研究員から届いた絵本
キャラクターノベル制作 広大野人納品 2022年07月10日 10時43分28秒
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叩きつけるような雨のある日、パンクリアース学園の寮部屋でルベア・ベルニは自身の机に向かいながら窓の外をぼんやりと眺めていた。
隣に並ぶ机では同室者が何かブツブツ言いながら一生懸命、手紙を書いており、邪魔する訳にもいかず、かといって外出するには不向きな天候でもあり……。退屈な時間に対してため息を漏らしかけたその時、寮母が訪れた。
「私、宛の?」
同室者に手紙がよく届くので、意外だった。
差出人は誰なのだろうかと思う――まさか、あの王国騎士から何か言われるのではなかろうかと不安にもなる。
「……トレイシー?」
組織の幹部にして、研究者である女性。
中身を確認すると、そこには思いの丈がびっしりと並んだ乙女チックな文――ではなく、日付と場所が記されている一枚のメモと一冊の絵本が入っていた。
「なに、これ……」
ルベアは思わず絶句する。せめて説明やら何か欲しい所だ。
ただ冷静になって考えると、手紙の中身が誰かに確認されているかもしれないので、トレイシーが出来る事はこれが限界なのかもしれない。
(離反する話は流石に紙には書けないだろうし)
届いた絵本にルベアは見覚えがあった。
学園生の授業の一環で施設の子供達に読み聞かせた事があるからだ。
(確か、旅をする孤独な王子が狐と友達になるという話だったはず)
トレイシーの事だから、きっと何か意味を持って絵本を送ってきたのだろう。
文として証拠を残すと厄介な事になるから、その代わりに――。
「これを読み解かないといけない、という訳ね」
自身に言い聞かせてルベアは絵本を手に机に戻る。
なお、隣の同室者は作業に集中しているようで絵本には気が付いていないようだ。
(そう……嫌な事があって故郷を飛び出した孤独な王子は狐と出会ったんだよね)
王子と狐は鬼ごっこや隠れん坊で一緒に遊んで仲良くなっていった。
けれど、楽しい時間を過ごしていたある時、王子は自分が孤独だった事を、故郷に大切だと思っていた事を置いてきたと気が付くのだ。
(そして、狐が言ったんだよね……「僕もただの狐だけど、王子から見たら、僕はこの世界に一匹しかない狐だよ」と……)
種として狐は多くいるが、孤独な王子の友人である狐はこの一匹しかいない大切な存在である。それは狐だろうが人であろうが変わらない。
ルベアは言語化できない想いを胸の中で大事に抱く。
組織でのトレイシーの立ち位置を詳しく分からない。それでも研究者として優遇されていたのは確かな事だろうし、ジード・ランスウッドから研究に対して理解もあっただろう。
だけど、それはあくまでも『研究者』に対する評価であり、『トレイシー』という人物を見ている訳ではなかったのかもしれない。
(なんだかんだ、関わりが多かったもんね……)
そう思いながらルベアは次の頁を捲った。
いよいよ、絵本の核心となるシーンだ。
故郷に帰る決意をした王子と別れる事になる狐から、『とっておきの秘密』を教えてくれるのだ。
(「本当に大事な事はね、目で見えないんだ。心で見るんだよ」……)
狐の台詞をルベアは読み上げて気が付いた。
トレイシーがいつか言っていた事を。
『私は誰も信じない。信じるのは行動と結果だけ』だと。また、こうも言っていた『学があるというのは非情だよ。過去は変えられないから人はいつまでも欠け続ける』とも。
(知って分かった上で、そう言わざるを得なかったんだ……トレイシーは……)
彼女はかつて、別機関の研究員として働いていたという。そこで、成果の全てを奪われた上で汚職の濡れ衣を被せられて放逐された過去があった――調べた以上に、きっと、想像を超えるような程、深い傷を心に負ったのだろう。
それこそ、目で見えないものは信じないと言い切れるほどに。
(トレイシーは、求めていたのかな……心で見てくれる存在を……)
だから――表裏の無いようなやり取りをしてきたルベアを『王子様』と呼んだのだろう。
いつかきっと、心で見てくれるのだと、無二の信頼に、再び出会える事を祈って。
「……分かりにくいのよ」
絵本で知らせるなんて、回りくどい上にややこしい。
解釈違いを起こしたらどうするつもりだったのだろうか……いや、もしかして、それも『込み』かもしれない。
「返却は予定されている依頼の日かな?」
ルベアはカレンダーを確認した。
帝国領での冒険者としての依頼。メモに記されていた場所もそこだ。
「少し早めに到着して、答え合わせしないとかな……全く、私が王子様な訳ないじゃない。む、むしろ、私の所にも王子様が、いつか来てもいいの……に……?」
何気なしに呟いた如何にも夢見る少女的な台詞は、いつの間にか、しっかりと同室者に聞かれていたようで、驚きと期待が入り混じったような視線が向けられていた。
