【想具】かたわらのおひさま
キャラクターノベル制作 伊治納品 2022年07月26日 09時41分20秒
●
お日様が顔を出し、朝が来たと鳥達が囀る。
爽やかな風が頬を撫でたら――微睡みに身を任せてしまっても仕方ないのだが、粽は遠慮せず、大福の頬へ鼻を押しつけた。
「ふ、ふわっ!?」
大福が慌てて身を起こすと、粽は大福の身なりを整えてやる。
やがて、大福が顔を洗いに行くのを見送ってから、粽今日の依頼に必要な支度を整え始めた。
粽が大福と出会ってどの位経ったのか。
実の所、粽はよく判らない。
大福の兄が大福らしさをを失うことなく一人前の商人に育て上げたいように、粽も大福がその良さを失わないで成長していけるよう見守りたい想いの方が重要だからだ。
時の流れも、言葉の壁も関係ない。
●
粽がその泣き声を聞いたのは、太陽が真上から山側に少し移動した頃だ。
既に群れに属さぬ身となっていた粽は、自らでは対処できない脅威の可能性を考え、泣き声を確かめるかどうか躊躇した。
結局、かつて属していた群れの子どもを思わせる泣き声だったから、足を向けてしまったけど。
粽が属していた群れは、群れの狼が飢えないよう腐心しながらも無駄な争いは好まない温厚な雌狼が率いていた。
番となる雄狼も群れをよく見ており、粽は彼らが群れのことを隅々まで見られるよう狩りも覚束ない子らの世話を買って出ていた。
互いに協力し合って生きる日々は、魔獣によって終わらされた。
山中に入ったヒトが魔獣を倒すまでの間に群れにはかなり被害が出、その中にはリーダーとその番の骸もあった。
強制的なリーダー交代とも言うべきか、生き残りの中で最も上位の雌狼が新しい群れを作り、行く宛のなかった粽も属した。だが、以前の群れとは異なるルール、より強いものが生き残り、群れを守るというものが度を越しており、その度合いは粽に合わず、季節がひとつ巡った時には自ら群れを出ていた。
さて、話を戻すと。
粽は風下から声の方角へゆっくり向かった。
丈の高い草に身を潜め、様子を窺うと――迷子の子犬が泣いていた。
何だ、と思う暇なかった。
「おっ父ー!?」
粽に気づいた子犬が大泣きしながら突進してきたのだから。
●
大福がおっ母が作ったお味噌汁を啜っていると、粽がエスト・ポーラの農園に行く支度を整えているのを見た。
(粽は優しいのだ)
大福が初めて出会った時、大福は独りだった。
兄と共にドワーフ王国へ仕入れに行った際、馬車の車輪の調子が悪く、迂回路を取った所、道に迷ってしまった。馬を休ませる頃合いでもあった為、兄は大福に馬の傍でで待っているように言って少し先まで道の様子を見に行ってしまい――帰宅後兄はおっ母から山中での単独行動は危険だと怒られていたが――馬達と心細い思いをしていたのだ。
おっ父のように帰って来なかったらどうしようと、大福は半分以上泣いた。
(あの時、粽がおっ父に見えたのだ)
草むらから視線を感じて振り返ると、狼がいた。
同じ毛並みの優しそうな――「おっ父だ、おっ父が助けに来てくれた!」と気が付いたら走り出してた。だって、おっ父は大福が子どもの頃に遠い所まで仕事に行って帰ってこない、顔も子ども過ぎて憶えてない。でも、頭を撫でてくれた手が温かかったのを憶えてる。抱っこしてくれた時、おっ父の世界が高かったのを憶えてる。
それだけだったけど、大福はおっ父が大好きだった。無事かどうかだけでも知りたいといつだって思ってる。
粽にひしっと抱きつくと、お日様のような匂いがした。
『大福、怖かったのだ』
そう言ったら、おっ父ではない、優しい狼は大福の顔を舐めてくれた。
でも、おっ父みたいに優しくて、温かくて、気がついたら眠っていた。
それが、大福と粽の出会いだった。
今も粽は、傍にいる。
大福には、それが嬉しい。
●
突進してきた子犬は威嚇も無視して抱きつくと、大声で泣いた。
引き離そうとしても離れず、その様は群れに残してきたあの子らを思い出させたものだ。
泣くなと顔を舐めれば安心したように笑い、やがて泣き疲れて眠ってしまったが、抱きしめる腕の強さだけはそのままだった。
やがて来た大福の兄は困惑しながらもついてくる自分を追い払うことはせず、大福の傍にいられるよう口添えをしてくれた。
だから、今も大福の傍にいられる。
粽には、それが嬉しい。
以前、大福の母は教えてくれた。
大福は兄姉程父を知らず、そして弟妹より父を知っている、と。
いた記憶はあっても顔は判らない、と。
だから、あの時粽におっ父を見たのだろう、と。
けれども、粽はそのことを知るよりも前、あの日から決めていた。
ずっと、一緒だ。
この子犬を守っていこう。
「粽! そろそろ行くのだ!」
大福が呼ぶ声がし、粽は後に続こうとし、足を止めた。
振り返るように見上げると、大福の母が兄姉と共に粽を見つめている。
大丈夫。任せて欲しい。
一吠えした粽は、守っていくべき子犬の後を追った。
お日様が顔を出し、朝が来たと鳥達が囀る。
