おわりのハジマリ

キャラクターノベル制作 真柄 葉納品 2020年11月12日 20時05分26秒

――はぁはぁ。

 呼吸と鼓動で世界が染まる。

――はぁはぁはぁ。

 足を踏み出す度に視界が狭くなった。
 腹が鳴る。力が入らない。でも――。

――んぐっ、はぁはぁ。

 唾を飲み込んで喉を潤す。潤わない。わかってる。でもでも――。

「このクソガキがぁ!」
 後頭部に走った衝撃に、ギ・ガガの小さな体は吹き飛ばされた。
「ぎゅはっ!」
 背中を強打し、息が詰まる。――ダメだ、動け。
 ぼやける視界に真っ赤なゴブリンが映った。

――動け動け逃げろ――殴られる!

「ごはっ!!」
 背中とくっつきそうな腹に重い衝撃が降ってきた。
『―――っ!!』
 腹を押さえてのたうち回る。苦しい苦しい――。
 込み上げてきたもので、口の中が酸っぱくなった。
『――っ!』
 頭の上で声が聞こえる。落ちたモノを拾う音が聞こえる。

――待って……持っていかないで。

 声が出ない。だから手を伸ばす。
「ごぐぁっ!」
 視界が歪んだ。音も歪んだ。全部、歪んだ――。

●
 ようやく目が開いた。半分だけ。
 空がある――青いなぁ。
「腹減った、な……」
 あの雲は何で食べられないんだろうな――。

●

――はぁはぁ。

 うまくいった。

――ふぅふぅ……。

 やった、うまくいった!

――くくっ!

 とれた、今日はすごいものがとれた!
 何だろう、これは。綺麗だ。剣? 違う、短剣?
 何でもいい。やった! これを売れば、飯が食べられる!
 早くここから出て、どこでもいいから店に――っ!?

「――っ!」
「――――っ!!」

 怒鳴り声が沢山近づいてくる。
 やばい。あれはやばい気がする。
 短剣? 聞こえた。短剣って言ってる。
 これの事? きっとそうだ。こんなに綺麗だから、きっとこれを探してるんだ。
 返す? ごめんなさいすれば、殴られない?
 ……殴られる。絶対。

「……逃げなきゃ」

 声と反対に走る。大丈夫、この辺りは迷わない。
 しばらく待ってから売る? ダメだ。きっととったってバレる。こんなに綺麗なもの、おいらが持ってるはずないって――また、殴られる。

「――逃げる。もう……殴られたくない」

 その夜、一人の小さく歪なゴブリンが、人知れずゴールディから姿を消した。

●
 あれから何日も経った。
 なんでこんなものを持ってきたのか。
 もう、お腹と背中がくっついた。
 これは食べられない――お金にも、変わらない。

 ゴールディから離れたヒューマンの街。
 でも、やってる事は何も変わらない。隙を見て食べ物をとる。見つからなければ腹が膨れて、見つかれば殴られる。
 逃げてきたのに。折角逃げてきたのに――何も変わらない。

 頭からかぶった布は、その辺で拾った。臭かったけど、仕方がなかった。
 これで正体は分らないはず。顔はヒューマンみたいだと散々馬鹿にされたから、この街ならきっとわからない。

 腹が減った。もう、一週間何も食べてない。
 ヒューマンの街はエイヘーがいるから怖い。武器を持ってるから、見つかれない。だから、食べ物に手が出せない……。
 ゴールディに帰ろうか。まだ、あの街の方が――。

――何か聞こえる?

 微かな声にガガの獣の耳がピクリと動いた。

――りぶらねすた……? ぎるど……? しん、てんち……?

 初めて聞く単語。でもなぜかとても気になった。

――その話、教えて欲しい。おいらも聞きたい……!

 ガガはよろめく足に気合を入れて、話し声が聞こえた路地を覗き込む。
 男達がうまそうな肉を食っていた。

――腹が減った。それが欲しい……ちがう、今は話。りぶらねすたを教えて。

 ガガはよろめきながら男達の元へ歩いていく。
「うん? なんだこのガキ」
 男が気付いた。男達が汚物でも見るように見下ろしてくる。

「ギギ……」

「はぁ?」

「ギギ……」
 おかしい、声が出ない。代わりに変な音がする。
 なんだこれ。これは誰が出してる音……?

「ガガ……」

 そう、それがおいらの名前。ガガ。違う、そうじゃない。

「汚ぇガキだな!」
 男が拳を振り上げる。

 殴られる! そう思った瞬間――空から何かが、ふってきた。

●
 気が付いたら男達は――血の中に沈んでいた。
 返り血は襤褸が吸って黒いシミになった。
 血の滴る短剣は――変わらず綺麗だった。
 おいらはまた、街から逃げた――。

 それからの事はよく覚えていない。
 りぶらねすたへ向かう為にあてもなく彷徨った。りぶらねすたの名前が聞こえたらそちらに足を向けた。何日も何日も歩いた。
 水は雨。ご飯は草時々蛇か蛙。
 でも、お腹と背中がくっつくことがあまりなくなった。街よりいいかもと思った。
 そんな旅を、季節が二つくらい進む分――歩いた。

――ここがりぶらねすた?

 それは見た事もない程、大きく綺麗な街だった。

「ギギ……」

 辿り着いた。ここがりぶらねすた。ぎるどのまち。しん、てんち――。

――バタッ。

 すなの、あじがする。
 たくさん、あしおとが、きこえる。
 さげび、こえも、たくさん――。

 はらが、へった……な――。

登場キャラクター

アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0