聴撃者
キャラクターノベル制作 革酎納品 2023年02月11日 16時37分37秒
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リーンエス王国北部の町ホークヤードは、傍目に見れば行政の細かな視点が行き届いた優れた町のひとつといえるだろう。しかし市井民の目線から見れば、治安が完璧であるとはお世辞にもいえない。
町の存続を揺るがす様な大きな事件は滅多に発生しないが、町民個々の生活に影響を与える様な個別の事件は絶え間なく発生している。
実際、年間に少なくない数の様々な事件が勃発しており、ホークヤード警備隊には難事件解決を目的とした捜査担当の部局が置かれていた。
その捜査担当部局に籍を置く警備隊員デリック・エズモンドは二月に入ったばかりの寒い日、強盗殺人事件の捜査の為に町中へと繰り出した。
時刻は深夜、事件現場は高級仕立て屋の店舗近くの路上。その高級仕立て屋オーナーの壮年男性が後頭部を強打され、死亡した。
その日の売上金を持っていた彼は、何者かによって背後から不意打ちを喰らったらしい。
そしてデリックが部下の警備隊員を率いて現場に急行した際、被害者の遺体の他にもうひとり、重傷を負って気絶している若い男性の姿を認めた。
「すぐに医者を!」
デリックは部下に指示する一方、事件発生当時に近くを巡回していた他の警備隊員に、当時の状況を説明させた。
彼らの話によると、重傷を負って気絶している男性は被害者を襲った犯人を捕まえようとしたらしいが、どうやら返り討ちに遭った様だという話であった。
そして更に、彼らはたまたま現場に居合わせたふたりの男を容疑者として取り押さえたが、同時に、目撃者らしき人物の確保にも成功していた。
否、正確には聴撃者だった。
「何……? 盲目だって?」
デリックは思わず、眉間に皺を寄せて訊き返した。件の聴撃者なる人物は中年男性で、聴覚がすこぶる良いということらしい。よくよく聞けば、どうやら授恵者との由。
(盲目の授恵者か……超聴覚の持ち主だということなら、何か事件解決に繋がりそうな『音』を聴いているかもな……)
デリックはふたりの容疑者を連れてくる様にと部下達に命じる一方、盲目の授恵者にもここまで足を運ばせるよう手配した。
通常、目撃者或いは聴撃者を容疑者と引き合わせるのは危険を伴うが、盲目とはいえ授恵者であるならば、然程の心配は無いとデリックは判断したのである。
その盲目の中年授恵者は、デイル・ヴィンソンと名乗った。
●
デリックは挨拶もそこそこに、デイルに足労願ったことをひと言詫びてから、事件発生当時の『音』について聞き出そうとした。
「はて、どうだったかな……」
デイルは幾分困った様子で小首を捻った。彼は確かに、耳は良い。が、事件発生の瞬間は現場に対して殊更に耳を欹てていた訳でもなかった為、意識して何かの音を聞き留めていたという訳でもなかったからだ。
「何か硬くて重い物で、ひとを殴った様な音がしたのは覚えているんだけどね」
殴打する音は都合二回、聞こえたのだという。
最初の一回目で被害者の後頭部を殴打して殺害し、二回目の殴打音は犯人を取り押さえようとした若い男性の胸を強打し、昏倒させた時の音だと見て良い。
(凶器は鈍器か何かか)
デイルの証言を聞きながら、デリックは腕を組んで暗い夜空を見上げた。容疑者は既に確保しているから、次に探すべきは凶器だ。
