療養所の窓から見える空はあの日に二人が見たのと同じ
キャラクターノベル制作 空色みなも納品 2022年08月05日 09時21分16秒
●
療養所の窓からも見えた、美しい青空を。
あの子たちもまた、並んで見たのかしら――。
●
「ねえユーリ。今度のお休み、一緒に伯母様のお見舞いに行かない?」
きっかけは、ルアンナ・ミュラーのそんな一言だった。
「僕たちはまだ付き合ったばかりだぞ!? それは早すぎないか?」
言葉を向けられていたのはユーリ・トレーガー。
近頃、ルアンナとお付き合いを始めたばかりの青年だ。
今、二人がいるのはユーリが経営する卓上遊戯喫茶。
テーブルにはサンドイッチの皿が並んでおり、ティーセットが添えてあった。
二人の手でティーカップが湯気を立てていて、慌てたユーリは紅茶で咽ている。
「まずもって、そういうのは婚約をするときなどであってだな……」
「そう? 自慢のユーリを早く伯母様に紹介したいと思ったのだけれど」
気恥ずかしさからか、抵抗を試みるユーリであったが。
ルアンナにこう言われ、ユーリはぐうの音も――。
「ぐう」
どうにか出たらしい。
「ね、いいでしょ?」
にっこりと微笑みかけるルアンナを前に、ユーリもいよいよ降参するしかなかった。
そんな二人の様子を店員たちがニヤニヤと見守っているのも、卓上遊戯喫茶におけるいつもの光景であった。
●
「どうだろう。おかしなところはないか? どこか歪んでいたりしないか?」
「ふふ、大丈夫。ばっちりよ」
緊張した面持ちで自らの服装を整えるユーリの前に出て、ルアンナは扉に手を近づける。
コンコンコン――。
手の甲が扉を叩いて、軽やかな音を立てた。
「どうぞ」
と、扉の向こうから女性の声がする。
ルアンナはユーリと互いにうなずき合うと、静かに扉を開いた。
ベッドが窓際に置かれた、小さな部屋。
そしてベッドには上体を起こした、女性の姿。
ルアンナの伯母、レティシア・ミュラーその人である。
体の弱いレティシアは、リブラネスタにある療養所に入っていたのだ。
「お久しぶりです、伯母様」
「よく来てくれたね、ルアンナ」
ルアンナの顔を見て、レティシアの表情も綻びる。
そして、レティシアの視線は自然にユーリへと移された。
「そっちはルアンナのお友達、かい?」
「は、初めまして。ユーリ・トレーガーと申します」
レティシアに問われ、答えるユーリはいつになく体に力が入っているし、言葉も堅苦しい。
然しものユーリも、恋人の家族に挨拶をするというシチュエーションには耐性がなかったらしい。
「こいつはどうもご丁寧に。聞いているとは思うけど、あたしはレティシア・ミュラー。ルアンナから見て伯母にあたるよ」
レティシアはベッドの上で、頭を下げる形で挨拶をした。
「私とユーリは――」
「いや、ここは僕から説明させてくれ」
ルアンナが言いかけたのを遮って、ユーリが背筋を伸ばす。
「僕は――この度、ルアンナとお付き合いをさせていただくことになりました」
「おやおや、まあまあ」
ユーリの宣言に、今度はレティシアが目を丸くする。
とはいえ大仰に驚いてみせるのでないあたり、何となく察していた部分はあったのかもしれない。
「そうかい、ルアンナがついに、ねえ。それはゆっくり話を聞かせて貰わないとね。立ち話もなんだし、そこの椅子を使っておくれ」
レティシアに促され、ユーリが部屋にあった椅子を運ぶ。
「さあ、どんな話を聞かせてもらえるか、楽しみだねえ」
目を細めたレティシアは、ベッドの脇に並んで腰かけた二人を眺めた。
●
「へえ。じゃあ、あんたが前にルアンナが話してた」
「ルアンナは、僕のことをそのように話していたのですね……なんだか気恥ずかしいな」
レティシアの感嘆する声が上がり。
ユーリは指先で頭の横を掻く。
