【雷甲】百華繚乱の強者たち
電脳戦潜アプリェーリ イベントノベル(テーマ)ロビン・テクノロジーズ制作 螺子巻ゼンマイ納品 2023年04月28日 14時35分27秒
雷甲の強さは素体の能力を基に、試合ごとに微調整される。
大半は素体通りの強敵であり、それでも勝てぬデュープは数知れない。
それを嫌い、弱体化を施して名勝負を演じさせた試合も、翡翠は認めないだろうが存在する。
では、この試合の雷甲は?
観ればすぐに分かる。この雷甲は上限値だ。
制約の無い『機神・雷甲』。
六脚六腕に挑むは、六人のデュープ。
●
「翡翠サンもドえれーもん造んなぁ~」
ギィンッ!
雷甲が薙いだ左腕のブレードを、ソラスパーダは己が右腕のパイルバンカーで受ける。
骨まで響く衝撃に、けれど彼は苦悶ではなく笑みを浮かべた。
「つよつよ感パネェボスキャラみてぇなヤツとバトれんの、楽しいじゃん♪」
事実、体に伝わる重みで出力の一端は理解出来る。
雷甲は通常のVSエネミーとは段違いの強敵だ。だからこそ――
「こんなんに勝って目立てたら、めちゃモテしちゃうかもな~俺!☆」
参ったねー、と冗談めかして笑いながら笑う彼に、雷甲は追撃を行う。
右腕、鉄槌。刃と違い重量に振った雷甲の武装は、しかし彼に届く事無く動きを止める。
「へぇ……思ったより重い?」
鉄槌を止めたのは、鉄腕のシトラ。
人工筋肉に置換した《半神の鉄腕》に加え、背には重機が如き対のマニピュレーター《巨人の剛腕》を備える彼女にとって、並みの重量など羽毛と変わりないのだが。
その彼女から見ても、雷甲の鉄槌は重い。
「いいね、こういうデカブツ。腕が鳴るってもんだよ」
そうでなければ、攻略し甲斐が無いだろう。
鉄腕のシトラはソラスパーダとチラと視線を合わせ、ニッと笑って僅かに腰を落とす。
「オッケ、同時ね?」
「そーゆーこと。映えるっしょ?」
ぐわんッ! 二人は息を合わせ、大剣と鉄槌を同時に弾く。
巨体を仰け反らせ、大きな隙を露呈した雷甲。やや後方から流星の如く突撃する光がある。
「そこだーっ!」
光の名は、ツィーラ・イェレミース。
腰や足に取り付けたブースターを全開で吹かし、手にした剣で矢の様に雷甲の頭部装甲へと突き刺さった。
「通った! あ、でも抜けない……」
「ちょいちょいちょい!?」
勢い良く突撃した分、慣性が離脱の邪魔をした。
即座に剣を抜いて退避出来ない彼女を、雷甲は自身に銃口を向け撃ち落とそうとするが――
「だめだめ。落とさせないから」
七機の黒砲――《七人の小人》がツィーラの傍らへ滑り込み、障壁を展開させて弾丸を防ぐ。
その間にツィーラは剣を抜き、今度は反動で中空へ吹っ飛んでいく。
「ありがとーっ!」
「いいよー。あと報告ね。やっぱり精神汚染は効かないみたい」
小人の主は、ヴァイオレットの『白雪姫』、《血濡白雪》。
彼女のティアラには、デュープの精神を犯す《世界一の美貌》と呼ばれる機能が備わっているのだが……機械には、血濡白雪の美貌を理解出来ないのだろう。
「ハッ。所詮虫けらってことだな?」
鉄腕のシトラの言葉に、「分かる―」とソラスパーダも同調する。
何もせずとも惹き付けられる血濡白雪に、揺らぐ心を持たないとは。
雷甲はけれど、その言葉にも注意を向けない。近接武器で足元のデュープを牽制しながら、吹き飛ぶツィーラへミサイルを放つ。
速度だけならば、ツィーラの方がミサイルより上だろう。
けれど急いで離脱した彼女は姿勢が不安定であり、方向の制御が出来ていない。
このままでは危うい。そう判断し駆けたのは、七つの立方体を従えるデュープ王華である。
ツィーラの着地点に先行した彼女は、着陸を確認すると同時にキューブの力を開放する。
《万能立方体42》。それは変化した色に応じ機能を変える極小の兵器庫。発動した《青》の力は、盾となりツィーラと彼女自身をミサイルから守った。
「ご無事かしら?」
