【院話】大切なものがある場所【推恋】
キャラクターノベル(グループ)制作 白葉うづき納品 2023年01月11日 11時07分31秒
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「思ったよりも元気そうだったな」
帰り道の途中、カイン・ステラはそう呟く。彼は今ちょうど山を下り、シグモル火山帯を抜けてきたところだ。
以前相対し、王国の都市を追放されたとある神官長。火生の神を信仰する彼は、場所を追われた後にいちから出直すことにしたらしい。信徒として敬虔な日々を送っていると、同じ集落の信徒が話していた。
ボルガニスクと会い、揚げアイスを食べさせたことがあると伝えれば、彼は面白いほど目を丸くしていた。持ってきた揚げアイスを差し出すと神妙な顔をして食を進める。憑き物が落ちたかのように、その表情は柔らかく見えた。
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王国北部にある教会都市、シャイネ。ここにはカインが懇意にしているグナーデ教会がある。いつもの道を進み、いつもの角を曲がると、いつもの風景が見えてきた。教会の脇にある小さな庭に人が集まっている。見慣れた姿ばかりのそこへカインは声を掛けた。
「よう、元気にしてるか?」
「まあ、カインさん! ようこそいらっしゃいました」
「カイン兄ちゃん!」
「こんにちは!」
教会を任される神父、メルチス・アダラードと孤児院で暮らす子どもたちが顔を上げ、カインを温かく迎えてくれる。集まる子どもたちに挨拶をし、賑やかな輪に飛び込んだ。
「揚げアイス食べるか?」
「ナンだソレ!」
「美味しそうね!」
「初めて聞きました!」
「神父、カインさんがおやつを持ってきてくれましたよ」
「ふふ、ありがとうございます。では少し休憩にしましょうか」
「庭に何か植えてたのか」
「うん、神父がもらってきたんだ」
「薔薇ですよ。鉢植えの時に植えるといいんですって」
「オレたちは雪カキした!」
「教会の周りも頑張ったのよね」
「そっか、皆お疲れ様! それならなんかご褒美やりたいよな」
「そうですね……とっておきのお茶会にしちゃいましょうか」
「とっておきですか?」
「たのしそー!」
「じゃあ、とっておきのお茶会するぞ!」
「おー!」
カインの号令に皆が続く。今日は一日中、賑やかな中で過ごせそうだ。
●
「フィオ、買い物メモは持ったか?」
「もちろんです」
「フィオとハウラ、それにスールはよく買い出しに行ってくれるんですよ」
「スールも?」
「新しいものが好きだから、外に出たがるんです。二人だけで買い物に行ったりもしてます」
「その間、ハウラがティトの特訓を見てくれて、アルドとピオは勉強していることが多いですね」
「この前、皆で地域の清掃作業に参加したんです。アルドと私はよく参加してたんですが、一緒は初めてで。少しだけ緊張したけど楽しかったって皆言ってました」
「本当に良かったです」
「そっか。良かった」
フィオとメルチスが嬉しそうで、カインも心を温かくする。
商店街に着くと、フィオが率先して果物や野菜を選んでくれた。カインの目から見ても正しく、店主とのやりとりも頼もしい。新たな一面を見た思いだ。
「そうだ、メルチス。ここで言っておくな。紹介状役に立ったよ、ありがとう」
「それはよかった。時折、教会宛てにも文をいただけるんですよ。謝罪したいとよく言っておられます」
「あの人なら出来るかもな」
「神父、カインさん、良い林檎が手に入りましたよ!」
「すごいぞ、何作るか」
「パイを作るのもいいですね」
「私も好きですよ。オレンジ入りのものをよくフィオが作ってくれるので、すっかり皆の好物になりました」
