路地裏の決斗
キャラクターノベル制作 革酎納品 2023年04月18日 12時37分03秒
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リーンエス王国北部の町ホークヤードには幾つもの繁華街や大通りが並んでいるが、そのうちのある一筋を、シャルガネ居住区民と思しき特徴的な顔立ちの男がのんびりと歩を流していた。
彼の名は、雪平 陵。
シャルガネ居住区を拠点とする劇団『竜胆』に所属する舞台役者であり、そして同時に授恵者でもあった。
彼は各地の冒険者ギルドを転々としながら戦闘依頼を積極的に引き受け、日々己の技量を磨いている。
冒険者として成長を遂げることが即ち役者としての成長に繋がると信じて、自身の能力向上に努めているという訳だ。
軽戦士としての機動力は舞台の上での殺陣に活かされ、鍛えられた肺活量が豊かな声量を生み出す。
一年間限定という条件付きながら、演技力向上の為の修行へと踏み出した陵は、ここ数日はホークヤードの冒険者ギルドに腰を据えて活動していた。
この日、簡単な魔獣討伐依頼を終えて早めの夕食にありついた陵は、腹ごなしがてら町中を散歩し、夕闇に沈みつつある町並みのどこか風情を感じさせる光景に目を細めていた。
しかし、そろそろ宿に戻ろうかと思い立ったところで、路地裏へと迷い込んでしまった。
全く土地勘の無い町での迷子は中々に厄介だが、大きな通りに出れば何とかなるだろうと思い直し、ひと先ず賑やかな方向を目指そうということになった。
ところが――。
(ん? 何や、悲鳴かいな)
か細い女性の声が風に乗って、陵の鼓膜を衝いた。
余り遠くはなさそうだ。というよりも、現場はこれから目指そうとしていた大通りへの経路途中にありそうだった。
町中でのトラブル対処は本来、警備隊の管轄だ。が、急場に於いてはそんな悠長なこともいっていられないだおる。
余り気は進まなかったが、暴漢共が善良な一般市民に危害を加えようとしているならば、冒険者として解決に乗り出すことも考えなければならない。
そんなことを思いつつ、陵は更に歩を進めた。
やがて数分もしないうちに、見るからに面倒な状況が視界に飛び込んできた。
年若い女性が、四人のチンピラ風の男に囲まれている。
どうやら尋常ならざる事態に遭遇してしまったらしい。これは流石に、見て見ぬふりは出来ないだろう。
●
陵は男達と娘の間に割り込む格好で足早に歩を進め、木刀に手を添えながら立ち止まった。
「何だぁてめぇは!」
舞台上でもよく聞く様なありきたりな台詞に、陵は内心で苦笑を漏らした。
「お嬢さん、そっちの路地からやったら、行けそう?」
陵はチンピラ共などまるで無視して、すっかり怯えている娘に穏やかな声を投げかけた。
娘は青ざめた表情で、一度だけ小さく頷いた。
その反応を受けて、陵は娘を背に庇いつつ、チンピラ共の間を横歩きに進む。陵が自身を盾にする形で移動した為、娘は難なく大通りへと続く路地に辿り着くことが出来た。
と思った次の瞬間には、娘は大通りへ向けて駆け出してゆく。
チンピラのうち三人が慌てて追いすがろうとするも、その前に陵が木刀を手にして立ち塞がっていた。
「邪魔するんじゃねぇ!」
「何やぁ、芸の欠片もあらへん台詞やな」
陵が木刀を一閃させると、空を切るその鋭い軌道にチンピラ共は慌てて後退した。チンピラ共は陵をただの優男と見做していたらしく、その予想外の抜刀技術に面食らった様子だった。
「ビビってんじゃねぇ! 相手はひとりだ! ブチのめせ!」
リーダー格らしい大柄な男が吠えると、他の三人のチンピラ共は一瞬だけ互いに顔を見合わせた。どうやらリーダー格の男を恐れているらしく、陵の剣技を見ても尚、獰猛な叫びをあげて躍りかかってくる。
