彼へと繋がる永久なる祈り。
キャラクターノベル制作 蓮華・水無月納品 2022年08月27日 08時39分37秒
その男は、ペデラと名乗った。
「そんな訳で、しばらくヨロシク」
「――……」
ちら、と男を見上げて、すぐに視線を窓の外へ戻す。一応そうすべきだという感覚が頭を下げさせたが、それだけだ。
ふぅ、と男が息を吐いたが、それ以上の興味が動かない。ゆえに動かずに居たら、男が何かを言おうと口を開き、困ったように「名前」と呟いた。
「名前は覚えてるのか?」
「……?」
「……それは覚えてないのか。じゃあ、うーん……」
男が、自分をジトっと見つめてくる。その表情にはっきり厄介なと書いてあって、少しほっとした。
前から見て、後ろから見て。男が、よし、と言った。
「とりあえずレピドクロサイトって呼ぶわ。……いや長ぇ、レピドな」
「――レピド」
「嫌なら自分で考えて」
「別に」
投げ槍な男の言葉に首を振る。それに興味がない。
そんな自分に男がまた、面倒臭そうな息を吐く。――それが、今はレピド・クロサイトと名乗る自分とギルド職員の出会いだった。
●
レピドは、ギルドに保護されたホムンクルスの1人である。名前は仮だ。
ほぼ真っ白だったレピドにあらゆる事を教えたのは、ペデラだった。一対一の付きっきりという措置は、保護された当初レピドが口にした記憶のせいらしい。
「だってほっとくのもマズそうだろ」
とはペデラの言である。心底面倒臭そうな彼に「そうだな」と頷いたら、苦虫を噛み潰したような顔をされたが。
――レピドはかつて暗殺者だった。他はろくに覚えていないし、あまり実感もないのだけれど。
だから生前の記憶を尋ねられて「……暗殺を生業にしていた……と思う」と返した時、相手がぎょっとしたのは仕方ない事だ。――暗殺は良くない事だから。
そう言った、レピドにペデラが唇をへの字に曲げる。
「お前、解っててなんで暗殺者してたの?」
「……さあ?」
「――そうか」
確か、社会常識を教えられていた時の事だった。小首を傾げたレピドにけれどもペデラは、いつもの面倒臭そうな顔ではなく、不思議な――申し訳なさそうな顔になる。
ぱちり、それが意外で瞬きをすれば、ペデラが口の中で「色々あるよな」と呟いた。――何か、変な奴だ。
そう考えながらレピドは、そうだな、と頷いた。
「覚えてないけど」
「そうだった!」
オレの同情を返せッ! と喚くペデラに、何か変な奴だ、と胸の内でもう1度呟く。彼に興味を持ったのは、それが初めてだった。
●
日々は淡々と、騒がしく過ぎていく。
「お前、根が真面目だよな」
ある日、ペデラが出した課題に取り組んでいたら、そんなことを言われた。一見すると不愛想なのに、やれと言った事はちゃんと真面目にやろうとするのが面白い、と。
どっちが、と思った。それを根が真面目というのなら、ペデラこそ根が真面目な男だ。
ある時は見よう見まねのカウンセリングを始めてみたり、かと思えば「お前、シーフ向いてるよ」と盛り上がってみたり。確か、レピドが危険人物じゃないか見極めるのが彼の仕事だったはずなのだが――それ対象に言っちゃうんだ、とは思った――最近のレピドに対する悪戦苦闘ぶりは、その職域を超えてるんじゃなかろうか。
変な奴だ、と思う。けれどもペデラのそんな所は、一緒に居てあまり苦痛じゃない。
(コレの事も)
そっと後頭部に手をやって、触れた固い感触にびくりと引っ込める。ここには賢者の石がある――それを先日、レピドはこの目で見た。
なぜ自分をレピドクロサイトと呼ぶ事にしたのかと、ふと尋ねたレピドに。コレが鱗鉄鉱に似てたからだと、ペデラがどこか楽し気に言ったから。
なら自分も見てみたいと、思った。思って、ペデラに合わせ鏡で後頭部の石を見せてもらって――ゾワリとした。
それがなぜなのか、レピドには解らない。だがとにかく不快で、衝動的に鏡を叩き割って。
以来、誰かに見られるのがゾッとしてしまうのを、ペデラは内心では残念がっているようだった。けれども同じくらいペデラは、そんなレピドを「人らしくなって来たじゃん」と喜んだのだ。
本当に、ペデラは変な奴だった。
●
ペデラとの同居が終わったのは、教育が一段落した頃の事だった。「やっと自由だ」と喜ぶペデラが実は、少しでもレピドに不便の無いよう奔走していたと、教えてくれたのは彼の同僚だ。
そうして迎えた、旅立ちの日。
「お前、本当に名前いいの?」
「今更?」
諸々の手続きを”レピド・クロサイト”の名で頼んだ自分に、ペデラは何とも決まりの悪そうな顔をした。それに首を傾げれば、ふいと眼を逸らす。
ふ、と目を細めたら、目を丸くしてから嬉しそうに笑った。それに、レピドの全身がふわりとする。
「じゃあね」
「もう帰って来るなよ」
そんな風に手を振り合って、言葉とは正反対の表情でいつまでも見送るペデラに、心の中で頭を下げた。彼に教わったすべては、ちゃんと胸にある。
