暗道十人斬り

キャラクターノベル制作 望月誠司納品 2020年11月19日 18時32分16秒

 陽の光が遮られている。

 追いやられ、押し込まれたように、ごちゃごちゃと建物が密集している。

 火災への備えよりも経済性を優先せざるをえない区画ほど建物というのは密集する。道幅も狭くなる。
 隙間が無くなれば日光が届かなくなる。

 だから大抵の場合、貧しい区画ほど暗い。

 ロスガリア大陸南方の雄、リーンエス王国が都グランスパーダにおいても、そういう暗い場所は存在した。
 
 俗に『裏町』と呼ばれる区画である。

 暗い通りにて少年が吹き飛ばされ壁に叩きつけられた。
 その小柄な身がずるずると地に崩れ落ちるよりも前に、鳩尾に薄汚れたブーツの底が突き刺さる。
 鈍い音と共に少年が壁に縫い留められる。
 げぇっ、という、くぐもった声と共に少年の口から吐瀉物が噴出した。

「やめてぇ!」

 少女が叫び駆け寄ろうとしたが、頭髪を乱暴に掴まれ引き戻される。痛みに少女が仰け反り、つま先立ちになった。少女は髪を掴む手を両手で掴むが、革手袋をはめた太い腕は、少女の枯れ木のように細い腕の力ではビクともしない。

「おいおい、レディはあまり乱暴に扱うなよ、騎士道もそう言っている」
「畜生道の間違いじゃないのか? 傷をつけるなってのは、売値が下がるからだろ?」
「違いない!」

 ゲラゲラと男達が笑い声をあげた。
 少年と相対している男も少年の髪を掴み上げ、膝蹴りを顔面に叩き込んでいた。骨が折れる鈍い音が響いて、少年の鼻から血が流れ落ち、道を赤く濡らしてゆく。

「おい、ちったぁ加減しねぇと死んじまうぞそいつ」
「構うかよ! こいつ、俺に睨み(ガン)くれやがったんだ。餓鬼の癖に舐めやがってっ!」

 男が興奮した様子で叫んでいる。

「オメェの気のせいじゃね?」

 仲間達は呆れている様子だったが、

「だとしても餓鬼の癖に女連れなんて生意気だ!」
「んなザマだからジェシーにフラれんだよ! ギャハハッ!!」

 嘲笑(あざわら)いはすれども誰一人として止めようとはしなかった。

「うるせぇっ!!」

 少年が再び壁に叩きつけられる。

「うるせぇ! うるせぇ! うるせぇ! うるせぇっ!! 裏町の餓鬼が一匹二匹死のうが守兵だって気にしねぇよッ!!」

 男の言葉は実際その通りだった。
 この時代、路地裏の浮浪児が一人生きようが死のうが世間はたいして気にしない。

「――むしろゴミ掃除して町を綺麗にしたって褒めてくれらぁ!!」

 男が叫び、再び拳を振り上げた瞬間、男の首に銀色の光が差し込まれた。
 光はそのまま真っ直ぐ水平に抜けてゆき、間にあった男の首が宙へと刎ね飛ばされる。
 赤黒い鮮血が噴出し、首を失った男の体が地へと崩れ落ちてゆく。

「「「へっ?」」」

 暗がりより唐突に出現した暴威だった。
 男達が繰り広げていた理不尽な凶行に勝る、さらなる凶悪な凶行に、男達が呆気に取られる中、それを無造作に成した女は止まる事無く双剣を構え、少女の髪を掴んでいる男へと向かい駆け出していた。

「なななぁっ?!」

 少女の髪を掴んでいた男は、慌てて少女から手を離し、腰に佩いた剣の柄に手をかけ引き抜こうとする。
 だが、剣が抜ききられるよりも前に茶髪の女は素早く迫り、男の右手首へと斬りつけて切断し、即座に左の剣を男の喉元へと突き込んだ。

 喉を貫かれた男が眼を白黒させる中、左の手首を返して刃を回転させると水平に払って喉を斬り裂く。
 男は白目を剥き、赤色をぶちまけながら倒れた。

「なっ、ななっ、なんだテメェエエエエエエエッ?!」
「『なんだテメェ』?」

 女――シスル・ノーティラスは鼻で笑いながら駆け、ようやく抜刀して剣を構えた男へと二刀を閃かせ半瞬の間に斬殺する。
 倒れた男の後頭部を踏みつけ、鈍音と共に死体の鼻柱を圧し折りながら、嘲笑を表情に張り付けて周囲を睥睨した。
 一、二、三、四、五、六、七、残りは総勢七人。