部下に周辺捜索を命じる一方、デリックはふたりの容疑者の接見に当たった。
連れてこられたのは腕っぷしの良さそうな筋肉質の中年男と、華奢な印象の背の低い若い男。
ひとを殴り殺し、更に取り押さえようとした別の人物も意識不明の重体に追い込んだ程の犯人なのだから、戦闘力は相当なものだ。
デリックが見るところ、筋肉質の中年男の方が犯行が可能という第一印象だったが、しかし思い込みでの捜査はご法度だ。まずは慎重に調査してゆく必要がある。
筋肉質の中年男はカンデオ、若い華奢な男はリューイと名乗った。
カンデオもリューイも、事件現場近隣の住民ではない。何かの用事でたまたまこの近くを通りがかっただけだと主張していた。
そして面倒なことだが、ふたりはお互いに相手が犯人だといい出し、殺害の現場も目撃していた、などと証言し始める始末だった。
どちらかが嘘をついているのは間違い無いのだろうが、どうやって見抜けば良いのか――デリックは内心で頭を抱えた。
(こうなると、後は凶器か……何か決定打になりそうな痕跡があれば良いんだが……)
半ば祈る様な思いで、デリックは部下達の凶器捜索を待った。
●
凶器の発見を待つ間、デリックはカンデオとリューイそれぞれの聴取に臨んだ。
まずはカンデオからだ。
「あの野郎が、おっさんと若い兄ちゃんを殺りやがったんだ」
「具体的に、どうやって凶行に及んだのかは見ていたかい?」
デリックが問い返すと、カンデオは幾分自信無さそうに、しかしはっきりと答えた。
「殴りかかってたぜ。おっさんには頭に、若い兄ちゃんには胸んとこに」
まさか、とデリックは思わず言葉を失った。リューイのか細い腕に、ひとを殺したり意識不明の重体に追い込む程の筋力があるとは思えない。
だがここでカンデオは、リューイが拳に何かを着けていたと言葉を繋いだ。金属製の手袋みたいなものだったとカンデオは語る。
(いや……それでも、殺せるか? そんな程度のもので……)
疑念を覚えながらも、今度はリューイからの聴取へと移った。
ここでリューイも、カンデオと同様の証言を口にした。
「えぇと、カンデオさん、でしたっけ? その方は手に金属製の手袋状の物を着用して、まずは被害者の後頭部を、それから若い男性の左胸部を立て続けに殴打されていましたよ」
異口同音だが、お互いに同じ様な凶行を目撃したといっている。
デイルの証言からも、殴打する音が聞こえてきたというから、ふたりの容疑者の答弁に偽りは無さそうだ。
カンデオとリューイ、いずれが嘘をついているにしても、証言内容が同じだから矛盾点を衝くことも不可能であろう。仮に凶器が発見出来たとしても、本当に真犯人を割り出すことが出来るのだろうか。
デリックは少しばかり、不安になってきた。
その時、部下のひとりが金属製の手袋を発見したとの報告を寄せてきた。
ランタンの灯りの下で、それは鈍い銀色の輝きを放っていた。
受け取ったデリックは、試しに自ら装着してみた。多少大き目で、油断するとすぐに脱げ落ちてしまいそうだった。
(確かに硬くて、重い……それに表面にこびりついたこの血痕。これが凶器で、間違い無さそうだな)
問題は、これを使ってどうやってひとを殺害するか、である。
通常の鈍器に比べると、明らかに重量で劣る。如何に硬いとはいえ、この程度の重量で殺害が可能なのか。
(何か見落としがあるんじゃないか……?)
