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キャラクターノベル制作 真柄 葉納品 2023年05月15日 09時09分29秒

 帝国を襲った大異変で住む場所を失った者達の為に作られた『難民キャンプ』。このキャンプもそんなうちの一つだ。
 ここには帝国でも辺境と呼ばれる場所にあった集落の生き残り達が身を寄せている。
 大異変から2年。初めはボロテントが並ぶみすぼらしいキャンプだった場所も、今はもう村と呼べるほどにまでなっていた。人々は辛かった過去を忘れるように懸命に働き、畑を耕し、子をもうけ、この地を新しい故郷にしようと努力している。

「なに、ヴォルケにじゃと?」
「うん……どう、かな」

 すれ違う住民達に手を振りながら挨拶する少女の言葉に、老人は思わず問い返した。

「クリーパーは、食べるものが、なくなって、自然消滅した、よ。だから、戻れるの」
「そうか……ヴォルケに」

 どこか弾んでいるようにも聞こえる少女の声に応える老人の声には若干の迷いが感じられる。

「グェン、乗り気じゃ、ない……?」

 きっと喜んでくれるだろうと期待していたのだろう、少女は不安げに問いかける。

「いや、そういう訳ではないんじゃ。わしとて故郷に帰りたい気持ちはある。ただ……」
「ただ……?」

 老人が大きく息を吸い込んだ。

「ティト、もうヴォルケには誰も残っていないのじゃろう? あの里はあの時に滅びたのじゃ。それにあの時避難した里の者は、今この場所で懸命に暮らしておる。もちろん不平不満がないわけではないが、十分に生活できるレベルになった。なのに今更誰もいない故郷へ帰れるぞと言われて、首を縦に振るだろうか」
「……」

 老人――――グェンから返ってきた言葉に、少女――――ティトはじっと考え込む――――。

 『ヴォルケ』。そこは帝国北部にある白狼族のハーフビーストたちが暮らす小さな里だ。……いや、だったというべきか。あの日、帝国を襲った大異変は、あんな辺境の寒村にまで甚大な被害をもたらした。
 里には多数のクリーパーが押し寄せ、破壊の限りを尽くす。そんな中、駆け付けたグェンとティトは協力し、クリーパー達を跳ねのけ住民達をなんとか避難させた。
 からくも里を脱した住民達だったが、そこから先は更なる地獄が待っていた。
 どこへ向かおうとも、常にクリーパーの脅威が迫り、一時の安息を取る暇さえない。周りを見渡しても地獄。あの美しかった帝国は、もうどこにもなかった。
 地図を頼りに向かった街は滅び、ここならばもしやと向かった都市は蹂躙され、きっと帝都ならと縋った都は黒い霧に呑まれていた。
 一体どこへ向かえばいいのか、答えは誰にもわからない。それでも歩き続けるしかない。立ち止まってしまえば、待っているのは死の一択なのだから。
 二人は先の見えない逃避行に心折れそうなヴォルケの住民達を鼓舞しつつ、何日も何日も彷徨った。しかし、そんな日々も長くは続かなかった。ついに食料が尽き、後は餓死かクリーパーに食われるかという所で、ティトがみつけたのがここ『帝国難民キャンプ』だった。

「みんなは、帰りたくな、い……?」
「う~む、それは聞いてみなくてはわからんが……ここもようやく生活できるようになってきた。皆が沢山の努力をしてな。それをすべて捨てて、クリーパーに蹂躙された里へ戻り、また一から復旧作業をするとなると……果たして、何人が賛成するか」
「そん、な……」
「ティト、お前が人知れず故郷の奪還に動いてくれていたのはとても嬉しい。里の皆の事を思っての行動だったんじゃろう。じゃが、時が経ちすぎた」

 きっと大喜びで賛同してくれるだろうと思っていただけに、ティトは目に見えて落胆している。もちろん、グェンも彼女を悲しませるために言ったわけではなく、むしろティトを悲しませないために忠告しているのだ。

「……とはいえ、生活できる環境になっているのなら、戻りたいという者も出るかもしれんな」
「え……」
「誰も故郷を嫌いな者などおらんよ。帰れるのであれば帰りたいと思うじゃろう。ただ、彼等は皆、疲れておるのじゃ。訳も分からず故郷を追い出され、何日も何日も当てもなく彷徨ったあげく、満足な支援も受けられない難民キャンプに放り込まれて、今までやってきた。それがどれほどの苦労じゃったか、ティトにもわかるじゃろう?」
「……うん」

