ライラ・スコットの行く道
キャラクターノベル制作 望月誠司納品 2020年11月14日 19時05分23秒
「綺麗な毛並を保ってね」
父はライラへそう言った。
「おすまししててね」
母はライラへそう言った。
●
ライラ=スコットは犬科のハーフビーストである。
彼女の一族は絹糸のような艶やかな毛並を持ち、その毛髪は金から茶、茶から黒へと鮮やかに美しくグラデーションする。この毛並の美麗さにより一族は主人から愛され「動く宝石」と称えられている程だ。
故に一族にとって至上は毛並の美しさ、これに尽きる。
故にこそおすまし――じっと上品に静かにしていて、毛並を汚さず美しさを保つ事が求められた。
だがライラはおすまししているよりも動き回る事の方が好きだった。
全力で山野を駆けまわり、特に「追いかけっこ」をする事、これを好んだ。
だが、今の一族の中で山野を駆け回るのが好きなのはライラだけだった。
祖母も両親も弟も二人の妹も、皆、毛並の美しさにこそ誇りを持ち、それを汚す行為は好まない。
ライラはいつも家族の中で浮いていた。とても窮屈だった。
父がライラへと言う。
「綺麗な毛並を保ってね」
母がライラへと言う。
「おすまししててね」
ライラは思う。
――毛並を誇っているだけの人生の、それの何が楽しいの?
おすまししている事自体は、嫌いという訳では無い。だがずっとそれしかしてはいけない、となると苦痛だ。大好きな運動を禁じられるのはとてもとても窮屈だ。
少女は家族の中で一人浮きながら、悶々とした日々を過ごすのだった。
●台所の運命分岐点
ライラはある日、一匹の鼠を台所で見かけた。
鼠は倉庫の中の蓄えを喰い荒らしてしまう害獣だ。冬を前に麦を駄目にされたら一家の一大事である。
母が所用で台所を離れていて、ライラがちょうどその手に料理用の包丁を握っていたのが、運命の分かれ目だった。
ライラの黒瞳がキランと黒曜石のように光る。
少女は床を蹴って肉食獣のように飛び出した。
鼠が飛びあがって、慌てて踵を返して床を駆ける。
ライラが風を裂いて迫る。
小害獣がちょこまかと俊敏に駆け、家具の隙間に飛び込もうとした瞬間、少女は包丁の切っ先を猛然と振り下ろし――
●
「おすまししててねって言ったでしょう!」
狩猟現場と化した台所に戻ってきた母が悲鳴でもあげるかのように叫んだ。
「害獣を仕留めたよっ!」
ライラはふんすと胸を張った。一家が冬に餓える事を未然に防いだのだ。これは誇られるべき事だった。
「仕留めたよ! じゃなくてねあなたっ!!」
母がキーキーと声をあげている。
居間にいた他の家族達がなんだなんだと台所にやってくる。
そして、
「これは……ライラがやったのかい?」
祖母が呆気に取られたように言った。
視線の先には、背中から腹まで見事に一撃で貫き通され絶命している鼠の姿があった。
「ええ、この子は……一体、いつになったら落ち着いてくれるのでしょう……」
母が深々と溜息を吐く。
それにちょっとイラッときたライラはふんと鼻を鳴らして声を張り上げた。
「わたしは一生、落ち着きなんかしないよっ!」
家族の視線が集まる中、ライラは宣言した。
「わたしはね、信頼できるご主人と、うんと立派な獲物を狩るのが夢なんだ!」
えっへん! と胸を張る。
家族一同絶句した。
ただ、祖母だけが、
「……仕方がないのかもねぇ。もう好きにさせておやりよ」
急に驚きな事を言い出した。
ライラ含め、家族一同の視線が集まる中、祖母は語った。
「ライラにはご先祖様の血が濃く流れているのかもしれないよ」
祖母曰く、自分達は今でこそ「動く宝石」として毛並を称えられる一族となったが、元々は「狩り」をこそ役目とする一族だった。
だが、その容姿が時の貴族達の目につき美を愛でられるようになり、徐々に本来の役目は遠ざけられていった。
時の経過と共に多くは狩りを忘れ、血と穢れを忌むようになっていったのだと。
「だがライラは……ライラ、本当に狩りが好きなんだな?」
父が問いかけた。
「うん!」
ライラは頷いた。
「狩りというのは、大変だぞ。時には怪我をするかもしれない。痛い思いをするかもしれない。最悪、死んでしまう事があるかもしれない。それでも狩りが好きなのか?」
「うん! だって、楽しいもん!」
父は嘆息した。
「父さんには正直、理解ができないんだが…………一体、狩りの、何が良い? しかし、ライラがこれほどまでに思っているのなら、そうだな、確かに、最早仕方ない」
「あなた」
「これは本人の言う通り、一生変わらんだろうよ。無理をさせても不幸になるだけだ」
母は不満があるようだったが、話し合われると結局、父と祖母の意見が通った。
「ライラ、お前はその道を進みなさい」
「いぃぃぃやったぁあっ!! 有難う、お父さん!!」
喜色満面で答えると父は苦笑して、ライラの頭を撫でた。
「良い主人が、見つかると良いな」
「うん!」
それが、いつかの日のスコット一家の一幕だった。
父はライラへそう言った。
「おすまししててね」
母はライラへそう言った。
●
ライラ=スコットは犬科のハーフビーストである。
彼女の一族は絹糸のような艶やかな毛並を持ち、その毛髪は金から茶、茶から黒へと鮮やかに美しくグラデーションする。この毛並の美麗さにより一族は主人から愛され「動く宝石」と称えられている程だ。
故に一族にとって至上は毛並の美しさ、これに尽きる。
故にこそおすまし――じっと上品に静かにしていて、毛並を汚さず美しさを保つ事が求められた。
だがライラはおすまししているよりも動き回る事の方が好きだった。
全力で山野を駆けまわり、特に「追いかけっこ」をする事、これを好んだ。
だが、今の一族の中で山野を駆け回るのが好きなのはライラだけだった。
祖母も両親も弟も二人の妹も、皆、毛並の美しさにこそ誇りを持ち、それを汚す行為は好まない。
ライラはいつも家族の中で浮いていた。とても窮屈だった。
父がライラへと言う。
「綺麗な毛並を保ってね」
母がライラへと言う。
「おすまししててね」
ライラは思う。
――毛並を誇っているだけの人生の、それの何が楽しいの?
