそんな感想を抱きながら、HEZの方はひょいと頭を下げるにとどまる。
ここまで来ればあとは一社を残すのみだと、モニター画面を見つめる観客の期待を裏切らず、最後に映し出されたのは翡翠の姉妹コンビ。
「最後は翡翠電脳公社、かつて最強とも呼ばれたというコンビの再来だ! 『双翠』7R、そして鵙-玖!」
「やほー! 翡翠電脳公社所属の7Rだよー。『双翠』のナルって覚えてね~」
「七型リンの姉の鵙なのだわ」
「あっ、わざわざ言わないでよね、もず姉。それあんまり可愛くないし」
余計な一言を添えた鵙の自己紹介に、7Rが唇を尖らせて抗議する。ふふ、と笑いながらそれを受け流す鵙-玖と、もぉぉ、と怒る7Rの反応までもが演出だと、考えた観客がクスクスと笑い声を上げ。
以上10名が今日のデュープバトルの参加者だと、改めて5分割された画面に各ペアの様子が映し出された。たっぷり数分ほどその様子が流れた後、一際高いベルが鳴り、ジャッジの宣誓が始まる。
「これは真実の法廷である」
音響を通じて場内一杯に響き渡る、宣誓に応じるのは厳選なるくじ引きで選出されたデュープ2人。
「法廷においては、戦いで勝ち取ったものこそが真実」
「それが真実以外の何物でもないことを、我々は全ての証人の前に宣言する」
それを聞く他のデュープも、あたかも共に宣誓しているかのように真剣な、あるいは挑戦的な――はたまた楽しみで仕方のないような表情だった。もしかしたら胸の内では、各々が宣誓を掲げているのかも知れない。
ジャッジの最後の宣誓が、一際大きく響き渡ってバトルの開始を告げる。
「参加者は肉体と精神の一切を賭け、真実を明らかにせよ。セッション・スタート!」
●
ポゼッション戦。それはフィールドグリッドに一定間隔ごとに設置されたコアを攻撃し、自陣の色に染めてその数を競う陣取りゲームである。
例え敵陣営の色に染まったコアでも、取得時より大きなダメージをコアに与えられれば奪うことも可能だ。つまり逆説的に言えば、
(最初から最大限の力で奪れば良い……!)
そう考えてbian6は、ガインッ! と最大出力の蹴りを手近なコアに叩き込む。瞬間、コアがアルセドの青へと染まり、同時に放たれた衝撃波が海岸へと描き換わって行くバトルフィールドの海面を揺らした。
どこまでも続くような遠浅の海の中、ところどころ浮島のように浮かぶ砂浜や岩礁。その1つに降り立って、bian6は小さく唇を尖らせる。
「猫は水は苦手なのよ」
「仕方ない。そういうルールだからな」
そんなbian6の愚痴に、nero9は苦甘い笑みを浮かべた。今日のバトルでは、各社の陣営ごとにバトルフィールドの景色が変わるルールになっている。
シュヴァーンは雪原、アルセドは海岸、ヴァイオレットは草原、ロビンは砂岩、翡翠はジャングル――さすがにそれは苦しいのでは、と思うフィールドもあるがそこはそれ。そういうものだと理解はしているbian6も、本気で愚痴を言ったわけではない。
なので、
「そうね、仕方ないわ。――さぁ、暴れちゃいましょう、ネロ」
「あぁ、いつも通りに。ビアンセ」
頷き合って恋人達は、一対となって海岸エリアを駆け抜け次のエリアへ。そこできっぱりと切り替わった、風景は紫がかった青い草の生い茂る草原だ。
青紫の草を蹴立ててコアまで駆ける、恋人達を迎撃するのは勿論『✽anthologia✽』の2人、ではない。来たわね、とキラキラした笑顔で多機能型ハルバード『Mère l’Oye』を構えるのは、rhymetellerただ1人。
もう1人はどこに、とnero9が恋人の分を警戒の視線を走らせるのを、rhymetellerは許さない。
「よそ見してる暇があるのかしら!? 落ちろー!!」
「ッ!」
掛け声とともに勢い良く地へと打ち付けたハルバードから、アルセドペアに向かって衝撃波が奔る。勿論わざわざ受けるはずもなく、バッと左右に分かれて飛んだ2人のうち、rhymetellerが狙いをつけたのは白猫の方。
攻撃担当がbian6である事は、先ほどの様子を見ればすぐわかる。ならばそちらを先に潰すのが、戦略的にも吉だろう。
そう判断してハルバードをbian6へと向ける、rhymetellerの射線にnero9が強引に身体をねじ込ませる。
「ネロ!」
「行けっ、ビアンセ!」
bian6への攻撃はすべて自分が止める、その気概で叫ぶnero9に一瞬迷う眼差しを向けてから、bian6はコアへ向かって駆け出した。アッ、とその背中に視線を向けた、rhymetellerにnero9先ほど言われたことをそっくりそのままお返しする。
「よそ見してる暇があるのか? 相棒はどこだ」
「そんなの、決まってるでしょ?」
それに、rhymetellerは笑いながらハルバードを構える。これが今日の自分の役目。
他社の妨害役であり囮でもある、rhymetellerとは離れた場所でその頃ARtxxxdJINNはといえば、さらに隣のエリアに在る翡翠のコアの周りに、トランプボムを仕掛けた所。元より人目を忍ぶのが得意なARtxxxdJINNだ、遮蔽物の多いジャングルはならばなおさら。
ゆえにあっさり目的を達成したARtxxxdJINNは、こっそりサポートにつけていたバイオニックバードの63を通じ、rhymetellerへ語りかけた。
「仕掛け終わった、移動開始だ」
「えっ、ARtxxxdJINN?」
「10秒以内に爆破するからギリギリまでコアまで敵も引き付けて、一緒にドカンしてやろうぜ」
だが63の事を知らないrhymetellerは、驚いて辺りをキョロキョロ見回す。その隙にと鋭く蹴り込んできたnero9を間一髪で避け、わかった、とよく解らないが頷いた。
そうしてARtxxxdJINNの向かったコアへと駆け出した、rhymetellerを追う前にnero9はbian6の現在地を確認する。方向的には同じ――ならばbian6と合流を目指しつつ叩くのが上策か。
ゆえに追うように走り出したnero9を背に、rhymetellerはARtxxxdJINNとの合流を目指す。――彼女が妨害担当なら彼がコア担当、それが試合前に決めた役割分担。
何しろ結成したばかりなので、互いの事をデータでは識っていても、実際にはよく知らない。だからまずは戦ってみようと、「コアを叩くのはアラジンがいいんじゃないかしら?」と提案したrhymetellerに、提案されたARtxxxdJINNは驚きながらも「いっちょやってみるか!」と頷いて。
それゆえの別行動。あっという間にコアまでの距離を走り抜け、時間ぴったり、と頷いたARtxxxdJINNと共に、そのままジャングルを離脱する。
――ドォォォンッ!!