「はい、おかげさまで!」
「それは良かった。防御は私たちがしますから――」
貴方は、存分にその速さを活かしてくださいまし。
王華に言われ、ツィーラは大きく頷いて駆け出した。
一撃、離脱。彼女の速度と戦法は雷甲を討つのに重要だと、王華は判断している。
「にしても、本当に装甲厚いッスね……連射弾じゃ全然効かないッス」
中距離で考え込むのは、シュヴァーン所属のクリス。
右腕から放つレーザービームが彼の武器だが、小チャージでは効果があるのかどうか怪しかった。
「そうですわね……私のビームも通りませんし、生半可な攻撃では通じないとみた方がいいでしょう」
「ッスねぇ。手足いくつか落とせれば、優位に動けるんスけどね」
答えながら、クリスは右腕にエネルギーを溜める。
ただの射撃でダメなら、全力射撃で攻めるべきだ。
問題は、何処から狙うべきか、だ。
「一度整理致しましょう。まず、雷甲の武装は六つ」
近接は、左のブレードと右のハンマー。
遠距離は、左のミサイルと右のマシンガン。
更に今回は、ビームライフルらしき装備も左右に装着されている。
どれも脅威だが、明確な優先順位が付けられる武装でもないだろう。
「ンなら、やっぱ脚落としてェよなぁ!?」
吼えるのは、雷甲の刃を受け流すソラスパーダ。
方法はある。けれど凌ぎながらでは難しい。チラと鉄腕のシトラに視線を向けると、彼女は既に理解していたらしかった。
「抑えてやるよッ!」
《巨人の剛腕》で剣と槌を掴み、握る。
雷甲はもがき暴れるが、フルパワーの彼女から逃れるのは容易ではない。
ならば、と四基の砲口を向けた刹那には、王華と血濡白雪の《七人の小人》が鉄腕のシトラを守護しに向かっていた。
豪雨のような銃撃は、彼女らの盾を通過出来ない。生まれた隙に潜り込んだソラスパーダは、敵の脚関節の一箇所へとネイルガンを打ち込んだ。ギギ、ギ。釘を刺された雷甲の脚は、動きが鈍く落ちる。
その攻防で接近戦を恐れたのだろう。雷甲は上体をねじり、強引にシトラを振り切って後退した。
跳躍は素早かったが、着地の際コンマ数秒だけ姿勢を崩す。ソラスパーダの楔のお陰だ。自重によって更に関節に負荷が掛かった折に、すかさずクリスが足を撃ち抜く。
「よし、ヒビ大きくなったッス!」
チャージショットは雷甲の脚に響き、動けぬ時間を更に積み重ねた。
それでもほんの一秒程度であるが――それだけあれば、彼女が辿り着くには十分過ぎる。
「もういっぱーつ!」
速度を載せたツィーラの斬撃が、雷甲の脚を斬り、裂いた。
バチッと火花が瞬く前に、彼女はそのまま突き進む。駆け抜ける彼女を、今度は雷甲も狙えない。
「っしゃァッ!」
「まずは一本、ッスね!」
喝采を上げるソラスパーダと、ぐっと左手を握りしめるクリス。
上手く狙いがハマった。やっぱり、この人たちが味方だと心強いな……と、クリスは思う。
同社の王華を除けば、今回のメンバーは普段のクリスにとって強力な対戦相手である。もしも試合を組まれたら……きっと簡単には勝たせて貰えないだろう。
そんな彼らと、今は協力して敵と戦えている。
このまま脚を刈り取って行けば、機動力を失った雷甲など如何様にも出来るハズだ。
適正な距離まで雷甲へと寄りながら、クリスは次の動きを窺った。叶うなら、同じようにもう一本を。デュープたちはそう狙っていたが――雷甲は、一連の動きを学習した。
「あッ、逃げんじゃねぇッ!」
再度接近しガチンコを狙う鉄腕のシトラから、雷甲が距離を取るのだ。
マシンガンの偏差射撃で中距離を固め、ビームライフルでソラスパーダとシトラを狙い撃つ。
「もう一本取れれば追い付けんだけどな~!?」
「それが怖ぇんだろーな、このカマキリは!」
上手く近付けない。
射撃自体は、動き続けていればなんとか回避は出来た。
時折避け切れなそうな時には、王華と《七人の小人》がカバーする。
ソラスパーダを狙い放たれたミサイルを撃ち落とし、「どうするッス?」とクリスが問うた。