爽やかな風が頬を撫でたら――微睡みに身を任せてしまっても仕方ないのだが、粽は遠慮せず、大福の頬へ鼻を押しつけた。
「ふ、ふわっ!?」
大福が慌てて身を起こすと、粽は大福の身なりを整えてやる。
やがて、大福が顔を洗いに行くのを見送ってから、粽今日の依頼に必要な支度を整え始めた。
粽が大福と出会ってどの位経ったのか。
実の所、粽はよく判らない。
大福の兄が大福らしさをを失うことなく一人前の商人に育て上げたいように、粽も大福がその良さを失わないで成長していけるよう見守りたい想いの方が重要だからだ。
時の流れも、言葉の壁も関係ない。
●
粽がその泣き声を聞いたのは、太陽が真上から山側に少し移動した頃だ。
既に群れに属さぬ身となっていた粽は、自らでは対処できない脅威の可能性を考え、泣き声を確かめるかどうか躊躇した。
結局、かつて属していた群れの子どもを思わせる泣き声だったから、足を向けてしまったけど。
粽が属していた群れは、群れの狼が飢えないよう腐心しながらも無駄な争いは好まない温厚な雌狼が率いていた。
番となる雄狼も群れをよく見ており、粽は彼らが群れのことを隅々まで見られるよう狩りも覚束ない子らの世話を買って出ていた。
互いに協力し合って生きる日々は、魔獣によって終わらされた。
山中に入ったヒトが魔獣を倒すまでの間に群れにはかなり被害が出、その中にはリーダーとその番の骸もあった。
強制的なリーダー交代とも言うべきか、生き残りの中で最も上位の雌狼が新しい群れを作り、行く宛のなかった粽も属した。だが、以前の群れとは異なるルール、より強いものが生き残り、群れを守るというものが度を越しており、その度合いは粽に合わず、季節がひとつ巡った時には自ら群れを出ていた。
さて、話を戻すと。
粽は風下から声の方角へゆっくり向かった。
丈の高い草に身を潜め、様子を窺うと――迷子の子犬が泣いていた。
何だ、と思う暇なかった。
「おっ父ー!?」
粽に気づいた子犬が大泣きしながら突進してきたのだから。
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大福がおっ母が作ったお味噌汁を啜っていると、粽がエスト・ポーラの農園に行く支度を整えているのを見た。
(粽は優しいのだ)
大福が初めて出会った時、大福は独りだった。
兄と共にドワーフ王国へ仕入れに行った際、馬車の車輪の調子が悪く、迂回路を取った所、道に迷ってしまった。馬を休ませる頃合いでもあった為、兄は大福に馬の傍でで待っているように言って少し先まで道の様子を見に行ってしまい――帰宅後兄はおっ母から山中での単独行動は危険だと怒られていたが――馬達と心細い思いをしていたのだ。
おっ父のように帰って来なかったらどうしようと、大福は半分以上泣いた。
(あの時、粽がおっ父に見えたのだ)
草むらから視線を感じて振り返ると、狼がいた。
同じ毛並みの優しそうな――「おっ父だ、おっ父が助けに来てくれた!」と気が付いたら走り出してた。だって、おっ父は大福が子どもの頃に遠い所まで仕事に行って帰ってこない、顔も子ども過ぎて憶えてない。でも、頭を撫でてくれた手が温かかったのを憶えてる。抱っこしてくれた時、おっ父の世界が高かったのを憶えてる。
それだけだったけど、大福はおっ父が大好きだった。無事かどうかだけでも知りたいといつだって思ってる。
粽にひしっと抱きつくと、お日様のような匂いがした。
『大福、怖かったのだ』
そう言ったら、おっ父ではない、優しい狼は大福の顔を舐めてくれた。
でも、おっ父みたいに優しくて、温かくて、気がついたら眠っていた。
それが、大福と粽の出会いだった。
今も粽は、傍にいる。
大福には、それが嬉しい。
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突進してきた子犬は威嚇も無視して抱きつくと、大声で泣いた。
引き離そうとしても離れず、その様は群れに残してきたあの子らを思い出させたものだ。
泣くなと顔を舐めれば安心したように笑い、やがて泣き疲れて眠ってしまったが、抱きしめる腕の強さだけはそのままだった。
やがて来た大福の兄は困惑しながらもついてくる自分を追い払うことはせず、大福の傍にいられるよう口添えをしてくれた。
だから、今も大福の傍にいられる。
粽には、それが嬉しい。
以前、大福の母は教えてくれた。
大福は兄姉程父を知らず、そして弟妹より父を知っている、と。
いた記憶はあっても顔は判らない、と。
だから、あの時粽におっ父を見たのだろう、と。
けれども、粽はそのことを知るよりも前、あの日から決めていた。
ずっと、一緒だ。
この子犬を守っていこう。
「粽! そろそろ行くのだ!」
大福が呼ぶ声がし、粽は後に続こうとし、足を止めた。
振り返るように見上げると、大福の母が兄姉と共に粽を見つめている。
大丈夫。任せて欲しい。
一吠えした粽は、守っていくべき子犬の後を追った。