シスターは猪を倒す
プロローグノベル制作 馬車猪納品 2020年11月03日 19時38分34秒
●シスターのつとめ
猪が荒い息を吐く。
血走った眼球は闇の中でも底光りして、松明を持つシルク・メイプルリーフを激しく睨み付けた。
「お芋を」
戦槌の柄がみしりと鳴る。
猪が足踏みする度に畑の芋が砕け、土の匂いに新鮮な匂いが混じる。
畑が荒らされるほどシルクの殺意が濃くなっていく。
猪は対峙の緊張に耐えられず、勢いを付けて巨体を加速させる。
柵も、畝も、村人が丹精込めて作り上げたものを蹂躙してシルクへ迫る。
「粗末にするなこのお肉ぅ!!」
戦槌を振り回す。
反動で全身が横へ動き、獣の体温と悪臭が間近を通り過ぎる。
多少の計算外はあったがおおむねシルクの思い通りだ。
獣の発達した筋肉に、鉄製のハンマーが深々と突き刺さった。
猪が痛みと焦りで狂乱し、体を左右に振って戦槌とシルクを振り払おうとする。
「また畑をっ」
シルクの声が凄みを増す。
畑とは食料生産の基本。
豊穣を司る神に仕えるシルクにとって、畑を荒らす猪は害獣を通り越して怨敵だ。
猪が猛り狂っている。
シルクは見た目も中身もエルフの少女だ。
猪は純粋な力の勝負になれば勝てると直感し、さらに押し込まれようとする戦槌を無視してシルクにのしかかろうとした。
青い瞳がぎらりと光る。
戦槌を手放して両手で猪を押さえ、じりじりと押し込まれながら白い歯を見せて大声を出す。
「今です!!」
弦音が連続する。
硬く長いものが皮膚を貫き肉に刺さる音が重なって聞こえる。
猪の口からどす黒い鮮血が吐き出され、乱れた畑の土を汚す。
「このっ」
戦槌を拾い上げ、全身を使って振り下ろす。
極めて頑丈な頭蓋に異様な音を立ててめり込み、猪に断末魔の悲鳴を上げさせた。
●さわやかな朝
いつもの時間に目が覚めた。
昨晩あれだけの激戦を繰り広げたのに眠気は残っていない。
シルクはとても健康なのだ。
「おはようございますシスター」
昨晩泊めてくれた村長の娘さんが、シルクの胸元を見た後自分自身の胸を見下ろし世界の不条理に悩む顔になる。
「おはようございます!!」
見回りに行ってきます、と着替えを済ませて部屋から出ようとするシルクを娘さんが慌てて押し止めた。
「朝ご飯を食べていってくださいっ。恩人を空腹にさせる訳にはっ」
シルクが足を止め、困ったように笑う。
昨晩の激戦で大量のカロリーを消費した結果、とてもお腹が減って音まで鳴っていた。
「おはようございます!!」
いっぱい食べた後も元気もいっぱいだ。
シルクは戦槌を片手で軽々持って、昨晩の戦場へ赴いた。
「おぅ」
あのとき弓を射てくれた猟師とその弟子が曖昧に挨拶してくる。
対人交渉能力ではシルクの足下にも及ばないが仕事は確かだ。
小さな松明程度の灯りしかない真夜中に、血も肉も損なわずに解体を成功させていた。
「あんたの取り分だ。」
足2本分の肉である。
熟成には時間が足りない。が、これはこれで美味しい。
何より、数時間前に酷使されたシルクの筋肉はタンパク質を欲している。
「ありがとうございます。しっかり教会に届けます。弓の援護、助かりました!!」
礼儀正しく頭を下げる。
シスターとして高度な教育を受けているのが所作だけで分かる……はずなのだが弟子の視線はシルクの胸に釘付けで猟師に拳骨をくらった。
「いや」
この猟師は言葉を口にするのが苦手だ。
が、目も耳もこの村にいる誰より研ぎ澄まされている。
無言のまま自分自身の指に触れる。
シルクは何のことか分からず小首を傾げ、少ししてからようやく気付いてシスターベールの向きを直す。
エルフ耳が隠れてしまったことに気付いた弟子が声を残念そうな顔をして、また拳骨をくらっていた。
●勝利の宴
「シスター、あなた主賓ですよっ」
村長が悲鳴を上げる。
教会は、猪の足2本という小さな報酬でシルクを派遣してくれた。
つまり村は教会に恩がある。
直接的な恩人であるシルクに依頼外の仕事をさせるなど、他の村に知られたら白眼視されるのは確実。
だけどシルクは止まってくれないのだ。
「私、オムレツ大好きなんですっ」
分厚い鍋を片手で持ち、もう一方の手でヘラを使って豚肉オムレツをひっくり返す。
鍋は分厚く大重量だ。しかしシルクは普段から鍛えているし何より彼女自身食べたいので力が出る。
「はい君達、1人1切れだからね」
作った分を全て食べても誰からも文句は言われないのに、村の子供達に分け隔てなく分ける。
とても良い子だ。
教会関係者がこの場にいたら満足そうにうなずいた後、貰えるものは貰っておけと言うかもしれないが。
「上座に座ってくだされぇ……」
まだ幼さが残るとはいえ溌剌とした美少女で、しかも危険な害獣を倒した勇者だ。
純粋に憧れる子供から求婚狙いの男共まで大勢いる。
彼女は男共の思惑に気付きもせず、猪との戦いで砕けた芋も使って料理を作っていた。