三人はいずれもナイフや小剣といった小ぶりな得物を手にしていたが、それでも急所に命中すれば致命傷にもなり得る。
そんなチンピラ三人に対し、陵は依然として木刀を構え続けた。
(この三人は一般人っぽいな。せやけどあの親玉は、どないやろ)
得物の握り方から全身の構えに至るまで、全てが素人に毛の生えた程度の三人のチンピラ共に対し、リーダー格らしき大柄な男にはどことなく授恵者の雰囲気を感じさせる。
しかし、近年覚醒した授恵者は冒険者ギルドへの登録が義務付けられており、冒険者ギルドに籍を置く者がこの様な狼藉を働けば、何らかのペナルティを受ける筈だ。
であれば、あのリーダー格はギルドへの登録義務が発生する以前からの授恵者だろうか。
もしそうなら、中々面倒な相手かも知れない。
(まぁエエわ。乗りかかった舟やし)
考えたところで、始まらない――陵は腹を括った。
●
三人のチンピラ共は、一斉に襲い掛かってきた。
踏み込み、刃を突き出す所作、そのいずれに於いてもまともな訓練の形跡が見られない。ただ力任せに振り回しているだけで、戦術理論など微塵にも見いだせなかった。
(あかん、話にならんわ)
こんな連中、まともに相手をするだけ時間の無駄だ。せめてコンビネーションや陣形だけでも、もう少しマシな手合いかと思っていたのだが、まるで期待外れだった。
少しばかり面倒臭くなり始めていた陵だったが、それでも一応は叩きのめしておく。何のお仕置きも無く放っておけば、また善良な一般市民が被害に遭うかも知れない。
ここは力の差を見せつけて叩きのめしておくのが吉だろう。
薄闇の中で、陵の木刀が横薙ぎに軌道を描き、次いで上段に跳ね上がる様な軌跡を見せた。
直後には、三人のチンピラ共は大袈裟に悲鳴を上げて弾き飛ばされ、或いはその場にうずくまった。
命まで奪うつもりは無かった為、急所は打っていない。陵の木刀が叩いたのはチンピラ共の得物を持つ手首、そして肩口であった。
下半身には一切、攻撃は加えていない。一応、逃げるチャンスは残しておいてやろうというのが陵のせめてもの心遣いであった。
しかしチンピラ共は得物を叩き落とされた際の激痛で動けないのか、或いはリーダー格の男の手前、逃げるという選択肢は取れなかったのか、いずれにしてもその場で叩きのめされただけで、我先に逃げ出そうという素振りは見せなかった。
「ほぅ……ただの優男かと思ったが、案外やるじゃねぇか」
リーダー格の男は、腰に吊るしている鞘から長剣を引き抜いた。その立ち居振る舞いから見て、矢張り授恵者の様だ。
この男に対しては、手加減は出来そうにも無い。ここで漸く陵は木刀を捨て、刀を手にした。町中だから余り大ごとにはしたくなかったのだが、相手が刃を振るう以上、陵としても手加減云々を気にしていられる場合ではなくなってきた。
「もう獲物のお嬢さんはおらへんのやし、そこまでせないかん?」
「てめぇみてぇな余所者にやられっぱなしじゃ、示しがつかねぇんだよ」
一応休戦を申し入れてみた陵だったが、案の定、拒否された。
であれば、最後まで戦い抜くしかない。
(町中で刃傷沙汰にはしとうないんやけどなぁ……まぁ、しゃあないか)
飽くまでも最後までやり合うとの意思を相手が示している以上、最早避けられそうにはない。陵は諦めて、刃を交えての決着に持ち込む腹を決めた。
●
このリーダー格の大男は手強いかも知れないという陵の予測はしかし、意外な形で裏切られた。
数合、刃を打ち合わせた陵だったが、然程の手応えも感じない。寧ろ陵からの打ち込みに対し、敵はやや尻込みする気配を見せた。
授恵者としての技をふんだんに駆使してくるかとも思ったが、敵はエーテルを乗せた刃を振るうものの、それ以上の戦術は取ろうとしない。
力を出し惜しみしているのか、或いは単純に技量不足なのか。
