今日も今日とて、研究日和

キャラクターノベル制作 ウケッキ納品 2023年02月13日 13時54分04秒

●今日も今日とて、研究日和

 いつもの実験施設。そのキッチン部分には様々な調理用の素材が揃えられている。
 調理道具や調味料さえも揃えられたその場所に【ストレガ・L・リベルガストラ】はいた。
 彼女の傍らには【極み・揚げ物の歴史】という資料が置かれている。
 揚げ物の資料を基に、様々な唐揚げを試した結果、一体どの味付けが一番鶏肉を美味しく食べられるのだろうか、と気になったストレガはそれを突き詰めてみることにしたのだ。
 資料にある味付け数種類を作り、比較をすることでそれぞれの良さや食べた食感などを記録するつもりのようだった。
「まず最初は……下味はシンプルに塩コショウ。肉を良く揉んでいく」
 一口大に切った鶏むね肉へ小瓶の蓋を開けて、塩コショウを適度に振ると袋に入れた鶏肉をよく揉んでいく。胡椒の香りが心地良い。
 ある程度揉んだ所で小麦の粉を投入、少しの水と一緒に更に揉んでいく。すると鶏肉は粘質となった小麦の粉に包まれた状態となる。こうすれば衣が付きやすくなるのだ。
「他の揚げ物の下準備も進めていく必要があるか、ふむ……ではさくさくと準備していくのだっ」
 別の鶏肉を袋に詰め、そちらにはにんにくのすりおろしを加えていく。にんにくの香りが実に食欲をそそりそうだ。
 また別の袋には香草やハーブを刻んだ物を振りかけて揉んでいく。こちらは香草特有の爽やかな香りが広がって清涼感に溢れている。
 どちらも最後には小麦の粉と水を加えて、粘質の粉をまとった状態にするのは同じだ。
 これをもう3セット、今度は鶏もも肉で行う。合計6セットの鶏肉の下準備が完了した。
「ふう……6セットも作るのは流石に疲れたのだ。だが、これも食の研鑽の為……待っているのは肉の饗宴、揚げ物の宴! 頑張っていくのだぁー!」
 ストレガは気合を入れなおし、一気に揚げる為の大鍋に火を入れていく。揚げる前にある程度熱する、これもまた美味しい揚げ物の秘訣だ。今回は一度に揚げる量は少ないと言えども6回分ある。油もある程度余裕をもって用意されていた。
 まずはシンプルな塩コショウの唐揚げをパンを砕いた衣をつけて上げていく。油に鶏肉を投入すると、じゅわっと細かい泡が小気味のいい音と共に弾けた。
「温度は十分、これならカラっと揚がりそうなのだ。それにしても、揚げ物は罪な食べ物……こう調理中も香りにそそられてしまうのだ。うう、が、我慢なのだっ」
 美味しそうな香りに若干負けそうになりながらも、ストレガはシンプルな味付けの鶏ももの唐揚げと鶏むねの唐揚げを揚げ終えた。
 皿に盛りつけたストレガは誘惑に負ける前に、次の唐揚げを揚げ始める。今度はにんにくを加えたタイプの唐揚げだ。
「はうぅっ! こ、これは先程よりも更に、業が深い……! にんにくの香ばしい匂いが、甘い誘惑となって襲ってくる……実に恐ろしいのだ」
 揚げながら、ストレガはメモに『揚げている最中は、香りに注意』と走り書きする。生半可な精神の持ち主では、たちまち誘惑に負け、味見と称してぱくぱくと食べてしまうことだろう。
 悩ましいにんにくの香りと格闘しながら、ストレガは何とかにんにくを加えた唐揚げを揚げ終わる。
 とはいえ、唐揚げは一度揚げれば終わりではない。今終わったのは、まず最初の揚げである。この後は二度揚げが待っているのだ。
 先に揚げた二種類の唐揚げを休ませている間、最後の一種類であるハーブの唐揚げを揚げ始める。これは先程と違い、揚げていると香草の爽やかな香りが辺りに広がっていった。
「ふむふむ、香草を入れると揚げ物臭さが少々薄まる、と。さっきのよりも少しだけカラっと揚がっている気がするのだ?」
 じっと揚がった唐揚げをストレガは眺める。見た目にも先程の二種よりこのハーブの唐揚げの方がカラっと揚がっている気がする。あくまで微妙な違いの為、気のせいかどうかは定かではないが。
「これで全ての最初の揚げが完了したのだ。では二度揚げをしていく、これが唐揚げの衣をカリっとさせる秘訣なのだ」
 休ませていた唐揚げを大鍋に投入していく。まずは塩コショウの唐揚げだ。再び肉が揚がる小気味のいい音が辺りに響いた。
 二度揚げは最初の揚げよりも短時間でよい。あまり長く揚げ過ぎてしまうと縮んで硬くなってしまうからだ。休ませている間に染み出た油でふやけた衣の表面をカリっとさせるのが目的となる。
 手際よくストレガはささっと二度揚げを済ませていく。罪な香りが充満し、ごくりと喉が鳴った。
「空腹はスパイス、スパイスぅ……なのだぁ」
 力ない声を出しながら、ストレガは耐えていた。彼女にはわかっている、ここで味見をすれば、確実に止まらなくなり、ノンストップゴーゴー状態になってしまうことが。
 額に滲んだ汗を手の甲で拭うと、ストレガは何とか塩コショウの唐揚げとにんにくの唐揚げを揚げ終える。
「あ、あとは……ハーブの唐揚げ、なのだっ。あと、一種類で……肉の饗宴が!」
 食べたくなる気持ちをぐっと抑え、ストレガは最後の揚げに入る。残る揚げ物はハーブの唐揚げのみ。ここが正念場だった。
 休ませていたハーブの唐揚げの入った器を持つと、ささっと油に投入していく。じゅわぁっという音が何とも食欲を誘う。
「これが終われば……肉の饗宴、これが終われば肉の……饗宴っ!」
 自分に言い聞かせるように、ストレガは空腹感を精神力で捻じ伏せ、一つ、また一つとハーブの唐揚げを揚げていく。油を切る為の器に乗せる際、ふわっと香るハーブの香りが何とも罪深い。
 最後の一つを油を切る為の器に乗せた時、ストレガは柄にもなく小さくガッツポーズをした。それほどに空腹との戦いは辛かったのだろう。隣のメモには『一度に6セットは揚げるべからず』と記されていた。

