幼き聖母と鋼の麒麟

電脳戦潜アプリェーリ イベントノベル(テーマ)ヴァイオレット・コンピューティング制作 小湊拓也納品 2023年04月28日 16時14分22秒

 おぞましい、機械の怪物だった。
 大型のロボットソルジャー。重装甲の巨体あちこちから、バチバチと帯電する電磁触手が生え伸びている。
 そんな醜悪な怪物でも、対戦相手である。礼を欠いてはならない。
 NO-i(ネア・ファミーユ)は、しとやかに一礼をして見せた。
 歓声が聞こえた、ような気がした。
 デュープバトルは、全世界に配信されている。
 大勢の、様々な人々が、自分の一挙手一投足に視線を注いでいる。
 美しく戦い、見事に勝つ。惜しくも敗れる。無様な動きを晒し、擁護しようのない敗北を喫する。
 全てが、NO-iの所属するヴァイオレット・コンピューティング社のイメージに直結してしまうのだ。
「……せ、責任。重大です」
『落ち着け。気負いは禁物ぞ』
 通信が、入った。
 別フィールドで同じ戦いに臨む、先輩デュープからだ。
『会社のため、などと考えてはならぬ。我らがどうあろうと、紫の企業は揺るぎなし……己自身の戦いと心得よ』
「……はい」
『我の事は、聞いておるか?』
「pA-BeLL(パヴェル・アレクサデル・サムルガチェフ)先輩。噂は聞いてます……一緒に闘えるの、楽しみです」
『うむ。直接の助力はかなわぬが、互いに全力を尽くそうぞ。NO-i』
「はい。まずは……わたしが、動きを止めます!」
 傍らに浮かぶ椅子型の機動ユニットに、NO-iはフワリと飛び乗った。
 大型ロボットソルジャーが、攻撃を開始する。
 無数の電磁触手が、放電光を飛び散らせながら襲いかかって来る。
 その襲撃を、NO-iは見据えた。
 見つめるだけで、ロックオンが完了した。
「セイジ・ウォッチ……続いてポルタル・スキッピング」
 機動ユニットに取り付けられた大型レーザー銃が、光の銃弾をフルオートで速射する。
「……お届けもの、ですよ」
 超高速で届けられる光の銃撃が、襲い来る電磁触手の群れをことごとく粉砕していた。


 麒麟を模して造られた機械の頭部が、烈しく眼光を燃やす。
 筋骨たくましい巨体が荒々しく躍動し、長柄の得物を振るい続ける。
 金属製の長棍に見える、その武器が、襲い来る電磁触手を片っ端から弾き返した。火花が散った。
 弾き返された電磁触手が、すぐさま別方向からpA-BeLLを襲う。
 いや。
 襲撃の動きを見せた瞬間、電磁触手は砕けちぎれていた。二本、三本、五本と、立て続けに。
 姿なき狙撃手が、どこかにいる。そう思える光景である。
 二つのバトルフィールドに同時に出現し、あらゆる状態を共有する、大型ロボットソルジャー。
 この機械の怪物に、もう一つのフィールドで、恐ろしく正確な狙撃を喰らわせている者がいる。
「……頼もしき、かな。すまぬ、助かったぞNO-i!」
 pA-BeLLは、防戦一方の状態から解放されていた。
 踏み込んで行く。
 長棍の先端から、光の穂先が生じ、ロボットソルジャーの巨体に突き刺さった。
 いや長棍ではない。
 長柄の如き、ロングバレルビームキャノン。
 それが、穂先を生やしたかのようにビームを放ち、大型ロボットソルジャーの重装甲を至近距離から直撃したのだ。
 重装甲に、亀裂が走った。
 その亀裂に、pA-BeLLは殴打を叩き込んでいった。
 左右の剛腕で、長銃身を振るう。
 暴風を巻き起こす猛打。
 機械の怪物の装甲が、小刻みに剥離・飛散する。
 何本もの電磁触手がうねり狂い。pA-BeLLを猛襲しながら、ことごとく砕けちぎれた。NO-iの精密射撃だった。
『pA-BeLLさん!』
「うむ……コアが、出ずるぞ!」
 さらなる殴打の一撃が、大型ロボットソルジャーの装甲を粉砕する。
 光り輝くコア部分が、露出していた。
 ビームキャノンの砲口を突き込みながら、pA-BeLLは吼えた。
「合わせるぞ! 汝と我の、全力である!」
『はいっ! 全部、吹き飛ばします。ポルタル・フルドライビング!』
 巨大な光の穂先が、コア部分を撃ち砕いていた。


 浮遊する銃座、とも言うべき機動ユニットから、極太のレーザー光が迸る。
「お届けもの……ですよ」
 バトルフィールドを両断するかのような一閃。
 そんな届け物をコア部分に喰らい、大型ロボットソルジャーは爆散していた。
「終わった……きゃあっ」
 機能停止し落下した浮遊銃座から、NO-iは転がり出していた。
 最後のフルパワー射撃で、エネルギーを使いすぎた。
『無事か?』
「は、はい……ありがとう、ございましたpA-BeLLさん。あの装甲を叩き割ってくれる人が、いなかったら……わたしエネルギー切れで、負けてました。パワーある人、尊敬します……」
『我が破壊に専心出来たは、汝のおかげよ』
 フィールド上空には、観客からの祝福メッセージが次々と表示されてゆく。
 pA-BeLLは、微笑したようだ。
『さあ。立ち上がり「ふぁんさ」というものを、するが良い。皆それを待っておる』

登場キャラクター

アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0