いずれにせよ、陵は短期決戦に持ち込むことにした。もし相手が技を出し惜しみしているのであれば、技を出す前に勝ち切っておかなければ後々面倒なことになる。
陵は相手の懐に飛び込み、目にも留まらぬ早業で切っ先を鋭く走らせた。
「て、てめぇ!」
リーダー格の大男は悔しそうに叫んだが、陵が繰り出す技に対処し切れないのか、腕や脚から鮮血が滲み始めている。陵は一切容赦すること無く、疾風の如き剣捌きで敵の四肢に打撃を加え続けた。
(治癒師とか魔術師と違うて、戦士は武器が持てんようになったら終わりやで)
更に数撃、陵の刀が薄闇の中で煌めいた。
敵は悔しげに獰猛な唸りを上げたが、だからといって陵の剣戟に対処出来るという訳ではない。遂にリーダー格の大男は得物を握り続けることも叶わず、長剣を放り出してその場に尻餅をついてしまった。
逆に陵は呼吸ひとつ乱すことなく、悠然と仁王立ちになったまま、敵を見下ろしている。
授恵者としての技量差は、明らかであった。
「もうエエかな。俺も弱いモンいじめは性分に合わんしな」
やれやれとかぶりを振りながら、陵は刃を鞘の中へと戻した。
リーダー格の男は呆然と、陵の澄まし顔を見上げている。まさか自分が負けるとは、思っても見なかったのだろう。
その時――。
「あ、あそこです!」
聞き覚えのある声が、大通り方向から流れてきた。見ると、先程陵が逃がしてやった娘が何人かの男を引き連れて引き返してきた。
どうやら、この町の警備隊に駆け込んでいたらしい。
「何や今頃かいな……遅いわアホ」
陵は小さく毒づいたものの、これで面倒な場面から解放されると内心ではほっと胸を撫で下ろしていた。恐らくは助けてやった娘からもある程度の話は聞いていたのだろう、警備隊員達は陵に感謝の言葉を並べつつ、彼が討ち倒したチンピラ共を次々と縄で戒め、大通り方向へと引きずり出してゆく。
後で聞いた話だが、あのリーダー格の男は矢張り授恵者ではあったものの、冒険者ギルドに籍は置いていなかったとの由。
恐らくはメドゥの指先所属かと思われたが、それ以上のことは分からなかった。
リーンエス王国北部の町ホークヤードには幾つもの繁華街や大通りが並んでいるが、そのうちのある一筋を、シャルガネ居住区民と思しき特徴的な顔立ちの男がのんびりと歩を流していた。
彼の名は、雪平 陵。
シャルガネ居住区を拠点とする劇団『竜胆』に所属する舞台役者であり、そして同時に授恵者でもあった。
彼は各地の冒険者ギルドを転々としながら戦闘依頼を積極的に引き受け、日々己の技量を磨いている。
冒険者として成長を遂げることが即ち役者としての成長に繋がると信じて、自身の能力向上に努めているという訳だ。
軽戦士としての機動力は舞台の上での殺陣に活かされ、鍛えられた肺活量が豊かな声量を生み出す。
一年間限定という条件付きながら、演技力向上の為の修行へと踏み出した陵は、ここ数日はホークヤードの冒険者ギルドに腰を据えて活動していた。
この日、簡単な魔獣討伐依頼を終えて早めの夕食にありついた陵は、腹ごなしがてら町中を散歩し、夕闇に沈みつつある町並みのどこか風情を感じさせる光景に目を細めていた。
しかし、そろそろ宿に戻ろうかと思い立ったところで、路地裏へと迷い込んでしまった。
全く土地勘の無い町での迷子は中々に厄介だが、大きな通りに出れば何とかなるだろうと思い直し、ひと先ず賑やかな方向を目指そうということになった。
ところが――。
(ん? 何や、悲鳴かいな)
か細い女性の声が風に乗って、陵の鼓膜を衝いた。
余り遠くはなさそうだ。というよりも、現場はこれから目指そうとしていた大通りへの経路途中にありそうだった。
町中でのトラブル対処は本来、警備隊の管轄だ。が、急場に於いてはそんな悠長なこともいっていられないだおる。
余り気は進まなかったが、暴漢共が善良な一般市民に危害を加えようとしているならば、冒険者として解決に乗り出すことも考えなければならない。