 こうして苛烈な揚げ物との戦いを終えたストレガはテーブルにつき、湯気を立たせる唐揚げたちと改めて対面する。ごくりと喉が鳴った。空腹もそろそろ抑え込むのが限界だ。
「まずはシンプルな奴からいくのだ」
 フォークでまずはシンプルに塩コショウで味付けした唐揚げを刺し、口に運ぶ。さくっと衣をかじるいい音が響き、じゅわっと肉汁が口の中に広がった。熱々の唐揚げの肉のなんとも美味しい事か。
「はむっ、ふむっ、塩コショウだけというシンプルな味付けだが……肉の旨味を良く引き出しているのだ。肉を食べている、という感じがとっても美味いのだ」
 ごくんと飲み込み、次にストレガはにんにく入りの唐揚げへと手を伸ばす。一つを選び、口へと運んだ。
 ざくざくっと唐揚げの衣を咀嚼する度に、旨味が溢れ出し彼女の口内でにんにくが踊る。目を閉じ、ストレガは旨味に震える。
「くぅうう……これは実に心が躍る組み合わせなのだ! にんにくの旨味もさることながら、肉汁と肉の味をにんにくが更に引き立てている! まさにキングオブザ唐揚げなのだッ!」
 掲げるように唐揚げを空に突き出す。そうしなければいられないような、そんな美味さがあったのだろう。
「さて、最後はハーブの唐揚げ。これはまだ作ったことのない組み合わせなのだ、未知数……いざ、実食!」
 はぐっとハーブの唐揚げにストレガはかじりつく。その瞬間、香草の爽やかな香りが口いっぱいに広がり、先程までの唐揚げによる口内の油感を一気に吹き飛ばす。清涼感のあるハーブのおかげで何個でも食べられてしまいそうだった。
「これは、ほうほう……爽やかな口当たり、油を消し飛ばすハーブの心地よさ。決して主張はしないが、忘れさせもしない、そんな唐揚げなのだ!」
 一通り今回作った唐揚げを食べたストレガは総評にうつる。まだ残っている唐揚げを頬張りながら、メモ書きしていく。
「鶏むね肉は総じて鶏もも肉よりもさっぱり楽しめる印象。数がいけそうである、鶏もも肉の方は味が濃く、旨味に長けておかずに最適、と」
 メモ書きが終わるのと、唐揚げを食べ終わるのはほぼ同時であった。何とも言えない心地の良い満足感が到来しているのは、良い唐揚げを作れた証だろう。
 少しだけぷくっと膨れたお腹を撫でながら、ストレガはのんびりと椅子の背もたれに身を預けるのだった。

