不思議なものとの境界は難しい
キャラクターノベル制作 狐野径納品 2022年10月12日 13時11分47秒
●宝の山?
パンクリアース学園の寮、メアリベル・ヴァイオレットの部屋。
子爵家の令嬢らしく整って――いるわけではなかった。
棚には箱や袋がみっちりはまっているし、あふれて床の上にも置かれている。
部屋のあちこちにある袋や箱、様々な物は、メアリベルの集めたものたち。
不思議なことを探して学園内を歩き回った成果である。
集めたものは石や木の棒、木の実など、脈絡はない。
メアリベルにとってそれらは宝物。
集まった石は、表面が滑らかで模様が美しかったり、輝石ではないけれども、磨けば光りそうなものもある。その石たちは、見た目の美しさの有無はともかく、曰く付きの何かに似ているというものもあるのが曲者だ。石好きで済まない原因だし、研究者になるにしても方向性がオカルトぽくなる傾向につながる。
例えば「夜になると泣くといわれる岩に似ている」とか、「幽霊が動かなくなったときにできた石」である。
なお、石以外については、何かの骨と思われる物は不穏そうだけれども真相は不明。木の枝や実、しおれた花なども一応理由があるらしい。また、宛先が途中までの封筒や白い紙の切れ端、筆の部分などがある。
共通するものは、不思議なものにつながるかもしれないという点だけだ。
メアリベルは学園七不思議を集めているし、出来れば出会いたいと願う。
「こういうのがたくさんあると、ひょっとしたら引き寄せられて……」
コレクションを眺める時間は、素敵なひと時となる。
一方で、メアリベル付きのメイド、レーンは悩んでいる。
あまりにもガラクタが増えてしまい、掃除する場所が限られてきていることが理由の一つ。メアリベルの両親にはそういったものは捨てるように、と一応言われていることもある。
実家だと、メアリベルが拾ってきた物を問答無用で親が真っ先に捨てるように指示を出す。使用人たちもそれに倣ってきた。
現在は寮生活で、自由が利く。その結果、メアリベルは色々拾う。
レーンはメイドとしては厳しくしたいけれども、他人に大変な迷惑が掛かっているわけでもなく、子爵家の令嬢として体面は保っているため、ある程度目はつぶることにしていた。こういう時間も大切だろう、と。
レーンにとって頭痛の種であり、微妙な状況である。
何にせよ、コレクションが棚からあふれているのは問題だった。
●片付け要請
「お嬢様、お茶をお持ちしました」
ハーブティを持って来たレーンは。足下を注意しつつ、入っていく。しかし、転がっていた石を踏みかけた。転ぶことはなかったが、食器がすれて音を立てた。
「申し訳ありません」
謝罪しながら足下を見ると、石は手のひらに収まるくらいのなめらかな表面の、河原でありそうな石が転がっていた。
「大丈夫、レーン? あ、夜泣き岩似の石ですわね」
メアリベルはレーンが躓きかかった石を両手で大切そうに拾う。
レーンはテーブルにポットなどを置きながら「はい?」という変な声が出る。
メアリベルは目をキラキラさせ、説明を始めた。
「これは夜に泣く岩に似ている石なんですの! ですから、夜泣き岩似の石としました!」
岩の由来はとある街で親とはぐれた子どもが――というものだった。それに似ている石で夜泣き岩似の石。
レーンは由来については納得するが、拾った場所が学園内という事を考えると、ツッコミを入れたい気持ちが湧く。
メアリベルはレーンが用意した茶を、石をテーブルに置いてから飲む。
レーンは控えている間、目を動かしてあちこち見る。
「レーン、どうかしたの?」
メアリベルは飲み終わったカップを置き、尋ねた。
レーンは流れに乗って、
「お嬢様……少し、コレクションを整理されてはいかがでしょうか?」
と淡々と、提案した。
メアリベルはぎくりとなる。
集めて来たものがあふれてきているという自覚がある。
実家ではないから楽しんでいたのも事実。一方で、メイドを困らせるのもよくないと、気になった物でも二回に一回くらいしか拾わないようにしていた。
メイドから両親に報告が行けば、メアリベルが叱られるのは明らかだ。
レーンが拾ってくるのを許してくれているとはいえ、両親に報告される危険性がある。
さらに、レーン以外のメイドが着た瞬間、厳しくなることもありうる。
そうなると今のままがいいのだ。
メアリベルは「ゴミにはしません!」と、コレクションを守る決意をする。
レーンは「ですから、コレクションを整理してはいかがでしょうか」再度提案する。
捨てろとは一応言っていない。
整理して、片付けろと言っているのだ。
メアリベルはレーンの譲歩を理解した。
「では、さっそく……明日始めます」
「はい、ありがとうございます」
メアリベルは床に就く。
夜泣き岩似石は転がっていたところではなく、普段置いているところに戻した。
(整理できるでしょうか? もし、出来なかったら……違いますわ! 整理とは分類をしてきちんとしまう事です……という事にしてもよいのでしょうか?)
