60秒の手札
電脳戦潜アプリェーリ イベントノベル(テーマ)ヴァイオレット・コンピューティング制作 品部 啓納品 2023年04月26日 12時25分19秒
●
デュープ同士のトーナメント。準決勝カードは優勝候補、バイオレットコンピューティングのpA-BeLL。そして対するはロビンテクノロジーズのMGFことミリオン・ゴッド・ファーザーズ。
準決勝ということもあり、お互い拮抗しているかと思われていたのだが。
「虚けめ」
pA-BeLLが言い放つ。頭部のリムが妖しい輝きを放ち、MGFの右手のリムの攻撃を阻害する。
「如何に面妖な術を使おうとこの我には効かぬ」
相手は格上である。MGFはテキサスホールデムの放つトランプ型のエネルギー弾の”運”に文字通り賭けていた。だがそれを容易く撃ち抜かれ、相手のリムで制限がかかっていく。
「斯様な子供騙し、笑止千万」
やけになり、突っ込む。だが理性を欠いた彼の突撃を、pA-BeLLが分かっていないはずもなかった。
迷いのあるジャブは、虚しく空を切る。返事のように飛んできたキャノンの手痛い殴打。
横に吹き飛ばされ、MGFは地面に転がった。
ああ、強い。そんなことは知っていた。まだ、体力は残っている。だがどうしろというのだ。
「もう降参するの?」
AIヤーナに返事をするのも億劫だった。でも。
「がんばれー!」
しんとするフィールドに、子供の声が聞こえた。MGFには聞き覚えがある声。
――ああ。デビューしたての頃来てたガキじゃないか。あの時よりデカくなったなあ。声でわかるわ。
「ああくそ」
思わず悪態をついた。
手に力は入る。脚も動く。起き上がって立てる。頭はハッキリしている。相手の姿を視界に捉えられている。
鼻の片方の穴を親指で押さえ、思いっきり息を吐いて鼻血を鼻から抜く。
「ヤーナ。俺と地獄まで突っ込んでくれるか?」
「もちろん」
まるで細胞に刻み込まれた情報を思い出したかのようだった。
●
MGFの空気が変わった。それをpA-BeLLは感じていた。
しかし状況はこちらの方が有利だ。それは間違いない。落ち着いて凌ぎ切れば勝てる。その判断は間違っていなかった。
左腕を下げ、右腕を顔の前に持ってくるという構えを見せるMGF。
「何をしようと同じこと――」
ビームキャノンの照準をMGFに合わせ、撃ち放つ。しかしそれを膝と股関節の動きだけで容易く回避した。
軽快なステップで前へ、前へ、前へ。
MGFの脚は演算の反映結果が出力されるより速い。
視界の外から飛んでくるジャブ。完全に想定の範囲外。寸での所で防ぐ。しかし、その次に飛んでくるその右ストレートは、防ぎ切れなかった。
仮面を砕くほどの勢いで飛んできたその拳が、pA-BeLLを直撃。たまらず後ろに吹き飛ぶ。
重い一撃をもらった。しかし、演算は間に合った。
一撃のダメージ程度くれてやろう。僅かな負け筋を潰してこその完璧な勝利だ。
照準を再度合わせる。今度は命中。見事にその左肩を抉る。しかしMGFはそれを物ともせずにこちらに距離を詰めてくる。
ジャブ、右フック、左アッパー、ストレート。華麗なコンビネーション。
防御をするだけで手一杯だ。
なぜ、この者はここまで食らいつけるのか。
動揺を隠せないながらもストレートがアンテナリムを破壊していることを悟ったpA-BeLLは、MGFの腹部向けてキャノンを向ける。
リムが破壊されるとほぼ同時、MGFは甚大なダメージを喰らって地面に伏せた。
「よき死合いであった」
pA-BeLLは冷徹に言い放つ。ここは完膚なきまでに叩きのめしてこそ。それが最大の敬意というものだろう。
「だがこれで終焉ぞ。せめてもの慈悲よ。最後は苦しまずに堕ちると良い」
キャノンの先を向けたその直後。
「ふぇふぇふぇー!」
緊張感のない音が周囲にけたたましく響いた。MGFの傷が癒えていく。
MGFの左腕のリム、ジャックポットが息を吹き返した。それだけではない。アルパカの絵柄が出たのだ。文字通り大当たりだ。
派手な音楽をその身に纏い、MGFがこちらに飛び込んでくる。さっきよりずっと、いや比べ物にならないぐらい速いスピードで。MGFの上体が左右に無限大の軌道を描きながら揺れる。遠心力を付けて撃ち放たれたその連撃、デンプシーロール。
殺意を込められた拳に、pA-BeLLはたまらず膝をつき、崩れ落ちた。
●
試合が、決した。
「成る程」
pA-BeLLが悟ったかのように呟く。
「虚けは、我の方だった」
その声色は、柔らかく聞こえた。
「此度は汝の力を見誤った。故に我が負けた。当然の結果よ」
「……」
「琥珀の者、次に進むがよい。相応しき実力であった」
MGFは黙っていた。そしてpA-BeLLに近付いて、手を差し出す。
「強かったぜ。今まで戦りあってきた誰よりも」
pA-BeLLは差し出された手を見て、驚いているようだった。しかし、pA-BeLLはすぐにその手を握りしめた。
「それは我も同じ故」
両者の健闘を讃えるように、拍手と歓声が湧き上がる。その中で二人は、お互いの実力を確かめ合うように、固い握手をかわすのだった。
