金蘭之契

キャラクターノベル(グループ)制作 広大野人納品 2023年03月10日 10時09分10秒

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 ティルム領都の大通りを麗しい二人の娘が歩く。
 既に噂として一部の領民には話が伝わっていたようで、市民達は仰々しくあるいは気さくに挨拶を掛けてくれた。
 尊敬と親愛とそして、少しばかりの羨望と共に。
 それらは未来の領主夫人であるミア=リゼルだけではなく、共に並び歩くルベア・ベルニにも向けられていた。その理由はティルム領の成り立ちに関わる事ではあるのだが、二人の関係性が更に輪に掛けている事も大きいだろう。
「……ティルム家の始まりに、あのような過去があったとは驚きでした」
 思い出したようにミア=リゼルが言葉を紡ぐ。
 白桃色したドレスは、やがて義母と呼ぶべき御方が用意してくれたものだ。ただでさえ線の細いミアを生りたての果実のような可愛らしさに演出させている。
 一方、ルベアもティルム家が用意した青を基調としたドレスを纏っていた。
 折角用意してくれたのだから、遠慮し過ぎるのも失礼というもの……が、どうも慣れない。差別の目で見られる事が多かった反動か、この街で歓迎されている事がむず痒いのだ。
「私が何かしたわけではないんだけど」
 そう思っているのは彼女(ルベア)だけ……と内心、ミアは心の中で思う。
 ここに至るまでの経緯を振り返れば、彼女がいなければ、ミア自身もエナハルトも無事で済まなかった事があったのだ。
 ただ、それを伝えても彼女が謙遜してしまうのは目に見えていた。
「嫌ですか?」
「嫌じゃないけど、ちょっと慣れが必要かも」
 ルベアは苦笑を浮かべる。
 領主館で次期領主の伴侶となるミアが家臣達に甲斐甲斐しく世話されるのは理解できるが、それと同等なレベルでルベアにも給仕がついて来るのだ。
 貴族令嬢の生活を疑似体験しているような、そんな気分にもなる――自分には似合っていないと。
 そんなルベアの態度にミアは少しホッとした様子だった。
「ずっとドキドキしていました。ルベアさんに拒否されたら……悲しいので……」
 両手を胸の辺りをあてて呟くように発した。
 二人はそのまま広場中央の噴水の縁に腰を掛ける。温水が混じっているのか、陽の暖かさのせいか、冷たさは感じない。
 透き通るような水に触れるミア。その所作の一つひとつが丁寧なものであった。
「……せんせいから、いずれ貴族令嬢を演じられるよう、色々な事を学びました。まさか、この身に貴族の血が本当に流れているとは、思いませんでしたが……」
「驚きはしたわ」
 率直にルベアは応えながら、ミアの事をしっかりと見つめ、話を促した。
 ミアはコクンと頷く。
「……せんせいは、もしかして見越しておられたのかもしれません。この身体を巡る血の真実に、いつか私が圧し潰される事が無いようにと」
 今となってはどんな意図があったのか知る由はない。
 ただ一つ、言えるのはあの時、学んで得た事が、大きな意味を成しているという事だ。
「私、この血も、ルベアさんとも、しっかり向き合っていきたいです」
 キラキラと宝石のように光る瞳がミアの決意を表していた。
 ルベアはそれを真っ直ぐに見つめ返して受け止める。
「ミアさんの気持ちに目を背けたりはしないよ。私に望む事があるのなら、なんでも言って欲しいわ」
「でしたら……私の前から、いなくならないでほしいです。こんな、わがままでも……聞いてくださいますか?」
 人はいつか別れがある。
 それは戦いの中で唐突に訪れる事もあるだろうし、病や不幸な事故もそうだろう。なにより、人には寿命があるのだ。遅かれ早かれ、人はいなくなるものだ……それを承知の上でのミアのわがままにルベアは微笑を浮かべて応えた。
