嬢ちゃんの、賭け
キャラクターノベル制作 空色みなも納品 2022年11月22日 15時43分28秒
●
一度きりの人生、どう生きる?
面白おかしく生きてえよな。
なら、ここで山を張るのも悪かねえ――。
●
棚に所狭しと並んだ小箱たちは、中に遊び心を秘めている。
卓上遊戯を数多く取り揃えたこの部屋は――パンクリアース学園卓上遊戯部、部室。
つい先ほどまで学園を賑わせていた祭りの喧騒も、去って。
出展会場から引き揚げてきた未整理の箱が、テーブルの上に堆く積まれていた。
「ヴァンさん。本日のお力添え、誠に感謝いたしますわ」
くるりと巻いた、金髪の少女――卓上遊戯部、部員カーリィ・ブロンド。
彼女の見上げるような視線の先に、ヴァンゲルス・ロッドの金の瞳があった。
「なぁに、俺はたいしたことはしてねぇよ。カーリィの嬢ちゃんたちが頑張ったおかげさ。よくやったな」
ヴァンゲルスはニッ、と口角を上げる。
「ま、まあ、わたくしが学園祭の成功のため尽力したのもまた、事実ではありますけれど……!」
精一杯の虚勢。
こそばゆそうに頬を染めながら胸を張る、いつものカーリィ仕草。
そう、カーリィが頑張っていたのは本当だ。
ヴァンゲルスの言葉もお世辞などではなく、本心からのものである。
「やっぱりそういうトコ可愛いよな、嬢ちゃん」
「かっ……かわっ……」
ヴァンゲルスがくつくつと笑うと、今度はカーリィも俯いてしまった。
カーリィを可愛く思う。
これも本当は冗談などではなく、ヴァンゲルスの心からの言葉である。
魅力的だと感じている。
ひとりの人間として、また、ひとりの女性として――。
しかし。
カーリィは学生であり、ヴァンゲルスは大人である。
カーリィは貴族であり、ヴァンゲルスは平民である。
住む世界が、違いすぎる――。
少なくとも、ヴァンゲルスはそう感じていた。
だからあえて一線を引いてきた。
あちら側とこちら側、二人を分かつその線を。
決して踏み越えることの、ないように。
しばらく俯いたまま押し黙っていたカーリィであったが。
やがて何か意を決したように、ギュッと拳を握り。
顔を上げ、真っすぐにヴァンゲルスと目を合わせた。
「あの、ヴァンさん。この後、お時間をいただけますでしょうか?」
カーリィのいつになく真剣な眼差しを見て。
ヴァンゲルスは冗談めかすこともなく、いいぜ、とただ短く返した。
●
「あれから一年と少々――もう懐かしく感じますわね」
カーリィが棚から持って来た小箱には、色とりどりのカードやタイルが詰め込まれていた。
それらの小道具が広げられ、テーブル上が遊戯の世界に染まっていく。
それはかつてカーリィを魅了した、色とりどりの魔女が暮らす世界――。
「なるほど、カーリィの嬢ちゃんと最初にやったのがコイツだったな。今日は二人でやるのか?」
「ええ、五人の時とは違う構成になるようですが、二人でもできると伺いましたわ」
ヴァンゲルスにも覚えがあった――というより、忘れようはずもない。
それはカーリィと出会う切っ掛けとなった遊戯であったのだから。
「あれから嬢ちゃんもずいぶん丸くなったよな」
「あの頃はわたくしもお恥ずかしいことを申しておりましたわね」
ヴァンゲルスがしみじみと口にすると、カーリィは素直に過去の自らを省みた。
いつもなら、どこかツンケンしてみせようと悪あがきするところ。
それもまずだいたいは、照れを隠しきれずに終わるのだけれども。
「ここは折角ですわ。あの時と同じ魔女で、冒険しませんこと?」
「ああ、望むところだ」
そう言って、カーリィが手に取ったのは白いローブをまとった魔女のタイル。
それを見たヴァンゲルスも、黄色の魔女が描かれたタイルを手許に置いた。