――そうして、かつての自分は今の自分に成ったのだ。
「そんな訳で、しばらくヨロシク」
「――……」
ちら、と男を見上げて、すぐに視線を窓の外へ戻す。一応そうすべきだという感覚が頭を下げさせたが、それだけだ。
ふぅ、と男が息を吐いたが、それ以上の興味が動かない。ゆえに動かずに居たら、男が何かを言おうと口を開き、困ったように「名前」と呟いた。
「名前は覚えてるのか?」
「……?」
「……それは覚えてないのか。じゃあ、うーん……」
男が、自分をジトっと見つめてくる。その表情にはっきり厄介なと書いてあって、少しほっとした。
前から見て、後ろから見て。男が、よし、と言った。
「とりあえずレピドクロサイトって呼ぶわ。……いや長ぇ、レピドな」
「――レピド」
「嫌なら自分で考えて」
「別に」
投げ槍な男の言葉に首を振る。それに興味がない。
そんな自分に男がまた、面倒臭そうな息を吐く。――それが、今はレピド・クロサイトと名乗る自分とギルド職員の出会いだった。
●
レピドは、ギルドに保護されたホムンクルスの1人である。名前は仮だ。
ほぼ真っ白だったレピドにあらゆる事を教えたのは、ペデラだった。一対一の付きっきりという措置は、保護された当初レピドが口にした記憶のせいらしい。
「だってほっとくのもマズそうだろ」
とはペデラの言である。心底面倒臭そうな彼に「そうだな」と頷いたら、苦虫を噛み潰したような顔をされたが。
――レピドはかつて暗殺者だった。他はろくに覚えていないし、あまり実感もないのだけれど。
だから生前の記憶を尋ねられて「……暗殺を生業にしていた……と思う」と返した時、相手がぎょっとしたのは仕方ない事だ。――暗殺は良くない事だから。
そう言った、レピドにペデラが唇をへの字に曲げる。
「お前、解っててなんで暗殺者してたの?」
「……さあ?」
「――そうか」
確か、社会常識を教えられていた時の事だった。小首を傾げたレピドにけれどもペデラは、いつもの面倒臭そうな顔ではなく、不思議な――申し訳なさそうな顔になる。
ぱちり、それが意外で瞬きをすれば、ペデラが口の中で「色々あるよな」と呟いた。――何か、変な奴だ。
そう考えながらレピドは、そうだな、と頷いた。
「覚えてないけど」
「そうだった!」
オレの同情を返せッ! と喚くペデラに、何か変な奴だ、と胸の内でもう1度呟く。彼に興味を持ったのは、それが初めてだった。
●
日々は淡々と、騒がしく過ぎていく。
「お前、根が真面目だよな」
ある日、ペデラが出した課題に取り組んでいたら、そんなことを言われた。一見すると不愛想なのに、やれと言った事はちゃんと真面目にやろうとするのが面白い、と。
どっちが、と思った。それを根が真面目というのなら、ペデラこそ根が真面目な男だ。
ある時は見よう見まねのカウンセリングを始めてみたり、かと思えば「お前、シーフ向いてるよ」と盛り上がってみたり。確か、レピドが危険人物じゃないか見極めるのが彼の仕事だったはずなのだが――それ対象に言っちゃうんだ、とは思った――最近のレピドに対する悪戦苦闘ぶりは、その職域を超えてるんじゃなかろうか。
変な奴だ、と思う。けれどもペデラのそんな所は、一緒に居てあまり苦痛じゃない。
(コレの事も)
そっと後頭部に手をやって、触れた固い感触にびくりと引っ込める。ここには賢者の石がある――それを先日、レピドはこの目で見た。
なぜ自分をレピドクロサイトと呼ぶ事にしたのかと、ふと尋ねたレピドに。コレが鱗鉄鉱に似てたからだと、ペデラがどこか楽し気に言ったから。
なら自分も見てみたいと、思った。思って、ペデラに合わせ鏡で後頭部の石を見せてもらって――ゾワリとした。
それがなぜなのか、レピドには解らない。だがとにかく不快で、衝動的に鏡を叩き割って。
以来、誰かに見られるのがゾッとしてしまうのを、ペデラは内心では残念がっているようだった。けれども同じくらいペデラは、そんなレピドを「人らしくなって来たじゃん」と喜んだのだ。
本当に、ペデラは変な奴だった。
●
ペデラとの同居が終わったのは、教育が一段落した頃の事だった。「やっと自由だ」と喜ぶペデラが実は、少しでもレピドに不便の無いよう奔走していたと、教えてくれたのは彼の同僚だ。
そうして迎えた、旅立ちの日。
「お前、本当に名前いいの?」
「今更?」
諸々の手続きを”レピド・クロサイト”の名で頼んだ自分に、ペデラは何とも決まりの悪そうな顔をした。それに首を傾げれば、ふいと眼を逸らす。
ふ、と目を細めたら、目を丸くしてから嬉しそうに笑った。それに、レピドの全身がふわりとする。
「じゃあね」
「もう帰って来るなよ」
そんな風に手を振り合って、言葉とは正反対の表情でいつまでも見送るペデラに、心の中で頭を下げた。彼に教わったすべては、ちゃんと胸にある。
――そうして、かつての自分は今の自分に成ったのだ。