メアリベルは布団の中で明日しないとならない片付けについて考えるが、
(はっ! 私、あの石、いじった記憶がありません! ひょっとしたら、何かを訴えるために動いたのでしょうか!)
ベッドから身を起こすと、それを観察する。ただし、気づいたら、眠っていた。
●片付けとは
朝食後、ちょっと寝不足のメアリベルは部屋を見渡した。
「入学して二年でここまで物があふれるとは思いませんでしたわ」
コレクションを入れている箱や袋はあちこちにある。最初のころは棚の中にきれいに入れていたはずなのに、床にも置いてある。
時々、あちこちに出かけて転がってしまう。その影響でレーンが転びかけたのだ。
「……そういえば夜泣き岩似の石は動いていません?」
確認するが、棚にある。それを見て、冷静さが戻って来た。
「片付けないと、それどころでなくなります」
メアリベルは集めたもの部屋の中にを出した。分類して、要不要を分けようと考える。
瓶に詰めているのはきれいな石。まだ、余裕があるのでこれはそのまま。
「こちらの長い物入れば結構たまっていますわ……あっちにもあふれてますし」
これはほぼ木の棒。長さや太さが違うし、種類もいくつかある。
メアリベルの眉間にしわが寄る。
「こ、この辺りは少し、元の場所に戻して来ていいかもしれません」
小さくて細い物のいくつかはあきらめることにした。
曲がっている枝などは面白いけれども、たくさん立ててしまえない。かといって、見て面白いし、不思議さがある。
「真っ直ぐな物と、分けて片付ければいいのです!」
真っ直ぐなのは先ほどの筒にまとめ、曲線があるのは袋に入れることにした。
続いて、何かの破片が入った箱の中身を出した。
「これはきっと、マジックアイテムの筆の残りなのですわ! この辺りが神々しいですもの」
思い込みは重要。
「この白い紙の部分は、七不思議の破片ですわ……破片になってしまうと効果がないのかもしれませんし、もったいなくて使えません!」
しおれた花は「押し花にすればよかったかも……」としょんぼりしながら眺めるが、
「押し花にしてしまったら、踊らなくなりますわ!」
と、その花が何かを思い出し、今の状態でよいと結論づけた。
「エーテルがたくさんあれば踊りだすかもしれません! それなのに、つぶれていたら、踊れなくなりますわ!」
踊る花というものがあると聞いたのだ。
チューリップやガーベラなど茎に一つの花が咲くというイメージの花で、太陽の光が当たると、踊りだすというのだ。光がなくなるとただの花に戻るという。
「……これを見つけたところに行って、植木鉢に入れた方がいいかもしれませんわね……」
コレクション、増やす計画。
植木鉢に植わった植物なら、ごまかせるし、いいアイデアだ。
このように、コレクションの内容を考える結果、進まない。
レーンが「昼食をお持ちしてもよろしいでしょうか?」と声を掛けたとき、メアリベルは時間が経っていることに気付いた。
メアリベルははっとして、周りを見た。コレクションは散らかっていた。
「……レーン、片付けとはどうすればいいのでしょう」
レーンは「要不要の箱を用意し、パッと見て分ければよいというのもありますが」と片付けの一つの極意を言う。
「……似たようなことをしたけれども、無理です!」
メアリベルはきっぱりという。
レーンは一文字に口を結び(でしょうね)と心の中で同意した。
メイドであるため片づけはできるのだけれども、メアリベルの意向をとらえた片付けにはならない。
「昼食はいかがしますか?」
「食べます」
メアリベルは気分を変えるため、食事をする。
コレクションに囲まれていると、心は浮き立つ。片付けを考えると悲しくなる。そんな気持ちを行き来する。
食後、メアリベルは片づけを再開した。
日が陰ってくる頃にはどうにか分類や整理を終えた。
元に戻してくるのは、コレクションの中にあるうちに砕けた葉や小さな枝、小石など。
「あのあたりは何だったかよくわからなかったのです」
メモを見たけれども、似たようなのがいくつかあったのもある。
断腸の思いで置いてくることになった。
箱や袋にまとめられたものは、レーンが粛々と棚や床の壁際に片付けていった。
それらの中身は減ったけれども、箱や袋が増えているため、棚には収まらない。
「……お嬢様」
レーンのあきれた声に、メアリベルは整理がつかなかった反省も込め、
「卒業するまでにはきちんと考えます!」
と宣言した。
それを聞き、レーンは大きなため息を吐くのだった。
パンクリアース学園の寮、メアリベル・ヴァイオレットの部屋。
子爵家の令嬢らしく整って――いるわけではなかった。
棚には箱や袋がみっちりはまっているし、あふれて床の上にも置かれている。