「ヘイトはお二人に向いているようですし、私が追いつければ良いのですが……」
盾を務めながら隙を見て近付く、といった芸当が出来る程、王華は速度に長けてはいない。
(私の運動能力では、突破できそうにありませんわね)
ツィーラはその間も一撃離脱の刃を食らわせているが、小回りが効かない分、多くの攻撃は装甲に吸われて有効打になり得ない。……と、なれば。
「私の魅せ場、ってことかしらね?」
戦いを映すカメラにウインクして見せて、血濡白雪が前へ出る。
「おいっ!? 反撃喰らったらマズイんじゃねーか!?」
「自分の身くらい守れるもの、大丈夫よシトラ」
答えながら、血濡白雪は小人を操作する。
己と逆方向――右腕寄りに七機を配置し、絶えずビームを撃ち放つ。
と、マシンガンの狙いがそちらへ移行した。弾幕が変化した折に、たんっと彼女は雷甲の左へ接近し、舞う様に跳んでその脚の一本に触れる。
ジジ、バチッ! すると雷甲の装甲は赤熱し、火花を放った。
理由は血濡白雪の五指に仕込まれた隠し武器、《真っ赤な林檎》にある。
分子の振動を引き起こし、標的を爆散させる為の兵器。言い換えれば、電子レンジの機能を持った指先。それを彼女は、雷甲の装甲に用いたのだ。
「――ッッ」
但し、これは推奨されない使用法である。
生身の敵相手ならともかく、金属にこれを使用すれば、電磁波は反射してしまう。
刹那の利用でも、彼女自身に返るダメージは大きい。……それでも。
「負け姿なんて、見せられないものね」
苦痛を感じさせぬよう、柔らかに笑みを浮かべて見せる。
心配よりも称賛を。敗北よりも勝利を。彼女の求めに応じて、真っ先に攻撃を放ったのはクリスである。
「確実に、ダメージを与えていくッス!」
チャージショットは赤熱した雷甲の脚を歪めた。
血濡白雪の行動によって、今その足は脆くなっている。
「この好機、決して無駄にはしませんわ!」
続け様に、王華も赤箱からのビームで追撃を放った。
蓄積するダメージが、雷甲の上体をグラつかせる。弾幕の狙いが粗くなったのを見て、ソラスパーダが前へと躍り出た。
「はい注・目☆」
パイルバンカーを振りかざす彼に、雷甲はブレードで対抗した。
杭と刃がぶつかり合い、火花と甲高い金属音を響かせる。ギィン……と弾けたのは、雷甲の刃。
剣を大きく刃毀れさせ、雷甲がじりりと後退る。その間に、もう一人が雷甲へと追い付き、取り付いた。
「脚、貰ったァッ!」
鉄腕のシトラである。
《巨人の剛腕》で雷甲自体を掴み、残る《半神の鉄腕》で雷甲の脚を引き、千切る。
火花を散らしながら、ぶおんッ! 刃と槌で掻くように反撃を試みる雷甲。だが二人はすぐさま後退し、寸での所でこれを回避。雷甲は更に銃口を向けるが、ガィンッ! 背後からツィーラの斬撃を受け、弾丸は虚しく地面を抉るのみ。
「おお。今度はいいタイミングで斬れたね」
「や、マジ助かったわツィーラちゃん!」
「ふふふ。この調子で倒しちゃおう!」
グッと拳を握るツィーラ。
雷甲は既に脚を二本失い、機動力を低下させていた。
最早先刻のような引き撃ちは出来ない……と判断したのだろう。
雷甲は剣と槌で接近を拒みながら、固定砲台のように連続して射撃を続けた。
「往生際が悪いですわね……」
「もうちょっとでブッ倒せそうなんだけどな。今飛び込むのはマズいか」
盾込みでも、無策に突撃すれば割られる可能性がある。
銃弾を弾きながら呟くシトラに、「一瞬隙があればいいんスよね?」とクリスが呟く。
「なにか名案があるんですの?」
王華の問いにクリスは頷いた。
雷甲の弾幕は、近接を恐れてやや平面的に見える。
それを乗り越えられたなら、大きく隙を作れる筈だ。
「だから、足場があれば……」
「ふむ。でしたら良いモノがありますわ」
王華は答えながら、橙の箱を手に取った。
箱は瞬時に杖に姿を変え、すらりと伸びる。だが……杖?