「居なくなったりしないわ。ミアさんが正式にティルム家に入ったら、今まで通りとはいかないと思うし、私も、もしかしたら帝国で仕事をするかもしれないけど……でも、大事な時はいつでも駆け付けるわ」
「ルベアさん……」
 嬉しさのあまり涙を浮かべるミアの頭をルベアはそっと抱き締める。
 それは、この少女の愛らしい事もあるけど、それ以上に、気恥ずかしさを隠したかったから。
「……本音言うと、私とも向き合いたいって言ってくれた、ミアさんのわがままが……凄く嬉しかった。だから、私は出来る限り近くで、見守りたいし、支えたい。ずっと……ずっとね」
「はい。ありがとうございます、ルベアさん。私、とても嬉しいです」
 噴水から響く穏やかな水の流れをただ聞きながら、長閑な時間が過ぎる。
 やがて、ルベアの胸に頭を埋めたままだったミアが静かに離れた。
「ルベアさん、帝国でのお仕事ってやっぱり……」
「色々あるからね」
 あの植物研究者が何をしでかすか分からないのもある。
 もちろん、ミアもそれは分かっている。ずっと傍に居て欲しいと思う反面、彼女(ルベア)の歩みは止まらないと思うし、止まって欲しくもないと思う。
 複雑な想いが心の中で渦を巻いた……と、そこに一つ、閃いた。
「故郷というものが、これからの私にあるとしたら、それはきっとティルム領(ここ)になると思うんです。だから……ルベアさんにとっても、ここが故郷になるように、私、精一杯頑張りますね!」
 ぐっと顔を近づけて力説するミア。
 強引な理論ではあるが、間違ってはいない。だって、ミアは未来の領主夫人だ。客人の一人や二人、迎えても誰も彼も、エナですら文句は言わないだろう。
「ありがとう、ミアさん。でも……エナハルトさんに申し訳ない、かな……って」
「そんな事はありません!」
 遠慮がちに応えたルベアの台詞に被せるようミアが即答した。
「ルベアさんはこんなにも美人で可愛いのに、ダメだという方がどうかしています!」
「び、美人で、か、可愛い!? ミ、ミアさんの方が断然、可愛いし!」
 思わぬ理由によって慌てるルベア。
 貴族の中には綺麗処を集める事によって領地経営や外交に活かしている所もあると噂には聞いた事はあるが……。
「私の事はいいんです。それに、エナには絶対に手を出させませんから!」
「それだと、私がまるでミアさんの妾みたいね」
「それでいきましょう! 今日からティルム領(ここ)はルベアさんの故郷です!」
「そ、そうね……」
 ルベアは勢いに押されるままに応える。
 ただ、『故郷』という響きが少し胸の奥を突いた気がした……自分の本当の故郷……そして、父親の事が……。けど、それを表に出す事はしなかった。
 楽し気に未来を語るミアが、とても嬉しそうだったから。
「まずは、エナから説得しないと!」
 強い意気込みを見せるミアだが、実は取り越し苦労である。
 ミアの妾……という事ではなく、ルベアとミアの関係性、冒険者としての活躍と授恵者という時点で、安定した治政の為には貴重な人材だからだ。
 おまけにティルム家と領内についていえば、半獣人への差別意識はない。領民達の心証も良いものになるだろう。
 そんな事は知らず、ミアの思い描く未来はどんどん膨らんでいた。
「エナを説得したら、ご両親や家臣の方々にもキチンとお話をしないと……あ……ご親族の方々にもですね。それに屋敷に出入りしている商人さん達はもちろん、領民の皆さんから、よからぬ噂が立てられないように、しっかりとした根回しもしておかなければなりませんし。そうだ! ルベアさんのお部屋は私の部屋の隣に……」
「ミアさん? もしも~し、ミアさ~ん」
 もはや妄想レベルの思考に辿り着いて我を失ったミアを、ルベアは苦笑を浮かべながら呼び続けるのであった。

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アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0