繋いだ想いは温かく
キャラクターノベル(グループ)制作 真柄 葉納品 2022年12月06日 14時25分39秒
ほんの些細な事で一喜一憂する彼女を見ていると、心が温かくなる。
皆からは、「世間知らずだ」「もっとしっかりしろ」「いつもふらふらと危なっかしい」なんて散々に言われているけど、それは彼女がただただ純粋だからなのだと思う。
極北なんて人知を超えた場所で生まれ育って、とても大きな使命を帯びて一人で南へ出てきた彼女。頼るものもなく、ただ使命に従って各国を放浪し、時に動乱に、時に陰謀に巻き込まれつつも、その幸運の手で激動の時代を乗り越えてきた。
「ハーヴィ、どうしたの?」
「あ、ううん。何でもないよ。それよりどう? 美味しい?」
「うんっ! 香ばしいのに甘酸っぱくて果肉がとろッとしてて! これはなんていう料理なの?」
「えっと、それはピーチパイだね。桃を使ったお菓子だよ。あ、極北に桃はなかったっけ?」
「そっか、桃っていうのね。とっても美味しいっ!」
大きな口でパイを頬張る彼女。『征竜の巫女』なんて大層な二つ名を持っているけど、こうして話をすればただの年頃の女の子にしか見えない。感情豊かで、美味しいものに目が無くて、誰とでも分け隔てなく接する、どこにでもいる普通の子だ。確かにトラブルメーカーな所もなくはないけど、それはあくまで彼女の一面に過ぎないと思っている。
「そういえば、ローラは元気?」
「うん、新しいお家も気に入ったみたい。顔色も良くなった……気がするわ」
「はは、マーメイドの顔色はわかりにくいもんね。でも、そうか、元気でやってるんだね。安心して住める場所が見つかってよかった」
「うん、これも皆のおかげかな。ハーヴィもありがとうね」
「別に僕は大したことやってないよ。あの場所を用意したのもヴィルジニアさんだしね」
彼女が大切にしているマーメイドの少女は、つい先日念願の安住の地を得た。とは言っても、まだ住み始めたところだし何が起こるかわからないけど、一先ずは安心できるかな。マーメイドを目の敵にしているローレラウラからは離れた場所だし、元セルッティ商会の建物だから変な気を起こす人も少ないだろうし、何よりいつでも会いに行けるのはとても嬉しい。
まだ心を開いてくれているとは言い難いけど、最初に会った頃に比べれば格段の進歩を遂げてると思う。
「また今度遊びに行くよ」
「うん、いつでも来て。あの子もきっと喜ぶと思うから」
「そうかな、そうだといいな」
最初に出会ったあの岩場では、衰弱していたからかそこまで威嚇されなかったけど、次に会ったあの湾では、すごく警戒された。
それも今では近くに行って話しかけることが出来るようになったし、プレゼントした髪飾りをつけてもらえるようになった。まだ本当の笑顔を見せてくれたりはしないけど、いつかは彼女へ向けるみたいな柔らかな笑顔を、僕に見せて欲しい。
笑顔か……。
君だけに見せる笑顔。
どうして君だけに見せるのかって以前彼女に聞いたら「わたしがお姉さんだからよっ!」なんてよくわからない答えが返ってきた。いや、それ答えになってないからね?
ほんとにどうしたら仲良くなれるのだろう。
彼女の真似をして接してみたりもしたけど、どうしても『壁』を感じてしまう。男女の差? いや、それは何か違う気がする。征竜の加護? それだったら僕にはどうしようもないから、違うといいな。潜在的な敵意? ……は、ないつもりだけど、もしかしたら心のどこかにマーマン族への嫌悪があって、それを感じられている……とか。
お話ができるようになれば、その辺りがわかるのかな。今は焦らず待つのがいいのかな。それで危険がないってわかれば、彼女に見せる様な笑顔を僕にも――――。
本当に?
本当に、マーメイドの少女と仲良くなりたいの? ただ単に、彼女に近づくための口実じゃないの?
