辿りゆく日々
キャラクターノベル制作 錘里納品 2020年11月23日 18時59分18秒
●
――さて、どうしたものか。
それは、紋具に使う触媒の調査兼調達のためにエラトゥーン都市同盟に遠出をしてきたついでにと立ち寄ったギルド支部にて。
掲示板に張り出される様々な依頼を眺めながら、ヨナ・シャハムは思案した。
三大国の一つであるシルトラース帝国の滅亡の報を聞いた昨今、冒険者の拠点であるリブラネスタは随分と騒がしくなったものだ。
授恵者であり冒険者であるヨナにとっても当然関わりのある話題ばかりではあるが、その大きな事件に紛れて大なり小なり様々な案件が日々張り出されているのがこのギルドの掲示板というものだ。
こと、リブラネスタを離れた都市ともなれば、訪れる冒険者の比率の関係か、日常に即した依頼の率が上がったものだ。
一先ずは路銀を稼ぐことが目的だ。大きな仕事の備えもない身であるならなおのこと、こういった仕事を片付けるのが良いだろう。
と、考えたところまでは良いが。
(どれもそれなりの準備がいるんだよなぁ……)
遠出のために備蓄の調達が必要なもの。防寒具の用意がいり様なもの。様々だが、どれもこれもが、依頼を受けて即出立というわけにはいかないものばかりだった。
そういう間の悪い日だったのかもしれないが、冷やかしだけで帰るのもバツが悪い。仕方がないかと頭を掻いたヨナは、薬草採取の依頼を剥がし、提出する。
ドワーフ王国に近い地域にしか生えていない種類の薬草であること、クリーパーとの対峙の可能性がゼロではないことなど簡単な説明の後に受領して、その日は宿にて準備を整えることとした。
「……さて、どうしたものか」
掲示板を眺めていた時にも考えていた台詞が、今度は口をついて出てくる。
宿の調達のためにも資金は必要だ。しかし受けた依頼は即日完遂が難しい内容。
となれば、己の技術力で稼ぐよりほか、あるまい。
幸いにしてそう小さくはない街だ。紋具の製造や修理を行う工房も存在していることは、ギルドへ向かう道中で確認済み。
仕立て屋、パン屋、ちょっと立派な酒場とが立ち並ぶ表通りを横切り、角を一つ曲がった路地の裏。年季の入ったランプにぶら下がる小洒落た看板が印象的な工房だった。
木造りの扉を押せば、ギィ、と軋んだ音と共に開かれ、見慣れた――同じように工房を営む身としてどことなく親近感の湧く――空間に立つ、痩身の男性と目が合った。
「ごめんください、少々ご相談があるのですが、お話よろしいでしょうか」
●
穏やかな性格の店主と話をつけ、紋具の修繕を手伝うことで一泊分の宿代を無事に確保できたヨナは、安宿の室内、先程押してきた扉と同じような軋み方をする寝台に身を投げて、ふぅ、と息を吐いた。
「明日は朝イチで出て、薬草を採取して……それで二泊分には、なるか」
帰るまでにもう一仕事必要だろうか。都市を移動すれば依頼の傾向も変わるだろうから、そちらに期待しよう。
もう一度、今度は短く息を吐いてから、ヨナは気持ちを切り替えて、今回の遠出の主目的だった触媒を荷物から取り出し、机の上に広げた。
集めたものは鉱石から植物まで様々だ。中でも興味深かったのは、炎のエーテルを付与すると燃えることなく薪のように熱を帯びる綿毛。
これを用いれば新しい紋具を作ることが可能だろうか。それとも工房に存在する紋具の中に相性が良いものが存在するだろうか。
暖房器具、あるいは湯を沸かす道具に適していそうだ。どちらもこれからの季節には需要が高まるものだし、新しく作れるならば喜ばしいことだ。
考えるだけでわくわくする。叶うなら今すぐにでも研究をしたいくらい。
それが出来ぬ環境であるのは惜しいけれど、明日からの依頼に対する気持ちを向上させるには十分だった。
こんなにも高揚するのは、旅の間はお預け気味だった紋具を久々に弄ったせいかもしれない、なんて。
肩を竦めたヨナは、集めた触媒達を丁寧に荷物に戻しながら、昼間訪れた工房を思い起こす。
「そう言えばあの工房はもう暖房が用意してあったな……少し大型だったけど、デザインは洒落てたんだよな……」
旅をする過程で他人の仕事場や個人の台所へ立ち入る機会は少なくないヨナだが、作る人間が変わればデザインや細かな仕組みも変わる紋具と向き合う度、より良い刺激を受け、新たな観点に気づけるのが、楽しかった。
あぁ、そう言えばこの都市に辿り着く前に訪れた街では――。
「っと……いい加減なにか食べに行くか」
ともすればどこまでも思案にふけってしまいそうなヨナの腹が空腹を訴えて現実世界に意識を引き戻してくる。