あの時と同じ色、あの時と同じ魔法を携えて。
二人の魔女は、協力して黒の魔女を倒すべく冒険の旅に出る。
黒の魔女が刺客として放った使い魔たちを、白の魔女が正確無比な魔法の矢で貫き。
使い魔の爪を舞うように避けた黄の魔女が、すれ違いざまに魔法の風で敵を切り裂く。
手にしたカードが描き出す世界に、カーリィはすっかり没入し。
そんな彼女を、ヴァンゲルスも目を細めて見守っていた。
そして二人の魔女の前に現れる、最後の敵。
使い魔の鴉を連れた、黒の魔女。
それは立ちはだかる、強大な壁。
乗り越えるべき、困難。
「わたくし――他家へ嫁に行くよう、お父様から言われておりますの」
ポツリ、と小さく。
カーリィの口から言葉が漏れた。
遊戯の流れから逸れた、突然の告白。
しかしヴァンゲルスもそれに何を言うでもなく、静かに話の続きを待つ。
「本当のところを申しますと――わたくしの家が治める領は経済的に出遅れているのですわ」
言葉を絞り出すように、カーリィが語ったところによると。
カーリィの実家は彼女を嫁に出すことにより、嫁ぎ先から資金援助を受けようと交渉するつもりらしい。
ヴァンゲルスも、分かってはいた。
カーリィは卒業後、いつか貴族のもとへ嫁ぐのだろうと。
そして、今のように会える機会が無くなるであろうことも。
名残惜しさはもちろん、ある。
だが、それがカーリィたち貴族の宿命であるとも。
分かって、いるのだ。
「ヴァンさん、覚えておいででしょうか。あの時、わたくしに黒の魔女を倒す役、任せてくださいましたわね」
「ああ」
もちろん、と言うようにカーリィへヴァンゲルスが頷いて。
「とても嬉しかったのを覚えてますわ。今こうして思い出しても、胸が弾むようですの」
カーリィが自らの胸に手を添える。
「だからヴァンさん。ここは今一度、わたくしに任せていただけませんこと?」
カーリィの前で裏向きに積まれたカードの山を見れば――八枚。
残り二枚であったあの時とは、違う。
今、カードを引けば――何が出るのか、予測することはできない。
もしカーリィに黒の魔女を任せるため、ヴァンゲルスが使い魔の鴉を攻撃し。
万一、カーリィが黒の魔女を仕留め損なえば、待っているのは全滅だろう。
「やりな、嬢ちゃん――人生はどデカイ賭博場だ。危ない橋を渡るほど、生きてるっていう実感があるモンさ」
だが、それを聞いたヴァンゲルスの顔に浮かんだのは、これまで彼が見せた中でも最高の笑みだった。
「ありがとうございますわ」
それを見たカーリィもまた、ふっと微笑んで。
ヴァンゲルスが黄の魔女に鴉を撃ち抜かせるのを待つと。
白いカードの山に、手を伸ばした。
●
「なんだかわたくし、やれるような気がしてきましたわ。ヴァンさんのおかげですの」
カーリィは、憑き物が落ちたように晴れやかな顔をしていた。
テーブルの上で、黒の魔女を表すタイルは身を守る障壁が全て削られた状態となっている。
それはカーリィが任された仕事を成し遂げた、証。
「わたくし、少し粘ってみようと思いますわ。もちろん、領を守ることは必要ですが――何か方法がないか探してみますの」
「そうか。嬢ちゃんの歩く道がなんであれ、俺は応援してるぜ」
これまでカーリィを見守り続けてきたヴァンゲルスには、分かる。
(成長、したな――嬢ちゃんもいつまでも子供じゃねぇってわけだ)
ヴァンゲルスの胸に、感慨のようなものが押し寄せた。
はっきり言えば、カーリィが行おうとしているのは分の悪い賭けだ。
(だが――俺がチップを乗せるとしたなら、どっちだろうな)
ヴァンゲルスは思う。
これだから、嬢ちゃんは見ていて飽きないな――と。
一度きりの人生、どう生きる?