爆発音が響き渡り、辺りの植栽と土塊が根こそぎ吹っ飛んだ。それらが収まった後には、青紫の草原が広がっている。
ニッ、と笑い合ってハイタッチ。そんな2人をモニター越しに見ていた、翡翠姉妹が「もず姉、アレ……」「……だね」と意味深な視線を交わし、Mithraが遊びに混ざろうとする子供のような顔で、目を輝かせて自陣を飛び出そうとする。
そんなMithraの首根っこをUrth:RAgnaが、慣れた様子でガシッと掴んだ。
「闇雲に攻撃するんじゃない、全部の色を塗り替える必要はない。必要な分だけ占有していればいいルールだ」
「うんと……なんとなく分かりました! 全力で真っ白にすればいいんですね、頑張ります!」
「お前は何を聞いていたんだ?」
そんな事は誰も言っていない、と眉間を押さえるUrth:RAgnaに、早く行きましょうよ女神様、と散歩を催促するかのようなおねだりをするMithraである。そんな4社4様を自陣の岩山から見ていたナガルが、旦那、とHEZに声をかけた。
「どこから行く?」
「翡翠から潰そう。シュヴァーンはまだ早い。他は後回しでも良いだろう」
戦術構築を始めとした情報処理能力特化型のHEZは、今の状況をそう分析する。シュヴァーンの要たるUrth:RAgnaはまだ陣地から大きく動いていない、叩くなら2人を完全に分断してから――他の2社は片やパワー不足、片や結成したてで脅威とはなり難い。
その言葉に、ナガルは頷き翡翠姉妹へと走り出した。岩山を駆け下り、軽やかに崖を越え。翡翠姉妹がどこに居るのかは、感知できなくともフィールドを見渡せばすぐ分かる。
ゆえに駆け下りた先の海岸で、行きがけの駄賃にコアを塗り替えながら走るナガルと同じか、それ以上の速度でうっきうきで雪原を走り、Mithraは勘の赴くままに面白そうな方へ。都度、「ジャングルです!」「雪原にしました、女神様!」「あっ、海!」と現在地を報告していたら、なぜか「お前の位置はこちらで把握する」と怒られた。
解せぬ、と首を傾げながら、Mithraは予感のする方へと走り、見つけたコアへと担いできた固定砲台をぶっ放す。ドォォォンッ! と砲撃の音が鳴り響き、海岸から雪原へと塗り替わったのをモニター越しに見て、rhymetellerがARtxxxdJINNをがっくんがっくんしながら「ねえ、ああいう武器はないの!? あれ絶対撮れ高があるよ!」と強請り、塗り替えられたbian6が唇を噛み。
おいおいおい、とナガルは一旦足を止めてHEZを振り返る。
「HEZの旦那、ありゃぁ……」
「普通は担いで走るものではないが、ふむ」
Urth:RAgnaの心理戦か、と分析するロビンペアの話を聞いていたら、当人はきっと頭を抱えた事だろう。未だ適正装備が分からないMithraに、暫定でシュヴァーンがあてがった大型の固定砲台を、まさか担いで走って行くなんてこちらも想定外なのだ。
とまれ、彼我の位置を図ればやはり翡翠姉妹を先に叩くのが良かろうと、駆ける先ではその翡翠姉妹、7Rと鵙-玖がヴァイオレットペアを探しつつ、草原をジャングルへと塗り替えた所。瞬時に密林の視界不良に巻き込まれ、周囲を警戒するナガルとHEZ、どちらを狙うかと言えば
「まずはナガルかな?」
「油断は禁物です、シチリン。――かかった方を優先しましょう」
小声でそう話しながら、ジャングルゆえの視界の不利を利用し罠を仕掛けて回る7Rの、動きをフォローするように鵙-玖は手の中に暗器を呼び出し、離れた所から投擲した。それはダメージを狙うというよりは、こちらに居ますよと知らせるためのもの――そうしながら加速してどんどんと位置を変え、どこから襲ってくるか判らない状況を作り出す。
そこに仕掛けを終えた7Rが加わって、鵙-玖と同じ攻撃をさらに違う方から開始した。否――本来、手数で押す戦闘スタイルは7Rのものだ。
これこそが翡翠姉妹の得意技。姉妹たるがゆえの練度の高さもあって、互いの攻撃をコピーすることが出来るのだ。
「バディ期間が長い連中は最適化も進んでいて手強い……だからこそやりがいもある」
「ああ。正面突破と行こう。頼りにしているよ、ナガル」
僕1人じゃあどうにもならないと、嘯きながらHEZがちゃきりと構えたグレネードを、敵の攻撃から予測した現在地に向けて打ち込んだ。これは足止めだ、当たらずとも良い。
案の定、暗器の飛来が一瞬止まる。ふむ、と次の地点に射線を据えながら、HEZはやはり木々が邪魔だと軽く眉を上げた。
「火炎放射器も持ってくるべきだったか」
「旦那、それ俺らも巻き込まれるじゃねぇか……っと」
それなら視界も良好だったろうと、呟くHEZにナガルが苦笑いしつつ走り出す。ナガルの攻撃スタイルは敵の背後に回り込んでの首筋狙い、遮蔽物があった方がありがたいのはこちらも同じ。
ゆえに軽々と地を蹴って木の枝に飛び乗り、飛び移る。繰り返されるHEZの攻撃と、飛んでくる暗器の軌跡を頼りに、次から次へ。
そんな火力担当のナガルにダメージが行かぬよう警戒しつつ、HEZは援護とけん制の射撃を続ける。ふむ、と鵙-玖が7Rを振り返った。
「撹乱しましょう」
「りょーかい! もず姉を狙った分は高くつくからね!」
その言葉に7Rが大きく尻尾を振り、辺りに煙幕をまき散らした。ジャングルゆえの植生の濃さが、簡易の壁のように働き煙を濃密に漂わせる。
その中で、肉薄するならHEZだと姉妹は直接攻撃に切り替えた。だが、
「俺とも遊んでくれよ」
「わっ!?」
その時にはすでに接近していたナガルが、目論見通り7Rの背後から襲い掛かる。そうしてリムが狙ったのは、7Rの首――ではなく髪紐。
解けたツインテールの片方をばさりと翻し、睨みながら大きく飛んで距離を取った、7Rにそうしてナガルは笑う。
「髪を結んでりゃ視界は遮られにくいし動きやすいだろう。だが解けりゃ戦いは派手になる」
「うわっ、ヘンタイ!?」
「いやいや、演出ってやつさ。デュープバトルはエンターテイメントだ。接戦で、派手であればあるほど観客は楽しい」
そうして披露した持論は、rhymetellerやARtxxxdJINNが相手であれば大いに共感を得られただろうが、翡翠姉妹の共感はいまいち不明。されどもこちらにしようとナガルに狙いを定め直し、鵙-玖が足のアイテムボックスから取り出したナニカを投擲すると、同時に7Rがナガルに発信機を打ち込む。