部屋のあちこちにある袋や箱、様々な物は、メアリベルの集めたものたち。
不思議なことを探して学園内を歩き回った成果である。
集めたものは石や木の棒、木の実など、脈絡はない。
メアリベルにとってそれらは宝物。
集まった石は、表面が滑らかで模様が美しかったり、輝石ではないけれども、磨けば光りそうなものもある。その石たちは、見た目の美しさの有無はともかく、曰く付きの何かに似ているというものもあるのが曲者だ。石好きで済まない原因だし、研究者になるにしても方向性がオカルトぽくなる傾向につながる。
例えば「夜になると泣くといわれる岩に似ている」とか、「幽霊が動かなくなったときにできた石」である。
なお、石以外については、何かの骨と思われる物は不穏そうだけれども真相は不明。木の枝や実、しおれた花なども一応理由があるらしい。また、宛先が途中までの封筒や白い紙の切れ端、筆の部分などがある。
共通するものは、不思議なものにつながるかもしれないという点だけだ。
メアリベルは学園七不思議を集めているし、出来れば出会いたいと願う。
「こういうのがたくさんあると、ひょっとしたら引き寄せられて……」
コレクションを眺める時間は、素敵なひと時となる。
一方で、メアリベル付きのメイド、レーンは悩んでいる。
あまりにもガラクタが増えてしまい、掃除する場所が限られてきていることが理由の一つ。メアリベルの両親にはそういったものは捨てるように、と一応言われていることもある。
実家だと、メアリベルが拾ってきた物を問答無用で親が真っ先に捨てるように指示を出す。使用人たちもそれに倣ってきた。
現在は寮生活で、自由が利く。その結果、メアリベルは色々拾う。
レーンはメイドとしては厳しくしたいけれども、他人に大変な迷惑が掛かっているわけでもなく、子爵家の令嬢として体面は保っているため、ある程度目はつぶることにしていた。こういう時間も大切だろう、と。
レーンにとって頭痛の種であり、微妙な状況である。
何にせよ、コレクションが棚からあふれているのは問題だった。
●片付け要請
「お嬢様、お茶をお持ちしました」
ハーブティを持って来たレーンは。足下を注意しつつ、入っていく。しかし、転がっていた石を踏みかけた。転ぶことはなかったが、食器がすれて音を立てた。
「申し訳ありません」
謝罪しながら足下を見ると、石は手のひらに収まるくらいのなめらかな表面の、河原でありそうな石が転がっていた。
「大丈夫、レーン? あ、夜泣き岩似の石ですわね」
メアリベルはレーンが躓きかかった石を両手で大切そうに拾う。
レーンはテーブルにポットなどを置きながら「はい?」という変な声が出る。
メアリベルは目をキラキラさせ、説明を始めた。
「これは夜に泣く岩に似ている石なんですの! ですから、夜泣き岩似の石としました!」
岩の由来はとある街で親とはぐれた子どもが――というものだった。それに似ている石で夜泣き岩似の石。
レーンは由来については納得するが、拾った場所が学園内という事を考えると、ツッコミを入れたい気持ちが湧く。
メアリベルはレーンが用意した茶を、石をテーブルに置いてから飲む。
レーンは控えている間、目を動かしてあちこち見る。
「レーン、どうかしたの?」
メアリベルは飲み終わったカップを置き、尋ねた。
レーンは流れに乗って、
「お嬢様……少し、コレクションを整理されてはいかがでしょうか?」
と淡々と、提案した。
メアリベルはぎくりとなる。
集めて来たものがあふれてきているという自覚がある。
実家ではないから楽しんでいたのも事実。一方で、メイドを困らせるのもよくないと、気になった物でも二回に一回くらいしか拾わないようにしていた。
メイドから両親に報告が行けば、メアリベルが叱られるのは明らかだ。
レーンが拾ってくるのを許してくれているとはいえ、両親に報告される危険性がある。
さらに、レーン以外のメイドが着た瞬間、厳しくなることもありうる。
そうなると今のままがいいのだ。
メアリベルは「ゴミにはしません!」と、コレクションを守る決意をする。
レーンは「ですから、コレクションを整理してはいかがでしょうか」再度提案する。
捨てろとは一応言っていない。
整理して、片付けろと言っているのだ。
メアリベルはレーンの譲歩を理解した。
「では、さっそく……明日始めます」
「はい、ありがとうございます」
メアリベルは床に就く。
夜泣き岩似石は転がっていたところではなく、普段置いているところに戻した。
(整理できるでしょうか? もし、出来なかったら……違いますわ! 整理とは分類をしてきちんとしまう事です……という事にしてもよいのでしょうか?)