 翌日、彼女は食糧倉庫のじゃがいもエリアにいた。
 数種類のじゃがいものどれを今日の研究に使おうかと、吟味している。
「これは……味は良く、ホクホクの仕上がりに。こっちは甘みとしっとりした食感……どちらを使うべきか」
 最終的に彼女の手にある二種類のじゃがいもが最終選考に残った。
 片方は丸く、芽の生える部分が多くごつごつしているじゃがいも。
 もう片方は細長く、楕円のような形状をしたじゃがいも。こちらは芽の生える部分が浅めだ。
「どちらも甲乙つけがたいポテトになるのだ、ふむ……どうすべきか、今日は調味料の調合がメイン。一番合いそうなのは……」
 しばらく悩んだ後、ストレガは長細い方のじゃがいもを選んだ。こちらの方がしっとりしているからか、調味料の研究に合うと判断したようだ。
 ある程度の量をカゴに詰めると、ストレガはそれを背負ってキッチンの方へ向かう。今日の研究はキッチンで行うからだ。
 キッチンに着くと、カゴを下ろしじゃがいもの下準備。よく水で洗い、土を流す。更にナイフで丁寧に皮をむいて芽を取り除いていく。
 全ての皮むきと芽取りが終わったら、それぞれのじゃがいもを細長くなるようにカットしていく。厚さはまあまあ厚くしておく。この方がホクホク感が出る。
 カットが終わると、ストレガは器に入れたじゃがいもを水にさらす。ざぶざぶと手で軽く洗ってやり、白く濁った水を捨てる。これを水がある程度白くなくなるまで繰り返した。こうすることで、じゃがいものでんぷん質が落ち、揚がりがホクホクに仕上がるのだ。
 大鍋に油を入れ、火をくべて熱していく。しばらく待ってから一つだけ、じゃがいもを投入。ちゃぽんっと入ったじゃがいもの周りにふつふつと泡が浮かび上がった。
「ふむ、そろそろ頃合いなのだ。ポテトは揚げの温度が命、ではさくさく揚げていくのだ!」
 油が跳ねないように気を付けながら、ストレガはカットされたじゃがいもたちを油へと入れていく。じゅわぁっと食欲をそそる音が響き渡った。
「やはり揚げ物はこの音が良いのだ」
 うんうんと誰に応えるでもなく頷きながら彼女はてきぱきとじゃがいもを揚げていく。揚がった傍から器に盛り付け、ポテトの量は増える度に彼女のお腹が鳴った。やはり良い香りは食欲を増進する。
 そして揚げ終わったストレガは、ポテトの油が程よく切れるのを待ちながら調味料の調合に入った。
 今回目指すのは、ポテトにもっとも合う調味料の追求。塩や胡椒の他に様々な香草を使用する。塩辛い物から甘い、辛い物まで実に多種多様だった。
 調合しながら熟考した結果、最適な調味料は二つに絞られた。
 まずは単純な塩と胡椒を合わせたもの。これはさっぱりと食べることができるだろう。オーソドックスな代物だ。
 もう一つ用意したのは、少々辛みがあっても良いと、唐辛子といくつかの香り高い香草を合わせたもの。更に色どりに赤い野菜や黄色い野菜のパウダーを加えた。
 それぞれを少しだけ手に取って舐めてみる。どちらも上々の味わいだった。
「この調味料なら、ポテトが美味しく食べられそうなのだ。これはどちらも甲乙つけがたい……っ」

