蒸気の中で彼女は想う

キャラクターノベル制作 ウケッキ納品 2023年01月07日 09時49分09秒

●蒸気の中で彼女は想う

 大きな竃の前で【ストレガ・L・リベルガストラ】は材料を確認している。今回持ってきたのは彼女なりに、ある書物で読んだとある物を制作する為の材料だった。
 事の始まりは数時間前。
 前に制作した竃を利用した風呂を更に良い物へとグレードアップさせる為にストレガは風呂に関する書物を漁っていた。
 いくつか薬湯の種類はあれど、風呂をグレードアップとなると思いの他あまり良い案が出ない。
 さてどうしたものかと考えていた所、ある書物が目に留まる。それは【ソドレ・エスト・オプティムス】と題された一つの本。
 作者は不祥なれど、そこに掛かれていた知識にストレガは目を輝かせる。なぜなら彼女が求めていた答えがそこにあったからだった。
 書物には【サウナ】と呼ばれる設備が事細かに記されており、材料や作り方に至るまで書物の作者による研究と探求の記録がそこにあったのだ。
 風呂をパワーアップさせるにはこれが必要だと思ったストレガは材料を集め、今に至る。
 前回制作した風呂のすぐ隣にストレガはお手製のサウナを建て始める。
 まずはサウナを密閉した空間とする為の場所づくり。
 普通の木製の小屋でもよかったのだが、それよりも適したものがある。簡易で建てられ、まさにお手軽な物が。
 それはゲルと呼ばれる遊牧民が使用する移動式のテントのような物だった。
 木製の枠と布で構成されたこのゲルは建てることに関すれば、小屋を建築することよりも圧倒的に容易だ。中心から放射状に延びた木枠が梁となり、しっかりと全体を支える。その上から布を被せれば屋根は完成。後は木組みの壁を布で覆えば設営は完了だ。なお、この木組みの壁部分は折りたたむことができ、撤去する時も簡単に行うことができる。流石は移動を続ける遊牧民の知恵と言った所か。
「後は床に木を敷いて、ストーブも入れるのだ」
 出来上がったゲルの中に本来は絨毯などを床として敷くのだが、今回は違っていた。サウナにするには絨毯では用をなさない。ある程度、均等に切断した木をストレガは床に敷き詰めていく。その中心にはサウナの命となる、ストーブが設置された。薪をくべて火を出すタイプの物だ。勿論、ストーブの筒部分は屋根から出すことを忘れない。
 だがこのストーブ、普通の物とは少々形が違っていた。
 ストーブの上部に鉄の籠のような物が追加されている。その籠には手のひらに収まる程度のごろごろとした石が詰められていた。これがサウナには必須というわけだ。
「ふう……少々休憩なのだ」
 設営を終え、後はサウナ内の温度が上がるのを待つだけとなったストレガは薬湯を風呂で沸かしながら、のんびりと休憩する。建てるのが容易とは言え、一人でこなすには作業量が多い。疲れないわけがない。
 風呂を沸かしている火加減を見ながら、ストレガは書物に目を走らせる。
「サウナ中には適度な休憩が必要……整う? ふむ、よくわからない言葉なのだ」
 そうこうしている内にサウナは丁度いい温度になり、風呂も沸いた。湯気がもうもうと立ち昇り、さあ入れと言わんばかりに主張している。
 すっと立ち上がるとストレガは、ばさばさと衣服を脱ぎだした。褐色の美しい肌に走る紋様が余すことなく晒される。標準よりかなり大きい双丘も形の良い美尻も惜しげもなく曝け出し、彼女は一糸纏わぬ姿となったのだ。だが辺りの目などストレガは全く気にしていない。どうやら羞恥心という感情はないらしい。
 もしも周囲に男性がいれば、彼女の美しく魅力的な肢体に目が釘付けとなるだろう。羞恥心がないストレガは悲鳴をあげることもなく、きっと男性の反応に興味を示すに違いない。彼女の探求心は底知れないのだから。
 彼女は沸かした薬湯を使用して、湯に入る前に体を洗っていく。湯に入る前に体を洗うのがマナーだとどこかの国の誰かが言っていた気がするからだ。
 まずは頭をわしゃわしゃと洗う。湯で汚れを流し、次に洗いに入るのは腕。伸ばしながらしっかりと汚れを落としていく。
 脇を流し、双丘をむにむにと持ち上げながら裏側まで持ち上げてしっかりと洗っていく。ここにはよく汗をかくので念入りに洗う必要があった。
 尻や足を流し終え、ぐっと伸びをするとストレガは立ち上がる。汚れは落ちた、後はサウナに向けてしっかりと身体を芯から温める。
 ふるふると豊かな双丘を揺らしながら、彼女はゆっくりと薬湯へ身体を沈めていく。温かい湯に体を沈めると心地よい感覚が全身に染み渡るかの如く広がっていった。日々の冒険稼業で疲労した身体には嬉しい休息だろう。
 今回、彼女がセレクトしたのは疲労回復に効果のある薬草やハーブの数々。それらは身体を癒しながら、良い香りで彼女を楽しませている。
 湯を手ですくい、身体にかけてやるとまたじんわりと暖かさが彼女の身体に伝わる。なお、その双丘はやはり浮力を持っているからか、ぷかぷかと湯に浮かんでいる。この時ばかりは、肩に掛かる重荷から彼女は解放されていた。その重量は大きな果実を常にぶら下げていると想像するといいだろう。持つ者は常にその重荷に耐えているのだ。まあ、持たぬ者にとってはそれすら想像できないわけだが。