「馬鹿が。あんたらの敵だよ。それすらも理解できない馬鹿なのか……」

 シスルは冷めた緑瞳のまま右の剣の切っ先を男達へと向け、クィックイッと招くように上に動かし挑発した。
 浮浪児の命はゴミほどの価値しか認められていなかったが、それは裏町のチンピラ達の命もまた同様だった。
 抗争で川に死体が浮かぶのなんて日常茶飯事、守兵はたいして気にしない。
 町のゴミが減ったと喜ぶだろう。
 それをシスルは知っていた。

 居並ぶ男達は真っ蒼な顔で竦み震え上がりながらも、しかし頬に鮮烈な赤みを差した。歯を喰いしばってシスルを睨みつけ、恐怖に従って一目散に逃亡するか、憤怒に従って復讐を果たさんとするか、刹那の間に酷く迷う。数ではまだ圧倒的に勝(まさ)っているのだ。

 当然、シスルは男達が決断をくだすより前に仕掛けた。エーテルを全開に弩矢の如く飛び出す。加速しながら刃光を走らせる。女と男がすれ違うと男の首が刎ね飛んだ。
 女は流れるように左剣を振り上げながら方向を切り返し、振り向きざま落雷の如く振り下ろす。額をカチ割られた男が倒れる。

 三人の男が喚くように大声をあげながら剣を振り上げシスルへ迫り、二人の男が踵を返し通りの彼方へ転がるように駆けてゆく。

 三方から振り下ろされる剣に対し、シスルは身を低く沈め横っ飛びするように跳んだ。
 刃が女の肩と背を掠めながら空を斬る。
 シスルは暗い路地に転がり、一回転して起き上がると、逃走に入っている男達へ向かい疾風と化して飛び出した。

「ひぃいいいいいいいっ!!」

 必死で駆けている男の背へと瞬く間に肉薄すると後頭部へと剣を叩きつけて爆砕し、さらに加速してもう一人の延髄へと刃を叩き込んで圧し折り絶命させる。

 止(とど)まる事無く方向を切り返すと、三人の男達は恐怖と怒りと絶望とが入り混じった血走った目つきでシスルを睨んでいた。

「畜生がぁあああああっ!!!!」

 破れかぶれのように突進しながら男が右手一本で剣を構え突きを繰り出して来る。手首が捻られ、刃が地に対して水平に寝かされていた。
 平突きだ。
 横にかわしても、そのまま水平に振り抜いて追尾してくる構えの突き。

 シスルは右足を前に半身に構え踏み込んだ。
 右剣を地に対しては水平を保ちながら、垂直方向に対しては円錐のように角度をつけて構え、迎え撃つよう突き返す。

 突きと突きとが、鋼と鋼とが激突した。男の剣の切っ先が、シスルの剣の刀身の傾斜に沿って滑り、外側へと逸れてゆく。

 対するシスルの剣の切っ先は吸い込まれるように男の胸へと突き立った。
 シスルは一歩を踏み込みながら腕を交差するように左剣を横に振りかぶり一閃、男の喉を深々と切り裂く。

 直後、柄を握る右手を開き、地を蹴って後方に跳んだ。
 右から回り込んできた男の剣が空を切り、左から回り込んで来ていた男がシスルを追ってさらに踏み込み、剣を振り下ろして来る。

 着地したシスルは両手で剣を持ち直すと頭上に傾斜させながら翳した。
 振り下ろしの刃と頭上に翳された剣とが激突し、男の剣がシスルの剣の刀身に沿って滑り、火花を散らしながら斜め下へと流れてゆく。

 男の身体が泳ぎ、シスルは頭上に翳していた剣を間髪入れずに振り下ろした。
 刃が眉間に炸裂して叩き割り、男が仰向けに倒れてゆく。

 最後に残った男が訳の分からない喚き声をあげながら突きかかって来たが、シスルは半歩横に動きながら剣を下段から振り上げて男の手首を切り飛ばすと、返す刀で振り下ろして脳天を砕き、かくて十人の男達を斬り倒したのだった。

登場キャラクター

アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0