春のまつりのプレゼント
キャラクターノベル(グループ)制作 大和気 いぐる納品 2022年06月25日 13時55分35秒
「どお? ここがマザキヤだよ!」
くるりと一回転して手を広げ、アルマ・ヴァレンタインが言った。
なお、自分の故郷みたいな言い草だが、別にそんなことはない。
馴染みの街だというだけだ。
「ほんとにパンの匂いでいっぱいですね」
微笑みながらエヴァン・ピオネロが返した。
アルマから聞いていたとおり、親しみやすく明るい雰囲気の街だ。
通りに立ち並ぶ看板や店先は、商売っ気たっぷりに飾りたてられている。
それでいて人々は何処となく暢気で、あまり身構えずに回れそうだ。
「じゃあ、案内をお願い」
そう言って、エヴァンは両手を広げた。
ふたりの間のお決まりの合図。
アルマは元気よく頷くと、エヴァンの腕にするりと収まった。
抱え上げる側のエヴァンも慣れたものだ。
「あれ、エヴァくん、背が伸びた?」
「どうかな……自分じゃよくわからないけど」
「ちょっと眺めが高くなった気がする。今度、測ってみよ?」
上目遣いでそんな事を言われ、エヴァンは微笑んだ。少しだけ得意げだ。
恋人に、少しなりと頼もしさを感じて貰えたのでは?
いやいや別にマッチョを気取るわけじゃないし、ガラじゃない。
アルマだって、そんな事にこだわる子じゃないのは分かってる。
見栄を張ったって仕方ない。でもまあ、それはそれとして。
――少しだけ、胸を張ってしまうエヴァンなのであった。
「でね、あそこの白パンがおいしかったんだ!
あ、あっちの揚げパンも買っちゃお! それから……」
ちっちゃな体のわりに、アルマは良く食べる。
案内するお店も買い物も、かなりの量にのぼっていた。
「ちょ、ちょっと待って……」
足を止め、エヴァンが抱えた荷物を整理する。
アルマを頑なに下ろそうとしないのは、彼氏の意地というものか。
「えへ、流石に買いすぎちゃったね」
この時期、マザキヤでパンを買い漁れば、お皿が貰える特典がある。
その上、冒険者には便利な収納手段もある。
ついつい調子に乗ってしまった。
アルマは舌をペロリと出して、苦笑いした。
「仕方ないです。どこのお店も美味しそうだったし。
……そういえば、すごいお店があるって言ってたけど……」
「あ、あー……あそこね」
アルマは遠い目になった。
すごい店こと、『珍味問屋 頂点』。
めくるめく珍味の殿堂。
間違いなくアルマおすすめの店ではある。
ただし、万人向けではない。かなりの上級者向けなのだ。
あの店主が容赦してくれるとは、とてもじゃないけど思えない。
無論、アルマをまるごと受け入れてくれるエヴァンのことだ。
連れて行ったところで態度が変わることはないだろう。
だが、それはそれとして。
あそこは鉄火場なのだ。上級者の巣である。取れる栄養が全然違う。
間違っても、カレシとのゆるふわデート♪ に使える場所ではない。
(なお、ポイント集めがデートに相応しいか、深く考えてはいけない。)
「……今度にしとこう!」
脳内シミュレートを終え、アルマは言った。
交換してもらった皿を荷物に加え、えっちらおっちら、二人は歩く。
……といっても歩いているのはエヴァンだけだが。
「ねえ、アルマ。あれはなんだろう」
エヴァンの視線の先には、木造の公会堂があった。
だが、そういう事を聞きたいのではないだろう。
そこには、ちょっとした人だかりが出来ている。
「なんだろね……あっ!」
公会堂の扉が開き、着飾った男女が進み出る。
大きな拍手と歓声がおこって、花びらがそこら中に舞い散った。
「結婚式……かな?」
「ああ、なるほど」
花婿が白い皿を差し出し、その上に花嫁が厳かに大きなパンをのせる。
そのまま二人が口づけを交わすやいなや、人々が彼らを取り囲む。
仮面をつけた太ったおじさんが、パンを切り分けて配り始めた。
介添人か何かだろうか。
「ほらほら、あんた達もぼうっとしてないで、分けてもらいなよ!」
横あいから街の人に声をかけられ、二人はきょとんとした。
「……いいんですか?」
「縁起ものだからね! そういうもんなのさ。さあ行った行った」
背中を押され遠慮気味に近づくが、心配無用だったようだ。
「お二人さん、仲がいいねえ~」と冷やかし混じりにパンの欠片を渡される。
「わ、甘~い! ね」
「ほんとだ」
甘い味付けは材料ゆえか、それとも場の雰囲気のためか。
それでいて、干した果物が入っており、噛めば爽やかな香りも広がる。
歩き通した疲れが癒えるようだ。
「少し座ろうか」
「うん!」
まだまだ続くらしい婚礼の宴を眺めつつ、二人はベンチに腰掛けた。
「う~ん、引き出物だからかな。売ってるやつとちょっと違うね」
「もしかしたら花嫁さんが作ったのかな?」
「じゃあ、非売品かもね」
量が少ないのもあって、あっという間に食べ終わってしまった。
「も少し食べよっか……ええと……」
アルマがこれまで買いあさったパンを取り出そうと、荷物をさぐる。
「ああ、じゃあ……」
エヴァンは貰ったばかりの皿に、ナフキンをかけて差し出した。
いつもだったら、何と言うこともない仕草だったろう。
――でも今は。
アルマの視界の端っこに、花嫁を抱き上げる新郎の姿が入る。
「そういえばマザキヤの春のまつりでは、好きな人にパンを贈るんでしょう?」
ふわり、笑ってエヴァンが言った。
(うわ~、わ~! エヴァくんってば!)
