水の都の風の娘
プロローグノベル制作 望月誠司納品 2020年12月08日 18時04分06秒
広大な青い湖だ。
湖の水面に平行するようにして巨大な四角形の石柱が突き出されている。
石柱の大半は水中に没していた。
上の表面の部分がかろうじて空気中へと飛び出ている。
石柱に一人の小柄な少女が立っていた。
銀色の長い髪を、頭の後ろで大きなリボンを使って結び、一本にまとめている。
「よーい、どんっ!」
アステリア・ノルブランシェは軽快に駆け出した。
結い上げられた銀色の髪が、疾走の風になびいて、後方の宙で先端を踊らせている。
一歩、二歩、三歩とブーツの底で石柱の表面を蹴りつける度に小気味良い音が鳴った。
水上都市アキュアリスタは湖に沈んだ遺跡を利用して作られた街である。
湖上に出ている遺跡の最上部らを足場とし、また浅瀬を埋め立てた部分などを利用しても足場を作っている。
湖の水位というのは一定ではないので、足場の中には、季節や日によって水面上に出たり沈んだりするものがある。
今、アステリアが駆けている足場もその一つだった。
先日の雨の影響で水位が全体的に増しており、さらに一日の中でも水位が増す時刻となっていて、アステリアが駆けている石の道は今まさに水中に没しようとしていた。
湖水が薄く押し寄せてきて石道の上に水の膜を作り、駆ける少女の靴底が石道を叩く度に、ピチャピチャと音が鳴る。
徐々に、徐々に、水の膜は厚くなってきていた。水位が急速に上昇してきている。
だが、少女は足が水に呑まれるよりも前に、石道の端へと辿り着いた。
「いよいしょーっ!!」
元気の良い声と共に大きく跳躍、宙に高々と身を躍らせる。
蒼い水面の上に大きく跳びあがった少女は、宙空で細い腕を伸ばし、斜めに突き出ていた樹木の枝を掴んだ。
そして大車輪のようにくるりと回転する。
水中へと根を伸ばし遺跡に張り付くようにして天へ向かい伸びている樹の枝だ。一見して細く、頼りなく見える。少女の体重を受け止めて折れそうな程に大きくたわんだ。
が、この授恵者の少女のように、この枝もまた見掛け以上の強靭さを秘めていた。折れる事なく柔軟に曲がり、そして反発する。
回転するアステリアは良さげな角度で枝から手を離した。反動を利用して勢い良く宙へと身を躍らせる。舞い上がった少女は高い位置にあった石柱の道へと一気に飛び移った。
「うわっ?!」
アステリアが飛び登ってきた付近をちょうど歩いていた人がいたらしい。
唐突に道上へと出現した少女に対し、声をあげ身を仰け反らせ凝視する。
「あっ、驚かせちゃった? 御免ね!」
アステリアはかわいらしく笑顔を向けると、観光客だったらしき固まっている男に軽く手を振ってから再び走り出す。
「はは、今日もやってんねぇ!」
手押し式の台車を押している男が笑い、その上に載っている商品であろう赤い果実を一つ手に取ってアステリアへと放り投げて来た。
「新ルートを開拓中なの!」
ちょうど良い位置に飛んできた果実を走りながらキャッチすると、肩越しに振り向いてありがとーと片手を振る。
ちょっと酸っぱめの赤い果実にかじりつきながら、道をゆく人々をひょいひょいとかわしつつ駆けてゆく。
細い路地へ飛び込むと傍らに置かれていたゴミ箱へ果実の芯をシュート、放物線を描いて飛んだ芯は壁に激突して跳ね返り、狙いたがわずゴミ箱の中へと落ちた。今日の調子は良いようだ。
「あれ、アステリア? 久しぶり~」
裏口から顔見知りの娘が出てきてばったり会い小話にふける。最近彼氏が出来て毎日が楽しいらしい。良い事だ。幸福を祈りつつ別れを告げ再び走り出す。
裏路地を抜け大きな水路が流れる通りへと出る。
ちょうど折り良く観光客が乗ったボートが航行してきたので、それ目掛けて跳躍。
ボートの上へと降り立つと、揺れる船体上でバランスを取りつつ駆け再び跳び上がる、観光客の悲鳴を背に対岸へと着地する。
「こりゃー! アステリアッ! このっ、いつまで経っても悪戯娘がっ!!」
船頭の爺さんが長い櫂を巧みに使って船体の揺れをおさめながら、顔を真っ赤にしてカンカンに怒っている。
「ごめんなさいー! ちょうど良いトコにきたのでついー!」
てへーと謝罪の笑顔を向けつつ脱兎のごとくに駆け去る。三十六計逃げるに如かずだ。
街中を駆ける少女は、やがて中央の特に大きな遺跡を足場としている区画へとやってきた。
天へと向かって細長く突きでている遺跡の石柱を登ってゆく。
「ふぅー、とうちゃーく!」
もっとも高く細長く尖がっている部分に片足をかけ、手でおでこに庇を作って、街を見下ろし眺める。
足場と足場との間に橋が渡され連結され、巡らされる水路が陽光を浴びて煌々と輝いている。
足場の上に様々な建造物が建ち並びボートや橋を使って多くの人々が往来している。
「うーん、やっぱり、この街は綺麗よね!」