クリスが首を傾げる中、王華は彼の背後へと回る。
「ちょっと痛いかもしれませんが、我慢を」
「えっ!?」
ひゅんっ! 王華が杖を振るいクリスに当てた瞬間、杖はグンと長さを伸ばす。
橙の特性は、伸縮可能な杖。この長さを以て、クリスを天へ送る。
「これぞ連携ですわ!」
「痛ーいッス!? でもこれなら!」
空から見下ろす雷甲の頭部には、狙い易そうな弱点が一つ。
「エネルギーチャージ!」
右腕の方に、力を溜めた。
滞空時間から考えれば、チャンスは一撃。当てられるか? いや、当てる。
前衛が耐えてくれたから、自分はここまで攻撃に専念出来ていた。今度は逆だ。仲間が攻撃し易くなるように、このプレッシャーに耐えきろう。
「ショット、決めるッスよ!」
ギュンッ。
クリスの腕から放たれたチャージショットは、雷甲の頭部――戦闘序盤でツィーラが付けた傷跡に、直撃。
中身にまで響いた一撃は、雷甲の演算を数拍止める。その刹那が、勝負だ。
鉄腕のシトラが雷甲に組み付き、近接武器を剛腕で抑え、叫ぶ。
「今だ! 痛ぇの一発、ぶちかましてやれ!」
「喜んで!」
ソラスパーダが雷甲の下部に潜り込み、脚の付け根にバンカーを当てる。
関節が弱めなのは理解済み。ここを突き刺せば――
「はい三本目ェッ!」
パイルバンカーが深く突き刺さり、雷甲の脚を更に潰す。
「えーっと、四本目も!」
別の脚関節には、ツィーラの斬撃が決まった。
損傷した脚に、密かに迫るのは《七人の小人》。七機が一つの砲へ変わるのを見て、急ぎツィーラは駆け出す。
「もう一発、あたしもキメていいよね?」
笑みと共に血濡白雪がウィンクすると、小人は極太のビームカノンで損傷した脚を撃ち飛ばした。
「みんなすごいッス!」
「貴方が跳んでくれたお陰ですわ。ですから」
私も。
落下するクリスとすれ違い、王華も橙杖を地面に当て、跳ぶ。
「シトラ様、決めて下さいまし!」
中空に躍り出た王華は、続けて杖で雷甲の破損した頭部を押さえつける。
多少強化されても、肉体は彼女に及ばない。雷甲にも。けれど稼ぐ時は、ほんの瞬き程度で良い。
「っしゃ、それじゃ遠慮なく――」
雷甲を地面に叩きつけ、シトラは反動でジャンプする。
それから再度、《巨人の剛腕》で敵を掴み、接近しながら両の腕に力を籠めた。
(制限解除、出力1000%!)
圧倒的破壊力を持つ、彼女の奥の手。
全ての力を以て、彼女は雷甲をぶん殴る。
「――虫けら如きが雷神名乗ってんじゃねーよ!」
《雷神の一撃》。
《半神の鉄腕》と全身の筋肉を犠牲に放つ技は、ただ一度しか放てぬ代わりに、あらゆる敵を強引に破壊する。
めぎめぎめぎめぎッ! 既に多くの傷を受けた雷甲が、その一撃を耐える道理など無く。
へしゃげた雷甲は、ぼふんと爆破の音を立て、沈黙した。
「やったー! あたし達の勝ちだよーっ!」
崩れ落ちるシトラの体を支え、ツィーラが宣言する。
完全破壊。
こうして百華繚乱のデュープたちは、雷甲の打倒に成功してみせたのだった。