そんなことを思いつつ、陵は更に歩を進めた。
やがて数分もしないうちに、見るからに面倒な状況が視界に飛び込んできた。
年若い女性が、四人のチンピラ風の男に囲まれている。
どうやら尋常ならざる事態に遭遇してしまったらしい。これは流石に、見て見ぬふりは出来ないだろう。
●
陵は男達と娘の間に割り込む格好で足早に歩を進め、木刀に手を添えながら立ち止まった。
「何だぁてめぇは!」
舞台上でもよく聞く様なありきたりな台詞に、陵は内心で苦笑を漏らした。
「お嬢さん、そっちの路地からやったら、行けそう?」
陵はチンピラ共などまるで無視して、すっかり怯えている娘に穏やかな声を投げかけた。
娘は青ざめた表情で、一度だけ小さく頷いた。
その反応を受けて、陵は娘を背に庇いつつ、チンピラ共の間を横歩きに進む。陵が自身を盾にする形で移動した為、娘は難なく大通りへと続く路地に辿り着くことが出来た。
と思った次の瞬間には、娘は大通りへ向けて駆け出してゆく。
チンピラのうち三人が慌てて追いすがろうとするも、その前に陵が木刀を手にして立ち塞がっていた。
「邪魔するんじゃねぇ!」
「何やぁ、芸の欠片もあらへん台詞やな」
陵が木刀を一閃させると、空を切るその鋭い軌道にチンピラ共は慌てて後退した。チンピラ共は陵をただの優男と見做していたらしく、その予想外の抜刀技術に面食らった様子だった。
「ビビってんじゃねぇ! 相手はひとりだ! ブチのめせ!」
リーダー格らしい大柄な男が吠えると、他の三人のチンピラ共は一瞬だけ互いに顔を見合わせた。どうやらリーダー格の男を恐れているらしく、陵の剣技を見ても尚、獰猛な叫びをあげて躍りかかってくる。
三人はいずれもナイフや小剣といった小ぶりな得物を手にしていたが、それでも急所に命中すれば致命傷にもなり得る。
そんなチンピラ三人に対し、陵は依然として木刀を構え続けた。
(この三人は一般人っぽいな。せやけどあの親玉は、どないやろ)
得物の握り方から全身の構えに至るまで、全てが素人に毛の生えた程度の三人のチンピラ共に対し、リーダー格らしき大柄な男にはどことなく授恵者の雰囲気を感じさせる。
しかし、近年覚醒した授恵者は冒険者ギルドへの登録が義務付けられており、冒険者ギルドに籍を置く者がこの様な狼藉を働けば、何らかのペナルティを受ける筈だ。
であれば、あのリーダー格はギルドへの登録義務が発生する以前からの授恵者だろうか。
もしそうなら、中々面倒な相手かも知れない。
(まぁエエわ。乗りかかった舟やし)
考えたところで、始まらない――陵は腹を括った。
●
三人のチンピラ共は、一斉に襲い掛かってきた。
踏み込み、刃を突き出す所作、そのいずれに於いてもまともな訓練の形跡が見られない。ただ力任せに振り回しているだけで、戦術理論など微塵にも見いだせなかった。
(あかん、話にならんわ)
こんな連中、まともに相手をするだけ時間の無駄だ。せめてコンビネーションや陣形だけでも、もう少しマシな手合いかと思っていたのだが、まるで期待外れだった。
少しばかり面倒臭くなり始めていた陵だったが、それでも一応は叩きのめしておく。何のお仕置きも無く放っておけば、また善良な一般市民が被害に遭うかも知れない。
ここは力の差を見せつけて叩きのめしておくのが吉だろう。
薄闇の中で、陵の木刀が横薙ぎに軌道を描き、次いで上段に跳ね上がる様な軌跡を見せた。
直後には、三人のチンピラ共は大袈裟に悲鳴を上げて弾き飛ばされ、或いはその場にうずくまった。
命まで奪うつもりは無かった為、急所は打っていない。陵の木刀が叩いたのはチンピラ共の得物を持つ手首、そして肩口であった。
下半身には一切、攻撃は加えていない。一応、逃げるチャンスは残しておいてやろうというのが陵のせめてもの心遣いであった。