面白おかしく生きてえよな。
なら、ここで山を張るのも悪かねえ――。
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棚に所狭しと並んだ小箱たちは、中に遊び心を秘めている。
卓上遊戯を数多く取り揃えたこの部屋は――パンクリアース学園卓上遊戯部、部室。
つい先ほどまで学園を賑わせていた祭りの喧騒も、去って。
出展会場から引き揚げてきた未整理の箱が、テーブルの上に堆く積まれていた。
「ヴァンさん。本日のお力添え、誠に感謝いたしますわ」
くるりと巻いた、金髪の少女――卓上遊戯部、部員カーリィ・ブロンド。
彼女の見上げるような視線の先に、ヴァンゲルス・ロッドの金の瞳があった。
「なぁに、俺はたいしたことはしてねぇよ。カーリィの嬢ちゃんたちが頑張ったおかげさ。よくやったな」
ヴァンゲルスはニッ、と口角を上げる。
「ま、まあ、わたくしが学園祭の成功のため尽力したのもまた、事実ではありますけれど……!」
精一杯の虚勢。
こそばゆそうに頬を染めながら胸を張る、いつものカーリィ仕草。
そう、カーリィが頑張っていたのは本当だ。
ヴァンゲルスの言葉もお世辞などではなく、本心からのものである。
「やっぱりそういうトコ可愛いよな、嬢ちゃん」
「かっ……かわっ……」
ヴァンゲルスがくつくつと笑うと、今度はカーリィも俯いてしまった。
カーリィを可愛く思う。
これも本当は冗談などではなく、ヴァンゲルスの心からの言葉である。
魅力的だと感じている。
ひとりの人間として、また、ひとりの女性として――。
しかし。
カーリィは学生であり、ヴァンゲルスは大人である。
カーリィは貴族であり、ヴァンゲルスは平民である。
住む世界が、違いすぎる――。
少なくとも、ヴァンゲルスはそう感じていた。
だからあえて一線を引いてきた。
あちら側とこちら側、二人を分かつその線を。
決して踏み越えることの、ないように。
しばらく俯いたまま押し黙っていたカーリィであったが。
やがて何か意を決したように、ギュッと拳を握り。
顔を上げ、真っすぐにヴァンゲルスと目を合わせた。
「あの、ヴァンさん。この後、お時間をいただけますでしょうか?」
カーリィのいつになく真剣な眼差しを見て。
ヴァンゲルスは冗談めかすこともなく、いいぜ、とただ短く返した。
●
「あれから一年と少々――もう懐かしく感じますわね」
カーリィが棚から持って来た小箱には、色とりどりのカードやタイルが詰め込まれていた。
それらの小道具が広げられ、テーブル上が遊戯の世界に染まっていく。
それはかつてカーリィを魅了した、色とりどりの魔女が暮らす世界――。
「なるほど、カーリィの嬢ちゃんと最初にやったのがコイツだったな。今日は二人でやるのか?」
「ええ、五人の時とは違う構成になるようですが、二人でもできると伺いましたわ」
ヴァンゲルスにも覚えがあった――というより、忘れようはずもない。
それはカーリィと出会う切っ掛けとなった遊戯であったのだから。
「あれから嬢ちゃんもずいぶん丸くなったよな」
「あの頃はわたくしもお恥ずかしいことを申しておりましたわね」
ヴァンゲルスがしみじみと口にすると、カーリィは素直に過去の自らを省みた。
いつもなら、どこかツンケンしてみせようと悪あがきするところ。
それもまずだいたいは、照れを隠しきれずに終わるのだけれども。
「ここは折角ですわ。あの時と同じ魔女で、冒険しませんこと?」
「ああ、望むところだ」
そう言って、カーリィが手に取ったのは白いローブをまとった魔女のタイル。
それを見たヴァンゲルスも、黄色の魔女が描かれたタイルを手許に置いた。