 ティトは弱々しく頷くと、村に視線を向ける。
 一見すれば、穏やかで平和な村。しかし、その実はただの見捨てられた村なのだ。大異変当初は各国からの支援が多少なりともあった。しかし、今はそれもなくなり自分達で全てを賄わねばならない生活を強いられている。
 里での生活もけして楽ではなかったが、それでも先祖代々受け継いできた畑や狩場があった。しかし、ここにはそれすらなく、全て一からやり直したのだ。その苦労は推して然るべきだろう。

「ティト、これは提案なのじゃが。ヴォルケを復興させんか?」
「え……さっきダメ、って」
「駄目とは言っておらん。今のままでは里の皆も帰りたいとは思わんだろうと言っているんじゃ。じゃが、里がここよりもいい場所になればどうじゃ?」
「……帰り、たい?」
「うむ。とはいえ、簡単な事ではないのはティトにもわかるじゃろう。それでもやりた――――」
「やるっ!!」
「……はは、そうか。なら、頑張らんとな」

 自分の言葉を遮ってまで強い意思を示した孫娘に、グェンは嬉しそうに目を細め、何度も頷いた。

「それで、調査は終えたんじゃな?」
「うん、ちゃんとやった、よ。もう、クリーパーいない」
「ふむふむ、それで建物の状態はどうじゃった」
「えっと……ぼくの家は、大丈夫だった、けど……壊れてる、家も、いくつかあった」
「まあ、クリーパーに襲われたのじゃ、それは仕方あるまい。それに雪でつぶれた家もあるじゃろう」
「うん……」
「何にせよ、まずは家じゃ。住める場所もないのに、移ってくれとは言えんからな」
「わかっ、た。ぼくは、なにすれば、いい?」
「そうじゃな、まずは家の再建なのじゃが……これには金がかかる。わしもそれになりに貯めておったんじゃが……帝国が崩壊した時に、の」

 グェンは「これでもエリートじゃったからな」とおどける様に肩をすくめる。

「ちなみにこの村に資金はない。どうする?」
「……ぼく、出す、よ」
「う~む……確かに冒険者は高給取りじゃが、報酬が高い依頼は危険なものも多いんじゃろ? 可愛い孫娘をあまりそういう事に携わらせたくはないのぉ」
「いまさ、ら?」
「これでも、爺として本気で心配しておるんじゃぞ?」
「……でもお金必要、でしょ? 稼がない、と」
「まぁ、そうなんじゃが……ティト」
「なに?」
「資金を出してくれそうな資産家の知り合いとかはおらんのか?」
「しさん、か?」
「うむ。冒険者の仕事はそういう依頼主と縁を結ぶ事も多いと聞く。貴族なり商人なり、融資……とまではいわんが、借用させてくれそうな人物に心当たりはないのか?」
「うーん……」

 そんな人いただろうか、とティトは考え込む。
 確かに今までいろいろな依頼をこなしてきた。中には貴族や資産家と呼ばれる人も居ただろう。だけど、それはあくまで仕事上での関係。お金を貸してと言って、はいどうぞと出してくれるような関係ではない。

「……ごめん、いない、かも」
「そうか。いや、それが普通じゃ、気に病むことはない」

 しゅんと項垂れる孫娘の頭を大きな手でガシガシと撫でるグェン。

「となれば、最終手段じゃな」
「さいしゅう、しゅだ、ん……?」
「うむ。ヴォルケの復興は、わしらの手で行う」
「わしら……ふたり、で?」
「そうじゃな。他の者に声をかけてもよいが、皆今の生活でいっぱいいっぱいじゃからな。まだ余裕のあるわしらで何とかするほかあるまい」
「でき、る? ぼく、家建てたこと、ない、よ?」
「わしだってないわい。それでも、やりたいのじゃろ?」

 そう問いかけるグェンに、ティトは力強く頷いた。

「そうじゃな、資金源(パトロン)はいなくとも、手伝ってくれる仲間が居てくれればありがたいが、そういう奴もおらんのか?」
「仲間……? 復興を、手伝ってくれる……仲間。うーん、そういう人は……あ」
「うん? いるのか」
「いる、のか?」
「いや、わしが聞いたんじゃが」