ルアンナは以前、レティシアの見舞いに訪れた際、パンクリアース学園の学友について話したことがあった。
その学友というのが、まさしくユーリのこと。
ユーリは自らが部長を務める卓上遊戯倶楽部にルアンナを誘い、学園生活を共に過ごしていた。
しかしルアンナがリブラネスタにいる伯母たち――ミュラー夫妻のもとへ引き取られたとき。
ユーリを始めとした卓上遊戯倶楽部の仲間たちと、離れ離れになってしまっていたのだ。
再会を諦めることなく信じていれば、いつかはお引き合わせがあるだろう――。
実際にルアンナがユーリと再会を果たしたのは、レティシアとそのような話をして間もない頃の出来事だった。
「伯母様の言った通りでしたね」
「ふふ、よかったじゃないか」
ルアンナが声を弾ませると、釣られてかレティシアもまた笑う。
「ルアンナは本当にあんたのこと、気にかけてたみたいだよ」
「恐縮です」
レティシアにこう言われては、ユーリもいっそう居住まいを正す他ない。
そんなユーリを、レティシアは不躾にならぬようにしながらも。
どこか心を見透かそうとするような、観察の視線を向けていたのだった。
「そうそう、話の途中だけど。ルアンナ、ちょっと頼まれてくれないかい?」
「はい、なんでしょう?」
レティシアがふと思い出したような様子で、部屋の外にいる療養所職員への伝言をルアンナに依頼する。
「それなら僕が……」
「いや、あたしがルアンナに頼みたいのさ」
ユーリが席を立とうとするのを、レティシアは制した。
「……すまない、そういうことらしい。悪いが行ってもらえるだろうか」
「大丈夫よ。行ってくるね」
同時に向けられた視線の意味を、ユーリは察したのかもしれない。
部屋を出るルアンナの背を、ユーリとレティシアは二人で見送って――。
「あんたはあの子のこと、どう思う?」
レティシアがルアンナを使いに出したのは、ユーリにこの問いを投げかけるためであったのだろう。
ユーリもそれを分かっていたのか、まっすぐレティシアの目を見て、口を開いた。
「もちろん第一に、好きだと思っています――僕からお付き合いを申し込んだこともあり、当然のことではあるのですが」
ユーリの言葉に、迷いは見られない。
淀みなく流れる水のように。
その心の内をさらけ出していく。
「互いに向き合えるのも嬉しくて、隣に並んで同じ先を見ることができるのも嬉しくて――」
ユーリの語る数々の思い出を、レティシアは静かに聞いていて。
パンクリアース学園の卓上遊戯倶楽部で初めて一緒に遊んだときのこと。
聖霊節で志を語り、プレゼントを贈ったこと。
卓上遊戯で腹を抱えて笑いあったこと。
再び出会うことになったリブラネスタで、ルアンナに助けられたこと。
古巣であるパンクリアース学園に、共に訪れたこと。
リブラネスタに開いた卓上遊戯喫茶で年を越したこと。
ルアンナからクッキーの贈り物を貰ったお返しに、手作りの帽子を贈ったこと。
そして――二人で出かけたピクニックで、青空のもと告白を行ったこと。
「日々を過ごすごとに、僕の中でルアンナは大切な存在になっていました――それだけに」
ユーリはそこで一度、言葉を切った。
レティシアも何も言うことなく、ただ続きを待っている。
「それだけに、冒険者として危険に飛び込んでいくルアンナのことが心配でもあります」
続いた言葉は、ユーリの目から見た冒険者としてのルアンナの姿だった。
「ルアンナが自身の思いを実現するために、必要な活動であることも分かっています。だからそれを、できるだけ応援しようとも」
ユーリの口から、複雑に絡み合った想いがこぼれ出す。
「ですが、いざというとき。戦う力のない僕でも、ルアンナのことを守れる方法を探したい――そう、思っています」
ユーリがそう言い切ったことで――。
「……あたしも同じ気持ちさ」
