イカロスの井戸の底
天魔大戦アポカリプス・ゼロ-四月革命- イベントノベル(テーマ)制作 炙りとろ左門納品 2022年05月05日 11時23分33秒
その日、君は堕ちた。
あの光景を視た時か、あるいは降り頻る雨の中翼まで泥に塗れた時か、それともはじめて天使を襲った時か。
いずれにせよ、君——リクエルはもう、予言の力を持つとされる天使ではないのだ。
―― ○ ――
愛していた妹がいた。
いや、今でも、何よりも、誰よりも大切に思っている。共に過ごさない日はなかったし、その声を聞かずにつとめを終えることもなかった。
そう当たり前に過ごしていた日々が、今はずいぶん遠くにある。
さて、悪魔の力は、リクエルが期待していた通りのものではあった。妹を守る手段のひとつとして求め、手に入れたはずの力で——リクエルはうつ伏せになった天使の頭を押さえつけ、その純白の翼を毟り取る。苦痛にくぐもった悲鳴があがった。
ああ、これなら、天界のやつらなど目ではない。あの子を処分などさせない。そうなる前に救い出す、そのための力はもうここにある。
何も、間違ってなどいない。
俺も混ぜろと肩を掴んできた悪魔の手を、リクエルは力一杯に振り払った。
「触れるな、汚らわしい……」
悪魔となっても、リクエルは己の信義を貫いていた。抜き身の刃のような鋭さを持つリクエルに、悪魔は白けた様子で離れていく。
天使の矜持とやらを存分に踏み躙った後、リクエルはゆらりと立ち上がった。足元には無惨な遺骸が転がっている。遠巻きにその様子を見ていた他の悪魔たちも、遊びが終わったらしいことを悟ると興味を失い、散り散りになった。
頃合いだろうな、とリクエルは空を見上げる。処分が決定したあの子が、最前線に送り込まれるその時に合わせて、リクエルは彼女を迎えにいくつもりでいた。天使にも悪魔にも手は出させない。しかしなにより、久しぶりに声を聞くことができる。
彼女は元気でいてくれているだろうか? 戦場の苛烈さに怯えてはいないだろうか?
逸る気持ちを抑え、リクエルは飛び立った。
―― ○ ――
幻惑の類であれと願っただろう。
可愛がっている妹が、無慈悲にも処分される——そんな未来を視て。
果たして夢か現か。だが君にとってそれは、大した問題ではない。そのような未来は排除されるべきものだ。
そう、何に代えても——。
あの光景を視た時か、あるいは降り頻る雨の中翼まで泥に塗れた時か、それともはじめて天使を襲った時か。
いずれにせよ、君——リクエルはもう、予言の力を持つとされる天使ではないのだ。
―― ○ ――
愛していた妹がいた。
いや、今でも、何よりも、誰よりも大切に思っている。共に過ごさない日はなかったし、その声を聞かずにつとめを終えることもなかった。
そう当たり前に過ごしていた日々が、今はずいぶん遠くにある。
さて、悪魔の力は、リクエルが期待していた通りのものではあった。妹を守る手段のひとつとして求め、手に入れたはずの力で——リクエルはうつ伏せになった天使の頭を押さえつけ、その純白の翼を毟り取る。苦痛にくぐもった悲鳴があがった。
ああ、これなら、天界のやつらなど目ではない。あの子を処分などさせない。そうなる前に救い出す、そのための力はもうここにある。
何も、間違ってなどいない。
俺も混ぜろと肩を掴んできた悪魔の手を、リクエルは力一杯に振り払った。
「触れるな、汚らわしい……」
悪魔となっても、リクエルは己の信義を貫いていた。抜き身の刃のような鋭さを持つリクエルに、悪魔は白けた様子で離れていく。
天使の矜持とやらを存分に踏み躙った後、リクエルはゆらりと立ち上がった。足元には無惨な遺骸が転がっている。遠巻きにその様子を見ていた他の悪魔たちも、遊びが終わったらしいことを悟ると興味を失い、散り散りになった。
頃合いだろうな、とリクエルは空を見上げる。処分が決定したあの子が、最前線に送り込まれるその時に合わせて、リクエルは彼女を迎えにいくつもりでいた。天使にも悪魔にも手は出させない。しかしなにより、久しぶりに声を聞くことができる。
彼女は元気でいてくれているだろうか? 戦場の苛烈さに怯えてはいないだろうか?
逸る気持ちを抑え、リクエルは飛び立った。
―― ○ ――
幻惑の類であれと願っただろう。
可愛がっている妹が、無慈悲にも処分される——そんな未来を視て。
果たして夢か現か。だが君にとってそれは、大した問題ではない。そのような未来は排除されるべきものだ。
そう、何に代えても——。