パウッ! グレネードの銃声が煙幕を切り裂くように響き、一筋の軌跡が伸びた。ナガルが居なければ困るというのは嘘でも誇張でもない。
それゆえの援護射撃に、7Rが不敵な笑みで素早く退く。刹那、鵙-玖の投げたモノがカッ! と強烈な閃光を放ち。
ドォォォンッ! 木々を薙ぎ払うような大爆発が、辺りに響いた。間一髪で爆発圏外まで脱出し、されどもノーダメージとはいかず煤けた顔を見合わせて、ロビンペアは難しい顔をする。
「どう見る旦那」
「囮……であろうな」
爆心地に残されていたのは、翡翠姉妹の死体だ。もちろんデュープバトルでは基本的に死ぬことはない、あくまでもそういうダメージを受けたという処理で活動不能になるだけ。
だから、という訳ではない。爆発前に見せた7Rの笑顔、冷静だった鵙-玖、解けていないツインテール。これらのデータから、そう結論付けるのが自然というだけ。
――だが。
「捜すかい?」
「時間の無駄だ。先にシュヴァーンを潰そう。位置は――」
ちら、と場内モニターを見上げてシュヴァーンペアの様子を確認すれば、アルセドペアから自陣を防衛するUrth:RAgnaと、ヴァイオレットペアと遊んでいるMithraが映っている。その背景からおおよその位置を予測して、コアを塗り替えてから走り出したロビンペアの行く先に居る、MithraへとUrth:RAgnaは指示を出す。
「遊び過ぎだ。さっさとコアを塗り替えろ!」
「はいっ、女神様!」
それにMithraは通信越しにいいお返事をしつつ、コアの前に立ちふさがるARtxxxdJINNと、さらにその前でハルバードを構えるrhymetellerからは目を逸らさない。ズンッ、と担いだ固定砲台を下ろし、早くお使いを終わらせよう、と狙いを定める。
だが吹っ飛ばすならARtxxxdJINNにだって、トランプボムという武器がある。スッと引き出したカードはハートのA、とっておきだと投げつけるタイミングを計るARtxxxdJINNのため、rhymetellerはハルバードを振り上げた。
「落とせー!」
「あっ、さっき見たやつ!」
真っ直ぐにMithraへと向かう衝撃波を、当の本人は砲台ごとヒラリと避けつつきゃっきゃする。あれズルくない!? とヴァイオレットペアの胸中に同じ思いが去来して。
その様子を認識はするが確認はしないまま、Urth:RAgnaもまたアルセドペアへと向けた視線は揺るがさない。ルール上、必要な数だけコアを有していれば積極的に攻撃に出る必要はないが、コアを奪おうとするなら容赦は不要。
ゆえにレイピアを構え、Urth:RAgnaは確認する。
「来るならさっさとしろ、見ての通り忙しいんだ。まとめてでも構わないぞ」
「――行くわ」
どのみちこのままでは終われないのだと、踏み出したbian6のサポートをすべく、nero9もまたその半歩後ろに続いた。――ごめんね、と心の中でbian6は詫びる。
形だけ見れば2対1のアルセド有利、だが実際の所は互角どころかこちらが不利だろう。bian6は素のパワーが低い、それは序盤に全力で奪ったコアが、どんどん塗り替えられている現状を見ても明らかだ。
Urth:RAgnaもそれに気付いているからこそ、まとめてでも構わない、と言ったのである。だから恐らくこのままでは勝てない。
だが、
(本当はやりたくない……けど)
不利になったらやれと、企業に言われている事がbian6にはあった。なりふり構わず勝ちを取りに行く、それはデュープバトルとしてきっと正しい。
だからぎゅっと1度だけ強く目を瞑り、bian6は走り出す。出来るじゃないか、Urth:RAgnaが凶暴な瞳に褒めるような色を湛え、レイピアを引く。
「ハッ!」
「良い蹴りだ!」
瞬間的に加速しbian6が放った最大速度の蹴りを、Urth:RAgnaのレイピアがいなす。それが悔しいと唇を噛み、だが狙い通りだと蹴りの反動を跳躍に変えた。
「ビアンセ!」と駆けて来たnero9が、さらに高く跳躍出来るよう態勢を整えた。それにずきりと走る胸の痛みを堪え、bian6がその背を踏み台にすればタイミングを合わせたnero9が大きく身体を跳ね上げ、跳躍力を底上げする。
だがそれは同時に、Urth:RAgnaの格好の的にもなるという事。レイピアを振り戻した彼女は同じく跳躍し、bian6へとその刃を向け撃ち放つ。
射撃機能を備えたレイピアの、刃が真っ直ぐbian6へと飛んだ。その刃に肩を切り裂かれ、bian6の身体がそのまま落下する。
「ビア……ンセ……?」
その光景に愕然と目を見開いた、nero9が何かに取り憑かれたようにbian6の元へ、全速力で走った。Urth:RAgnaの事も忘れ、ただひたすらに――愛する人の姿を探し求めて。
嗚呼、けれどもどこにも居ない。なだらかな雪原の中、見落とすはずもないのにbian6の姿はない。なぜ、なぜ、なぜ……
「あ……あ………」
nero9の全身が戦慄き、見開いた目から滂沱の涙が零れ始めた。黒一色に染まった眼球が、虚ろな穴のように雪原をただ映す。
そうして――奔った。
「あぁぁぁぁ……!!」
「!?」
bian6を落とした者の元へ、なりふり構わず。泣きながら飛び掛かって来る男の蹴りを、Urth:RAgnaが軽く眉を上げいなそうとして、予想外の重さに目を見張った。
面白いじゃないか。ふ、と口の端に笑みを引っ掻け、Urth:RAgnaはレイピアを握り直す。この戦いに勝つのは自分だと、血を湧き立たせ踊りかかる。
ギィン! 鋭く突いたレイピアの刃先が、nero9の展開した盾によって弾かれた。その程度かと嗤うUrth:RAgnaにnero9は、応える正気を失ったまま鋭い蹴りを足元に見舞う。
それはただの本能で、だからこそ一切の手加減などない力と力のぶつかり合い。観客が沸き立つ声が響く中、幾度となく火花を散らす2人の元に、女神様! とどこまでも能天気にMithraが駆けて来て。
「女神様、女神様!」
「うるさい取り込み中だ!」
「あの、でもなんか翡翠が盛り返してきそうな……」
気を抜けば蹴り抜かれるギリギリの戦いに、水を差してくる相棒(仮)にイライラと怒鳴り返したUrth:RAgnaは、だが言われた内容を瞬時に把握し、チッ、と盛大に舌打ちした。翡翠姉妹の戦闘不能がフェイクの可能性は彼女も予測していたが、この忙しい時に!
