黒猫、故郷へ帰る。
キャラクターノベル制作 音葉納品 2022年08月30日 12時14分56秒
その日はアルフィー・リッパーの誕生日だった。
否、正確には誕生日ではなく、故郷が焼かれ、両親が亡くなった日。3歳だったアルフィーが祖父に拾われて新しい生を受けた日。
忘れないようにと、祖父がその日を彼の誕生日にした。毎年その日にはみんなの墓を掃除して、花を供えて。そして祈りを捧げる。祖父が亡くなるまでは毎年その繰り返しだった。
しかし、祖父が亡くなり、生活が一変し野良猫としての生活を始めてからはその場へは一度も足を踏み入れてなかった。10年間、一度も――。
「たく、酷いありさまだな」
伸び放題の草をかき分けて、ようやくたどり着いた広場もやはり大量の雑草に覆われていた。
石の墓は苔生して変色をし、壊れている所もある。
誕生日当日には綺麗になるようにと早めにやってきてよかった。
アルフィーは草刈り鎌を取り出すと、さっそく広場の雑草取りから始める。それは10歳のころまで祖父と一緒に毎年行っていた事だった。
10年間放っていた故郷に帰ってこようと思ったのはちょっとした変化があったからだ。
冒険者になってから出会った奴ら。邪魔扱いしても決して見放さずにアルフィーの傍にいてくれた。いつしか彼らは仲間としてアルフィーにとってかけがえのない存在になっていた。
人に心を開いたことで、祖父が亡くなってから足を踏み入れるのが怖かったこの場所にまた来てもよいと思えるようになった。だから20歳という節目を迎える今年の誕生日。仲間にしばらく旅へ出ることを告げて、彼は故郷に帰ってきたのだ。
一通り草木を綺麗にして苔生した両親の墓の横に寝袋を敷き、その日は眠りにつく。
「話したいことがいっぱいあるんだ……」
1日の作業を終えた疲労感でウトウトとしながら、亡き両親に向かって話しかける。
あれから、どうやって過ごしてきたのか。今どうしているのか。話したいことがいっぱいだ。
そうして迎えた当日。アルフィーはその日も朝から墓の掃除を行っていた。
長年の苔はそう簡単には落ちない。水を汲んでは墓を磨いて、を繰り返し。夕方までには何とか皆の墓を綺麗にすることができた。
「よかった、ようやく終わった」
墓に供えるのは近辺で摘んできた勿忘草。私を忘れないでという花言葉をもっている。
「忘れないよ、これから先、何があっても」
集落が襲われたあの日、アルフィーと母を逃すために亡くなった父。
アルフィーを木の陰に隠して自分は囮となり亡くなった母。
最後まで怖がらせないように、優しい笑顔を浮かべていた。
強い人たちだった。自分が父や母の年齢になった時、そんな風になれるのだろうかとアルフィーは今でも思う。
「とーと、かーか……。俺20歳になったんだよ。お酒が飲める年になったんだ」
もしあの時、集落が襲われなかったら、とーととかーかが生きていたら、今はどんな人生を送っていたのだろうか。
ゆらりと尻尾を動かして周囲を見やる。
この雑草だらけの土地に今でも集落があったなら。
集落の誰かと今頃結婚でもしていただろうか。友人達と一緒に狩りにでも出かけていただろうか。
20歳のお祝いだからと、とーとと一緒に酒を飲んでいただろうか。
「今日は20歳のお祝いの日だから。とーとも飲んでくれるよね」
用意した2つの盃。1つは自分が。もう1つはとーとの墓に。
くいっと飲んだお酒はまだ自分には早かったのか、その苦い味に、眉間に皺が寄った。
「まだ大人の味はわからないな」
困ったように笑った後、口直しにとアップルパイを頬張る。
一生懸命練習をして、ようやく再現できた母が作ってくれたアップルパイ。
「やっぱり俺にはこっちの方がまだ合うみたいだ」
ニッコリと笑ったアルフィーはその後、二人の墓に向かって話し始める。
10歳で祖父を亡くしてからの事。大切な友人のルーシェを亡くした時の事。
そして冒険者になってからの事。
いくら話しても話は尽きない。まだまだ話したいことがいっぱいあるのに、なれないお酒にやられたのかアルフィーはいつの間にか眠りの世界へと誘われていた。
――ルフィ……。
誰かに揺り起こされて目が覚める。身体がふわふわとする。これがアイツがいっていた二日酔いってやつか。
尻尾を揺らしながら自分に声をかけた主を見て愕然とした。
「どうして……」
そこには亡くなったはずの父と母が微笑みかけていた。
「いっぱい、がんばったんだね。アルフィー」
「よく頑張った。それでこそ父さんと母さんの子だ」
「とーと……、かーか……」
その言葉に今まで我慢していた涙が溢れ出す。ぎゅっと抱きしめられるとあの日と同じ、母の優しい匂いがした。
「誕生日おめでとう。アルフィー」
「これからもずっと見守っている」
