螺旋の双子星

電脳戦潜アプリェーリ イベントノベル(テーマ)翡翠電脳公社制作 蔭沢 菫納品 2023年05月01日 18時52分00秒

 最強を決めるのはいつも人の持つ価値観。そして人の欲は何度も『最強』を再現しようと繰り返し続ける。
 鵙-玖(アヴェラ・ウッチェロ)と 7R(通行人R)はそのような願望から作り出されたデュープであった。最強と呼ばれたコンビの再来を望むために作られた二体の偶像は、今初戦を迎えようとしている。

『翡翠の双子星!』
 嘘だ。鵙-玖はバトルグラウンドの中央で、ホロビジョンが映し出している映像に視線をやった。自分と『妹』の姿は仲睦まじさの化身そのもの。それを見て何度も味わった苛立ちが彼女にとりつく。
(『妹』である7R――管理呼称「七型リン」とわたしは――本当は――)
 7Rはそのようなことに気付かないのか、ふふん、と自信満々に声をかけてくる。
「じゃぁ、かっこよく決めちゃおっか、もず姉」
「そう、ですね」
 緊張感の無い相手の口調に鵙-玖の苛立ちが増す中、バトル開始のファンファーレが鳴る。

 単純なタッグバトルにこそ、タッグの練度と相性が出る。対戦相手はシュヴァーンの中堅デュープ。分かりやすい盾役と射撃役のコンビであった。
「魔法使いと騎士様ってやつだね? 最強コンビの実力を見せつけてやろうじゃん」
 自分の指示も聞かずに飛び出す7Rに内心で苦い顔をする鵙-玖であったが、『仲良し姉妹』という設定で売り出している以上そんな顔は表に出せない。
 遠く離れた7Rに短く通信を入れ――
「注意を引くから不意を突いて」
「ちょ、そこはこっちに合わせるべきじゃない?」
 返ってきた返事にいらっとなり――
「コンビネーションを忘れないで」
 思わずとげとげしい言葉を投げかける。ちらりと振り向いた7Rの目には
(コンビネーションの要は以心伝心でしょ?)
 と言いたげな不満が浮かんでいたが――7Rは短く頷いて遮蔽物の影に飛び込んだ。
 
 シュヴァーンの『騎士』は筋肉質な男性であったが、どちらかといえば慎重さと堅実さを併せ持った動きをする受けに特化したデュープであった。その上、鳴り物入りでやってきた『仲良し姉妹』については警戒心の塊であり、隙など全く無いように見えた。

「なんで正面から現れたのか、分からないでしょう」
 『騎士』を誘い出すために、鵙-玖は脚に着けた『何か』が入っていそうな箱を投げる。
 一個目。『騎士』はわざとらしい誘いにはひっからず、盾で『箱』を跳ね返す。刹那沢山の星が煌いて、『騎士』のセンサーと肉体の知覚を麻痺させる。その隙に、7Rが裏から連撃を仕掛ける――、はずであった。
 だというのに、7Rは手先に仕込んだ爪で正面から『騎士』を襲った。
 予想外の相方の動きに鵙-玖は
「なんでナルがここにいるの!?」
 と叫ぶ。何が――? と言い返そうとしたナル――7Rは気付かずに『魔法使い』の斜線上に入っており、彼女のライフルから放たれたレーザービームに片足を撃たれかけ……。
「へっへー、演算済みなんだから!」
 すんでの所でかわし、わざとらしいバックフリップと投げキッスの真似をする。その様子に観客は『パフォーマンスのために悪手をわざとやった』と勘違いし盛り上がる。
(何やってるの、あの子!)
 一方7Rと距離ができてしまった鵙-玖は、相棒の近くへ移動しようとするが、『騎士』がローラーダッシュを生かして間に割り込んでくる。
(後数歩――)
 二個目。鵙-玖から放たれた箱は別の中身。認識阻害の奥に隠されたプレゼントは、スリップを誘発する特製グリース。ローラーで勢いがついていた『騎士』は別の方向へ飛び、バランスを崩す。
(今よ、『ナル』)
 愛称で呼ぶ。不利な体勢になっている『騎士』は、まさに弱点をさらけ出している有様。
(はーい!)

 ダッシュ、跳躍、ダッシュ。『魔法使い』の射線を巧みに切りながら、即座に鵙-玖は『騎士』の前面に立つ。
「終わりですね、貴方」
 盾を掴もうと手を伸ばす転倒中の『騎士』。それを掴ませまいと鵙-玖は盾を脚で蹴飛ばし――そのまま身をねじって踵の『羽根』で追加攻撃に移る。
 甘い、と冷静な声が目の前の『騎士』から発せられる。
 鵙-玖の判断が一拍鈍る。
(この男、何の隠し武器を――)
その一拍で充分であった。盾を掴もうとしていたのも、声も、すべてブラフ。『騎士』はがしりと鵙-玖の踵を掴み、反動を生かして地面にたたきつける。ショック防御のためにすべての知覚情報が切断され――。
 鵙-玖に駆け付けようと慌てすぎた7Rが『魔法使い』に撃たれた姿をノイズ越しに見たのが、バトルでの最後の記憶であった。

「くやしーっ……負けたのはもずくのせいなんだからっ」
 控室で7Rが頬を膨らませる。それを聞いた鵙-玖は苛立ちも隠さず、
「黙ってシチリン。勝手に動いた貴方のせいでしょう」
 そう、返す。
「しちりんっていったー! ばかもずく!」
「口が悪いですね、間抜けの癖に」
 敵意と嫌気が澱んだ河のように横たわる中、二人は思う。

(わたし達は/アタシ達は、本当は)
 あまり仲が良くない。

登場キャラクター

アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0