Mithraの言葉と前後するように、雪原にばらばらと暗器とトランプカードがまき散らされる。あれ? と言いながら素早くそれらを打ち返す、Mithraに追ってきたARtxxxdJINNが嫌な顔をして「何なんだもう」と天を仰ぎ、復活を感知されてしまった鵙-玖と7Rが苦笑い。
rhymetellerが、やろう! と笑いながらハルバードを振り回す。ここで虹を魅せればきっと綺麗だし取れ高凄そうだわ。
ゆえに「架かれー!」と叫ぶお姫様に、もう1度天を仰いでからARtxxxdJINNは新たなカードを引っ張り出す。ジョーカー。お誂え向きだ。
「派手にやるか!」
「まかせて! 落ちろー!」
「えぇい、まとめてかかって来い! Mithra!」
「黄昏の女神の仰せのままに!」
「こっちも忘れないでよね!」
トランプカードと帯びたたしい暗器が舞う中で、飛んでくる衝撃波を飛んで避けながら叫ぶUrth:RAgnaに、うっきうきで返事したMithraが長距離砲を適当にぶっ放す。双方の軌跡に在ってだが、バーサーク状態のnero9は盾を展開し、吸収しきれないダメージをその身に受けてなお吠え、手近な敵へと飛び掛かった。
その光景に、雪の中に身を隠して見ていたbian6が顔を歪める。――bian6が居なくなれば彼は暴走する、それが上の狙いで指示だった。
そうなったnero9は強い、bian6よりも。全てを薙ぎ払うまで止まらず、そしてその実力もきっとある。
嗚呼、けれども、
「やっぱり嫌……! ごめんね、ネロ……!」
「ビア……ンセ……?」
ついに堪りかねて飛び出しnero9を抱き締めた、bian6の姿を映した虚無の瞳が大きく見開く。「俺のビアンセ……」と呟く彼から急速に凶器が失われるのを間近で見ながら、そうよ、と微笑み口付けた。
それは、呪いを解くお姫様の口づけの如く。その温もりと柔らかさに、nero9から最後の狂気が剥がれる。
「一緒に戦いましょ」
「それがいい」
そうして2人見つめ合い、手を絡めて肉球を合わせた2人の間から、一際強く輝くホログラムが生まれた。展開するのは無数の刃――2人が大きく手を動かせば、それに従いあらゆる方向へと弾け飛ぶ。
派手で攻撃力も高いが、コントロール不能ゆえの奥の手。それに向けて、だが鵙-玖は冷静に戦況を分析し、アイテムボックスから爆弾を取り出し、投げつけた。
空中で鵙-玖とARtxxxdJINNの爆弾が破裂して、ただでさえ無秩序な刃が千々に乱れ飛ぶ。それを交わすのに誰もが必死になる中で、ギリギリの軌跡を見極めUrth:RAgnaが刃の嵐を掻い潜って走り出し。
それを少し離れた岩山から、愉悦を以てロビンペアが眺めている。
「何とも面白いじゃないか。旦那、お嬢ちゃんの髪、もう1つも解きに行くかい?」
「待て。ここで潰し合いが収まるのを待つのが上策だ」
漁夫の利を狙えるチャンスを逃す手はないと、告げるHEZに素直に従いつつ、ナガルは長爪をわきわきとさせた。さて、あの戦況にどう飛び込めば最高に面白い演出になるだろう――そう考えつつ、時折飛んでくる流れ弾を叩き落とすナガルの横で、HEZがグレネードを打ち込む最適なタイミングを計り始める。
●
時間切れまで大いに混戦した5社対抗ポゼッション戦は、最終的に保持コア数でロビンとシュヴァーンが1位となり。だが大いに盛り上がったバトルゆえに、観客の中では『本当の優勝デュープは誰なのか』という話題でしばらく盛り上がったという。
広大なフィールドに実況アナウンサーの声と、呼応する歓声が響き渡った。
「参戦するのは各社から2人ずつ! まずはシュヴァーン・エレクトロニクスから、チーム参加は珍しいUrth:RAgnaと、その相棒に選ばれたラッキーボーイ・Mithra!」
恐らく配信画面と場内モニターは各社デュープの画面に切り替わっているのだろう、そう察してUrth:RAgnaは1度顔を上げた。それから傍らできょろきょろしているラッキーボーイへと視線を戻し、おい、と声を掛ける。
「ポゼッションのルールはわかっているな?」
「はい女神様っ、映像記録でちゃんと予習してきました!」
それに返って来たMithraの返事はいまいち不安だが、予習してあるだけマシだろう。そう息を吐くシュヴァーンペアから、カメラは既にアルセドペアへと移っている。
「おっと、愛らしい2匹の猫が参戦だー! 着ているのは『La Fuga del Gatto)』の猫系バトルスーツ、白猫・bian6と黒猫・nero9!」
アナウンサーの声に合わせて、bian6とnero9は視線を交わして頷き合い、一対のように手の平の肉球をカメラへと向けながら微笑んで寄り添い、ポージング。Fugaの専属モデルでもある2人の立ち姿はさすが、様になっている。
そんなアルセドペアへの歓声が冷めやらぬうちに、次にカメラが映し出したのは紫の企業カラーに彩られた2人。
「続いてはヴァイオレット・コンピューティング、何とペア結成したてのニューカマー! 『✽anthologia✽』rhymetellerとARtxxxdJINN!」
「よろしくー!!」
その言葉にrhymetellerがARtxxxdJINNの手を掴み、ぴょんぴょん飛び跳ねながら観客にアピールをする。必然的にがくがくと揺れるARtxxxdJINNの方はと言えば、観客へ向けた笑顔が少しだけ疲れていた。
というのも実は、rhymetellerとはなぜかシェアハウスも一緒、どころか部屋も一緒という間柄。なぜか。他に余ってる部屋がたくさんあるのに、なぜか。
ゆえに色んな意味で疲れた雰囲気のARtxxxdJINNを、補って余りあるほど元気で強気なrhymetellerの笑顔は画面からパッと消え、現れたのはロビンペア。
「お次はガタイの良いデュープペア、ロビン・テクノロジーズからはナガルとHEZが参戦だ! さぁ、今日はどんなバトルを魅せてくれるのか!?」
期待を煽るアナウンスに、ナガルがシザーネイルをしゃきんと光らせ不敵に笑って見せた。ファンサービスに熱心な事だ、と相棒にそんな感想を抱きながら、HEZの方はひょいと頭を下げるにとどまる。
ここまで来ればあとは一社を残すのみだと、モニター画面を見つめる観客の期待を裏切らず、最後に映し出されたのは翡翠の姉妹コンビ。
「最後は翡翠電脳公社、かつて最強とも呼ばれたというコンビの再来だ! 『双翠』7R、そして鵙-玖!」
