【戦間】魔法の時間の狭間で【無灰】
電脳戦潜アプリェーリ イベントノベル(テーマ)ヴァイオレット・コンピューティング制作 伊治納品 2023年04月19日 23時29分19秒
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《Aの童話》の一員、《煙霧舞い》は、今の時間を確認した。
魔法使いの魔法が終わるのはまだまだ先の話――休日だというのに、何もすることがないというのは退屈だ。
ガラスの靴を預けている間、代わりの馬車は用意されるが、好みではない。あれは無粋だ。
「ん?」
廊下の向こうから背の高いデュープが歩いてくる。
あの方角は銃の技術者の研究室があったから、似たような用件でここに来たのだろう。
「なぁ、そこのあんた」
デュープは足を止めると、煙霧舞いを見下ろす。
わざとやっているようには見えないが、とりあえずこの男が童話の王子になれないことは確定である。
「暇そうだな。どっか連れていけ」
「移動補助業務か」
両手を差し出すと、デュープは特に反応もなく煙霧舞いを抱え上げた。
思ったより目線が高くなったことに驚くも、抱え上げた方の反応は薄い。
「車椅子程背は低くないと思うが、異常はあるか」
「あんた、なんだか反応がつまらないな」
煙霧舞いは頭をぺしんと叩いてみた。
視線が動き、鮮やかな緑の目に煙霧舞いが映るも感情が宿っていない。何だそれ。
「俺の言う通りに動くだけだったら車椅子と変わらないじゃないか」
ぺしぺし。
すると、平坦な声でこう言った。
「クロイツにダメージ1。クロイツにダメージ1」
そうじゃないと言いたくなったが、何となく――これ、交流イベントで子どもにやられたらそう言えって教わってる奴だと解った。
名前が判明し、気づく。
そういえば、魔法使いの友人が担当しているデュープは記憶がない影響で感情が欠落してしまっていると聞いたことがある。記憶が何故ないのかは聞かなかったが、事故か事件に巻き込まれたのだろう。
(何だよ、先に言え)
煙霧舞いは頭をぺしぺししながら、クロイツへ要望を出した。
「あんたの視線でなら、気に入るような景色もきっとあるだろ。そこへ連れて行け」
車椅子よりマシなところを見せてくれよ――そう言うと、クロイツは通信機を片手で操作した後、ゆっくり歩き始めた。
●
クロイツは煙霧舞いを抱えて歩いていた。
車椅子代わりに気にいる景色の場所へ連れて行くよう言われたが、クロイツには気に入るという感覚が理解できない。
五感は失われていない為、そこからの感想を言うことはできるものの、精神的な部分というものは何も感じない。他者が感じるものというものにも理解が及ばないが、他者が大切にしているものを否定するということも理解ができない為しないというか、関心がない。
だが、他者が好んでいる場所というのは理解できないながら、情報として知っている。
(公園の花が良いらしい)
俺が気にいる景色は存在しない。
故に、次善策で理解いただこう。
●
やってきたのは、近くの公園だ。
バトルの合間にリラックスできるよう作られた公園で、煙霧舞いも何度か足を運んだことがある。
(高い目線で眺めるのも面白いかも……)
煙霧舞いがそう思っていると、クロイツは花を楽しむ高台へ歩いていく。
花もこうして見れば――そう思った瞬間、クロイツが煙霧舞いの腰を抱え、自らの頭上の上で水平に持ち上げた。
「わっ!?」
突然のことに驚くが、クロイツの声がちょうど腹の下辺りから聞こえてきた。
「イベントでよく子どもに依頼されるが、お前はどうだ。空を飛んでいる錯覚を覚えるらしいが」
「そういうのは先に言え。びっくりしたじゃないか全く……」
「そうか」
話に聞いた通りであるなら、クロイツはそうされて喜ぶ子どもの気持ちも今驚いた自分の気持ちも他者にとって大切なものと認識し否定しなくとも自身の必要なものがないとも認識しないのだろう。
「確かにこれは悪くない。あんたよりも上の目線だと飛んでる感覚だ。立っていてその目線のあんたは解らないさ、当たり前なんだし」
「そうか」
「落とすなよ?」
「軽量だ。落とすことはない」
ガラスの靴を魔法使いに預けた煙霧舞いが軽いのは当たり前だ。
煙霧舞いは風が思ったより気持ち良く、花の上を飛んでいる感覚が気に入ったので、馬車とさして変わらないという評価をほんの少しだけ訂正してやった。
やがて、魔法の時間が終わる。
煙霧舞いはクロイツに研究室まで連れて行ってもらい、そこでクロイツと別れた。
●
「先程ぶりだな、クロイツ」
ガラスの靴を装着した煙霧舞いは入口でクロイツとばったり会った。
「言い忘れたが、俺は煙霧舞いだ。またな!」
「……名は知っている。ガラスの義足のデュープは他に知らない」
「そういう時は、またなでいい。言ってみろ」
「またな」
煙霧舞いはその言葉に満足して帰路に着く。
クロイツは――共闘の時には違った顔を見られるのか、それともたいして変わらないのかな
どっちにしろ、面白そうだ。
煙霧舞いは王子様との舞踏会に想いを馳せる。
尚、その翌日、王子様と舞踏する煙霧舞いを援護するのがクロイツだったのだが、それはまた別の話である。