 体がぽかぽかと温まってきた段階で、ストレガは湯から上がると体を適度に拭いてからサウナの中へと足を踏み入れた。
 まず足を踏み入れた彼女は目を丸くする。そう、思った以上にサウナとなったゲルの室内は気温が高かったのだ。高温となっているサウナの中はむんむんと熱気が渦巻いており、暑さが苦手な人物であれば5分も持たないだろう。
 だが、ストレガは嬉しそうに笑って見せた。彼女は暑いというよりも成功した、やはり作って良かったと思う感情の方が上なのだろう。
 満足げな表情のまま、ストレガはすたすたと歩くとストーブ近くに設置された木製の椅子に腰かける。
 ちらりとストーブを見ると、火は薪を足す必要がないほどごうごうと燃えていた。ストレガは額から流れる汗を拭い、息を吐く。
 しばらく時間がたつと最初は平気な顔をしていたストレガにも少々暑そうな顔が見え始める。
 体には点々と玉のような汗が浮かび上がり、双丘の谷間には汗が少し溜まっていた。
 のんびりとサウナで過ごす彼女はふと、前に呼んだ書物の事を思い出す。
 その書物には、重要な話し合いはサウナでという一文があった。
 嘘か真か信用のできない情報ではあるが、今ではああ、なるほどと納得する部分もある。
 サウナでは高温に自らの身体をわざと晒し、ある意味で極限状態に近づくのだろうとストレガは考えた。そんな状態では嘘や建前といった物は強靭な精神力でもない限り意味をなさないだろう。そうなれば。サウナでの話し合いというのも頷ける。
「しかし、辛かったら出ればいいと思うのだ……?」
 そう、サウナでの暑いという状態は強制されたことではない。自ら進んで暑い状況に身を晒していることになる。
 暑ければ出ればいい、まさにその通りだ。だがしかし、その書物の言う所では……そんな話し合いの席では誰も先に退出したがらないという。
「ふむぅ……なぜ、誰も出ないのだ?」
 腕を組んでストレガは考える。その書物で言う彼らが出ない理由を。
 罰でもなく、自ら進んでサウナに入る。だが先には出ない。
 考えてもいい案が浮かばなかった事柄ではあるが……ストレガはあることに気づく。
「そうか……プライド、男のプライドなのだ!」
 前に読んだ本での知識では、多かれ少なかれ、男にはプライドがあるらしい。他の雄に負けたくないと思う心。自分が優位であると示すその行動は良い雌を得る為に精進する自然界の掟にも近いものがあるかもしれない。
 先に出るということは、いわば残っている者よりも“我慢できなかった”ということの証明となる。
 それはいうなれば、暑さに私は貴方よりも弱いですということに他ならない。それ故に、サウナで相対した男は競うのかもしれない。お互いのプライドをかけて。
「だがそんなことをしていればマナー違反なのだ。サウナは楽しく入るべきなのだ」
 そう、誰も競う必要はない。ストレガが読んだ書物の男たちは競っていたが、本来のサウナの入り方はサウナに入る、サウナから出て身体を冷やす、外気に晒し身体を休ませる、そして再びサウナに入るという繰り返しが必要なもの。なにも我慢して長時間サウナにいる意味はない。各々ができる範囲でサウナの暑さを楽しみ、ゆっくりと身体を癒す。サウナとは本来そういうものなのだから。