「やほー! 翡翠電脳公社所属の7Rだよー。『双翠』のナルって覚えてね~」
「七型リンの姉の鵙なのだわ」
「あっ、わざわざ言わないでよね、もず姉。それあんまり可愛くないし」
余計な一言を添えた鵙の自己紹介に、7Rが唇を尖らせて抗議する。ふふ、と笑いながらそれを受け流す鵙-玖と、もぉぉ、と怒る7Rの反応までもが演出だと、考えた観客がクスクスと笑い声を上げ。
以上10名が今日のデュープバトルの参加者だと、改めて5分割された画面に各ペアの様子が映し出された。たっぷり数分ほどその様子が流れた後、一際高いベルが鳴り、ジャッジの宣誓が始まる。
「これは真実の法廷である」
音響を通じて場内一杯に響き渡る、宣誓に応じるのは厳選なるくじ引きで選出されたデュープ2人。
「法廷においては、戦いで勝ち取ったものこそが真実」
「それが真実以外の何物でもないことを、我々は全ての証人の前に宣言する」
それを聞く他のデュープも、あたかも共に宣誓しているかのように真剣な、あるいは挑戦的な――はたまた楽しみで仕方のないような表情だった。もしかしたら胸の内では、各々が宣誓を掲げているのかも知れない。
ジャッジの最後の宣誓が、一際大きく響き渡ってバトルの開始を告げる。
「参加者は肉体と精神の一切を賭け、真実を明らかにせよ。セッション・スタート!」
●
ポゼッション戦。それはフィールドグリッドに一定間隔ごとに設置されたコアを攻撃し、自陣の色に染めてその数を競う陣取りゲームである。
例え敵陣営の色に染まったコアでも、取得時より大きなダメージをコアに与えられれば奪うことも可能だ。つまり逆説的に言えば、
(最初から最大限の力で奪れば良い……!)
そう考えてbian6は、ガインッ! と最大出力の蹴りを手近なコアに叩き込む。瞬間、コアがアルセドの青へと染まり、同時に放たれた衝撃波が海岸へと描き換わって行くバトルフィールドの海面を揺らした。
どこまでも続くような遠浅の海の中、ところどころ浮島のように浮かぶ砂浜や岩礁。その1つに降り立って、bian6は小さく唇を尖らせる。
「猫は水は苦手なのよ」
「仕方ない。そういうルールだからな」
そんなbian6の愚痴に、nero9は苦甘い笑みを浮かべた。今日のバトルでは、各社の陣営ごとにバトルフィールドの景色が変わるルールになっている。
シュヴァーンは雪原、アルセドは海岸、ヴァイオレットは草原、ロビンは砂岩、翡翠はジャングル――さすがにそれは苦しいのでは、と思うフィールドもあるがそこはそれ。そういうものだと理解はしているbian6も、本気で愚痴を言ったわけではない。
なので、
「そうね、仕方ないわ。――さぁ、暴れちゃいましょう、ネロ」
「あぁ、いつも通りに。ビアンセ」
頷き合って恋人達は、一対となって海岸エリアを駆け抜け次のエリアへ。そこできっぱりと切り替わった、風景は紫がかった青い草の生い茂る草原だ。
青紫の草を蹴立ててコアまで駆ける、恋人達を迎撃するのは勿論『✽anthologia✽』の2人、ではない。来たわね、とキラキラした笑顔で多機能型ハルバード『Mère l’Oye』を構えるのは、rhymetellerただ1人。
もう1人はどこに、とnero9が恋人の分を警戒の視線を走らせるのを、rhymetellerは許さない。
「よそ見してる暇があるのかしら!? 落ちろー!!」
「ッ!」
掛け声とともに勢い良く地へと打ち付けたハルバードから、アルセドペアに向かって衝撃波が奔る。勿論わざわざ受けるはずもなく、バッと左右に分かれて飛んだ2人のうち、rhymetellerが狙いをつけたのは白猫の方。
攻撃担当がbian6である事は、先ほどの様子を見ればすぐわかる。ならばそちらを先に潰すのが、戦略的にも吉だろう。
そう判断してハルバードをbian6へと向ける、rhymetellerの射線にnero9が強引に身体をねじ込ませる。
「ネロ!」
「行けっ、ビアンセ!」
bian6への攻撃はすべて自分が止める、その気概で叫ぶnero9に一瞬迷う眼差しを向けてから、bian6はコアへ向かって駆け出した。アッ、とその背中に視線を向けた、rhymetellerにnero9先ほど言われたことをそっくりそのままお返しする。
「よそ見してる暇があるのか? 相棒はどこだ」
「そんなの、決まってるでしょ?」
それに、rhymetellerは笑いながらハルバードを構える。これが今日の自分の役目。
他社の妨害役であり囮でもある、rhymetellerとは離れた場所でその頃ARtxxxdJINNはといえば、さらに隣のエリアに在る翡翠のコアの周りに、トランプボムを仕掛けた所。元より人目を忍ぶのが得意なARtxxxdJINNだ、遮蔽物の多いジャングルはならばなおさら。
ゆえにあっさり目的を達成したARtxxxdJINNは、こっそりサポートにつけていたバイオニックバードの63を通じ、rhymetellerへ語りかけた。
「仕掛け終わった、移動開始だ」
「えっ、ARtxxxdJINN?」
「10秒以内に爆破するからギリギリまでコアまで敵も引き付けて、一緒にドカンしてやろうぜ」
だが63の事を知らないrhymetellerは、驚いて辺りをキョロキョロ見回す。その隙にと鋭く蹴り込んできたnero9を間一髪で避け、わかった、とよく解らないが頷いた。
そうしてARtxxxdJINNの向かったコアへと駆け出した、rhymetellerを追う前にnero9はbian6の現在地を確認する。方向的には同じ――ならばbian6と合流を目指しつつ叩くのが上策か。
ゆえに追うように走り出したnero9を背に、rhymetellerはARtxxxdJINNとの合流を目指す。――彼女が妨害担当なら彼がコア担当、それが試合前に決めた役割分担。
何しろ結成したばかりなので、互いの事をデータでは識っていても、実際にはよく知らない。だからまずは戦ってみようと、「コアを叩くのはアラジンがいいんじゃないかしら?」と提案したrhymetellerに、提案されたARtxxxdJINNは驚きながらも「いっちょやってみるか!」と頷いて。
それゆえの別行動。あっという間にコアまでの距離を走り抜け、時間ぴったり、と頷いたARtxxxdJINNと共に、そのままジャングルを離脱する。
――ドォォォンッ!!