「いいな、俺にも教えてくれるか? フィオ」
「はい!」
●
それは、教会に戻った時に起こった。
「王子様!」
突如目の前に出てきた女性が叫び、カインは驚く。年の頃はカインと同じくらいだろうか、いきなりカインの前に詰め寄ってきた。
「ああ、近くで見ると本当に素敵! 濡れたように艶やかな黒髪も宝石みたいに煌めく瞳も吸い込まれるよう。優しげで笑顔も見惚れました。背もとっても高いし逞しいわ、まさに私の理想の王子様! 一目見た時から好きになったの、私のことも知ってほしいわ」
「……は?」
買い物を終えて戻った後、アルドから『教会周りに怪しい人が居る』と告げられた。見つけた人影に話を聞こうとした結果がこれだ。
「ラスタさん? どうされたのでしょうか」
「こんにちは神父様! この方はだあれ? 教会によく来ていた冒険者さんかしら。初めまして、ラスタと申します。私とお茶でもどうですか? 貴方とお話したいんです」
勢いに目を瞬かせていたが、カインは最後の言葉に首を振った。
「いや、困る。これから、教会の皆とお茶会をするから」
「……そう。じゃあやっぱり、やるしかないのね」
「……やる?」
カインは気付いた。
よく乾いた藁の束が、教会の壁へ寄りかかっている。
その意味に思い当たった瞬間、一気に身体中の血液が沸騰した。
「お前、何しようとしてた」
「教会の神父さまとエルフの女の子と歩いていたのを見たの、あんなに素敵な笑顔を見せて楽しそうだったんだもの、大事な人なのよね? どちらか一人かしら、それとも二人とも? 二人とも綺麗で可愛いのはわかるけど、でも私の方がいいってわかってもらいたくて。だから、それが無くなっちゃえばいいって。全部燃えちゃえば、きっとあなたは落ち込んでしまうわ。だから私が慰め――きゃっ」
「そうかい……それ以上口を開くな、力加減が出来なくなる」
女性が話している途中、カインは手を取り逃げようとする背中を地面に押し付け締め上げる。感情の抜け落ちた顔で、どこまでも平坦な声が自分から出ていた。頭は酷く冷静だ。ただただ、心が酷く冷めきっているだけで。
「カインさん!? 一体どうされ、」
「神父、騎士団を。近くにいるんだよな?」
「……はい」
騒ぎを聞きつけたメルチスだが、カインの様子にただならぬものを感じたのだろう。すぐに踵を返し、ほどなくして騎士団が駆け付けた。
「自分のどの辺の魅力に惚れられてるって思った訳?」
「これから知っていってもらうの!」
「随分自分に自信があるんだな」
その間ずっと女性はカインに語り掛けていたが、カインは自分の心が冷えていくのを感じるだけだった。
●
「俺のせいで騒ぎを起こして悪かった。フィオもごめんな」
「いえ、カインさんが悪くないのはわかっていますから」
「どうぞ気に病まないでください」
私たちの言葉に、やっと彼は安心したように表情を緩める。それを見計らってか、左右からスールとティトが青年を呼びに来た。
「とっておき!」
「用意スルぞ、ナニする?」
「そうだな、何が食べたい?」
「あまいの!」
「ニク!」
「それは夕飯だ」
子どもたちと話す姿は、家族のように温かだ。彼と出会ってから二年以上の月日が経つ。真っ直ぐで気持ちがよく、勇敢で、私たちのことをいつも考えてくれる青年。出会うたびに、冒険者として逞しく身も心も成長しているのがわかる。
どうしてここまで心を傾けてくださるのか。それはきっと、どこか私たちと似たところがあるからなのだろう。私たちはそれに甘えていないだろうかと、時折ふと考えてしまう。だから、その代わりではないが、せめてここにいる間は穏やかで過ごしてほしい。
きっと彼の道の先には、これからも困難が付きまとうことだろう。そして覚えていてほしい。心を近しくした私たちは、いつでも家族の無事と幸せを願っていることを。