メアリベルは布団の中で明日しないとならない片付けについて考えるが、
(はっ! 私、あの石、いじった記憶がありません! ひょっとしたら、何かを訴えるために動いたのでしょうか!)
ベッドから身を起こすと、それを観察する。ただし、気づいたら、眠っていた。
●片付けとは
朝食後、ちょっと寝不足のメアリベルは部屋を見渡した。
「入学して二年でここまで物があふれるとは思いませんでしたわ」
コレクションを入れている箱や袋はあちこちにある。最初のころは棚の中にきれいに入れていたはずなのに、床にも置いてある。
時々、あちこちに出かけて転がってしまう。その影響でレーンが転びかけたのだ。
「……そういえば夜泣き岩似の石は動いていません?」
確認するが、棚にある。それを見て、冷静さが戻って来た。
「片付けないと、それどころでなくなります」
メアリベルは集めたもの部屋の中にを出した。分類して、要不要を分けようと考える。
瓶に詰めているのはきれいな石。まだ、余裕があるのでこれはそのまま。
「こちらの長い物入れば結構たまっていますわ……あっちにもあふれてますし」
これはほぼ木の棒。長さや太さが違うし、種類もいくつかある。
メアリベルの眉間にしわが寄る。
「こ、この辺りは少し、元の場所に戻して来ていいかもしれません」
小さくて細い物のいくつかはあきらめることにした。
曲がっている枝などは面白いけれども、たくさん立ててしまえない。かといって、見て面白いし、不思議さがある。
「真っ直ぐな物と、分けて片付ければいいのです!」
真っ直ぐなのは先ほどの筒にまとめ、曲線があるのは袋に入れることにした。
続いて、何かの破片が入った箱の中身を出した。
「これはきっと、マジックアイテムの筆の残りなのですわ! この辺りが神々しいですもの」
思い込みは重要。
「この白い紙の部分は、七不思議の破片ですわ……破片になってしまうと効果がないのかもしれませんし、もったいなくて使えません!」
しおれた花は「押し花にすればよかったかも……」としょんぼりしながら眺めるが、
「押し花にしてしまったら、踊らなくなりますわ!」
と、その花が何かを思い出し、今の状態でよいと結論づけた。
「エーテルがたくさんあれば踊りだすかもしれません! それなのに、つぶれていたら、踊れなくなりますわ!」
踊る花というものがあると聞いたのだ。
チューリップやガーベラなど茎に一つの花が咲くというイメージの花で、太陽の光が当たると、踊りだすというのだ。光がなくなるとただの花に戻るという。
「……これを見つけたところに行って、植木鉢に入れた方がいいかもしれませんわね……」
コレクション、増やす計画。
植木鉢に植わった植物なら、ごまかせるし、いいアイデアだ。
このように、コレクションの内容を考える結果、進まない。
レーンが「昼食をお持ちしてもよろしいでしょうか?」と声を掛けたとき、メアリベルは時間が経っていることに気付いた。
メアリベルははっとして、周りを見た。コレクションは散らかっていた。
「……レーン、片付けとはどうすればいいのでしょう」
レーンは「要不要の箱を用意し、パッと見て分ければよいというのもありますが」と片付けの一つの極意を言う。
「……似たようなことをしたけれども、無理です!」
メアリベルはきっぱりという。
レーンは一文字に口を結び(でしょうね)と心の中で同意した。
メイドであるため片づけはできるのだけれども、メアリベルの意向をとらえた片付けにはならない。
「昼食はいかがしますか?」
「食べます」
メアリベルは気分を変えるため、食事をする。
コレクションに囲まれていると、心は浮き立つ。片付けを考えると悲しくなる。そんな気持ちを行き来する。
食後、メアリベルは片づけを再開した。
日が陰ってくる頃にはどうにか分類や整理を終えた。
元に戻してくるのは、コレクションの中にあるうちに砕けた葉や小さな枝、小石など。
「あのあたりは何だったかよくわからなかったのです」
メモを見たけれども、似たようなのがいくつかあったのもある。
断腸の思いで置いてくることになった。
箱や袋にまとめられたものは、レーンが粛々と棚や床の壁際に片付けていった。
それらの中身は減ったけれども、箱や袋が増えているため、棚には収まらない。
「……お嬢様」
レーンのあきれた声に、メアリベルは整理がつかなかった反省も込め、
「卒業するまでにはきちんと考えます!」
と宣言した。
それを聞き、レーンは大きなため息を吐くのだった。