爆発音が響き渡り、辺りの植栽と土塊が根こそぎ吹っ飛んだ。それらが収まった後には、青紫の草原が広がっている。
ニッ、と笑い合ってハイタッチ。そんな2人をモニター越しに見ていた、翡翠姉妹が「もず姉、アレ……」「……だね」と意味深な視線を交わし、Mithraが遊びに混ざろうとする子供のような顔で、目を輝かせて自陣を飛び出そうとする。
そんなMithraの首根っこをUrth:RAgnaが、慣れた様子でガシッと掴んだ。
「闇雲に攻撃するんじゃない、全部の色を塗り替える必要はない。必要な分だけ占有していればいいルールだ」
「うんと……なんとなく分かりました! 全力で真っ白にすればいいんですね、頑張ります!」
「お前は何を聞いていたんだ?」
そんな事は誰も言っていない、と眉間を押さえるUrth:RAgnaに、早く行きましょうよ女神様、と散歩を催促するかのようなおねだりをするMithraである。そんな4社4様を自陣の岩山から見ていたナガルが、旦那、とHEZに声をかけた。
「どこから行く?」
「翡翠から潰そう。シュヴァーンはまだ早い。他は後回しでも良いだろう」
戦術構築を始めとした情報処理能力特化型のHEZは、今の状況をそう分析する。シュヴァーンの要たるUrth:RAgnaはまだ陣地から大きく動いていない、叩くなら2人を完全に分断してから――他の2社は片やパワー不足、片や結成したてで脅威とはなり難い。
その言葉に、ナガルは頷き翡翠姉妹へと走り出した。岩山を駆け下り、軽やかに崖を越え。翡翠姉妹がどこに居るのかは、感知できなくともフィールドを見渡せばすぐ分かる。
ゆえに駆け下りた先の海岸で、行きがけの駄賃にコアを塗り替えながら走るナガルと同じか、それ以上の速度でうっきうきで雪原を走り、Mithraは勘の赴くままに面白そうな方へ。都度、「ジャングルです!」「雪原にしました、女神様!」「あっ、海!」と現在地を報告していたら、なぜか「お前の位置はこちらで把握する」と怒られた。
解せぬ、と首を傾げながら、Mithraは予感のする方へと走り、見つけたコアへと担いできた固定砲台をぶっ放す。ドォォォンッ! と砲撃の音が鳴り響き、海岸から雪原へと塗り替わったのをモニター越しに見て、rhymetellerがARtxxxdJINNをがっくんがっくんしながら「ねえ、ああいう武器はないの!? あれ絶対撮れ高があるよ!」と強請り、塗り替えられたbian6が唇を噛み。
おいおいおい、とナガルは一旦足を止めてHEZを振り返る。
「HEZの旦那、ありゃぁ……」
「普通は担いで走るものではないが、ふむ」
Urth:RAgnaの心理戦か、と分析するロビンペアの話を聞いていたら、当人はきっと頭を抱えた事だろう。未だ適正装備が分からないMithraに、暫定でシュヴァーンがあてがった大型の固定砲台を、まさか担いで走って行くなんてこちらも想定外なのだ。
とまれ、彼我の位置を図ればやはり翡翠姉妹を先に叩くのが良かろうと、駆ける先ではその翡翠姉妹、7Rと鵙-玖がヴァイオレットペアを探しつつ、草原をジャングルへと塗り替えた所。瞬時に密林の視界不良に巻き込まれ、周囲を警戒するナガルとHEZ、どちらを狙うかと言えば
「まずはナガルかな?」
「油断は禁物です、シチリン。――かかった方を優先しましょう」
小声でそう話しながら、ジャングルゆえの視界の不利を利用し罠を仕掛けて回る7Rの、動きをフォローするように鵙-玖は手の中に暗器を呼び出し、離れた所から投擲した。それはダメージを狙うというよりは、こちらに居ますよと知らせるためのもの――そうしながら加速してどんどんと位置を変え、どこから襲ってくるか判らない状況を作り出す。
そこに仕掛けを終えた7Rが加わって、鵙-玖と同じ攻撃をさらに違う方から開始した。否――本来、手数で押す戦闘スタイルは7Rのものだ。
これこそが翡翠姉妹の得意技。姉妹たるがゆえの練度の高さもあって、互いの攻撃をコピーすることが出来るのだ。
「バディ期間が長い連中は最適化も進んでいて手強い……だからこそやりがいもある」
「ああ。正面突破と行こう。頼りにしているよ、ナガル」
僕1人じゃあどうにもならないと、嘯きながらHEZがちゃきりと構えたグレネードを、敵の攻撃から予測した現在地に向けて打ち込んだ。これは足止めだ、当たらずとも良い。
案の定、暗器の飛来が一瞬止まる。ふむ、と次の地点に射線を据えながら、HEZはやはり木々が邪魔だと軽く眉を上げた。
「火炎放射器も持ってくるべきだったか」
「旦那、それ俺らも巻き込まれるじゃねぇか……っと」
それなら視界も良好だったろうと、呟くHEZにナガルが苦笑いしつつ走り出す。ナガルの攻撃スタイルは敵の背後に回り込んでの首筋狙い、遮蔽物があった方がありがたいのはこちらも同じ。
ゆえに軽々と地を蹴って木の枝に飛び乗り、飛び移る。繰り返されるHEZの攻撃と、飛んでくる暗器の軌跡を頼りに、次から次へ。
そんな火力担当のナガルにダメージが行かぬよう警戒しつつ、HEZは援護とけん制の射撃を続ける。ふむ、と鵙-玖が7Rを振り返った。
「撹乱しましょう」
「りょーかい! もず姉を狙った分は高くつくからね!」
その言葉に7Rが大きく尻尾を振り、辺りに煙幕をまき散らした。ジャングルゆえの植生の濃さが、簡易の壁のように働き煙を濃密に漂わせる。
その中で、肉薄するならHEZだと姉妹は直接攻撃に切り替えた。だが、
