生徒会庶務のバトン

キャラクターノベル(グループ)制作 おおくまねこ納品 2023年02月18日 11時43分37秒

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「お待たせしました! ネーヴェさん。すみません、廊下で職員さんに呼び止められちゃって」
 ネーヴェ・グラヌローザが誰もいない生徒会室の前で待っていると、長い髪を馬の尻尾のように振り回し、リサ・ベイカーが小走りにやってきた。
「お気になさらず。私(わたくし)も今来たばかりです」
「すぐ開けますね」
 リサは鍵をガチャガチャと回し、扉を開けた。生徒会室の中には誰もいない。今日は二人だけの貸し切りである。

「パンクリアース学園生徒会室へようこそ。まあ、固くならず適当に座って下さい」
 リサに勧められ、ネーヴェは生徒会室の椅子にしずしずと腰を下ろした。大きなテーブルの上には、学園の様々な書類の他に、大量のクッキーやキャンディが所狭しと置かれている。これらの書類やお菓子や、今日の生徒会庶務の業務の引継ぎの為に『先代』のリサが用意したものだ。

「リサ様、今日はよろしくお願いします。長年積み重ねられてきているものの根本部分は大切に、丁寧に取り扱いたいですから……自分なりのやり方を模索するにも、まずは今までの流れを知っておくことは大事なことだと思っております」
「こちらこそよろしくお願いします。熱意のある方が後任で嬉しいです。机の上のお菓子は適当につまんでください。いっぱい買ってきたんで」
「ありがとうございます。ずいぶんたくさんございますね……」 
「実は行きつけのお店でクッキーの特売をやってまして。つい買いこんじゃいました」
「そうなのですか」
 柔和な微笑みを交わす二人。こうして、リサからネーヴェへの引継ぎがスタートした。

「こっちが、物品の購入手続きの申請書です。けっこう適当なこと書いて出してくる生徒さんもけっこういるので、チェックの際の注意事項が色々あります。それも軽く説明しておきます」
「なるほど、助かります」
「分からないことがあれば、何でも聞いてくださいね」
「はい。では、この予算申請書のことなのですが……」

 リサが自分が実際にやった仕事を例に挙げながら、ネーヴェに庶務の業務について説明していると、いつの間にか時計の長針が一周していた。

「つい説明に熱が入っちゃいました。少し休憩しましょうか」
 時計の針が一周していることに気付き、リサは一旦手を止めた。

「そうですね。お菓子はリサ様が持って来て下さいましたから、私はお茶を淹れますね」
 ネーヴェはポットでお湯を沸かし、お茶の用意を始めた。紋具でいつでもお湯を作れるような設備があるのは、莫大な資金力を持つパンクリアース学園ならではである。

「どうぞ。特製のブレンドティーですの」
「わ、いい香り。いただきます」
 ネーヴェはそっとカップをリサの前に置くと、芳醇な香りが鼻をくすぐった。

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「――物品購入手続きやら、イベント申請手続きについてはこれくらいですね。あとは、会計や副会長など、他の役職との職務の線引きについても説明しておきましょう」
「はい。お願いいたします」

 パンクリアース学園の生徒会はフラットな組織で、会長、副会長といった肩書のイメージとは異なり、制度上の役職の上下関係はない。与えられた権限そのものは同じだし、五人全員のハンコが揃わなくても、役員単独での意思決定が可能である(学園の雰囲気として、「生徒会長と副会長は上級貴族であるべき」、「五役員の内、会長・副会長に二つは別格」みたいな風潮はあるが、あくまで雰囲気だけである)。そういった生徒会組織の内情を、リサはネーヴェに前置きし、実際の役職ごとの役割分担の説明に入った。

「上下関係はないですが、役員の種別に応じた業務の割り振りはもちろんあります。庶務・書記・会計の三役は学校内部の事務作業……学園の規定、執行予算などを生徒へ降ろしていく作業がメインの業務となります。生徒会長と副会長は……事務仕事もありますが、どちらかというと対外的な挨拶とか……外回りの仕事がメインですね」
「なるほど……確かに、生徒会長様と副会長様は華やかなイメージがございますね」
 リサの言葉に、ネーヴェはクッキーを一つ摘みながら頷く。
「あと、留守がちな冒険者への配慮というわけではないでしょうが、生徒会には事務作業が得意な『生徒会付き職員』さんが配置されておりまして、役員が不在の場合も生徒会の業務は滞りなく回ることになってます」
「生徒会付き職員……そのような方がおられたのですね」
「そうなんです。職員さん達は生徒会のように全員一年で交代ってわけでもないですから、経験豊富で頼りになりますよ」

 リサの代より以前……すなわちフォルトゥナ学園長の改革以前の生徒会は、能力も熱意もない学園生が学園内のパワーバランスにより役員となることも少なくなかった。そういった問題児の事務能力をサポートするため、生徒会付き職員の存在は必要不可欠だったのだ。

「ざっくりになっちゃいましたが、こんなところですね。要は、生徒会の一番大事な仕事は生徒からの陳情などの窓口になることですね。……ま、トラブルはいざとなったら、会長に投げるのが正解です。貴族同士の喧嘩の仲裁とかは上級生の方が得意でしょうし」
「なるほど、よくわかりました。リサ様、ありがとうございます。資料、とても分かりやすかったです」
 ネーヴェはぺこりとお辞儀をした。
「最低限だけの引継ぎですが、基本的にはネーヴェさんのやり方で良いと思います。もし実際にやってるうちに分からないこととかでてきたら、遠慮なく私を捕まえて下さいね!」
「はい、ありがとうございます。――リサ様、この後よろしければ私とお茶会をしませんか?」
「いいですね、まだお菓子もたくさん残ってますし」
 ネーヴェのお誘いに、リサはにっこり笑った。

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「リサ様はお料理が得意なのですね」
「はい、最近はお菓子も修行中です。クッキーぐらいならなんとか」
「プリンはどうでしょうか?」
「プリンですか。学園の設備をお借りできればなんとか……」

「うちに来たばかりの頃の黒猫(アーテル)は、とてもやんちゃで……」
「アーテルちゃんも生徒会デビューさせましょうよ! 生徒会室付猫にしましょう!」
 
 お茶会は盛り上がり、空が茜色に染まるまで続いた。

「すっかり話し込んでしまいましたわね。そろそろ下校しましょうか」
「あ、もうこんな時間ですか。ではそろそろお開きにしましょう」
 二人はティーカップやお菓子のゴミを片付けた後、生徒会室を出た。

「私は鍵の返却とかあるので、ここで失礼しますね」
「承知しましたわ。本日はありがとうございました。ではまた明日」
「ええ、また明日」
 ネーヴェはぺこりとお辞儀をし、先に生徒会室から出ていった。その手には、リサからもらったたくさんのメモが握り締められている。
(過去の生徒会の方々が紡ぎ上げてきたものに、私達今期生徒会の色を乗せて、次代へ受け渡していきたいですね)

 リサは職員室に鍵を返しに行く前、なんとはなしに生徒会室に戻り、窓から見える景色を眺めてみた。校庭では地面からにょきにょき生えてくるゴーレムを生徒達が剣でバシバシ叩いていた。運動系のクラブだろう。

「引退したらここに入れなくなるってわけではありませんが、いざとなると、ちょっと寂しいですね。……ネーヴェさん、頑張って下さいね」
 しばらく窓から見える景色を眺めた後、リサは慣れ親しんだ生徒会室に別れを告げた。こうして、リサからネーヴェへと、生徒会庶務のバトンは受け継がれたのである。

登場キャラクター

アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0