宥めるように撫で付けて、ヨナは鞄一つ手にとって、部屋を後にするのであった。
――さて、どうしたものか。
それは、紋具に使う触媒の調査兼調達のためにエラトゥーン都市同盟に遠出をしてきたついでにと立ち寄ったギルド支部にて。
掲示板に張り出される様々な依頼を眺めながら、ヨナ・シャハムは思案した。
三大国の一つであるシルトラース帝国の滅亡の報を聞いた昨今、冒険者の拠点であるリブラネスタは随分と騒がしくなったものだ。
授恵者であり冒険者であるヨナにとっても当然関わりのある話題ばかりではあるが、その大きな事件に紛れて大なり小なり様々な案件が日々張り出されているのがこのギルドの掲示板というものだ。
こと、リブラネスタを離れた都市ともなれば、訪れる冒険者の比率の関係か、日常に即した依頼の率が上がったものだ。
一先ずは路銀を稼ぐことが目的だ。大きな仕事の備えもない身であるならなおのこと、こういった仕事を片付けるのが良いだろう。
と、考えたところまでは良いが。
(どれもそれなりの準備がいるんだよなぁ……)
遠出のために備蓄の調達が必要なもの。防寒具の用意がいり様なもの。様々だが、どれもこれもが、依頼を受けて即出立というわけにはいかないものばかりだった。
そういう間の悪い日だったのかもしれないが、冷やかしだけで帰るのもバツが悪い。仕方がないかと頭を掻いたヨナは、薬草採取の依頼を剥がし、提出する。
ドワーフ王国に近い地域にしか生えていない種類の薬草であること、クリーパーとの対峙の可能性がゼロではないことなど簡単な説明の後に受領して、その日は宿にて準備を整えることとした。
「……さて、どうしたものか」
掲示板を眺めていた時にも考えていた台詞が、今度は口をついて出てくる。
宿の調達のためにも資金は必要だ。しかし受けた依頼は即日完遂が難しい内容。
となれば、己の技術力で稼ぐよりほか、あるまい。
幸いにしてそう小さくはない街だ。紋具の製造や修理を行う工房も存在していることは、ギルドへ向かう道中で確認済み。
仕立て屋、パン屋、ちょっと立派な酒場とが立ち並ぶ表通りを横切り、角を一つ曲がった路地の裏。年季の入ったランプにぶら下がる小洒落た看板が印象的な工房だった。
木造りの扉を押せば、ギィ、と軋んだ音と共に開かれ、見慣れた――同じように工房を営む身としてどことなく親近感の湧く――空間に立つ、痩身の男性と目が合った。
「ごめんください、少々ご相談があるのですが、お話よろしいでしょうか」
●
穏やかな性格の店主と話をつけ、紋具の修繕を手伝うことで一泊分の宿代を無事に確保できたヨナは、安宿の室内、先程押してきた扉と同じような軋み方をする寝台に身を投げて、ふぅ、と息を吐いた。
「明日は朝イチで出て、薬草を採取して……それで二泊分には、なるか」
帰るまでにもう一仕事必要だろうか。都市を移動すれば依頼の傾向も変わるだろうから、そちらに期待しよう。
もう一度、今度は短く息を吐いてから、ヨナは気持ちを切り替えて、今回の遠出の主目的だった触媒を荷物から取り出し、机の上に広げた。
集めたものは鉱石から植物まで様々だ。中でも興味深かったのは、炎のエーテルを付与すると燃えることなく薪のように熱を帯びる綿毛。
これを用いれば新しい紋具を作ることが可能だろうか。それとも工房に存在する紋具の中に相性が良いものが存在するだろうか。
暖房器具、あるいは湯を沸かす道具に適していそうだ。どちらもこれからの季節には需要が高まるものだし、新しく作れるならば喜ばしいことだ。
考えるだけでわくわくする。叶うなら今すぐにでも研究をしたいくらい。
それが出来ぬ環境であるのは惜しいけれど、明日からの依頼に対する気持ちを向上させるには十分だった。
こんなにも高揚するのは、旅の間はお預け気味だった紋具を久々に弄ったせいかもしれない、なんて。
肩を竦めたヨナは、集めた触媒達を丁寧に荷物に戻しながら、昼間訪れた工房を思い起こす。
「そう言えばあの工房はもう暖房が用意してあったな……少し大型だったけど、デザインは洒落てたんだよな……」
旅をする過程で他人の仕事場や個人の台所へ立ち入る機会は少なくないヨナだが、作る人間が変わればデザインや細かな仕組みも変わる紋具と向き合う度、より良い刺激を受け、新たな観点に気づけるのが、楽しかった。
あぁ、そう言えばこの都市に辿り着く前に訪れた街では――。
「っと……いい加減なにか食べに行くか」
ともすればどこまでも思案にふけってしまいそうなヨナの腹が空腹を訴えて現実世界に意識を引き戻してくる。
宥めるように撫で付けて、ヨナは鞄一つ手にとって、部屋を後にするのであった。