「俺とも遊んでくれよ」
「わっ!?」
その時にはすでに接近していたナガルが、目論見通り7Rの背後から襲い掛かる。そうしてリムが狙ったのは、7Rの首――ではなく髪紐。
解けたツインテールの片方をばさりと翻し、睨みながら大きく飛んで距離を取った、7Rにそうしてナガルは笑う。
「髪を結んでりゃ視界は遮られにくいし動きやすいだろう。だが解けりゃ戦いは派手になる」
「うわっ、ヘンタイ!?」
「いやいや、演出ってやつさ。デュープバトルはエンターテイメントだ。接戦で、派手であればあるほど観客は楽しい」
そうして披露した持論は、rhymetellerやARtxxxdJINNが相手であれば大いに共感を得られただろうが、翡翠姉妹の共感はいまいち不明。されどもこちらにしようとナガルに狙いを定め直し、鵙-玖が足のアイテムボックスから取り出したナニカを投擲すると、同時に7Rがナガルに発信機を打ち込む。
パウッ! グレネードの銃声が煙幕を切り裂くように響き、一筋の軌跡が伸びた。ナガルが居なければ困るというのは嘘でも誇張でもない。
それゆえの援護射撃に、7Rが不敵な笑みで素早く退く。刹那、鵙-玖の投げたモノがカッ! と強烈な閃光を放ち。
ドォォォンッ! 木々を薙ぎ払うような大爆発が、辺りに響いた。間一髪で爆発圏外まで脱出し、されどもノーダメージとはいかず煤けた顔を見合わせて、ロビンペアは難しい顔をする。
「どう見る旦那」
「囮……であろうな」
爆心地に残されていたのは、翡翠姉妹の死体だ。もちろんデュープバトルでは基本的に死ぬことはない、あくまでもそういうダメージを受けたという処理で活動不能になるだけ。
だから、という訳ではない。爆発前に見せた7Rの笑顔、冷静だった鵙-玖、解けていないツインテール。これらのデータから、そう結論付けるのが自然というだけ。
――だが。
「捜すかい?」
「時間の無駄だ。先にシュヴァーンを潰そう。位置は――」
ちら、と場内モニターを見上げてシュヴァーンペアの様子を確認すれば、アルセドペアから自陣を防衛するUrth:RAgnaと、ヴァイオレットペアと遊んでいるMithraが映っている。その背景からおおよその位置を予測して、コアを塗り替えてから走り出したロビンペアの行く先に居る、MithraへとUrth:RAgnaは指示を出す。
「遊び過ぎだ。さっさとコアを塗り替えろ!」
「はいっ、女神様!」
それにMithraは通信越しにいいお返事をしつつ、コアの前に立ちふさがるARtxxxdJINNと、さらにその前でハルバードを構えるrhymetellerからは目を逸らさない。ズンッ、と担いだ固定砲台を下ろし、早くお使いを終わらせよう、と狙いを定める。
だが吹っ飛ばすならARtxxxdJINNにだって、トランプボムという武器がある。スッと引き出したカードはハートのA、とっておきだと投げつけるタイミングを計るARtxxxdJINNのため、rhymetellerはハルバードを振り上げた。
「落とせー!」
「あっ、さっき見たやつ!」
真っ直ぐにMithraへと向かう衝撃波を、当の本人は砲台ごとヒラリと避けつつきゃっきゃする。あれズルくない!? とヴァイオレットペアの胸中に同じ思いが去来して。
その様子を認識はするが確認はしないまま、Urth:RAgnaもまたアルセドペアへと向けた視線は揺るがさない。ルール上、必要な数だけコアを有していれば積極的に攻撃に出る必要はないが、コアを奪おうとするなら容赦は不要。
ゆえにレイピアを構え、Urth:RAgnaは確認する。
「来るならさっさとしろ、見ての通り忙しいんだ。まとめてでも構わないぞ」
「――行くわ」
どのみちこのままでは終われないのだと、踏み出したbian6のサポートをすべく、nero9もまたその半歩後ろに続いた。――ごめんね、と心の中でbian6は詫びる。
形だけ見れば2対1のアルセド有利、だが実際の所は互角どころかこちらが不利だろう。bian6は素のパワーが低い、それは序盤に全力で奪ったコアが、どんどん塗り替えられている現状を見ても明らかだ。
Urth:RAgnaもそれに気付いているからこそ、まとめてでも構わない、と言ったのである。だから恐らくこのままでは勝てない。
だが、
(本当はやりたくない……けど)
不利になったらやれと、企業に言われている事がbian6にはあった。なりふり構わず勝ちを取りに行く、それはデュープバトルとしてきっと正しい。
だからぎゅっと1度だけ強く目を瞑り、bian6は走り出す。出来るじゃないか、Urth:RAgnaが凶暴な瞳に褒めるような色を湛え、レイピアを引く。
「ハッ!」
「良い蹴りだ!」
瞬間的に加速しbian6が放った最大速度の蹴りを、Urth:RAgnaのレイピアがいなす。それが悔しいと唇を噛み、だが狙い通りだと蹴りの反動を跳躍に変えた。
「ビアンセ!」と駆けて来たnero9が、さらに高く跳躍出来るよう態勢を整えた。それにずきりと走る胸の痛みを堪え、bian6がその背を踏み台にすればタイミングを合わせたnero9が大きく身体を跳ね上げ、跳躍力を底上げする。
だがそれは同時に、Urth:RAgnaの格好の的にもなるという事。レイピアを振り戻した彼女は同じく跳躍し、bian6へとその刃を向け撃ち放つ。