……違う。何を言うんだ。
僕は純粋にローラの事を――――。
「あ、そうだ。あの髪飾りも気にいってるみたいだし、また何かプレゼントしてみるのはどう?」
「え……? あ、ああ、いいアイデアだね。プレゼントかぁ、今度は何を贈ろうかな」
「うーん、また同じ物って訳にはいかないよね……ネックレスとか腕輪とかはどう?」
「あんまりジャラジャラしたものってどうなんだろう。泳いでる時邪魔になったりしないかな? ほら、以前あげた髪飾りは実用的だからつけてもらってる可能性を考えると……うーん、こういう時、お話しできると好みがわかるんだけど」
「そうね、あの子も頑張って喋ろうとしてるみたいなんだけど、『音』にするのが難しいみたい」
「音にする、か……きっと、僕達ヒトとは声帯の形が違うんだろうね。でも、一生懸命話そうとしてくれているのは嬉しいな。それって、君とコミュニケーションを取ろうとしてるって事だよね」
「きっとそうだと思うわ。もちろん、わたしとだけじゃなくてハーヴィ達ともね。最近はあなた達にも威嚇をしなくなったし、この人たちは大丈夫だって思ってくれているのかも」
「そうかな……そう思ってくれると嬉しいな」
そう、きっと少女とは仲良くなれる。いや、なるんだ。
仲良くなって、彼女の心配事を一つでも解消する。もちろん自分の為でもあるけど、僕が君に出来るのはそれくらいしかないから。
「うん? 何か言った?」
「あー! ううん、なんでもない! あ、そうだ! 靴なんかどうかな」
「え、靴? どうやって履くのよ。尾ヒレじゃ履けないわよ」
「どうやってって、人の姿になった時に決まってるよ。いっつも裸足じゃないか」
「……あっ」
「あっ、じゃないよ。まったく、もう」
わざとらしく肩を落として見せると、彼女はカラカラと笑っている。
彼女は今、幸せなのだろうか。
以前聞いた時には「幸せよ? だって、征竜さまのお役にたてるんだものっ!」と言ってたから、本人は幸せだと思っているのだろう。
……違うんだよ。
騙されているとは言わないけど、それは『征竜の巫女』としての幸せであって、君の幸せではないんじゃないの?
こうして、誰かと遊んだり。
こうして、誰かと笑ったり。
こうして、誰かと、恋したり……。
ヒトとして、普通の幸せを掴む未来はないの?
「あ、そうだ。君はどんなものが欲しい?」
「へ、わたし?」
「うん、参考になるかもしれないから教えて欲しいな」
「うーん、わたしの欲しい物かぁ。何でもいいの?」
「ええ、我がカークランド商会の威信にかけて、征竜の巫女殿のご希望に沿う品を揃えて御覧に入れますよ」
「ぷっ。何それ、似合わないー」
「えー、これでも実家でみっちり仕込まれたんだけどなぁ……。まあいいや、それで何がいい?」
「うーん、そうねぇ。何が欲しいだろう…………鍋?」
「はい? 鍋……?」
「うん。使ってたやつに穴空いちゃって。修理もできないって言われて困ってたのよね」
「そ、そっか。鍋かぁ……よしっ、それじゃ探しに行こうか! この先にうちの商店があるから、行ってみよ!」
「え? いいの?」
「うん、ちょっと早いけど聖霊節のプレゼント」
そう言って、彼女の手を取ると温もりが伝わってくる。
この温もりを守ってあげたい。
僕なんかよりずっと強いのは知っているけど、一人の女の子として君を守りたい。
隣に立っていられるように僕も強くなるから。
君が笑顔でいられて、この世界を好きでいてくれるように、僕はがんばるから。
だから、これからもよろしくね――――ヒルルクさん。
皆からは、「世間知らずだ」「もっとしっかりしろ」「いつもふらふらと危なっかしい」なんて散々に言われているけど、それは彼女がただただ純粋だからなのだと思う。
極北なんて人知を超えた場所で生まれ育って、とても大きな使命を帯びて一人で南へ出てきた彼女。頼るものもなく、ただ使命に従って各国を放浪し、時に動乱に、時に陰謀に巻き込まれつつも、その幸運の手で激動の時代を乗り越えてきた。
「ハーヴィ、どうしたの?」
「あ、ううん。何でもないよ。それよりどう? 美味しい?」
「うんっ! 香ばしいのに甘酸っぱくて果肉がとろッとしてて! これはなんていう料理なの?」
「えっと、それはピーチパイだね。桃を使ったお菓子だよ。あ、極北に桃はなかったっけ?」
「そっか、桃っていうのね。とっても美味しいっ!」
大きな口でパイを頬張る彼女。『征竜の巫女』なんて大層な二つ名を持っているけど、こうして話をすればただの年頃の女の子にしか見えない。感情豊かで、美味しいものに目が無くて、誰とでも分け隔てなく接する、どこにでもいる普通の子だ。確かにトラブルメーカーな所もなくはないけど、それはあくまで彼女の一面に過ぎないと思っている。
「そういえば、ローラは元気?」
「うん、新しいお家も気に入ったみたい。顔色も良くなった……気がするわ」
「はは、マーメイドの顔色はわかりにくいもんね。でも、そうか、元気でやってるんだね。安心して住める場所が見つかってよかった」
「うん、これも皆のおかげかな。ハーヴィもありがとうね」
「別に僕は大したことやってないよ。あの場所を用意したのもヴィルジニアさんだしね」
彼女が大切にしているマーメイドの少女は、つい先日念願の安住の地を得た。とは言っても、まだ住み始めたところだし何が起こるかわからないけど、一先ずは安心できるかな。マーメイドを目の敵にしているローレラウラからは離れた場所だし、元セルッティ商会の建物だから変な気を起こす人も少ないだろうし、何よりいつでも会いに行けるのはとても嬉しい。
まだ心を開いてくれているとは言い難いけど、最初に会った頃に比べれば格段の進歩を遂げてると思う。
「また今度遊びに行くよ」
「うん、いつでも来て。あの子もきっと喜ぶと思うから」
「そうかな、そうだといいな」
最初に出会ったあの岩場では、衰弱していたからかそこまで威嚇されなかったけど、次に会ったあの湾では、すごく警戒された。
それも今では近くに行って話しかけることが出来るようになったし、プレゼントした髪飾りをつけてもらえるようになった。まだ本当の笑顔を見せてくれたりはしないけど、いつかは彼女へ向けるみたいな柔らかな笑顔を、僕に見せて欲しい。
笑顔か……。
君だけに見せる笑顔。
どうして君だけに見せるのかって以前彼女に聞いたら「わたしがお姉さんだからよっ!」なんてよくわからない答えが返ってきた。いや、それ答えになってないからね?