しかしチンピラ共は得物を叩き落とされた際の激痛で動けないのか、或いはリーダー格の男の手前、逃げるという選択肢は取れなかったのか、いずれにしてもその場で叩きのめされただけで、我先に逃げ出そうという素振りは見せなかった。
「ほぅ……ただの優男かと思ったが、案外やるじゃねぇか」
リーダー格の男は、腰に吊るしている鞘から長剣を引き抜いた。その立ち居振る舞いから見て、矢張り授恵者の様だ。
この男に対しては、手加減は出来そうにも無い。ここで漸く陵は木刀を捨て、刀を手にした。町中だから余り大ごとにはしたくなかったのだが、相手が刃を振るう以上、陵としても手加減云々を気にしていられる場合ではなくなってきた。
「もう獲物のお嬢さんはおらへんのやし、そこまでせないかん?」
「てめぇみてぇな余所者にやられっぱなしじゃ、示しがつかねぇんだよ」
一応休戦を申し入れてみた陵だったが、案の定、拒否された。
であれば、最後まで戦い抜くしかない。
(町中で刃傷沙汰にはしとうないんやけどなぁ……まぁ、しゃあないか)
飽くまでも最後までやり合うとの意思を相手が示している以上、最早避けられそうにはない。陵は諦めて、刃を交えての決着に持ち込む腹を決めた。
●
このリーダー格の大男は手強いかも知れないという陵の予測はしかし、意外な形で裏切られた。
数合、刃を打ち合わせた陵だったが、然程の手応えも感じない。寧ろ陵からの打ち込みに対し、敵はやや尻込みする気配を見せた。
授恵者としての技をふんだんに駆使してくるかとも思ったが、敵はエーテルを乗せた刃を振るうものの、それ以上の戦術は取ろうとしない。
力を出し惜しみしているのか、或いは単純に技量不足なのか。
いずれにせよ、陵は短期決戦に持ち込むことにした。もし相手が技を出し惜しみしているのであれば、技を出す前に勝ち切っておかなければ後々面倒なことになる。
陵は相手の懐に飛び込み、目にも留まらぬ早業で切っ先を鋭く走らせた。
「て、てめぇ!」
リーダー格の大男は悔しそうに叫んだが、陵が繰り出す技に対処し切れないのか、腕や脚から鮮血が滲み始めている。陵は一切容赦すること無く、疾風の如き剣捌きで敵の四肢に打撃を加え続けた。
(治癒師とか魔術師と違うて、戦士は武器が持てんようになったら終わりやで)
更に数撃、陵の刀が薄闇の中で煌めいた。
敵は悔しげに獰猛な唸りを上げたが、だからといって陵の剣戟に対処出来るという訳ではない。遂にリーダー格の大男は得物を握り続けることも叶わず、長剣を放り出してその場に尻餅をついてしまった。
逆に陵は呼吸ひとつ乱すことなく、悠然と仁王立ちになったまま、敵を見下ろしている。
授恵者としての技量差は、明らかであった。
「もうエエかな。俺も弱いモンいじめは性分に合わんしな」
やれやれとかぶりを振りながら、陵は刃を鞘の中へと戻した。
リーダー格の男は呆然と、陵の澄まし顔を見上げている。まさか自分が負けるとは、思っても見なかったのだろう。
その時――。
「あ、あそこです!」
聞き覚えのある声が、大通り方向から流れてきた。見ると、先程陵が逃がしてやった娘が何人かの男を引き連れて引き返してきた。
どうやら、この町の警備隊に駆け込んでいたらしい。
「何や今頃かいな……遅いわアホ」
陵は小さく毒づいたものの、これで面倒な場面から解放されると内心ではほっと胸を撫で下ろしていた。恐らくは助けてやった娘からもある程度の話は聞いていたのだろう、警備隊員達は陵に感謝の言葉を並べつつ、彼が討ち倒したチンピラ共を次々と縄で戒め、大通り方向へと引きずり出してゆく。
後で聞いた話だが、あのリーダー格の男は矢張り授恵者ではあったものの、冒険者ギルドに籍は置いていなかったとの由。
恐らくはメドゥの指先所属かと思われたが、それ以上のことは分からなかった。