《Aの童話》の一員、《煙霧舞い》は、今の時間を確認した。
魔法使いの魔法が終わるのはまだまだ先の話――休日だというのに、何もすることがないというのは退屈だ。
ガラスの靴を預けている間、代わりの馬車は用意されるが、好みではない。あれは無粋だ。
「ん?」
廊下の向こうから背の高いデュープが歩いてくる。
あの方角は銃の技術者の研究室があったから、似たような用件でここに来たのだろう。
「なぁ、そこのあんた」
デュープは足を止めると、煙霧舞いを見下ろす。
わざとやっているようには見えないが、とりあえずこの男が童話の王子になれないことは確定である。
「暇そうだな。どっか連れていけ」
「移動補助業務か」
両手を差し出すと、デュープは特に反応もなく煙霧舞いを抱え上げた。
思ったより目線が高くなったことに驚くも、抱え上げた方の反応は薄い。
「車椅子程背は低くないと思うが、異常はあるか」
「あんた、なんだか反応がつまらないな」
煙霧舞いは頭をぺしんと叩いてみた。
視線が動き、鮮やかな緑の目に煙霧舞いが映るも感情が宿っていない。何だそれ。
「俺の言う通りに動くだけだったら車椅子と変わらないじゃないか」
ぺしぺし。
すると、平坦な声でこう言った。
「クロイツにダメージ1。クロイツにダメージ1」
そうじゃないと言いたくなったが、何となく――これ、交流イベントで子どもにやられたらそう言えって教わってる奴だと解った。
名前が判明し、気づく。
そういえば、魔法使いの友人が担当しているデュープは記憶がない影響で感情が欠落してしまっていると聞いたことがある。記憶が何故ないのかは聞かなかったが、事故か事件に巻き込まれたのだろう。
(何だよ、先に言え)
煙霧舞いは頭をぺしぺししながら、クロイツへ要望を出した。
「あんたの視線でなら、気に入るような景色もきっとあるだろ。そこへ連れて行け」
車椅子よりマシなところを見せてくれよ――そう言うと、クロイツは通信機を片手で操作した後、ゆっくり歩き始めた。
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クロイツは煙霧舞いを抱えて歩いていた。
車椅子代わりに気にいる景色の場所へ連れて行くよう言われたが、クロイツには気に入るという感覚が理解できない。
五感は失われていない為、そこからの感想を言うことはできるものの、精神的な部分というものは何も感じない。他者が感じるものというものにも理解が及ばないが、他者が大切にしているものを否定するということも理解ができない為しないというか、関心がない。
だが、他者が好んでいる場所というのは理解できないながら、情報として知っている。
(公園の花が良いらしい)
俺が気にいる景色は存在しない。
故に、次善策で理解いただこう。
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やってきたのは、近くの公園だ。
バトルの合間にリラックスできるよう作られた公園で、煙霧舞いも何度か足を運んだことがある。
(高い目線で眺めるのも面白いかも……)
煙霧舞いがそう思っていると、クロイツは花を楽しむ高台へ歩いていく。
花もこうして見れば――そう思った瞬間、クロイツが煙霧舞いの腰を抱え、自らの頭上の上で水平に持ち上げた。
「わっ!?」
突然のことに驚くが、クロイツの声がちょうど腹の下辺りから聞こえてきた。
「イベントでよく子どもに依頼されるが、お前はどうだ。空を飛んでいる錯覚を覚えるらしいが」
「そういうのは先に言え。びっくりしたじゃないか全く……」
「そうか」
話に聞いた通りであるなら、クロイツはそうされて喜ぶ子どもの気持ちも今驚いた自分の気持ちも他者にとって大切なものと認識し否定しなくとも自身の必要なものがないとも認識しないのだろう。
「確かにこれは悪くない。あんたよりも上の目線だと飛んでる感覚だ。立っていてその目線のあんたは解らないさ、当たり前なんだし」
「そうか」
「落とすなよ?」
「軽量だ。落とすことはない」
ガラスの靴を魔法使いに預けた煙霧舞いが軽いのは当たり前だ。
煙霧舞いは風が思ったより気持ち良く、花の上を飛んでいる感覚が気に入ったので、馬車とさして変わらないという評価をほんの少しだけ訂正してやった。
やがて、魔法の時間が終わる。
煙霧舞いはクロイツに研究室まで連れて行ってもらい、そこでクロイツと別れた。
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「先程ぶりだな、クロイツ」
ガラスの靴を装着した煙霧舞いは入口でクロイツとばったり会った。
「言い忘れたが、俺は煙霧舞いだ。またな!」
「……名は知っている。ガラスの義足のデュープは他に知らない」
「そういう時は、またなでいい。言ってみろ」
「またな」
煙霧舞いはその言葉に満足して帰路に着く。
クロイツは――共闘の時には違った顔を見られるのか、それともたいして変わらないのかな
どっちにしろ、面白そうだ。
煙霧舞いは王子様との舞踏会に想いを馳せる。
尚、その翌日、王子様と舞踏する煙霧舞いを援護するのがクロイツだったのだが、それはまた別の話である。