かくしてトーナメント準決勝戦は、MGFの勝利で幕を閉じた。
デュープ同士のトーナメント。準決勝カードは優勝候補、バイオレットコンピューティングのpA-BeLL。そして対するはロビンテクノロジーズのMGFことミリオン・ゴッド・ファーザーズ。
準決勝ということもあり、お互い拮抗しているかと思われていたのだが。
「虚けめ」
pA-BeLLが言い放つ。頭部のリムが妖しい輝きを放ち、MGFの右手のリムの攻撃を阻害する。
「如何に面妖な術を使おうとこの我には効かぬ」
相手は格上である。MGFはテキサスホールデムの放つトランプ型のエネルギー弾の”運”に文字通り賭けていた。だがそれを容易く撃ち抜かれ、相手のリムで制限がかかっていく。
「斯様な子供騙し、笑止千万」
やけになり、突っ込む。だが理性を欠いた彼の突撃を、pA-BeLLが分かっていないはずもなかった。
迷いのあるジャブは、虚しく空を切る。返事のように飛んできたキャノンの手痛い殴打。
横に吹き飛ばされ、MGFは地面に転がった。
ああ、強い。そんなことは知っていた。まだ、体力は残っている。だがどうしろというのだ。
「もう降参するの?」
AIヤーナに返事をするのも億劫だった。でも。
「がんばれー!」
しんとするフィールドに、子供の声が聞こえた。MGFには聞き覚えがある声。
――ああ。デビューしたての頃来てたガキじゃないか。あの時よりデカくなったなあ。声でわかるわ。
「ああくそ」
思わず悪態をついた。
手に力は入る。脚も動く。起き上がって立てる。頭はハッキリしている。相手の姿を視界に捉えられている。
鼻の片方の穴を親指で押さえ、思いっきり息を吐いて鼻血を鼻から抜く。
「ヤーナ。俺と地獄まで突っ込んでくれるか?」
「もちろん」
まるで細胞に刻み込まれた情報を思い出したかのようだった。
●
MGFの空気が変わった。それをpA-BeLLは感じていた。
しかし状況はこちらの方が有利だ。それは間違いない。落ち着いて凌ぎ切れば勝てる。その判断は間違っていなかった。
左腕を下げ、右腕を顔の前に持ってくるという構えを見せるMGF。
「何をしようと同じこと――」
ビームキャノンの照準をMGFに合わせ、撃ち放つ。しかしそれを膝と股関節の動きだけで容易く回避した。
軽快なステップで前へ、前へ、前へ。
MGFの脚は演算の反映結果が出力されるより速い。
視界の外から飛んでくるジャブ。完全に想定の範囲外。寸での所で防ぐ。しかし、その次に飛んでくるその右ストレートは、防ぎ切れなかった。
仮面を砕くほどの勢いで飛んできたその拳が、pA-BeLLを直撃。たまらず後ろに吹き飛ぶ。
重い一撃をもらった。しかし、演算は間に合った。
一撃のダメージ程度くれてやろう。僅かな負け筋を潰してこその完璧な勝利だ。
照準を再度合わせる。今度は命中。見事にその左肩を抉る。しかしMGFはそれを物ともせずにこちらに距離を詰めてくる。
ジャブ、右フック、左アッパー、ストレート。華麗なコンビネーション。
防御をするだけで手一杯だ。
なぜ、この者はここまで食らいつけるのか。
動揺を隠せないながらもストレートがアンテナリムを破壊していることを悟ったpA-BeLLは、MGFの腹部向けてキャノンを向ける。
リムが破壊されるとほぼ同時、MGFは甚大なダメージを喰らって地面に伏せた。
「よき死合いであった」
pA-BeLLは冷徹に言い放つ。ここは完膚なきまでに叩きのめしてこそ。それが最大の敬意というものだろう。
「だがこれで終焉ぞ。せめてもの慈悲よ。最後は苦しまずに堕ちると良い」
キャノンの先を向けたその直後。
「ふぇふぇふぇー!」
緊張感のない音が周囲にけたたましく響いた。MGFの傷が癒えていく。
MGFの左腕のリム、ジャックポットが息を吹き返した。それだけではない。アルパカの絵柄が出たのだ。文字通り大当たりだ。
派手な音楽をその身に纏い、MGFがこちらに飛び込んでくる。さっきよりずっと、いや比べ物にならないぐらい速いスピードで。MGFの上体が左右に無限大の軌道を描きながら揺れる。遠心力を付けて撃ち放たれたその連撃、デンプシーロール。
殺意を込められた拳に、pA-BeLLはたまらず膝をつき、崩れ落ちた。
●
試合が、決した。
「成る程」
pA-BeLLが悟ったかのように呟く。
「虚けは、我の方だった」
その声色は、柔らかく聞こえた。
「此度は汝の力を見誤った。故に我が負けた。当然の結果よ」
「……」
「琥珀の者、次に進むがよい。相応しき実力であった」
MGFは黙っていた。そしてpA-BeLLに近付いて、手を差し出す。
「強かったぜ。今まで戦りあってきた誰よりも」
pA-BeLLは差し出された手を見て、驚いているようだった。しかし、pA-BeLLはすぐにその手を握りしめた。
「それは我も同じ故」
両者の健闘を讃えるように、拍手と歓声が湧き上がる。その中で二人は、お互いの実力を確かめ合うように、固い握手をかわすのだった。
かくしてトーナメント準決勝戦は、MGFの勝利で幕を閉じた。