「メルチス? 行くぞ」
「カインさん。ここは、貴方のもうひとつの家ですよ」
そう告げると、青年は嬉しそうに笑ってくれた。
「思ったよりも元気そうだったな」
帰り道の途中、カイン・ステラはそう呟く。彼は今ちょうど山を下り、シグモル火山帯を抜けてきたところだ。
以前相対し、王国の都市を追放されたとある神官長。火生の神を信仰する彼は、場所を追われた後にいちから出直すことにしたらしい。信徒として敬虔な日々を送っていると、同じ集落の信徒が話していた。
ボルガニスクと会い、揚げアイスを食べさせたことがあると伝えれば、彼は面白いほど目を丸くしていた。持ってきた揚げアイスを差し出すと神妙な顔をして食を進める。憑き物が落ちたかのように、その表情は柔らかく見えた。
●
王国北部にある教会都市、シャイネ。ここにはカインが懇意にしているグナーデ教会がある。いつもの道を進み、いつもの角を曲がると、いつもの風景が見えてきた。教会の脇にある小さな庭に人が集まっている。見慣れた姿ばかりのそこへカインは声を掛けた。
「よう、元気にしてるか?」
「まあ、カインさん! ようこそいらっしゃいました」
「カイン兄ちゃん!」
「こんにちは!」
教会を任される神父、メルチス・アダラードと孤児院で暮らす子どもたちが顔を上げ、カインを温かく迎えてくれる。集まる子どもたちに挨拶をし、賑やかな輪に飛び込んだ。
「揚げアイス食べるか?」
「ナンだソレ!」
「美味しそうね!」
「初めて聞きました!」
「神父、カインさんがおやつを持ってきてくれましたよ」
「ふふ、ありがとうございます。では少し休憩にしましょうか」
「庭に何か植えてたのか」
「うん、神父がもらってきたんだ」
「薔薇ですよ。鉢植えの時に植えるといいんですって」
「オレたちは雪カキした!」
「教会の周りも頑張ったのよね」
「そっか、皆お疲れ様! それならなんかご褒美やりたいよな」
「そうですね……とっておきのお茶会にしちゃいましょうか」
「とっておきですか?」
「たのしそー!」
「じゃあ、とっておきのお茶会するぞ!」
「おー!」
カインの号令に皆が続く。今日は一日中、賑やかな中で過ごせそうだ。
●
「フィオ、買い物メモは持ったか?」
「もちろんです」
「フィオとハウラ、それにスールはよく買い出しに行ってくれるんですよ」
「スールも?」
「新しいものが好きだから、外に出たがるんです。二人だけで買い物に行ったりもしてます」
「その間、ハウラがティトの特訓を見てくれて、アルドとピオは勉強していることが多いですね」
「この前、皆で地域の清掃作業に参加したんです。アルドと私はよく参加してたんですが、一緒は初めてで。少しだけ緊張したけど楽しかったって皆言ってました」
「本当に良かったです」
「そっか。良かった」
フィオとメルチスが嬉しそうで、カインも心を温かくする。
商店街に着くと、フィオが率先して果物や野菜を選んでくれた。カインの目から見ても正しく、店主とのやりとりも頼もしい。新たな一面を見た思いだ。
「そうだ、メルチス。ここで言っておくな。紹介状役に立ったよ、ありがとう」
「それはよかった。時折、教会宛てにも文をいただけるんですよ。謝罪したいとよく言っておられます」
「あの人なら出来るかもな」
「神父、カインさん、良い林檎が手に入りましたよ!」
「すごいぞ、何作るか」
「パイを作るのもいいですね」
「私も好きですよ。オレンジ入りのものをよくフィオが作ってくれるので、すっかり皆の好物になりました」
「いいな、俺にも教えてくれるか? フィオ」
「はい!」
●
それは、教会に戻った時に起こった。
「王子様!」