あの時と同じ色、あの時と同じ魔法を携えて。
二人の魔女は、協力して黒の魔女を倒すべく冒険の旅に出る。
黒の魔女が刺客として放った使い魔たちを、白の魔女が正確無比な魔法の矢で貫き。
使い魔の爪を舞うように避けた黄の魔女が、すれ違いざまに魔法の風で敵を切り裂く。
手にしたカードが描き出す世界に、カーリィはすっかり没入し。
そんな彼女を、ヴァンゲルスも目を細めて見守っていた。
そして二人の魔女の前に現れる、最後の敵。
使い魔の鴉を連れた、黒の魔女。
それは立ちはだかる、強大な壁。
乗り越えるべき、困難。
「わたくし――他家へ嫁に行くよう、お父様から言われておりますの」
ポツリ、と小さく。
カーリィの口から言葉が漏れた。
遊戯の流れから逸れた、突然の告白。
しかしヴァンゲルスもそれに何を言うでもなく、静かに話の続きを待つ。
「本当のところを申しますと――わたくしの家が治める領は経済的に出遅れているのですわ」
言葉を絞り出すように、カーリィが語ったところによると。
カーリィの実家は彼女を嫁に出すことにより、嫁ぎ先から資金援助を受けようと交渉するつもりらしい。
ヴァンゲルスも、分かってはいた。
カーリィは卒業後、いつか貴族のもとへ嫁ぐのだろうと。
そして、今のように会える機会が無くなるであろうことも。
名残惜しさはもちろん、ある。
だが、それがカーリィたち貴族の宿命であるとも。
分かって、いるのだ。
「ヴァンさん、覚えておいででしょうか。あの時、わたくしに黒の魔女を倒す役、任せてくださいましたわね」
「ああ」
もちろん、と言うようにカーリィへヴァンゲルスが頷いて。
「とても嬉しかったのを覚えてますわ。今こうして思い出しても、胸が弾むようですの」
カーリィが自らの胸に手を添える。
「だからヴァンさん。ここは今一度、わたくしに任せていただけませんこと?」
カーリィの前で裏向きに積まれたカードの山を見れば――八枚。
残り二枚であったあの時とは、違う。
今、カードを引けば――何が出るのか、予測することはできない。
もしカーリィに黒の魔女を任せるため、ヴァンゲルスが使い魔の鴉を攻撃し。
万一、カーリィが黒の魔女を仕留め損なえば、待っているのは全滅だろう。
「やりな、嬢ちゃん――人生はどデカイ賭博場だ。危ない橋を渡るほど、生きてるっていう実感があるモンさ」
だが、それを聞いたヴァンゲルスの顔に浮かんだのは、これまで彼が見せた中でも最高の笑みだった。
「ありがとうございますわ」
それを見たカーリィもまた、ふっと微笑んで。
ヴァンゲルスが黄の魔女に鴉を撃ち抜かせるのを待つと。
白いカードの山に、手を伸ばした。
●
「なんだかわたくし、やれるような気がしてきましたわ。ヴァンさんのおかげですの」
カーリィは、憑き物が落ちたように晴れやかな顔をしていた。
テーブルの上で、黒の魔女を表すタイルは身を守る障壁が全て削られた状態となっている。
それはカーリィが任された仕事を成し遂げた、証。
「わたくし、少し粘ってみようと思いますわ。もちろん、領を守ることは必要ですが――何か方法がないか探してみますの」
「そうか。嬢ちゃんの歩く道がなんであれ、俺は応援してるぜ」
これまでカーリィを見守り続けてきたヴァンゲルスには、分かる。
(成長、したな――嬢ちゃんもいつまでも子供じゃねぇってわけだ)
ヴァンゲルスの胸に、感慨のようなものが押し寄せた。
はっきり言えば、カーリィが行おうとしているのは分の悪い賭けだ。
(だが――俺がチップを乗せるとしたなら、どっちだろうな)
ヴァンゲルスは思う。
これだから、嬢ちゃんは見ていて飽きないな――と。