翠の双子星

電脳戦潜アプリェーリ イベントノベル(テーマ)翡翠電脳公社制作 蔭沢 菫納品 2023年05月02日 11時57分52秒

「なんかこー言うタイミングの試合って……」
 貧乏くじ、と言いかけたR7(通行人R)を鵙-玖(アヴェラ・ウッチェロ)は小突いた。
「やるしかないでしょう、ナル」
 鵙-玖は相棒を愛称で呼ぶ。
「あの時とは違うのだから……」
 思い出すのは息も合わず敗北したデビュー戦。喧嘩。自己嫌悪。また喧嘩……。鳴り物入りで売りだされた二人であったが、戦績が振るわずファンはあっという間に減っていった。そして、結果バトルへの登場も減るという悪循環。そこにやってきたのが事故で出られなくなったタッグの代わりにアルセドの人気選手との一戦をしろ――という命令であった。
 ふたを開ければ、二人の相手は色物コンビであった。揃いのペンギンの仮面をつけた派手なコスチュームの男女は、奇妙な舞を踊ってからやはりなんだかわからぬポーズを取って観客席にアピールをしている。盛り上がる観客席はアルセドの青で埋め尽くされ、鵙-玖たちを応援する翡翠の緑は少ない。
「うわー、なんかこれ相性悪くない? もず姉」
「そうね。戦い方が同じ連携型だから――」
「そうじゃなくて、こんな派手じゃアタシのアピールが埋もれるって」
 ああ、そっち、と肩をすくめる鵙-玖であった。

「何が青天人鳥拳だって! キックじゃないの!」
 7Rが呻きながら釵で相手の攻撃をガードする。
 アチョー、やらホワー、やらのエフェクトと同時に放たれるコミカルな連撃は、しかし確実に二人を追い詰めていた。鵙-玖たちも互いの息を合わせた動きで防戦し、相手の息切れを待つが、
(明らかに、練度が高い!!)
 コミカルでありながらはるかに格上の動きは、次の一手を読ませない。その上、高速ゆえにとらえても身をかわして有効打を避けていく。
「いったーい! もう、怒った!!」
 挑発に乗ったように飛び出すR7。
「ナル、だめ――」
 鵙-玖のストップも聞かず、飛び出すR7。連携が崩れたとみて、ペンギンコンビは猛スピードで二人を分断する。
(一対一では、勝ち目が薄い――!)
「もどって、ナル!」
 鵙-玖は相手に手を読まれるのも覚悟で、相棒に叫んだ。

「ごめん、なさい。もっと、もずくに合わせるべきだった」
 前半戦が終わり、二人は控室で水を飲む。鵙-玖はしかし、苛つくように返すのではなく、それで次はどうする、と言いたげに相棒をみた。
「もちろん、二人でぎったぎたにしよう!」
「その意気。じゃあわたしたちに出来ることは――」
 わかっているとばかりに、二人は笑む。
「そうね。今のわたしたちにぴったしじゃないかしら」
 鵙-玖は年相応の笑みを、一瞬浮かべた。

「さっきまでの二人だと思うなよー!」
 死角から跳びかかってきた7Rをアルセドの選手がいなす。しかし仮面に隠れてない口元は明らかに疑問を浮かべていた。
(動きが違う――)
 そう言いたげに。だがその疑問の表情は数拍後、衝撃と苦痛で歪むことになるとは、彼はまだ知らない。
 鵙-玖が投げつけた箱からホログラムのペンギンがあふれ出し、それに気を取られた選手の片割れに本体の『プレゼント』が直撃する。
 ――それは単純な爆発であった。ダメージが入るか微妙な爆発は、しかしアルセド側の連携を一拍崩すには十分な予想外であった。
「ナル、任せたわよ!」
「任された! 『私“達”』の本気、見せ付けてあげるんだからっ」
 R7は奇妙な構えを取り、にやりと笑う。
「『青天人鳥拳』――っと!! そして、おまけ! 更におまけ!」
 完璧にコピーされた蹴りが自分に返って来る恐怖。戦い方が全く読めなくなった緑の少女に対戦相手はペースを乱され続ける。そこに、
「私も蹴りは得意ですので――」
 斜め上から飛来してくる鵙-玖の一撃。
 避けきれず吹っ飛ぶ片割れに、残されたペンギンがコミカルな演技も忘れて驚く。そこに付け込むように、まだ立っている方の選手をレーザー製の『釘』が貫く。
 何が起こった、と把握する間もないまま態勢を崩した選手に、鵙-玖の暗器が連続攻撃を仕掛け――
「行くよ、もず姉っ!」
「ええ!」
 混乱した隙に、二人は全く同じ型で必殺の一撃を繰り出した。

 倒れ伏す二人のペンギンをみて会場は静まり、そして翡翠の『双子』をたたえる声が一つ二つとあがる。やがて声はうねりのような歓声となる。
「これが、勝利……」
 ぽかん、としている鵙-玖の横で飛び跳ねて客席へのアピールを忘れないR7。
「ほら、お客さんがっかりしちゃうよ、もず姉!」
 こくりと頷いた鵙-玖は年頃の少女らしい笑みを満面に浮かべ、客席に手を振る。

 いつの間にか立ち上がっていたアルセドのペンギン二匹も、感服したという風に手を叩いていた。
 ――ジェイズ! ジェイズ! ジェイズ!
 二人を、『双翠』をたたえる声はやむことを知らない。
「ふふん、次の試合もみんなをびっくりさせちゃおうね、もず姉」

 実力派コンビとしての一歩を踏み出した二人は、どこまでも駆けていく――。

登場キャラクター

アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0