自らに対して疑念を抱いたデリック。ここで重要なポイントを見誤ると、事件は迷宮入りしてしまう。
この凶器には、何か特別な秘密が隠されてはいないだろうか。
デリックは自身の手から取り外したそれを、色々な角度からまじまじと眺めた。
そして、あることに気付いた――手袋の内側に、銘柄の様な文字が彫り込まれていたのである。
それはホークヤードの東に位置する紋具工房の店舗名であった。
つまり、これは紋具なのだ。
デリックはすぐさま、件の紋具工房に部下を走らせ、この金属製手袋の正体を探らせた。
●
再び、デイルへの聴取が必要となった。
デリックは盲目の授恵者を少し離れた角へと連れてゆき、殴打音の前に、ひとの声は聞こえなかったかと問いかけた。
するとデイルは、そういえばと漸く何かを思い出した様子で二度三度、頷き返した。
「けど、どうしてひとの声が聞こえただなんて思ったんだい?」
「実は凶器となった金属製の手袋は紋具でね。装着者が攻撃対象の部位を声で命じることで、驚異的なスピードで殴り掛かることが可能な代物なんだ」
近年、一部の商家や役人の間で護身用に出回る様になっている代物らしい。授恵者相手には然程の威力は発揮しないが、一般人相手ならば十分に殺害可能な凶器と化すのだという。
今回の事件の犯人も、相手を攻撃する直前に殴打する部位を言葉に出していた筈だ。
「一回目は後頭部、二度目は胸部、っていってた様な気がするなぁ」
「ありがとう。これで、犯人が分かった」
デリックはすぐさま部下に命じて、リューイを拘束させた。
不当逮捕だ何だと大声で喚き散らしながら、警備隊員達に連行されてゆくリューイ。
残されたカンデオは、何故リューイが嘘をついているのが分かったのかと訊いてきた。
「証言の中の、いい回しだよ。あんたは後頭部じゃなくて、頭。胸部じゃなくて、胸だといっていた。だが奴ははっきりと、後頭部に左胸部だといっていた。デイルが聞いた紋具への命令も、後頭部と胸部だったんだよ」
そこですぐにピンときた、とデリックは苦笑を浮かべた。
対するカンデオは、育ちの悪さが幸いしたぜ、などと豪快に笑っていた。
「俺ぁ頭悪ぃから、後頭部だの胸部だの、そんな小難しいのはよく分かんねぇや」
結局のところ、決定打になったのは矢張り『音』だった。それも個人特有の口調という、絶対に覆しようの無い響き。
今回ばかりはデイルの耳の良さに感謝せざるを得なかった。
その後、リューイの取り調べが進み、被害者たる高級仕立て屋オーナーから奪った金銭が、近くの溝に隠されていたことまで判明した。
そして紋具工房の店員も、購入者のリューイの特徴を覚えていた為に、いよいよもって有罪が確定した。
リーンエス王国北部の町ホークヤードは、傍目に見れば行政の細かな視点が行き届いた優れた町のひとつといえるだろう。しかし市井民の目線から見れば、治安が完璧であるとはお世辞にもいえない。
町の存続を揺るがす様な大きな事件は滅多に発生しないが、町民個々の生活に影響を与える様な個別の事件は絶え間なく発生している。
実際、年間に少なくない数の様々な事件が勃発しており、ホークヤード警備隊には難事件解決を目的とした捜査担当の部局が置かれていた。
その捜査担当部局に籍を置く警備隊員デリック・エズモンドは二月に入ったばかりの寒い日、強盗殺人事件の捜査の為に町中へと繰り出した。
時刻は深夜、事件現場は高級仕立て屋の店舗近くの路上。その高級仕立て屋オーナーの壮年男性が後頭部を強打され、死亡した。
その日の売上金を持っていた彼は、何者かによって背後から不意打ちを喰らったらしい。
そしてデリックが部下の警備隊員を率いて現場に急行した際、被害者の遺体の他にもうひとり、重傷を負って気絶している若い男性の姿を認めた。
「すぐに医者を!」
デリックは部下に指示する一方、事件発生当時に近くを巡回していた他の警備隊員に、当時の状況を説明させた。
彼らの話によると、重傷を負って気絶している男性は被害者を襲った犯人を捕まえようとしたらしいが、どうやら返り討ちに遭った様だという話であった。
そして更に、彼らはたまたま現場に居合わせたふたりの男を容疑者として取り押さえたが、同時に、目撃者らしき人物の確保にも成功していた。
否、正確には聴撃者だった。
「何……? 盲目だって?」
デリックは思わず、眉間に皺を寄せて訊き返した。件の聴撃者なる人物は中年男性で、聴覚がすこぶる良いということらしい。よくよく聞けば、どうやら授恵者との由。
(盲目の授恵者か……超聴覚の持ち主だということなら、何か事件解決に繋がりそうな『音』を聴いているかもな……)
デリックはふたりの容疑者を連れてくる様にと部下達に命じる一方、盲目の授恵者にもここまで足を運ばせるよう手配した。