突如目の前に出てきた女性が叫び、カインは驚く。年の頃はカインと同じくらいだろうか、いきなりカインの前に詰め寄ってきた。
「ああ、近くで見ると本当に素敵! 濡れたように艶やかな黒髪も宝石みたいに煌めく瞳も吸い込まれるよう。優しげで笑顔も見惚れました。背もとっても高いし逞しいわ、まさに私の理想の王子様! 一目見た時から好きになったの、私のことも知ってほしいわ」
「……は?」
買い物を終えて戻った後、アルドから『教会周りに怪しい人が居る』と告げられた。見つけた人影に話を聞こうとした結果がこれだ。
「ラスタさん? どうされたのでしょうか」
「こんにちは神父様! この方はだあれ? 教会によく来ていた冒険者さんかしら。初めまして、ラスタと申します。私とお茶でもどうですか? 貴方とお話したいんです」
勢いに目を瞬かせていたが、カインは最後の言葉に首を振った。
「いや、困る。これから、教会の皆とお茶会をするから」
「……そう。じゃあやっぱり、やるしかないのね」
「……やる?」
カインは気付いた。
よく乾いた藁の束が、教会の壁へ寄りかかっている。
その意味に思い当たった瞬間、一気に身体中の血液が沸騰した。
「お前、何しようとしてた」
「教会の神父さまとエルフの女の子と歩いていたのを見たの、あんなに素敵な笑顔を見せて楽しそうだったんだもの、大事な人なのよね? どちらか一人かしら、それとも二人とも? 二人とも綺麗で可愛いのはわかるけど、でも私の方がいいってわかってもらいたくて。だから、それが無くなっちゃえばいいって。全部燃えちゃえば、きっとあなたは落ち込んでしまうわ。だから私が慰め――きゃっ」
「そうかい……それ以上口を開くな、力加減が出来なくなる」
女性が話している途中、カインは手を取り逃げようとする背中を地面に押し付け締め上げる。感情の抜け落ちた顔で、どこまでも平坦な声が自分から出ていた。頭は酷く冷静だ。ただただ、心が酷く冷めきっているだけで。
「カインさん!? 一体どうされ、」
「神父、騎士団を。近くにいるんだよな?」
「……はい」
騒ぎを聞きつけたメルチスだが、カインの様子にただならぬものを感じたのだろう。すぐに踵を返し、ほどなくして騎士団が駆け付けた。
「自分のどの辺の魅力に惚れられてるって思った訳?」
「これから知っていってもらうの!」
「随分自分に自信があるんだな」
その間ずっと女性はカインに語り掛けていたが、カインは自分の心が冷えていくのを感じるだけだった。
●
「俺のせいで騒ぎを起こして悪かった。フィオもごめんな」
「いえ、カインさんが悪くないのはわかっていますから」
「どうぞ気に病まないでください」
私たちの言葉に、やっと彼は安心したように表情を緩める。それを見計らってか、左右からスールとティトが青年を呼びに来た。
「とっておき!」
「用意スルぞ、ナニする?」
「そうだな、何が食べたい?」
「あまいの!」
「ニク!」
「それは夕飯だ」
子どもたちと話す姿は、家族のように温かだ。彼と出会ってから二年以上の月日が経つ。真っ直ぐで気持ちがよく、勇敢で、私たちのことをいつも考えてくれる青年。出会うたびに、冒険者として逞しく身も心も成長しているのがわかる。
どうしてここまで心を傾けてくださるのか。それはきっと、どこか私たちと似たところがあるからなのだろう。私たちはそれに甘えていないだろうかと、時折ふと考えてしまう。だから、その代わりではないが、せめてここにいる間は穏やかで過ごしてほしい。
きっと彼の道の先には、これからも困難が付きまとうことだろう。そして覚えていてほしい。心を近しくした私たちは、いつでも家族の無事と幸せを願っていることを。
「メルチス? 行くぞ」
「カインさん。ここは、貴方のもうひとつの家ですよ」
そう告げると、青年は嬉しそうに笑ってくれた。