シルクが冒険者となる、少し前の出来事である。
猪が荒い息を吐く。
血走った眼球は闇の中でも底光りして、松明を持つシルク・メイプルリーフを激しく睨み付けた。
「お芋を」
戦槌の柄がみしりと鳴る。
猪が足踏みする度に畑の芋が砕け、土の匂いに新鮮な匂いが混じる。
畑が荒らされるほどシルクの殺意が濃くなっていく。
猪は対峙の緊張に耐えられず、勢いを付けて巨体を加速させる。
柵も、畝も、村人が丹精込めて作り上げたものを蹂躙してシルクへ迫る。
「粗末にするなこのお肉ぅ!!」
戦槌を振り回す。
反動で全身が横へ動き、獣の体温と悪臭が間近を通り過ぎる。
多少の計算外はあったがおおむねシルクの思い通りだ。
獣の発達した筋肉に、鉄製のハンマーが深々と突き刺さった。
猪が痛みと焦りで狂乱し、体を左右に振って戦槌とシルクを振り払おうとする。
「また畑をっ」
シルクの声が凄みを増す。
畑とは食料生産の基本。
豊穣を司る神に仕えるシルクにとって、畑を荒らす猪は害獣を通り越して怨敵だ。
猪が猛り狂っている。
シルクは見た目も中身もエルフの少女だ。
猪は純粋な力の勝負になれば勝てると直感し、さらに押し込まれようとする戦槌を無視してシルクにのしかかろうとした。
青い瞳がぎらりと光る。
戦槌を手放して両手で猪を押さえ、じりじりと押し込まれながら白い歯を見せて大声を出す。
「今です!!」
弦音が連続する。
硬く長いものが皮膚を貫き肉に刺さる音が重なって聞こえる。
猪の口からどす黒い鮮血が吐き出され、乱れた畑の土を汚す。
「このっ」
戦槌を拾い上げ、全身を使って振り下ろす。
極めて頑丈な頭蓋に異様な音を立ててめり込み、猪に断末魔の悲鳴を上げさせた。
●さわやかな朝
いつもの時間に目が覚めた。
昨晩あれだけの激戦を繰り広げたのに眠気は残っていない。
シルクはとても健康なのだ。
「おはようございますシスター」
昨晩泊めてくれた村長の娘さんが、シルクの胸元を見た後自分自身の胸を見下ろし世界の不条理に悩む顔になる。
「おはようございます!!」
見回りに行ってきます、と着替えを済ませて部屋から出ようとするシルクを娘さんが慌てて押し止めた。
「朝ご飯を食べていってくださいっ。恩人を空腹にさせる訳にはっ」
シルクが足を止め、困ったように笑う。
昨晩の激戦で大量のカロリーを消費した結果、とてもお腹が減って音まで鳴っていた。
「おはようございます!!」
いっぱい食べた後も元気もいっぱいだ。
シルクは戦槌を片手で軽々持って、昨晩の戦場へ赴いた。
「おぅ」
あのとき弓を射てくれた猟師とその弟子が曖昧に挨拶してくる。
対人交渉能力ではシルクの足下にも及ばないが仕事は確かだ。
小さな松明程度の灯りしかない真夜中に、血も肉も損なわずに解体を成功させていた。
「あんたの取り分だ。」
足2本分の肉である。
熟成には時間が足りない。が、これはこれで美味しい。
何より、数時間前に酷使されたシルクの筋肉はタンパク質を欲している。
「ありがとうございます。しっかり教会に届けます。弓の援護、助かりました!!」
礼儀正しく頭を下げる。
シスターとして高度な教育を受けているのが所作だけで分かる……はずなのだが弟子の視線はシルクの胸に釘付けで猟師に拳骨をくらった。
「いや」
この猟師は言葉を口にするのが苦手だ。
が、目も耳もこの村にいる誰より研ぎ澄まされている。
無言のまま自分自身の指に触れる。
シルクは何のことか分からず小首を傾げ、少ししてからようやく気付いてシスターベールの向きを直す。
エルフ耳が隠れてしまったことに気付いた弟子が声を残念そうな顔をして、また拳骨をくらっていた。
●勝利の宴
「シスター、あなた主賓ですよっ」
村長が悲鳴を上げる。
教会は、猪の足2本という小さな報酬でシルクを派遣してくれた。
つまり村は教会に恩がある。
直接的な恩人であるシルクに依頼外の仕事をさせるなど、他の村に知られたら白眼視されるのは確実。
だけどシルクは止まってくれないのだ。
「私、オムレツ大好きなんですっ」
分厚い鍋を片手で持ち、もう一方の手でヘラを使って豚肉オムレツをひっくり返す。
鍋は分厚く大重量だ。しかしシルクは普段から鍛えているし何より彼女自身食べたいので力が出る。
「はい君達、1人1切れだからね」
作った分を全て食べても誰からも文句は言われないのに、村の子供達に分け隔てなく分ける。
とても良い子だ。
教会関係者がこの場にいたら満足そうにうなずいた後、貰えるものは貰っておけと言うかもしれないが。
「上座に座ってくだされぇ……」
まだ幼さが残るとはいえ溌剌とした美少女で、しかも危険な害獣を倒した勇者だ。
純粋に憧れる子供から求婚狙いの男共まで大勢いる。
彼女は男共の思惑に気付きもせず、猪との戦いで砕けた芋も使って料理を作っていた。
シルクが冒険者となる、少し前の出来事である。
登場キャラクター
シルク・メイプルリーフ