おすまししている事自体は、嫌いという訳では無い。だがずっとそれしかしてはいけない、となると苦痛だ。大好きな運動を禁じられるのはとてもとても窮屈だ。
少女は家族の中で一人浮きながら、悶々とした日々を過ごすのだった。
●台所の運命分岐点
ライラはある日、一匹の鼠を台所で見かけた。
鼠は倉庫の中の蓄えを喰い荒らしてしまう害獣だ。冬を前に麦を駄目にされたら一家の一大事である。
母が所用で台所を離れていて、ライラがちょうどその手に料理用の包丁を握っていたのが、運命の分かれ目だった。
ライラの黒瞳がキランと黒曜石のように光る。
少女は床を蹴って肉食獣のように飛び出した。
鼠が飛びあがって、慌てて踵を返して床を駆ける。
ライラが風を裂いて迫る。
小害獣がちょこまかと俊敏に駆け、家具の隙間に飛び込もうとした瞬間、少女は包丁の切っ先を猛然と振り下ろし――
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「おすまししててねって言ったでしょう!」
狩猟現場と化した台所に戻ってきた母が悲鳴でもあげるかのように叫んだ。
「害獣を仕留めたよっ!」
ライラはふんすと胸を張った。一家が冬に餓える事を未然に防いだのだ。これは誇られるべき事だった。
「仕留めたよ! じゃなくてねあなたっ!!」
母がキーキーと声をあげている。
居間にいた他の家族達がなんだなんだと台所にやってくる。
そして、
「これは……ライラがやったのかい?」
祖母が呆気に取られたように言った。
視線の先には、背中から腹まで見事に一撃で貫き通され絶命している鼠の姿があった。
「ええ、この子は……一体、いつになったら落ち着いてくれるのでしょう……」
母が深々と溜息を吐く。
それにちょっとイラッときたライラはふんと鼻を鳴らして声を張り上げた。
「わたしは一生、落ち着きなんかしないよっ!」
家族の視線が集まる中、ライラは宣言した。
「わたしはね、信頼できるご主人と、うんと立派な獲物を狩るのが夢なんだ!」
えっへん! と胸を張る。
家族一同絶句した。
ただ、祖母だけが、
「……仕方がないのかもねぇ。もう好きにさせておやりよ」
急に驚きな事を言い出した。
ライラ含め、家族一同の視線が集まる中、祖母は語った。
「ライラにはご先祖様の血が濃く流れているのかもしれないよ」
祖母曰く、自分達は今でこそ「動く宝石」として毛並を称えられる一族となったが、元々は「狩り」をこそ役目とする一族だった。
だが、その容姿が時の貴族達の目につき美を愛でられるようになり、徐々に本来の役目は遠ざけられていった。
時の経過と共に多くは狩りを忘れ、血と穢れを忌むようになっていったのだと。
「だがライラは……ライラ、本当に狩りが好きなんだな?」
父が問いかけた。
「うん!」
ライラは頷いた。
「狩りというのは、大変だぞ。時には怪我をするかもしれない。痛い思いをするかもしれない。最悪、死んでしまう事があるかもしれない。それでも狩りが好きなのか?」
「うん! だって、楽しいもん!」
父は嘆息した。
「父さんには正直、理解ができないんだが…………一体、狩りの、何が良い? しかし、ライラがこれほどまでに思っているのなら、そうだな、確かに、最早仕方ない」
「あなた」
「これは本人の言う通り、一生変わらんだろうよ。無理をさせても不幸になるだけだ」
母は不満があるようだったが、話し合われると結局、父と祖母の意見が通った。
「ライラ、お前はその道を進みなさい」
「いぃぃぃやったぁあっ!! 有難う、お父さん!!」
喜色満面で答えると父は苦笑して、ライラの頭を撫でた。
「良い主人が、見つかると良いな」
「うん!」
それが、いつかの日のスコット一家の一幕だった。