レティシアはそっと、しかし力強くうなずいてみせた。
「もちろん、あの子のことが大好きだってことを含めてね。なんてったって、愛娘だからね」
レティシアが茶目っ気を持たせた微笑みを浮かべたところで。
「ただいま戻りました。お茶も用意してきたので、一服しませんか」
ティーセット一式を持ったルアンナが部屋に戻ってきたのであった。
●
「しばらくぶりに、賑やかな一日だったねぇ」
ベッドのそばにある窓から、レティシアは空を眺めていた。
先ほどまでルアンナとユーリもいた一室は。
今やレティシア一人となり、いつもの静けさを取り戻している。
あの後も、レティシアは二人から色々な話を聞いた。
レティシアがルアンナに贈った手鏡が大事に使われていることも。
世界のあちこちでルアンナが繰り広げた冒険譚も。
さらにはルアンナの語る、惚気のように思える話まで。
惚気は意識してのことではないにせよ。
ルアンナからもユーリのことを気に入っていることは確からしい。
果たしてルアンナを預けて大丈夫な人物か。
そうした思いもあって、ユーリの内面を見定めるような会話を振ったレティシアであったが。
この分なら、当面は任せても大丈夫――ユーリの受け答えを聞いて、レティシアもそう思うことができた。
「これからあの子の周りも、もっと賑やかになりそうだよ」
レティシアが語りかけるのは、空の向こう。
それはまるで、今は亡き夫に向けた言葉。
ユーリがルアンナに告白したあの日のように。
今日のリブラネスタは、晴れ模様。
青のキャンバスにわずかの白を散らしたような空は。
傾きかけた太陽を透かし、朱に染まりつつあった。
今頃、帰路についている最中のルアンナとユーリを。
この空が見守っていることだろう。
「あんたもあの子たちを見守っていてくれるね?」
レティシアの小さく漏らした呟きが、空の彼方へ吸い込まれていった。
療養所の窓からも見えた、美しい青空を。
あの子たちもまた、並んで見たのかしら――。
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「ねえユーリ。今度のお休み、一緒に伯母様のお見舞いに行かない?」
きっかけは、ルアンナ・ミュラーのそんな一言だった。
「僕たちはまだ付き合ったばかりだぞ!? それは早すぎないか?」
言葉を向けられていたのはユーリ・トレーガー。
近頃、ルアンナとお付き合いを始めたばかりの青年だ。
今、二人がいるのはユーリが経営する卓上遊戯喫茶。
テーブルにはサンドイッチの皿が並んでおり、ティーセットが添えてあった。
二人の手でティーカップが湯気を立てていて、慌てたユーリは紅茶で咽ている。
「まずもって、そういうのは婚約をするときなどであってだな……」
「そう? 自慢のユーリを早く伯母様に紹介したいと思ったのだけれど」
気恥ずかしさからか、抵抗を試みるユーリであったが。
ルアンナにこう言われ、ユーリはぐうの音も――。
「ぐう」
どうにか出たらしい。
「ね、いいでしょ?」
にっこりと微笑みかけるルアンナを前に、ユーリもいよいよ降参するしかなかった。
そんな二人の様子を店員たちがニヤニヤと見守っているのも、卓上遊戯喫茶におけるいつもの光景であった。
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「どうだろう。おかしなところはないか? どこか歪んでいたりしないか?」
「ふふ、大丈夫。ばっちりよ」
緊張した面持ちで自らの服装を整えるユーリの前に出て、ルアンナは扉に手を近づける。
コンコンコン――。
手の甲が扉を叩いて、軽やかな音を立てた。
「どうぞ」
と、扉の向こうから女性の声がする。
ルアンナはユーリと互いにうなずき合うと、静かに扉を開いた。
ベッドが窓際に置かれた、小さな部屋。