 言っておいて首をかしげるティトに、グェンは苦笑する。
 しかし、ティトは何か考えているようで、ずっと俯いていた。

「えっと……グェン」
「うん?」
「爆弾発言、しても、いい?」
「なんじゃ、藪から棒に。爆弾発言? もしかして、仲間……いや、そうなら爆弾発言などとは言わんか……。とすれば……まさか旦那でも作ったのか? いやいや、うちの里では成人したとはいえ、ティトは世間的にはまだ未成年じゃ。結婚は無理じゃろう? それに、まだまだ小さいからのぉ、そんな訳…………」
「じー……」
「な、い……」
「じー……」
「じゃろ!? なっ! ほ、ほんとに旦那を作ったのか!? いつじゃ、いつの間に!!??」
「グェン、デリカシー、ないから教え、ない」
「なんじゃとぅ!? これでも帝国にグェン在りと謳われ――――って、そんな事はどうでもいい! ティト、正直に話すんじゃ!! 本当に、旦那を作ったのかっ!?」

 思わせぶりなティトの態度に業を煮やしたグェンは、孫娘の両肩を掴みグググっと顔を寄せた。

「……グェン、近い。んと……教えたら、へそくり、だす?」
「なっ、なぜそれをっ!?」
「さっき、お金貯めてたって言って、た。でも、失くしたって言わなかっ、た。簡単な、名推理」
「自分で名推理とか言うな……まったく。確かに、へそくりはある」
「やっぱり……」
「じゃが、あの資金はお前の将来の為に残しておいたものじゃ」
「ぼく、の……?」
「うむ。お前が人生の岐路に立った時、何かの役に立てればと思ってな。なのでまあ、お前が使いたいというのであれば使うのは構わん。そこまでの額ではないが、復興の一助くらいにはなるじゃろう――――って、そんな事より、旦那が出来たというのは本当かっ!?」
「だか、ら、近い。えっと……」

 なおもぐいぐい来る祖父を押しのけて、ティトはゆっくりと息を吸った。そして、「旦那じゃない……まだ」と、前置きしつつ想い人の事を語る。
 彼と出会ったのは冒険者になって数か月したある日のこと。偶然同じ依頼を受けた事で初めて顔を合わせた。最初見た時は不愛想な人だなって思ったけど、話してみたらその印象は180度変わった。抑揚のない話し方のくせに、その内容はウィットに富んでいる。こちらの喜怒哀楽を引き出すのが上手いというのだろうか、話していて飽きない。見た目に対して人生経験が豊富なんだろうと思うけど、彼の過去に何があったのかは知らないし、深く詮索するつもりは……ちょっとしかない。

「ふむ……聞く限り、仲の良い同僚という感じに見えるが」

 ティトが語る想い人の人物像を、グェンは冷静に分析した。冒険者仲間としては至極優秀なのだろう。しかし、この男には『裏』がある。長年諜報部に籍を置いた身として、それはすぐにわかった。冒険者なんて多かれ少なかれ脛に傷を持つ者だろうが、ティトの『想い人』はそれがあまりにも多いように感じる。そんな男に可愛い孫娘が想いを寄せている。ここは大人として、そして唯一の肉親としてビシッと――――。

「グェン、自分の事を、棚に上げるのは、よくない、よ?」
「うぐっ……!」

 なんて思っていたら、ティトに釘を刺された。確かに自らの武勇伝(女性遍歴)には多少の自信……もとい、後ろめたさがないわけではない。それに、ティトもわかっている。わかっているから言っているのだ。自分の想い人は祖父に似ているのだと。

「きっと話、合うとおもう、よ。今度、連れてこよう、か?」
「……心の準備に5年くれ」
「そんなに、待ったら、グェンが老衰しちゃ、う」
「せんわっ!」

 じっと覗き込んでくるティトに、グェンはツンとそっぽを向いた。

「会うあわんは置いといて……実際、どこまでの関係なんじゃ」
「んと……知りた、い?」
「ぐぬぬ……! 知りたくはないっ! しかし唯一の肉親としてこれは聞かねばならぬ……! しかし……しかしっ!」
「グェン、面白、い」
「面白くないわいっ!! ……はぁ、いい、話せ」
「えっと……いい、の? これ以上、話したら、グェンのガラスの心臓が、砕けちゃう、よ?」
「砕けんわいっ! これでも男女関係には一家言――――……んな事はどうでもいいんじゃ! いいから話せ!」
「ん」

 覚悟を決めたグェンにこくりと頷いたティトは、想い人と出会ってから今まであった出来事、そして二人で交わした『言葉』の数々を伝えた。

「……」
「……グェン、生きて、る?」
「生きとるわっ! しかし……うーむ、そうか。あのティトがのぉ……」

 落胆しているわけではない。ただ、これほどまでにティトが色恋沙汰に積極的な行動をするとは思っていなかったから、驚いただけだ。
 お相手については、昔のコネを使って多少調べないといけないかもしれないが、孫娘がこの人と決めた人物であれば、自分が否定する立場にはないだろう。