ほんとにどうしたら仲良くなれるのだろう。
彼女の真似をして接してみたりもしたけど、どうしても『壁』を感じてしまう。男女の差? いや、それは何か違う気がする。征竜の加護? それだったら僕にはどうしようもないから、違うといいな。潜在的な敵意? ……は、ないつもりだけど、もしかしたら心のどこかにマーマン族への嫌悪があって、それを感じられている……とか。
お話ができるようになれば、その辺りがわかるのかな。今は焦らず待つのがいいのかな。それで危険がないってわかれば、彼女に見せる様な笑顔を僕にも――――。
本当に?
本当に、マーメイドの少女と仲良くなりたいの? ただ単に、彼女に近づくための口実じゃないの?
……違う。何を言うんだ。
僕は純粋にローラの事を――――。
「あ、そうだ。あの髪飾りも気にいってるみたいだし、また何かプレゼントしてみるのはどう?」
「え……? あ、ああ、いいアイデアだね。プレゼントかぁ、今度は何を贈ろうかな」
「うーん、また同じ物って訳にはいかないよね……ネックレスとか腕輪とかはどう?」
「あんまりジャラジャラしたものってどうなんだろう。泳いでる時邪魔になったりしないかな? ほら、以前あげた髪飾りは実用的だからつけてもらってる可能性を考えると……うーん、こういう時、お話しできると好みがわかるんだけど」
「そうね、あの子も頑張って喋ろうとしてるみたいなんだけど、『音』にするのが難しいみたい」
「音にする、か……きっと、僕達ヒトとは声帯の形が違うんだろうね。でも、一生懸命話そうとしてくれているのは嬉しいな。それって、君とコミュニケーションを取ろうとしてるって事だよね」
「きっとそうだと思うわ。もちろん、わたしとだけじゃなくてハーヴィ達ともね。最近はあなた達にも威嚇をしなくなったし、この人たちは大丈夫だって思ってくれているのかも」
「そうかな……そう思ってくれると嬉しいな」
そう、きっと少女とは仲良くなれる。いや、なるんだ。
仲良くなって、彼女の心配事を一つでも解消する。もちろん自分の為でもあるけど、僕が君に出来るのはそれくらいしかないから。
「うん? 何か言った?」
「あー! ううん、なんでもない! あ、そうだ! 靴なんかどうかな」
「え、靴? どうやって履くのよ。尾ヒレじゃ履けないわよ」
「どうやってって、人の姿になった時に決まってるよ。いっつも裸足じゃないか」
「……あっ」
「あっ、じゃないよ。まったく、もう」
わざとらしく肩を落として見せると、彼女はカラカラと笑っている。
彼女は今、幸せなのだろうか。
以前聞いた時には「幸せよ? だって、征竜さまのお役にたてるんだものっ!」と言ってたから、本人は幸せだと思っているのだろう。
……違うんだよ。
騙されているとは言わないけど、それは『征竜の巫女』としての幸せであって、君の幸せではないんじゃないの?
こうして、誰かと遊んだり。
こうして、誰かと笑ったり。
こうして、誰かと、恋したり……。
ヒトとして、普通の幸せを掴む未来はないの?
「あ、そうだ。君はどんなものが欲しい?」
「へ、わたし?」
「うん、参考になるかもしれないから教えて欲しいな」
「うーん、わたしの欲しい物かぁ。何でもいいの?」
「ええ、我がカークランド商会の威信にかけて、征竜の巫女殿のご希望に沿う品を揃えて御覧に入れますよ」
「ぷっ。何それ、似合わないー」
「えー、これでも実家でみっちり仕込まれたんだけどなぁ……。まあいいや、それで何がいい?」
「うーん、そうねぇ。何が欲しいだろう…………鍋?」
「はい? 鍋……?」
「うん。使ってたやつに穴空いちゃって。修理もできないって言われて困ってたのよね」
「そ、そっか。鍋かぁ……よしっ、それじゃ探しに行こうか! この先にうちの商店があるから、行ってみよ!」
「え? いいの?」
「うん、ちょっと早いけど聖霊節のプレゼント」
そう言って、彼女の手を取ると温もりが伝わってくる。
この温もりを守ってあげたい。
僕なんかよりずっと強いのは知っているけど、一人の女の子として君を守りたい。
隣に立っていられるように僕も強くなるから。
君が笑顔でいられて、この世界を好きでいてくれるように、僕はがんばるから。
だから、これからもよろしくね――――ヒルルクさん。