小さな二人の日常

キャラクターノベル(グループ)制作 真柄 葉納品 2023年01月20日 11時34分54秒

 灼熱のゴールディ。大陸はもう冬だというのに、この街は相も変わらず蒸し暑い。

「うわぁぁーー! にげないで~~!!」

 そんな蒸し暑いゴールディの奥の奥。お世辞にも治安がいいとは言えない下町に佇む質屋の裏からは、今日も少女の元気な声が轟いていた。

「ちょきちょきしないと、お熱でびょうきになっちゃうんだよ~~!!」

 ゴブリンの少女ノーノが柵で囲われた小さな中庭で追いかけているのは、真っ黒な毛が美しいアルパカ。この店の店主であり、少女のご主人様であるゴブリンが「知ってるか? アルパカの毛って売れるんだぜっ!」なんて言いながら、どこからともなく連れてきた子だ。
 しかし、アルパカは本来寒い地方に住む動物のようで、この暑いゴールディの気候に随分まいっていた。そこでノーノと姉のナーレは考えた。毛を刈れば多少はましだろう。結果、ノーノはハサミ片手に一生懸命追い回しているのだが……。

「うぅーーー! まってーーー!!!」

 小さなノーノではアルパカの逃げる速度に追いつけるはずもなく、距離を詰めては逃げられを繰り返していた。アルパカとしても別に意地悪しているわけではなく、ハサミを持って大きな声で追いかけてくるよくわからない小さい奴から逃げているだけ。結果、この不毛な鬼ごっこは、もうかれこれ1時間ほど続いていた。

「ノーノ、終わった? ……終わってないのね」

 ゼーハーとノーノが息を切らしていると、質屋の裏口からナーレが顔を覗かせる。
 ナーレは素知らぬ顔で草をはむアルパカと、ゼーハーいってる妹の姿を交互に見て溜息をついた。

「ノーノ、とりあえずお水呑んできていいよ。アルパカさんの毛は私が何とかするから」
「うんん、ノーノがやるのっ!」
「でも、大変でしょ? そんなに疲れてるじゃない」
「たいへんじゃないし、つかれてないよ! ノーノ、できるもん!」
「うーん……」

 何度も深呼吸をして無理やり息を整えたノーノは、ナーレの気遣いに猛反論。自分がやると譲らない。

「ほら、ノーノにはノーノにしかできないお手伝いもあるでしょ? こんな所で時間を使うより、他のお手伝いでご主人様のお役に立てばいいんじゃないかな?」
「ほかのことってなに?」
「えっと、お料理――――はまだ火を使わすのは危ないし、お水汲み――――は、重すぎるし、洗濯――――は余計に洗い物増えちゃうし……」
「ほら、ないでしょ! だから、あるぱかさんの毛をかるの!」
「で、でも、ノーノはお掃除頑張ってるじゃない。ほら、最近は床掃除だけじゃなくて、商品のお掃除もできるようになったし、暗くて怖いって言ってた地下室も入れるようになったし。お姉ちゃん、とっても助かってるよ?」
「だめなの! おそうじだけじゃだめっ! ごしゅじんさまはもうおそうじするだけじゃ、ほめてくれないんだもんっ!」
「そ、そんな事ないと思うけど……」
「あるのっ!」

 いつも弱気なノーノが、今日に限っては頑として譲らず、まるで引き下がる様子を見せない。

「やっぱり、ご主人様が任せたって言ってたからかな……」

 そんな妹の姿にナーレは思い出す。先日、黒アルパカを連れて帰ってきたご主人様は、二人に向かって「世話は任せた! 適当に草と水をやっといてくれ!」って言っていた。きっと、ノーノは『任せた』が嬉しくてこんなにもアルパカにこだわるんだ。

「よしっ、それじゃお姉ちゃんと協力してはさみうちにするっていうのはどう?」
「はさみうち……?」
「そう、まず私がこっそりとあの角で待ち伏せするの。そうしたらノーノがアルパカさんを追いかけて、私が待ち構えている所へ追い立てるの。それで来たところを私が捕まえるから、ノーノがチョキチョキするの」
「おー! なるほどっ! お姉ちゃんてんさいっ!」
「え、えへへ、そうかな」