 ストレガはサウナから出ると外気に身を晒した。外の冷たい空気は彼女の身体をすぅっと冷やしていく。
 用意していた水桶から水をすくうと腕や脚にかけ、その後で身体にかけていく。急に胸元などを冷やせばそれは事故の原因となる、それ故に手足などの末端から冷やす必要があるのだ。
 傍らに置いていた果実を絞って作った甘い水で軽く喉を潤すと、ベッド代わりに寝転ぶことができる長椅子へ体を横たえる。
 そよそよと流れる風が程よく身体を撫でる様に流れ、非常に心地が良い。足を組み替えながら、ストレガは自然の起こす風を身体全体で感じていた。
「なるほど……これが、整う」
 書物に掛かれていた言葉の意味を身体で感じながら、ストレガは再び立ち上がる。
 冷えた外気の外からサウナの中に入るとまたもうもうとした熱気が彼女を出迎えた。
「何度もこうして繰り返し入ることで、癒し効果が上がる……面白い事を考えるものなのだ」
 木の椅子に腰かけ、ストーブに追加で薪をくべながらストレガはサウナの熱気を楽しむ。
 熱気は彼女の下がった体温を徐々に上げていき、再びその身体に玉のような汗を浮かび上がらせ始める。
 最初に入った時よりも心地の良い感覚のストレガはそろそろ頃合いだろうと、ストーブの横にあった薬湯を入れた桶をとり、薬湯をすくってストーブの上部にある石へとかけた。
 その瞬間、薬湯が熱された石にぶつかり蒸発するじゅわっという音が響き渡り、一気に蒸気が噴き出す。それと同時に薬湯に含まれるハーブの香りが強くサウナ内に充満した。
 ふうっと息を吐き、ストレガは椅子に座ると香りが充満するサウナの熱気を楽しむ。
「これがロウリュウ……いい香りなのだ」
 ロウリュウとは書物に記されていたサウナの楽しみ方の一つで、サウナストーンと呼ばれる石へ香りの付いた水をかけることだ。今回は薬湯での代用だが。
 こうすることで更に体の血流がロウリュウによって活性化され、サウナが与える癒し効果も倍増するというものだ。
 なお、サウナストーンと言っても実は特別な石ではない。書物によれば熱に強く、崩れにくければどんな石でもいいらしい。その為、ストレガは熱に強そうな石を選んでストーブ上部に設置された籠の中に突っ込んでいる。
 暑いなと思った段階で、ストレガは再び外に出た。先程よりも外気が冷たく感じるのはロウリュウによってサウナ内の室温が上がっているからだろうか。
 水桶から水をすくい、手足にかける。心地よい冷気が伝わりストレガは身を震わせる。
「中々に病み付きになりそうなのだ、サウナ、ロウリュウ……思った以上に奥が深いのだ」
 寝転んで外気に身を晒し、ストレガは身体を休ませる。さっき寝転んだ時よりも心地よさを感じ、今度は少々長く横になっていた。
「ふむぅ……このまま寝てしまうかもしれない心地良さなのだ」
 体に浮かんでいた汗もひき、それに合わせて彼女の体温も通常の状態へと戻っている。
 ストレガは体を起こして先程の果実水を手に取るとごくっと飲む。甘い水が口に広がり、柑橘系のさわやかな風味が鼻に抜けていく。
「さて、もう少しサウナを楽しむことにするのだ」
 再び立ち上がったストレガは伸びをすると、またゲルの扉を潜ってサウナの中へと入っていくのだった。