父と母に抱きしめられアルフィーは目を閉じる。夢だと分かっているけど、今はまだ覚めないでと祈りながら。
否、正確には誕生日ではなく、故郷が焼かれ、両親が亡くなった日。3歳だったアルフィーが祖父に拾われて新しい生を受けた日。
忘れないようにと、祖父がその日を彼の誕生日にした。毎年その日にはみんなの墓を掃除して、花を供えて。そして祈りを捧げる。祖父が亡くなるまでは毎年その繰り返しだった。
しかし、祖父が亡くなり、生活が一変し野良猫としての生活を始めてからはその場へは一度も足を踏み入れてなかった。10年間、一度も――。
「たく、酷いありさまだな」
伸び放題の草をかき分けて、ようやくたどり着いた広場もやはり大量の雑草に覆われていた。
石の墓は苔生して変色をし、壊れている所もある。
誕生日当日には綺麗になるようにと早めにやってきてよかった。
アルフィーは草刈り鎌を取り出すと、さっそく広場の雑草取りから始める。それは10歳のころまで祖父と一緒に毎年行っていた事だった。
10年間放っていた故郷に帰ってこようと思ったのはちょっとした変化があったからだ。
冒険者になってから出会った奴ら。邪魔扱いしても決して見放さずにアルフィーの傍にいてくれた。いつしか彼らは仲間としてアルフィーにとってかけがえのない存在になっていた。
人に心を開いたことで、祖父が亡くなってから足を踏み入れるのが怖かったこの場所にまた来てもよいと思えるようになった。だから20歳という節目を迎える今年の誕生日。仲間にしばらく旅へ出ることを告げて、彼は故郷に帰ってきたのだ。
一通り草木を綺麗にして苔生した両親の墓の横に寝袋を敷き、その日は眠りにつく。
「話したいことがいっぱいあるんだ……」
1日の作業を終えた疲労感でウトウトとしながら、亡き両親に向かって話しかける。
あれから、どうやって過ごしてきたのか。今どうしているのか。話したいことがいっぱいだ。
そうして迎えた当日。アルフィーはその日も朝から墓の掃除を行っていた。
長年の苔はそう簡単には落ちない。水を汲んでは墓を磨いて、を繰り返し。夕方までには何とか皆の墓を綺麗にすることができた。
「よかった、ようやく終わった」
墓に供えるのは近辺で摘んできた勿忘草。私を忘れないでという花言葉をもっている。
「忘れないよ、これから先、何があっても」
集落が襲われたあの日、アルフィーと母を逃すために亡くなった父。
アルフィーを木の陰に隠して自分は囮となり亡くなった母。
最後まで怖がらせないように、優しい笑顔を浮かべていた。
強い人たちだった。自分が父や母の年齢になった時、そんな風になれるのだろうかとアルフィーは今でも思う。
「とーと、かーか……。俺20歳になったんだよ。お酒が飲める年になったんだ」
もしあの時、集落が襲われなかったら、とーととかーかが生きていたら、今はどんな人生を送っていたのだろうか。
ゆらりと尻尾を動かして周囲を見やる。
この雑草だらけの土地に今でも集落があったなら。
集落の誰かと今頃結婚でもしていただろうか。友人達と一緒に狩りにでも出かけていただろうか。
20歳のお祝いだからと、とーとと一緒に酒を飲んでいただろうか。
「今日は20歳のお祝いの日だから。とーとも飲んでくれるよね」
用意した2つの盃。1つは自分が。もう1つはとーとの墓に。
くいっと飲んだお酒はまだ自分には早かったのか、その苦い味に、眉間に皺が寄った。
「まだ大人の味はわからないな」
困ったように笑った後、口直しにとアップルパイを頬張る。
一生懸命練習をして、ようやく再現できた母が作ってくれたアップルパイ。
「やっぱり俺にはこっちの方がまだ合うみたいだ」
ニッコリと笑ったアルフィーはその後、二人の墓に向かって話し始める。
10歳で祖父を亡くしてからの事。大切な友人のルーシェを亡くした時の事。
そして冒険者になってからの事。
いくら話しても話は尽きない。まだまだ話したいことがいっぱいあるのに、なれないお酒にやられたのかアルフィーはいつの間にか眠りの世界へと誘われていた。
――ルフィ……。
誰かに揺り起こされて目が覚める。身体がふわふわとする。これがアイツがいっていた二日酔いってやつか。
尻尾を揺らしながら自分に声をかけた主を見て愕然とした。
「どうして……」
そこには亡くなったはずの父と母が微笑みかけていた。
「いっぱい、がんばったんだね。アルフィー」
「よく頑張った。それでこそ父さんと母さんの子だ」
「とーと……、かーか……」
その言葉に今まで我慢していた涙が溢れ出す。ぎゅっと抱きしめられるとあの日と同じ、母の優しい匂いがした。
「誕生日おめでとう。アルフィー」
「これからもずっと見守っている」
父と母に抱きしめられアルフィーは目を閉じる。夢だと分かっているけど、今はまだ覚めないでと祈りながら。