そしてベッドには上体を起こした、女性の姿。
ルアンナの伯母、レティシア・ミュラーその人である。
体の弱いレティシアは、リブラネスタにある療養所に入っていたのだ。
「お久しぶりです、伯母様」
「よく来てくれたね、ルアンナ」
ルアンナの顔を見て、レティシアの表情も綻びる。
そして、レティシアの視線は自然にユーリへと移された。
「そっちはルアンナのお友達、かい?」
「は、初めまして。ユーリ・トレーガーと申します」
レティシアに問われ、答えるユーリはいつになく体に力が入っているし、言葉も堅苦しい。
然しものユーリも、恋人の家族に挨拶をするというシチュエーションには耐性がなかったらしい。
「こいつはどうもご丁寧に。聞いているとは思うけど、あたしはレティシア・ミュラー。ルアンナから見て伯母にあたるよ」
レティシアはベッドの上で、頭を下げる形で挨拶をした。
「私とユーリは――」
「いや、ここは僕から説明させてくれ」
ルアンナが言いかけたのを遮って、ユーリが背筋を伸ばす。
「僕は――この度、ルアンナとお付き合いをさせていただくことになりました」
「おやおや、まあまあ」
ユーリの宣言に、今度はレティシアが目を丸くする。
とはいえ大仰に驚いてみせるのでないあたり、何となく察していた部分はあったのかもしれない。
「そうかい、ルアンナがついに、ねえ。それはゆっくり話を聞かせて貰わないとね。立ち話もなんだし、そこの椅子を使っておくれ」
レティシアに促され、ユーリが部屋にあった椅子を運ぶ。
「さあ、どんな話を聞かせてもらえるか、楽しみだねえ」
目を細めたレティシアは、ベッドの脇に並んで腰かけた二人を眺めた。
●
「へえ。じゃあ、あんたが前にルアンナが話してた」
「ルアンナは、僕のことをそのように話していたのですね……なんだか気恥ずかしいな」
レティシアの感嘆する声が上がり。
ユーリは指先で頭の横を掻く。
ルアンナは以前、レティシアの見舞いに訪れた際、パンクリアース学園の学友について話したことがあった。
その学友というのが、まさしくユーリのこと。
ユーリは自らが部長を務める卓上遊戯倶楽部にルアンナを誘い、学園生活を共に過ごしていた。
しかしルアンナがリブラネスタにいる伯母たち――ミュラー夫妻のもとへ引き取られたとき。
ユーリを始めとした卓上遊戯倶楽部の仲間たちと、離れ離れになってしまっていたのだ。
再会を諦めることなく信じていれば、いつかはお引き合わせがあるだろう――。
実際にルアンナがユーリと再会を果たしたのは、レティシアとそのような話をして間もない頃の出来事だった。
「伯母様の言った通りでしたね」
「ふふ、よかったじゃないか」
ルアンナが声を弾ませると、釣られてかレティシアもまた笑う。
「ルアンナは本当にあんたのこと、気にかけてたみたいだよ」
「恐縮です」
レティシアにこう言われては、ユーリもいっそう居住まいを正す他ない。
そんなユーリを、レティシアは不躾にならぬようにしながらも。
どこか心を見透かそうとするような、観察の視線を向けていたのだった。
「そうそう、話の途中だけど。ルアンナ、ちょっと頼まれてくれないかい?」
「はい、なんでしょう?」
レティシアがふと思い出したような様子で、部屋の外にいる療養所職員への伝言をルアンナに依頼する。
「それなら僕が……」
「いや、あたしがルアンナに頼みたいのさ」
ユーリが席を立とうとするのを、レティシアは制した。
「……すまない、そういうことらしい。悪いが行ってもらえるだろうか」
「大丈夫よ。行ってくるね」
同時に向けられた視線の意味を、ユーリは察したのかもしれない。
部屋を出るルアンナの背を、ユーリとレティシアは二人で見送って――。
「あんたはあの子のこと、どう思う?」
