風と闇のセッション

電脳戦潜アプリェーリ イベントノベル(テーマ)シュヴァーン・エレクトロニクス制作 佐嶋ちよみ納品 2023年05月12日 21時50分51秒

●
 瓦礫が散乱する荒涼とした市街フィールド。
 建造物は無いが、積み重なった瓦礫は高いもので2mはある。
 対峙するのは二人の少女、互いに今回が初めてのデュープバトルだ。

「バトルにおいては、ヤバ可愛いこそが真実、なのよ!」
「我ら、全身全霊を賭して真実を明らかに」

 紫のマントを被った少女・邪蛇姫(マッジ・ルー・エルバ)が、おっとり可愛い口調&サイコな笑顔で宣誓を。
 彼女より一回り小柄な太刀風(アスカ・タチカゼ)は、至って淡々と口上を述べた。
 バトルタイプ:ストレート、美少女対決は花形のひとつ。
 3mの間合いを取っての宣誓、からのセッションスタート!


●
「じゃじゃーん!」
 間合いを詰めんとする太刀風を阻むのは、マッジの蛇腹刀『O-Ro/chi(オロチ)』。
 背負った鉄箱から伸びるそれはリム化した両手・指の動きと連動し、正面突破を許さない。
「ふふ、びっくりした?」
「……負ける気はない」
 マッジの真正面で、蛇腹刀(オロチ)は網のように結集し大太刀の攻撃を柔らかに受け止めた。
(一撃で切り崩せないか)
 リーチに差は無いように見える。
 蛇腹刀が、更に伸びるとか射出されるといった機能を搭載していなければ、だけれど。
 無理に押さずバックステップで距離を取り、太刀風はこれからを考える。
 正々堂々真正面から。それが太刀風の信条。
(通常の力では断ち切れないのなら) 
「あれれ~? 逃げちゃうんだぁ~♪」
 太刀風が向かうのは、うず高く積まれた瓦礫。
 自身の視野確保と、「見える」ことで敵の油断を誘う。加えて――
「太刀風ちゃ~ん、あっそぼうよ!」
 笑顔のまま、マッジが追う。足元、左右、あらゆる障害を蛇腹刀で薙ぎ払いながら。
 幼子を食らわんとする大蛇のように、観客たちには映っていることだろう。

 ねぇ。
 もっとあたしを見て。
 もっと熱狂して。
 もっと、夢中にさせてあげるから。
 それがあたし。邪蛇姫(ヴィラン風アイドル)だから。
 笑顔の奥の狂気。
 マッジの瞳が剣呑に輝く。
 太刀風が登り切った瓦礫、それ自体を無軌道に斬り崩す!!


●
 それを待っていた。
 太刀風は、マッジが腕を左右へ広げ切る前に上空正面から接近する。

 高所を取った理由は。
 視野の確保。相手の油断。加えて、重力による攻撃力増加。

「……っ、ァア!!」
「まずは、2本」
 蛇腹刀の左2本が、リムとの接続を断たれた。
「いったァぁあああい!」
 ――なんて、泣くと思った?
 叫びながら、マッジは残る蛇腹刀で太刀風の側面を狙う。
「力比べなら得意だ」
 大太刀へ巻き付かせ、さながら綱引きの様相を呈する。
「ふぅ~ん」
「……っ、ひゃう!?」
 6本の蛇腹刀、1本だけがするりと抜けて、太刀風の脇腹をつつく。
 思わず、太刀風から外見相応の可愛らしい声が飛び出した。
「くっ!」
 目いっぱいの力で蛇腹刀を振り払う、つついた刃先は彼女の制服を微かに割いた。
「突き刺しちゃっても良かったんだけどぉ」
 あっさり終わっても、ファンが退屈じゃない?
 マッジは左右交互に蛇腹刀を地表へ打ち付け、破片を飛ばしながら太刀風の視界を奪う。
「仕留めなかったこと、後悔するぞ」
 振り払いきれないほどの礫を浴びながら、太刀風は突進を止めない。
 蛇腹刀は礫を飛ばす他方で、大太刀とも切り結ぶ。
 数が減り、同時に違う行動をしていることから初手の様にはいかない。
 そのうち、もう1本の蛇腹刀の接続を太刀風が断った。


●
 甲高い金属音が響く。
 蛇腹刀を弾き返し、太刀風が大きく踏み込む、身の丈より長大な大太刀を風より疾(はや)く振り下ろす!
「まぁだだよっ」
 攻撃へ回していない蛇腹刀を、背に隠していた。
 マッジは蛇腹刀1本を犠牲に両断を避け、反撃に転じる。刃はしなやかに、太刀風の上半身を浅く裂く。

「もういいかなぁ?」

 指先は、死を告げるため美しく踊る。
 左右から蛇腹刀が太刀風の小さな体へ巻き付く!
 肉へ食い込む痛みに、太刀風の表情もさすがに歪む。
 両手は塞がれた。しかし、その手から大太刀は離れていない。
 まだ、まだ――


●
 タイムアップを報せるサイレンが響き、マッジから愉悦の色が消えた。
「えーっ。もっと圧勝したかっ」

 ――ジャッジ。『太刀風』の勝利

「ウソでしょ……」
 なんで? あたし、こんなに元気だよ? 太刀風ちゃん、ボロボロだよ?
「……いい試合、だったと思う」
 拘束を解かれた太刀風は、たしかにボロボロだった。
 しかし声音に余裕があるのは、かくあるべきという本人の心構えと、深手に至らない立ち回りをしていたことにもよる。
(ひとつ間違えば負けていたかもしれない)
「う……ぐう」
(もう少し時間さえあれば、あたしの圧倒勝利だった!)

 真実の法廷において、あらゆる申し開きは成らない。


 正統派の力強い剣技を魅せた太刀風。
 邪道と呼ぶ者もいるかもしれない様々な技を繰り出したマッジ。
 デュープとしての二人の戦いは始まったばかり。
 互いに悔しさを飲み込んで、たしかに握手を交わした。

 次は圧倒的に勝つ、と宣言しあって。

登場キャラクター

アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0