「なぁぁぁ!!」
吹き出る恥ずかしさが悲鳴となってルベアの全身から放たれるのであった。
叩きつけるような雨のある日、パンクリアース学園の寮部屋でルベア・ベルニは自身の机に向かいながら窓の外をぼんやりと眺めていた。
隣に並ぶ机では同室者が何かブツブツ言いながら一生懸命、手紙を書いており、邪魔する訳にもいかず、かといって外出するには不向きな天候でもあり……。退屈な時間に対してため息を漏らしかけたその時、寮母が訪れた。
「私、宛の?」
同室者に手紙がよく届くので、意外だった。
差出人は誰なのだろうかと思う――まさか、あの王国騎士から何か言われるのではなかろうかと不安にもなる。
「……トレイシー?」
組織の幹部にして、研究者である女性。
中身を確認すると、そこには思いの丈がびっしりと並んだ乙女チックな文――ではなく、日付と場所が記されている一枚のメモと一冊の絵本が入っていた。
「なに、これ……」
ルベアは思わず絶句する。せめて説明やら何か欲しい所だ。
ただ冷静になって考えると、手紙の中身が誰かに確認されているかもしれないので、トレイシーが出来る事はこれが限界なのかもしれない。
(離反する話は流石に紙には書けないだろうし)
届いた絵本にルベアは見覚えがあった。
学園生の授業の一環で施設の子供達に読み聞かせた事があるからだ。
(確か、旅をする孤独な王子が狐と友達になるという話だったはず)
トレイシーの事だから、きっと何か意味を持って絵本を送ってきたのだろう。
文として証拠を残すと厄介な事になるから、その代わりに――。
「これを読み解かないといけない、という訳ね」
自身に言い聞かせてルベアは絵本を手に机に戻る。
なお、隣の同室者は作業に集中しているようで絵本には気が付いていないようだ。
(そう……嫌な事があって故郷を飛び出した孤独な王子は狐と出会ったんだよね)
王子と狐は鬼ごっこや隠れん坊で一緒に遊んで仲良くなっていった。
けれど、楽しい時間を過ごしていたある時、王子は自分が孤独だった事を、故郷に大切だと思っていた事を置いてきたと気が付くのだ。
(そして、狐が言ったんだよね……「僕もただの狐だけど、王子から見たら、僕はこの世界に一匹しかない狐だよ」と……)
種として狐は多くいるが、孤独な王子の友人である狐はこの一匹しかいない大切な存在である。それは狐だろうが人であろうが変わらない。
ルベアは言語化できない想いを胸の中で大事に抱く。
組織でのトレイシーの立ち位置を詳しく分からない。それでも研究者として優遇されていたのは確かな事だろうし、ジード・ランスウッドから研究に対して理解もあっただろう。
だけど、それはあくまでも『研究者』に対する評価であり、『トレイシー』という人物を見ている訳ではなかったのかもしれない。
(なんだかんだ、関わりが多かったもんね……)
そう思いながらルベアは次の頁を捲った。
いよいよ、絵本の核心となるシーンだ。
故郷に帰る決意をした王子と別れる事になる狐から、『とっておきの秘密』を教えてくれるのだ。
(「本当に大事な事はね、目で見えないんだ。心で見るんだよ」……)
狐の台詞をルベアは読み上げて気が付いた。
トレイシーがいつか言っていた事を。
『私は誰も信じない。信じるのは行動と結果だけ』だと。また、こうも言っていた『学があるというのは非情だよ。過去は変えられないから人はいつまでも欠け続ける』とも。
(知って分かった上で、そう言わざるを得なかったんだ……トレイシーは……)
彼女はかつて、別機関の研究員として働いていたという。そこで、成果の全てを奪われた上で汚職の濡れ衣を被せられて放逐された過去があった――調べた以上に、きっと、想像を超えるような程、深い傷を心に負ったのだろう。
それこそ、目で見えないものは信じないと言い切れるほどに。
(トレイシーは、求めていたのかな……心で見てくれる存在を……)
だから――表裏の無いようなやり取りをしてきたルベアを『王子様』と呼んだのだろう。
いつかきっと、心で見てくれるのだと、無二の信頼に、再び出会える事を祈って。
「……分かりにくいのよ」
絵本で知らせるなんて、回りくどい上にややこしい。
解釈違いを起こしたらどうするつもりだったのだろうか……いや、もしかして、それも『込み』かもしれない。
「返却は予定されている依頼の日かな?」
ルベアはカレンダーを確認した。
帝国領での冒険者としての依頼。メモに記されていた場所もそこだ。
「少し早めに到着して、答え合わせしないとかな……全く、私が王子様な訳ないじゃない。む、むしろ、私の所にも王子様が、いつか来てもいいの……に……?」
何気なしに呟いた如何にも夢見る少女的な台詞は、いつの間にか、しっかりと同室者に聞かれていたようで、驚きと期待が入り混じったような視線が向けられていた。
「なぁぁぁ!!」
吹き出る恥ずかしさが悲鳴となってルベアの全身から放たれるのであった。