レティシアがルアンナを使いに出したのは、ユーリにこの問いを投げかけるためであったのだろう。
ユーリもそれを分かっていたのか、まっすぐレティシアの目を見て、口を開いた。
「もちろん第一に、好きだと思っています――僕からお付き合いを申し込んだこともあり、当然のことではあるのですが」
ユーリの言葉に、迷いは見られない。
淀みなく流れる水のように。
その心の内をさらけ出していく。
「互いに向き合えるのも嬉しくて、隣に並んで同じ先を見ることができるのも嬉しくて――」
ユーリの語る数々の思い出を、レティシアは静かに聞いていて。
パンクリアース学園の卓上遊戯倶楽部で初めて一緒に遊んだときのこと。
聖霊節で志を語り、プレゼントを贈ったこと。
卓上遊戯で腹を抱えて笑いあったこと。
再び出会うことになったリブラネスタで、ルアンナに助けられたこと。
古巣であるパンクリアース学園に、共に訪れたこと。
リブラネスタに開いた卓上遊戯喫茶で年を越したこと。
ルアンナからクッキーの贈り物を貰ったお返しに、手作りの帽子を贈ったこと。
そして――二人で出かけたピクニックで、青空のもと告白を行ったこと。
「日々を過ごすごとに、僕の中でルアンナは大切な存在になっていました――それだけに」
ユーリはそこで一度、言葉を切った。
レティシアも何も言うことなく、ただ続きを待っている。
「それだけに、冒険者として危険に飛び込んでいくルアンナのことが心配でもあります」
続いた言葉は、ユーリの目から見た冒険者としてのルアンナの姿だった。
「ルアンナが自身の思いを実現するために、必要な活動であることも分かっています。だからそれを、できるだけ応援しようとも」
ユーリの口から、複雑に絡み合った想いがこぼれ出す。
「ですが、いざというとき。戦う力のない僕でも、ルアンナのことを守れる方法を探したい――そう、思っています」
ユーリがそう言い切ったことで――。
「……あたしも同じ気持ちさ」
レティシアはそっと、しかし力強くうなずいてみせた。
「もちろん、あの子のことが大好きだってことを含めてね。なんてったって、愛娘だからね」
レティシアが茶目っ気を持たせた微笑みを浮かべたところで。
「ただいま戻りました。お茶も用意してきたので、一服しませんか」
ティーセット一式を持ったルアンナが部屋に戻ってきたのであった。
●
「しばらくぶりに、賑やかな一日だったねぇ」
ベッドのそばにある窓から、レティシアは空を眺めていた。
先ほどまでルアンナとユーリもいた一室は。
今やレティシア一人となり、いつもの静けさを取り戻している。
あの後も、レティシアは二人から色々な話を聞いた。
レティシアがルアンナに贈った手鏡が大事に使われていることも。
世界のあちこちでルアンナが繰り広げた冒険譚も。
さらにはルアンナの語る、惚気のように思える話まで。
惚気は意識してのことではないにせよ。
ルアンナからもユーリのことを気に入っていることは確からしい。
果たしてルアンナを預けて大丈夫な人物か。
そうした思いもあって、ユーリの内面を見定めるような会話を振ったレティシアであったが。
この分なら、当面は任せても大丈夫――ユーリの受け答えを聞いて、レティシアもそう思うことができた。
「これからあの子の周りも、もっと賑やかになりそうだよ」
レティシアが語りかけるのは、空の向こう。
それはまるで、今は亡き夫に向けた言葉。
ユーリがルアンナに告白したあの日のように。
今日のリブラネスタは、晴れ模様。
青のキャンバスにわずかの白を散らしたような空は。
傾きかけた太陽を透かし、朱に染まりつつあった。
今頃、帰路についている最中のルアンナとユーリを。
この空が見守っていることだろう。
「あんたもあの子たちを見守っていてくれるね?」
レティシアの小さく漏らした呟きが、空の彼方へ吸い込まれていった。