射撃機能を備えたレイピアの、刃が真っ直ぐbian6へと飛んだ。その刃に肩を切り裂かれ、bian6の身体がそのまま落下する。
「ビア……ンセ……?」
その光景に愕然と目を見開いた、nero9が何かに取り憑かれたようにbian6の元へ、全速力で走った。Urth:RAgnaの事も忘れ、ただひたすらに――愛する人の姿を探し求めて。
嗚呼、けれどもどこにも居ない。なだらかな雪原の中、見落とすはずもないのにbian6の姿はない。なぜ、なぜ、なぜ……
「あ……あ………」
nero9の全身が戦慄き、見開いた目から滂沱の涙が零れ始めた。黒一色に染まった眼球が、虚ろな穴のように雪原をただ映す。
そうして――奔った。
「あぁぁぁぁ……!!」
「!?」
bian6を落とした者の元へ、なりふり構わず。泣きながら飛び掛かって来る男の蹴りを、Urth:RAgnaが軽く眉を上げいなそうとして、予想外の重さに目を見張った。
面白いじゃないか。ふ、と口の端に笑みを引っ掻け、Urth:RAgnaはレイピアを握り直す。この戦いに勝つのは自分だと、血を湧き立たせ踊りかかる。
ギィン! 鋭く突いたレイピアの刃先が、nero9の展開した盾によって弾かれた。その程度かと嗤うUrth:RAgnaにnero9は、応える正気を失ったまま鋭い蹴りを足元に見舞う。
それはただの本能で、だからこそ一切の手加減などない力と力のぶつかり合い。観客が沸き立つ声が響く中、幾度となく火花を散らす2人の元に、女神様! とどこまでも能天気にMithraが駆けて来て。
「女神様、女神様!」
「うるさい取り込み中だ!」
「あの、でもなんか翡翠が盛り返してきそうな……」
気を抜けば蹴り抜かれるギリギリの戦いに、水を差してくる相棒(仮)にイライラと怒鳴り返したUrth:RAgnaは、だが言われた内容を瞬時に把握し、チッ、と盛大に舌打ちした。翡翠姉妹の戦闘不能がフェイクの可能性は彼女も予測していたが、この忙しい時に!
Mithraの言葉と前後するように、雪原にばらばらと暗器とトランプカードがまき散らされる。あれ? と言いながら素早くそれらを打ち返す、Mithraに追ってきたARtxxxdJINNが嫌な顔をして「何なんだもう」と天を仰ぎ、復活を感知されてしまった鵙-玖と7Rが苦笑い。
rhymetellerが、やろう! と笑いながらハルバードを振り回す。ここで虹を魅せればきっと綺麗だし取れ高凄そうだわ。
ゆえに「架かれー!」と叫ぶお姫様に、もう1度天を仰いでからARtxxxdJINNは新たなカードを引っ張り出す。ジョーカー。お誂え向きだ。
「派手にやるか!」
「まかせて! 落ちろー!」
「えぇい、まとめてかかって来い! Mithra!」
「黄昏の女神の仰せのままに!」
「こっちも忘れないでよね!」
トランプカードと帯びたたしい暗器が舞う中で、飛んでくる衝撃波を飛んで避けながら叫ぶUrth:RAgnaに、うっきうきで返事したMithraが長距離砲を適当にぶっ放す。双方の軌跡に在ってだが、バーサーク状態のnero9は盾を展開し、吸収しきれないダメージをその身に受けてなお吠え、手近な敵へと飛び掛かった。
その光景に、雪の中に身を隠して見ていたbian6が顔を歪める。――bian6が居なくなれば彼は暴走する、それが上の狙いで指示だった。
そうなったnero9は強い、bian6よりも。全てを薙ぎ払うまで止まらず、そしてその実力もきっとある。
嗚呼、けれども、
「やっぱり嫌……! ごめんね、ネロ……!」
「ビア……ンセ……?」
ついに堪りかねて飛び出しnero9を抱き締めた、bian6の姿を映した虚無の瞳が大きく見開く。「俺のビアンセ……」と呟く彼から急速に凶器が失われるのを間近で見ながら、そうよ、と微笑み口付けた。
それは、呪いを解くお姫様の口づけの如く。その温もりと柔らかさに、nero9から最後の狂気が剥がれる。
「一緒に戦いましょ」
「それがいい」
そうして2人見つめ合い、手を絡めて肉球を合わせた2人の間から、一際強く輝くホログラムが生まれた。展開するのは無数の刃――2人が大きく手を動かせば、それに従いあらゆる方向へと弾け飛ぶ。
派手で攻撃力も高いが、コントロール不能ゆえの奥の手。それに向けて、だが鵙-玖は冷静に戦況を分析し、アイテムボックスから爆弾を取り出し、投げつけた。
空中で鵙-玖とARtxxxdJINNの爆弾が破裂して、ただでさえ無秩序な刃が千々に乱れ飛ぶ。それを交わすのに誰もが必死になる中で、ギリギリの軌跡を見極めUrth:RAgnaが刃の嵐を掻い潜って走り出し。
それを少し離れた岩山から、愉悦を以てロビンペアが眺めている。
「何とも面白いじゃないか。旦那、お嬢ちゃんの髪、もう1つも解きに行くかい?」
「待て。ここで潰し合いが収まるのを待つのが上策だ」
漁夫の利を狙えるチャンスを逃す手はないと、告げるHEZに素直に従いつつ、ナガルは長爪をわきわきとさせた。さて、あの戦況にどう飛び込めば最高に面白い演出になるだろう――そう考えつつ、時折飛んでくる流れ弾を叩き落とすナガルの横で、HEZがグレネードを打ち込む最適なタイミングを計り始める。
●
時間切れまで大いに混戦した5社対抗ポゼッション戦は、最終的に保持コア数でロビンとシュヴァーンが1位となり。だが大いに盛り上がったバトルゆえに、観客の中では『本当の優勝デュープは誰なのか』という話題でしばらく盛り上がったという。