美しくも活気に満ちた水上都市の風景を眺めながら、少女は笑顔を浮かべたのだった。
湖の水面に平行するようにして巨大な四角形の石柱が突き出されている。
石柱の大半は水中に没していた。
上の表面の部分がかろうじて空気中へと飛び出ている。
石柱に一人の小柄な少女が立っていた。
銀色の長い髪を、頭の後ろで大きなリボンを使って結び、一本にまとめている。
「よーい、どんっ!」
アステリア・ノルブランシェは軽快に駆け出した。
結い上げられた銀色の髪が、疾走の風になびいて、後方の宙で先端を踊らせている。
一歩、二歩、三歩とブーツの底で石柱の表面を蹴りつける度に小気味良い音が鳴った。
水上都市アキュアリスタは湖に沈んだ遺跡を利用して作られた街である。
湖上に出ている遺跡の最上部らを足場とし、また浅瀬を埋め立てた部分などを利用しても足場を作っている。
湖の水位というのは一定ではないので、足場の中には、季節や日によって水面上に出たり沈んだりするものがある。
今、アステリアが駆けている足場もその一つだった。
先日の雨の影響で水位が全体的に増しており、さらに一日の中でも水位が増す時刻となっていて、アステリアが駆けている石の道は今まさに水中に没しようとしていた。
湖水が薄く押し寄せてきて石道の上に水の膜を作り、駆ける少女の靴底が石道を叩く度に、ピチャピチャと音が鳴る。
徐々に、徐々に、水の膜は厚くなってきていた。水位が急速に上昇してきている。
だが、少女は足が水に呑まれるよりも前に、石道の端へと辿り着いた。
「いよいしょーっ!!」
元気の良い声と共に大きく跳躍、宙に高々と身を躍らせる。
蒼い水面の上に大きく跳びあがった少女は、宙空で細い腕を伸ばし、斜めに突き出ていた樹木の枝を掴んだ。
そして大車輪のようにくるりと回転する。
水中へと根を伸ばし遺跡に張り付くようにして天へ向かい伸びている樹の枝だ。一見して細く、頼りなく見える。少女の体重を受け止めて折れそうな程に大きくたわんだ。
が、この授恵者の少女のように、この枝もまた見掛け以上の強靭さを秘めていた。折れる事なく柔軟に曲がり、そして反発する。
回転するアステリアは良さげな角度で枝から手を離した。反動を利用して勢い良く宙へと身を躍らせる。舞い上がった少女は高い位置にあった石柱の道へと一気に飛び移った。
「うわっ?!」
アステリアが飛び登ってきた付近をちょうど歩いていた人がいたらしい。
唐突に道上へと出現した少女に対し、声をあげ身を仰け反らせ凝視する。
「あっ、驚かせちゃった? 御免ね!」
アステリアはかわいらしく笑顔を向けると、観光客だったらしき固まっている男に軽く手を振ってから再び走り出す。
「はは、今日もやってんねぇ!」
手押し式の台車を押している男が笑い、その上に載っている商品であろう赤い果実を一つ手に取ってアステリアへと放り投げて来た。
「新ルートを開拓中なの!」
ちょうど良い位置に飛んできた果実を走りながらキャッチすると、肩越しに振り向いてありがとーと片手を振る。
ちょっと酸っぱめの赤い果実にかじりつきながら、道をゆく人々をひょいひょいとかわしつつ駆けてゆく。
細い路地へ飛び込むと傍らに置かれていたゴミ箱へ果実の芯をシュート、放物線を描いて飛んだ芯は壁に激突して跳ね返り、狙いたがわずゴミ箱の中へと落ちた。今日の調子は良いようだ。
「あれ、アステリア? 久しぶり~」
裏口から顔見知りの娘が出てきてばったり会い小話にふける。最近彼氏が出来て毎日が楽しいらしい。良い事だ。幸福を祈りつつ別れを告げ再び走り出す。
裏路地を抜け大きな水路が流れる通りへと出る。
ちょうど折り良く観光客が乗ったボートが航行してきたので、それ目掛けて跳躍。
ボートの上へと降り立つと、揺れる船体上でバランスを取りつつ駆け再び跳び上がる、観光客の悲鳴を背に対岸へと着地する。
「こりゃー! アステリアッ! このっ、いつまで経っても悪戯娘がっ!!」
船頭の爺さんが長い櫂を巧みに使って船体の揺れをおさめながら、顔を真っ赤にしてカンカンに怒っている。
「ごめんなさいー! ちょうど良いトコにきたのでついー!」
てへーと謝罪の笑顔を向けつつ脱兎のごとくに駆け去る。三十六計逃げるに如かずだ。
街中を駆ける少女は、やがて中央の特に大きな遺跡を足場としている区画へとやってきた。
天へと向かって細長く突きでている遺跡の石柱を登ってゆく。
「ふぅー、とうちゃーく!」
もっとも高く細長く尖がっている部分に片足をかけ、手でおでこに庇を作って、街を見下ろし眺める。
足場と足場との間に橋が渡され連結され、巡らされる水路が陽光を浴びて煌々と輝いている。
足場の上に様々な建造物が建ち並びボートや橋を使って多くの人々が往来している。
「うーん、やっぱり、この街は綺麗よね!」
美しくも活気に満ちた水上都市の風景を眺めながら、少女は笑顔を浮かべたのだった。