 器に盛られたポテトを二分割に分け、それぞれに塩コショウと辛味パウダーを振りかける。
 まずは塩コショウのポテトを一口。コショウの香りが広がり、塩の確かな旨味が舌の上で弾けた。
 次にいただくのは辛味パウダーのポテト。唐辛子の辛味の刺激が舌を楽しませ、配合された野菜の旨味が染みわたる。
「くぅうう……どちらも美味いのだ! ふむふむ、これはどっちが良いとかではなく、いっそ二つ合わせて小皿に用意するのが最適解、二つの味が楽しめて舌にもきっと嬉しいのだ」
 ポテトを食べた結果、調味料の詳細をストレガはメモしていく。笑顔が零れながら書いているのはきっとポテトが思った以上に美味しかったのだろう。
 書きながらストレガはある疑問が思い浮かぶ。
「このポテト……薄くして揚げればもっと、美味しいのでは?」
 少し気になってしまったらもう止められないのがストレガという人物。
 ささっと用意を始め、予備で持ってきていたじゃがいもを使用して彼女は再び用意を始めていく。
 洗って皮をむき、芽を取ったじゃがいもを今度は先程と違い、薄くスライスしていく。
 水で晒してでんぷんを取った後、水気を軽く拭き取っていく。
 そして、熱した油で満たした大鍋へ投入。唐揚げやポテトとは違い、軽く泡が弾ける音が響く。
 薄くスライスされているからか、揚がるのが早く、唐揚げ程は時間が掛からず早々に揚げ終わった。
「では実食……まずは塩コショウ。むぐっ、はむはむ……ッ! これは、手軽に揚がる上に歯に心地よいパリパリの食感! くぅっ、塩コショウが効いて何枚でもいけてしまうのだぁ! はむはむ、むぐごくんっ……これは、つ、罪の味なのだ」
 揚げ物はとても美味しいが、油の関係上あまり多くは食べられない事が多い。胃袋の限界が来る前に油の限界が来るというものだ。
 それは体重の増加を促し、女性のとっては死活問題となるだろう。夜中などに食べればそれはもうある意味、罪という他ない。
 それでもこの薄くスライスし揚げたじゃがいもはそんな罪など気にするなというべき味を誇るのだ。食感といい、味といい誘惑が過ぎる。
 夜中の小腹が空いた時間、目の前にこれが出されたら……誰が逆らえるかというものだろう。
 ストレガは傍らのメモに『罪の味。食べ続けてしまう恐ろしい魅力。注意されたし』と書き加えた。彼女とて、腹に余分な肉がつくのを良しとはしない。

 ひとしきり腹がふくれたストレガは油で汚れた身を清めようと、風呂を沸かした。以前製作したお手製の風呂だ。
 衣服を脱ぎ、その豊満な乳房を晒しながら今日の湯に使うハーブを選ぶ。今日は香りよりも清涼感を感じる方をチョイス。
 自らハーブを潰すようにちぎり、適当に湯に浮かべていく。ハーブ類はすり潰して使うものだが今日はお手軽に手でもぎったのだ。
 身体を洗ってから湯にゆっくりと浸かり、ふぅっと息を吐く。暖かい湯が研究で疲れた体に染み渡っていく。
「……一仕事終えた後はやっぱり湯に浸かるのが一番なのだ。うむ、作って良かったと言えるのだ」
 湯に浸かりながら、ストレガはふと風呂を作る際に裸のストレガを見てしまった人物の事を思い出す。
 彼はストレガを見るなり、前屈みになっていた。それは何だったのだろうか?
「ふむ……それも研究する必要があるかもしれないのだ。知識には、無駄な物はないというものだし。とはいえ、協力してくれる者がいるといいのだが……」
 もしもそれを研究するならば、男性にとって大変恥ずかしい研究になるだろう。思い返しても協力してくれる者がパッと思い浮かばない。
 彼女には羞恥心はなく、研究の為ならばと色々とすることは問題はない。そちらの方面への興味がないわけでもないわけだし。
 とはいえ、研究の協力対象がいないのならば一人ではどうしようもない問題ではあるのだが。
「それならば、あの男……逃がすべきではなかったかもしれない、ふむ……惜しい事をしたのだ」
 いずれ、捕まえてみるべきかとか考えている辺り、ストレガの研究心の高さが伺える。
 湯をすくい、肩にかける。流れる湯が雫となって肌の上を流れ、ぷかぷかと湯に浮かぶストレガの谷間へと落ちていく。
「ハーブでここまでの効果があるのだ、今度は香り高い花を使用してみてもいいかもしれないのだ。もしくは、そう……花から水分を抽出して――――」
 研究肌な彼女のこと、気になることがあれば場所を考えずに熟考してしまう。
 だがそういった考えから、新たな研究のきっかけがつかめることは少なくはない。
 そうした研究から新技術が生まれたり、新たな調理方法の発見や見知らぬ料理などの考案ができたりするのかもしれないのだ。
 風呂というものはリラックス空間でもあるが故についつい考えが捗り、今日も長風呂となってしまうストレガなのだった。

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アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0