アルマは頬を押さえ、胸中でジタバタした。
普段は心配性で、他人の顔色を窺うことも多いくせに。
エヴァンはアルマに向かっては、随分と大胆な事を言うようになった。
しかもそう指摘すれば「君にだけだよ」だなんてシレッと言うのだ。
アルマも都度照れてるわけじゃないが、時々猛烈に落ち着かない気分になる。
「ぼくも欲し――」
「わーっ、皆まで言わないで~」
あわてて、荷物からハートを象った薄桃色のパンを引っ張り出す。
意中の相手に贈るのにピッタリ!
……だなんて売り文句に吊られて買ってしまったやつだ。
「……えーっと。手作りのやつは、またの機会にね」
「楽しみにしてます。……でも、それだけ?」
そういう上目遣いは、女の子の方がするもんじゃないだろうか。
どこぞで読んだ絵物語を思い浮かべつつ、アルマは思った。
いやいや、ここで負けては乙女がすたる。
「――エヴァくん、大好き!」
たぶん、今日一番の可愛い笑顔でいられたと思う。
「ぼくも――大好きです」
エヴァンの笑顔も、今日一番素敵な笑顔だったから。
こうして、二人の甘酸っぱいマザキヤ観光は終わりを告げたのだった。
「……ら、良かったんだけどさあ」
己のうちで暴れだす獣を自覚しつつ、アルマは思った。
人生は番狂わせの連続だ。
軽い気持ちで立ち寄った冒険者ギルド。
こんな依頼書があるなんて。
【想石】マザキヤ大発掘SP~洞穴に宝石の光を見た~
こんなの、あの案件に決まってるじゃないか!
かくしてアルマは恋人を置き去りに、カウンターへ突撃するのであった。
けれど心配無用。
のちに、エヴァンはこう述懐している。
「何をしているアルマも可愛いですから!」
二人のアレコレを尋ねたマザキヤ支部長は、こう言って呆れたとか。
「そいつは――ごちそうさまでした!」
くるりと一回転して手を広げ、アルマ・ヴァレンタインが言った。
なお、自分の故郷みたいな言い草だが、別にそんなことはない。
馴染みの街だというだけだ。
「ほんとにパンの匂いでいっぱいですね」
微笑みながらエヴァン・ピオネロが返した。
アルマから聞いていたとおり、親しみやすく明るい雰囲気の街だ。
通りに立ち並ぶ看板や店先は、商売っ気たっぷりに飾りたてられている。
それでいて人々は何処となく暢気で、あまり身構えずに回れそうだ。
「じゃあ、案内をお願い」
そう言って、エヴァンは両手を広げた。
ふたりの間のお決まりの合図。
アルマは元気よく頷くと、エヴァンの腕にするりと収まった。
抱え上げる側のエヴァンも慣れたものだ。
「あれ、エヴァくん、背が伸びた?」
「どうかな……自分じゃよくわからないけど」
「ちょっと眺めが高くなった気がする。今度、測ってみよ?」
上目遣いでそんな事を言われ、エヴァンは微笑んだ。少しだけ得意げだ。
恋人に、少しなりと頼もしさを感じて貰えたのでは?
いやいや別にマッチョを気取るわけじゃないし、ガラじゃない。
アルマだって、そんな事にこだわる子じゃないのは分かってる。
見栄を張ったって仕方ない。でもまあ、それはそれとして。
――少しだけ、胸を張ってしまうエヴァンなのであった。
「でね、あそこの白パンがおいしかったんだ!