 ノーノに羨望の眼差しを向けられ、ナーレは恥ずかしそうに頭を掻いた。

「よーし、それじゃノーノ、あの端っこの隅に追い立てるんだよ。ゆっくりでいいから、焦らないようにね」
「わかったっ!」

 ノーノは大きく頷くと、鍋の蓋を盾代わりに、アルパカの柵の中へと再び突撃していった――――。

●

「あはは、お姉ちゃんまっくろだー!」
「ノーノだって真っ黒だよ」

 悪戦苦闘の末、何とかアルパカの毛刈りは終わった。
 暑さから解放されてさぞ喜ぶかと思いきや、毛を刈る時にノーノが『実』までチョキチョキしたものだから、アルパカはすっかり人間不信。二人と最大限距離をとり、時折こちらに不満の視線を向けながら雑草をむしゃむしゃやっている。

「とりあえず、服を洗おうか。毛だけじゃなくて泥とか糞とかいっぱいついちゃったし」
「はーい」

 二人は井戸へと移動し、服を着たまま水をかぶる。

「ひゃー、冷たいっ!」
「後でサウナはいらせてもらおうね。ご主人様が使っていいって言ってたから」
「そうなのっ!? うれしー!」

 何度も水をかぶり、泥と糞と毛を洗い落として最近できたばかりのサウナ用のかまどに火を入れた。
 パチパチと燃え始める薪で、とりあえずの暖をとって、サウナの中が温まるのを待つ。

「それにしても、どんどんすごくなるね。このお家」
「うんっ、ごしゅじんさまとほねのひとはすごいね。こんなみたこともないものをいっぱいつくれるんだもんっ!」

 そう言って二人は、中庭に作られたサウナやアルパカ牧場、それに新しく石を積み直された井戸に木の間に張られたハンモック等々、最近になって立て続けに出来上がった新たな施設を目を輝かせながら見渡した。

「そうだね。冒険者っていうお仕事をしてると色々できるようになるって言ってたから、きっとそのせいだろうね」
「ぼうけんしゃ! ノーノもなる!」
「うーん……ノーノはまだ小さすぎるからダメかなぁ」
「えー! それじゃ、お姉ちゃんはなれるの!」

 ぷっくりと両頬を膨らせ不満を訴えたノーノが、ナーレに問いかけた。

「私でも無理かな。なんか、特別な資格みたいなのが必要らしいよ」
「とくべつ……?」
「うん。えっと、なんて言ったっけ……」
「じゅじゅじゅ?」
「じゅじゅじゅ? え、そんな名前だっけ……? と、とにかく、今の私達じゃ大きくなっても冒険者さんにはなれないんだって」
「やだっ! ノーノ、ぼうけんしゃになりたい!」
「そんなわがまま言っても、なれないものはなれないんだよ?」
「むー! お姉ちゃんのいじわる!」
「えー……」

 一人ぷりぷりと怒っている妹に、ナーレは私のせいじゃないのにと肩を落とす。二人がかまどの前で他愛もない会話を繰り広げている内に、サウナの温度が上がったのか、もくもくと湯気が立ち上っていた。

「ほら、ノーノ。サウナの準備が出来たよ。一緒に入るんでしょ?」

 まだ膨れている妹に苦笑しつつ、ナーレはノーノの服を脱がしてやる。屋外なので少し恥ずかしいけど、質屋の母屋や立ち木、サウナ室で死角になっている場所なので、外からは見えない。ナーレもえいやと気合を入れて、まだ濡れている服を脱ぐと、ノーノと共にサウナへ飛び込んだ――――。

 これが二人の日常。これが二人の幸せ。
 こんなにも愛おしく平凡な毎日を送れるのも、全て自分を拾ってくれた『ご主人様』のおかげ。こんなにも賑やかで楽しい毎日を送れるのも、色々な事を教えてくれる『骨の人』のおかげ。
 小さなゴブリンの姉妹は二人の大人の力強くも暖かな腕に抱かれ、今日も幸福を噛みしめている――――。

登場キャラクター

アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0