【風吹】白月の風

キャラクターノベル制作 雨月ハジメ納品 2023年01月17日 09時52分37秒

 街外れにアンデッドがいる。
 その依頼は単純だった。どうやら小さな村の外れにアンデッドが住み着いており、それを退治してくれとのことらしい。小型のアンデッドらしく今の所被害報告もない。レピド・クロサイトは特に深く考える事もなくその依頼をギルドから引き受けた。
 村までは思ったよりも時間がかかり、たどり着く頃には夜になっていた。ひとまず様子を見ようと小さな村を通り過ぎて報告のあった村外れの丘へと足を向ける。丘の上には小さな小屋が建っていた。昔放牧の休憩所として使われていたものだろう。既に廃墟と化していたそこは寒風に軋んでいた。その横を通り過ぎようとしたレピドはふとあることに気が付く。
「鍵……?」
 扉に鍵がかかっているのだ。それも外から。こんな古い小屋を今でも使っているものがいるというのだろうか。しばし思案して周囲を見回してみるも、丘には他に何もない。隠れる場所もなくアンデッドがいるとは到底思えない場所だった。もしもいるのならば、ここに隠れている可能性が高い。
「建物に比べて鍵だけ妙に新しい。アンデッドには鍵をかけるだけの知能はないはず。それに外からかけられているということは……他にも何かがいるな」
 もしかすると、アンデッドを操っている存在がいるのかもしれない。改めて気を引き締めると、レピドは極力音を立てぬように鍵を壊した。パキンという軽い音と共に鍵が地面に落ちる。一拍後に鈍い音を立てて扉が開いた。壁を背にして室内を覗き込めば暗くて何も見えない。しかし明かりをつければこちらの存在が向こうにわかってしまうだろう。しばらく壁に背をつけたまま室内の様子を探ろうと耳をすます。
 すると何やら呻き声が聞こえてきた。少し高い音で低い位置から聞こえるそれは女子供のものに聞こえる。呻き声と同時にジャラジャラという金属の擦れる音も聞こえてきた。ある程度このような依頼をこなしていれば聞き覚えのある音だ。レピドは警戒を怠る事なく静かに扉を開けた。
 月の光が室内に入り込み、真っすぐに部屋の奥を照らしだす。そこには鎖で壁に繋がれた少年のアンデッドがいた。アンデッドはレピドの姿を認めるとこちらへ向かってこようとするが、手足を鎖で拘束されて動けない。
「これはいったい……」
 想定外の光景に困惑しながらも、レピドはアンデッドに近づく。近づいて初めてそのアンデッドが随分と身綺麗な事に気が付いた。
 誰かがこのアンデッドの世話をしている。そう確信したのと背後で扉が開いたのは同時だった。
「動くな」
 背後から男の声がした。その声は強気にふるまいつつも僅かに震えている。
「何も見なかったことにしてくれ」
 足元に伸びる影を見てみれば、相手はどうやらクロスボウを構えている。その影が震えていることから戦い慣れしていないことはすぐにわかった。レピドはひとつため息をつくと勢いよく身をひるがえし、男の至近距離に潜り込む。
「なっ……!?」
 男が驚いている隙に、もっていたクロスボウを叩き落す。同時にクロスボウを蹴り飛ばし、男からもアンデッドからも手の届かない場所へと弾き飛ばす。流れるようなその動作に男は何が起こったのかわからず呆然としていた。その様子に改めてため息をつくとレピドがようやく口を開く。
「お前がこのアンデッドの世話をしていたものか」
 叩き落された衝撃で膝をついた男がレピドを見上げる。その顔には焦りが色濃く浮かんでいた。それを無表情に見つめながらレピドは言葉を続ける。
「おおかたあのアンデッドをここに匿っていたんだろう」
 いまだに呻くアンデッドを一瞥する。
「何を考えてあのアンデッドを匿っていたのかは知らないが、あれは化け物だ。一般的なヒューマンの手に負えるものじゃない。悪いが始末させてもらう」
 その言葉を聞いて男の顔はみるみる青ざめていった。膝をついたまま縋ろうとするが、遅かった。レピドが振り向くと同時に鈍い音がする。やや遅れてゴトン、と音がした。黒ずんだ赤い液体が跳ね返り、レピドと男の体に点々とかかる。
「あ、ああ……!」
 悲鳴を上げて男がアンデッドに駆け寄った。何事か口にしているようだが、ほとんど叫び声のようで何を言っているのかわからない。
 後は事情を知っているであろう村の人間に任せるしかないだろう。レピドは三度目のため息をつくと、身を翻して小屋の外に足を踏み出す。その背を男の声が追ってきた。
「人殺し」
 同時に一陣の強い風が吹いた。ビュウ、という音と共にレピドのフードがパサリと落ちる。その後頭部には鈍い鉄錆色をした歪な石が月光を受けてキラリと光っていた。深い恐怖と死を経てこの世に再び生を受けさせられたホムンクルスの証だ。その禍々しさに男は息を飲む。
 その様子を血に濡れた真っ赤な瞳で一瞥して、レピドは再び歩を進める。その後ろを鈍い血の香りが冷たい風に乗って追いかけていった。

登場キャラクター

アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0