あ、あっちの揚げパンも買っちゃお! それから……」
ちっちゃな体のわりに、アルマは良く食べる。
案内するお店も買い物も、かなりの量にのぼっていた。
「ちょ、ちょっと待って……」
足を止め、エヴァンが抱えた荷物を整理する。
アルマを頑なに下ろそうとしないのは、彼氏の意地というものか。
「えへ、流石に買いすぎちゃったね」
この時期、マザキヤでパンを買い漁れば、お皿が貰える特典がある。
その上、冒険者には便利な収納手段もある。
ついつい調子に乗ってしまった。
アルマは舌をペロリと出して、苦笑いした。
「仕方ないです。どこのお店も美味しそうだったし。
……そういえば、すごいお店があるって言ってたけど……」
「あ、あー……あそこね」
アルマは遠い目になった。
すごい店こと、『珍味問屋 頂点』。
めくるめく珍味の殿堂。
間違いなくアルマおすすめの店ではある。
ただし、万人向けではない。かなりの上級者向けなのだ。
あの店主が容赦してくれるとは、とてもじゃないけど思えない。
無論、アルマをまるごと受け入れてくれるエヴァンのことだ。
連れて行ったところで態度が変わることはないだろう。
だが、それはそれとして。
あそこは鉄火場なのだ。上級者の巣である。取れる栄養が全然違う。
間違っても、カレシとのゆるふわデート♪ に使える場所ではない。
(なお、ポイント集めがデートに相応しいか、深く考えてはいけない。)
「……今度にしとこう!」
脳内シミュレートを終え、アルマは言った。
交換してもらった皿を荷物に加え、えっちらおっちら、二人は歩く。
……といっても歩いているのはエヴァンだけだが。
「ねえ、アルマ。あれはなんだろう」
エヴァンの視線の先には、木造の公会堂があった。
だが、そういう事を聞きたいのではないだろう。
そこには、ちょっとした人だかりが出来ている。
「なんだろね……あっ!」
公会堂の扉が開き、着飾った男女が進み出る。
大きな拍手と歓声がおこって、花びらがそこら中に舞い散った。
「結婚式……かな?」
「ああ、なるほど」
花婿が白い皿を差し出し、その上に花嫁が厳かに大きなパンをのせる。
そのまま二人が口づけを交わすやいなや、人々が彼らを取り囲む。
仮面をつけた太ったおじさんが、パンを切り分けて配り始めた。
介添人か何かだろうか。
「ほらほら、あんた達もぼうっとしてないで、分けてもらいなよ!」
横あいから街の人に声をかけられ、二人はきょとんとした。
「……いいんですか?」
「縁起ものだからね! そういうもんなのさ。さあ行った行った」
背中を押され遠慮気味に近づくが、心配無用だったようだ。
「お二人さん、仲がいいねえ~」と冷やかし混じりにパンの欠片を渡される。
「わ、甘~い! ね」
「ほんとだ」
甘い味付けは材料ゆえか、それとも場の雰囲気のためか。
それでいて、干した果物が入っており、噛めば爽やかな香りも広がる。
歩き通した疲れが癒えるようだ。
「少し座ろうか」
「うん!」
まだまだ続くらしい婚礼の宴を眺めつつ、二人はベンチに腰掛けた。
「う~ん、引き出物だからかな。売ってるやつとちょっと違うね」
「もしかしたら花嫁さんが作ったのかな?」
「じゃあ、非売品かもね」
量が少ないのもあって、あっという間に食べ終わってしまった。
「も少し食べよっか……ええと……」
アルマがこれまで買いあさったパンを取り出そうと、荷物をさぐる。
「ああ、じゃあ……」
エヴァンは貰ったばかりの皿に、ナフキンをかけて差し出した。
いつもだったら、何と言うこともない仕草だったろう。
――でも今は。
アルマの視界の端っこに、花嫁を抱き上げる新郎の姿が入る。
「そういえばマザキヤの春のまつりでは、好きな人にパンを贈るんでしょう?」
ふわり、笑ってエヴァンが言った。
(うわ~、わ~! エヴァくんってば!)
アルマは頬を押さえ、胸中でジタバタした。
普段は心配性で、他人の顔色を窺うことも多いくせに。
エヴァンはアルマに向かっては、随分と大胆な事を言うようになった。
しかもそう指摘すれば「君にだけだよ」だなんてシレッと言うのだ。
アルマも都度照れてるわけじゃないが、時々猛烈に落ち着かない気分になる。
「ぼくも欲し――」
「わーっ、皆まで言わないで~」
あわてて、荷物からハートを象った薄桃色のパンを引っ張り出す。
意中の相手に贈るのにピッタリ!
……だなんて売り文句に吊られて買ってしまったやつだ。
「……えーっと。手作りのやつは、またの機会にね」
「楽しみにしてます。……でも、それだけ?」
そういう上目遣いは、女の子の方がするもんじゃないだろうか。
どこぞで読んだ絵物語を思い浮かべつつ、アルマは思った。
いやいや、ここで負けては乙女がすたる。
「――エヴァくん、大好き!」
たぶん、今日一番の可愛い笑顔でいられたと思う。
「ぼくも――大好きです」
エヴァンの笑顔も、今日一番素敵な笑顔だったから。
こうして、二人の甘酸っぱいマザキヤ観光は終わりを告げたのだった。
「……ら、良かったんだけどさあ」
己のうちで暴れだす獣を自覚しつつ、アルマは思った。
人生は番狂わせの連続だ。
軽い気持ちで立ち寄った冒険者ギルド。
こんな依頼書があるなんて。
【想石】マザキヤ大発掘SP~洞穴に宝石の光を見た~
こんなの、あの案件に決まってるじゃないか!
かくしてアルマは恋人を置き去りに、カウンターへ突撃するのであった。
けれど心配無用。
のちに、エヴァンはこう述懐している。
「何をしているアルマも可愛いですから!」
二人のアレコレを尋ねたマザキヤ支部長は、こう言って呆れたとか。
「そいつは――ごちそうさまでした!」