通常、目撃者或いは聴撃者を容疑者と引き合わせるのは危険を伴うが、盲目とはいえ授恵者であるならば、然程の心配は無いとデリックは判断したのである。
その盲目の中年授恵者は、デイル・ヴィンソンと名乗った。
●
デリックは挨拶もそこそこに、デイルに足労願ったことをひと言詫びてから、事件発生当時の『音』について聞き出そうとした。
「はて、どうだったかな……」
デイルは幾分困った様子で小首を捻った。彼は確かに、耳は良い。が、事件発生の瞬間は現場に対して殊更に耳を欹てていた訳でもなかった為、意識して何かの音を聞き留めていたという訳でもなかったからだ。
「何か硬くて重い物で、ひとを殴った様な音がしたのは覚えているんだけどね」
殴打する音は都合二回、聞こえたのだという。
最初の一回目で被害者の後頭部を殴打して殺害し、二回目の殴打音は犯人を取り押さえようとした若い男性の胸を強打し、昏倒させた時の音だと見て良い。
(凶器は鈍器か何かか)
デイルの証言を聞きながら、デリックは腕を組んで暗い夜空を見上げた。容疑者は既に確保しているから、次に探すべきは凶器だ。
部下に周辺捜索を命じる一方、デリックはふたりの容疑者の接見に当たった。
連れてこられたのは腕っぷしの良さそうな筋肉質の中年男と、華奢な印象の背の低い若い男。
ひとを殴り殺し、更に取り押さえようとした別の人物も意識不明の重体に追い込んだ程の犯人なのだから、戦闘力は相当なものだ。
デリックが見るところ、筋肉質の中年男の方が犯行が可能という第一印象だったが、しかし思い込みでの捜査はご法度だ。まずは慎重に調査してゆく必要がある。
筋肉質の中年男はカンデオ、若い華奢な男はリューイと名乗った。
カンデオもリューイも、事件現場近隣の住民ではない。何かの用事でたまたまこの近くを通りがかっただけだと主張していた。
そして面倒なことだが、ふたりはお互いに相手が犯人だといい出し、殺害の現場も目撃していた、などと証言し始める始末だった。
どちらかが嘘をついているのは間違い無いのだろうが、どうやって見抜けば良いのか――デリックは内心で頭を抱えた。
(こうなると、後は凶器か……何か決定打になりそうな痕跡があれば良いんだが……)
半ば祈る様な思いで、デリックは部下達の凶器捜索を待った。
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凶器の発見を待つ間、デリックはカンデオとリューイそれぞれの聴取に臨んだ。
まずはカンデオからだ。
「あの野郎が、おっさんと若い兄ちゃんを殺りやがったんだ」
「具体的に、どうやって凶行に及んだのかは見ていたかい?」
デリックが問い返すと、カンデオは幾分自信無さそうに、しかしはっきりと答えた。
「殴りかかってたぜ。おっさんには頭に、若い兄ちゃんには胸んとこに」
まさか、とデリックは思わず言葉を失った。リューイのか細い腕に、ひとを殺したり意識不明の重体に追い込む程の筋力があるとは思えない。
だがここでカンデオは、リューイが拳に何かを着けていたと言葉を繋いだ。金属製の手袋みたいなものだったとカンデオは語る。
(いや……それでも、殺せるか? そんな程度のもので……)
疑念を覚えながらも、今度はリューイからの聴取へと移った。
ここでリューイも、カンデオと同様の証言を口にした。
「えぇと、カンデオさん、でしたっけ? その方は手に金属製の手袋状の物を着用して、まずは被害者の後頭部を、それから若い男性の左胸部を立て続けに殴打されていましたよ」
異口同音だが、お互いに同じ様な凶行を目撃したといっている。
デイルの証言からも、殴打する音が聞こえてきたというから、ふたりの容疑者の答弁に偽りは無さそうだ。
カンデオとリューイ、いずれが嘘をついているにしても、証言内容が同じだから矛盾点を衝くことも不可能であろう。仮に凶器が発見出来たとしても、本当に真犯人を割り出すことが出来るのだろうか。
デリックは少しばかり、不安になってきた。
その時、部下のひとりが金属製の手袋を発見したとの報告を寄せてきた。
ランタンの灯りの下で、それは鈍い銀色の輝きを放っていた。
受け取ったデリックは、試しに自ら装着してみた。多少大き目で、油断するとすぐに脱げ落ちてしまいそうだった。
(確かに硬くて、重い……それに表面にこびりついたこの血痕。これが凶器で、間違い無さそうだな)
問題は、これを使ってどうやってひとを殺害するか、である。
通常の鈍器に比べると、明らかに重量で劣る。如何に硬いとはいえ、この程度の重量で殺害が可能なのか。
(何か見落としがあるんじゃないか……?)