 しばらくサウナを楽しんだ後、ストレガはサウナから出て着替えを済ませると今回の記録を付けていた。
「サウナは思った以上に快適、暑さの感じ方には個人差がある為に気を付ける必要性はあるが癒し効果は高い物と思われる」
 書きながらストレガはふと体に触る。もう出て外気に晒されているというのに、表面は冷えているが身体の中はまだぽかぽかと温かい感じが残っている。
「サウナ後の保温効果も良い。健康法として定期的に入ることも視野に入れても良いかもしれない、と」
 記録を終え、果実水を飲みながら彼女は思案する。
 あのロウリュウ、別の薬湯や薬草を浸した水でやってみたら、香りにも変化が付いて面白いかもしれないと。
「ふむふむ、種類を変えれば効能も変わる……薬湯に事前に入ることも考えると、まだ発展の余地がありそうな気がするのだ」
 今回は遊牧民の移動式テントであるゲルを用いてのサウナであったが、木製の小屋や別の密閉できる施設でのサウナとの違いも検証する必要があるとストレガは記録の最後に付け加えた。

 それからというもの、ストレガは冒険から帰ると真っ先に風呂に入り、優雅にサウナを楽しむようになった。
 彼女が言うにはその方が頭の冴えもいいし、疲労の回復にもなるんだとか。
 ストレガが考えた通り、ロウリュウに使う薬湯を変えることで香りも変化し、多少ではあるが効能も変化しているようだった。
 サウナの中にある木製の椅子に腰かけながら、ストレガはぐっと伸びをして天井を仰ぎ見る。
「中々に良い物を作ったのだ。これは……ふう、まさに快適と言えるのだ」
 自分で苦労して作った甲斐がある程にストレガはこの自作のサウナを気に入っていた。

 汗を流し、暑さを堪能しながらストレガは時を待つ。じっと動かず、目を閉じその時が来るのを待っているのだ。
 そしてどれくらいの時間がたっただろうか。額から流れた汗が頬を伝って、ぽたりと彼女の胸の谷間に落ちたその時、ストレガは目を開く。
「今なのだ、ロウリュウのタイミングはまさにこの瞬間なのだっ」
 すっと立ち上がり、薬湯の入っている桶から薬湯をすくうとバッとサウナストーンへとかける。じゅわっと激しい蒸気が吹き上がり、サウナ内に蒸気が広がっていく。
 そう、彼女はサウナに入り続け、最高に良いタイミングでのロウリュウを探求していたのだった。
 薬湯の香りが広がったサウナに満足そうな笑みを浮かべるストレガが立っている。額から流れた汗を腕で拭うとストレガは木の椅子に腰かける。
「ふう……やはりさっきのタイミングが一番いいのだ。うむうむ、ロウリュウはあのタイミングがベストだと後で記しておかなければ」
 探求するならば深くまで。彼女の探求心はまさに底知れない。
 サウナの形状から屋根や壁に一番適した布材選び。木枠や梁、床に使う木材の選定、ストーブの形状などなど試しては記録し、また試しては記録する。それはストレガの行う探求の形。
 机上で考えるに留まらない実践と知識の蓄積。それが彼女をストレガたらしめている要因と言えるだろう。全ては後の誰かの為に。
 どんな知識も誰かの役に立つ。たとえ、自分では活用方法が分からない知識があったとしても、それは後世の誰かの為の発見の手掛かりになるのかもしれない。
 知識は蓄積し、後の世に伝わっていく。
 サウナの作り方を書物に残した誰かも、そうして誰かの為になるのかもと思って残したのかもしれない。
 着替えを済ませたストレガは忘れないうちにロウリュウのタイミングをメモに記していた。そこには数十回では収まらない程の彼女の探求の跡が見える。
 ちらっと机の上に置いてあったあのサウナについて書かれた本を手に取るとストレガはゆっくりと目を閉じる。
「ありがとうなのだ、あなたのおかげで良いサウナと出会えた。これは良い経験となったのだ」
 件の書物を閉じると胸に抱き、誰かもわからない書物の作者に礼を述べるとストレガは本棚へとその本をしまった。
 そして体を伸ばすと、ベッドへと潜り込んでいく。
 芯から温かい身体のおかげか、今日はよく眠れそうだ。
 そのまま彼女はゆっくりと心地の良い眠りへと落ちていくのであった。

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アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0