「はぁ……わかった。お前の好きに――――」
「グェン」
「な、なんじゃ……?」
「ついで、だから、もう一個爆弾、いる?」
「なん……じゃと……?」
「ばくだん、いる?」

 ようやく爆弾発言を自分の中で消化した途端、孫娘はにっこりと微笑みながら問いかけてきた。
 いつの間にか背も少し伸び、可愛いだけだった容姿にも変化が見て取れる。年相応とまでは言わないが、それでも女性としての美しさをちらつかせることが――――。

「って、そうではなーーい!! 今度は何じゃ! ま、まさか二人目のだん――――」
「刺す、よ?」

 間髪入れずに突き付けられたナイフの切っ先に、グェンは言葉を飲み込み両手を上げる。

「……落ち着い、た?」
「……ああ。それで、今度は何の爆弾だ?」
「えっと、おねえちゃんを見つけ、たの」
「………………なに?」

 たっぷりの間を挟んで考えても理解できなかった。
 ティトは今何と言った。『おねえちゃんを見つけた』と言わなかったか。
 グェンはぽかんとだらしなく口を開け、ティトの言葉を待った。

「んと……おねえちゃんを見つけ、たの。あ、見つけたって言って、も。会ったわけ、じゃないんだけ、ど。ちょっと前、の情報だから、ちゃんと確認しない、といけないんだ、けど、確か――――」
「……それはどっちじゃ」
「どっち……?」
「あ、いや、どっちに居るんじゃと聞いたんじゃ」

 懸命に説明するティトの言葉を遮ったグェンは慌てて発言をごまかした。
 思わず問いかけてしまった『どっち』。ティトには自分のよく知る『姉(従姉)』と、自分も知らない『あね(実姉)』の二人がいる。それを知っているのは里でもごくわずかな者達だけ。そして、そのどちらとも今は行方知れずなのだ。

「……そうか、あの子はまだ生きていたのか」

 グェンは遠くの空を見つめながら話し始める。
 ティトが成人した年。彼女の成長を見届けた従姉は、人知れず里から姿を消した。今まで生きているのか死んでいるのかさえも分からなかったのに、それがどうして今頃……。
 ティトの従姉が失踪してもうずいぶん経った。その間、グェンも彼女の従姉を探さなかったわけではない。なにせ、彼女の目的が目的(復讐)だから、放っておけば不幸な結果になることは目に見えているのだ。

「それで、どこに居るんだ」
「シャルガネ」
「シャルガネか……」

 グェンは「どうりで」と小さく呟く。シャルガネがある辺境都市群はロスガリアでも独自の文化と風習が根付く土地だ。政治形態も外交関係も多種多様なあの都市国家群に紛れられては、流石のグェンでも見つけられなかったのも頷ける。

「それでティトはどうするんじゃ。その情報が本物だとして……本気で会う気でいるのか?」
「うん……会いたい。それで、なんで居なくなったのか、聞きた、い」
「それは……前にも言ったじゃろう。あれは復讐のために――――」
「違う、そうじゃな、い。そういうのが、聞きたいんじゃなくて、なんで、ぼくをおいていったのか、聞きたい、の」
「お前を置いて……まさか、ティト、付いていくつもりだったのか!?」

 驚くグェンに、ティトはそうとも違うともとれる曖昧な笑みを浮かべた。

「ティト、復讐など馬鹿な考えを持つのはやめろ。そもそも、お前は両親の事など覚えておらんだろう。あの子(従姉)に引っ張られてはいかん。お前はもう、自分で歩み出したのじゃ」
「……ありがと、グェン。でも、ぼくは大丈夫、だよ」

 本気で心配して説得するグェンに、ティトはもう一度微笑む。そして、グェンの耳元にそっと口を近づけて囁いた。

「ぼく、おねえちゃん(従姉)と会いた、い。会って、言ってやるんだ。ぼくは『―――――――――』だって」
「っ! くっ……はははっ! そうか、それは傑作だ! 実にいい案だな! 言ってやれ言ってやれ! あの子にはとびきりの一撃になるぞ!」
「でしょ……?」

 ティトの囁き(決意)を聞いたグェンは村の皆にも聞こえそうなほど大声で笑う。
 その様子を見たティトは、今度こそ正真正銘の笑顔をグェンに向けた。

 やらなければいけないことは山積みだ。
 それでも、自分には『明日』がある。
 天から授けられたこの力で、先に進むことが出来る。
 ティトは遠く東の空を見つめながら、力強く頷いたのだった――――。

登場キャラクター

アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0