自らに対して疑念を抱いたデリック。ここで重要なポイントを見誤ると、事件は迷宮入りしてしまう。
この凶器には、何か特別な秘密が隠されてはいないだろうか。
デリックは自身の手から取り外したそれを、色々な角度からまじまじと眺めた。
そして、あることに気付いた――手袋の内側に、銘柄の様な文字が彫り込まれていたのである。
それはホークヤードの東に位置する紋具工房の店舗名であった。
つまり、これは紋具なのだ。
デリックはすぐさま、件の紋具工房に部下を走らせ、この金属製手袋の正体を探らせた。
●
再び、デイルへの聴取が必要となった。
デリックは盲目の授恵者を少し離れた角へと連れてゆき、殴打音の前に、ひとの声は聞こえなかったかと問いかけた。
するとデイルは、そういえばと漸く何かを思い出した様子で二度三度、頷き返した。
「けど、どうしてひとの声が聞こえただなんて思ったんだい?」
「実は凶器となった金属製の手袋は紋具でね。装着者が攻撃対象の部位を声で命じることで、驚異的なスピードで殴り掛かることが可能な代物なんだ」
近年、一部の商家や役人の間で護身用に出回る様になっている代物らしい。授恵者相手には然程の威力は発揮しないが、一般人相手ならば十分に殺害可能な凶器と化すのだという。
今回の事件の犯人も、相手を攻撃する直前に殴打する部位を言葉に出していた筈だ。
「一回目は後頭部、二度目は胸部、っていってた様な気がするなぁ」
「ありがとう。これで、犯人が分かった」
デリックはすぐさま部下に命じて、リューイを拘束させた。
不当逮捕だ何だと大声で喚き散らしながら、警備隊員達に連行されてゆくリューイ。
残されたカンデオは、何故リューイが嘘をついているのが分かったのかと訊いてきた。
「証言の中の、いい回しだよ。あんたは後頭部じゃなくて、頭。胸部じゃなくて、胸だといっていた。だが奴ははっきりと、後頭部に左胸部だといっていた。デイルが聞いた紋具への命令も、後頭部と胸部だったんだよ」
そこですぐにピンときた、とデリックは苦笑を浮かべた。
対するカンデオは、育ちの悪さが幸いしたぜ、などと豪快に笑っていた。
「俺ぁ頭悪ぃから、後頭部だの胸部だの、そんな小難しいのはよく分かんねぇや」
結局のところ、決定打になったのは矢張り『音』だった。それも個人特有の口調という、絶対に覆しようの無い響き。
今回ばかりはデイルの耳の良さに感謝せざるを得なかった。
その後、リューイの取り調べが進み、被害者たる高級仕立て屋オーナーから奪った金銭が、近くの溝に隠されていたことまで判明した。
そして紋具工房の店員も、購入者のリューイの特徴を覚えていた為に、いよいよもって有罪が確定した。