氷の天使と狩人の戦場
天魔大戦アポカリプス・ゼロ-四月革命- イベントノベル(テーマ)制作 空色みなも納品 2022年04月29日 11時03分55秒
●
目撃者は語った。
そこは氷と風の吹き荒れる。
吹雪のような戦場であったと――。
●
二人は空を見下ろしていた。
通常、空は見上げるものだ。
だが空の青が二人の眼下に広がっていたのは確かである。
なにも逆立ちをしていたわけではない。
二人は空高く舞い上がっていたのだ。
その背には白き翼――そう、二人は天使である。
「……大勢きたな。数さえ揃えれば俺たちに勝てるつもりでいる。ご苦労なことだ」
二人のうち一人、水の主天使リクエル(だわ)が小さく呟いた。
しかしリクエルの視線の先を追っても、何もいない。
かと思えば、やがて地平線の上空を黒が塗りつぶしていった。
悪魔の大軍――リクエルはこの未来を『視た』のだ。
「さ、とっとと終わらせようぜ」
もう一人、『狩人』の異名を持つ風の権天使ロドリィ(マリィ・スノードロップ)が手にするはライフル銃。
ロドリィにはかつて人間界へ降り、銃火器の扱いや機械技巧に優れた人間に師事した過去がある。
そうした人間らとロドリィは家族として接してきたが、流行り病により彼らは命を落とした。
銃に与えられた『リウ=ライラ』の銘には失った人間の姓が冠せられており、『彼の命よ此処に在れ』の意が込められている。
「やれ」
ダンッ、と銃声が響いたのは、リクエルの指示と同時であった。
「聞いたろ、銃声。そのうち、お前の言葉より早く轟いてくっからよ」
「手間が省けて何よりだ」
ロドリィの構えた銃身の先、遥か遠くの空で、一体の悪魔が地の底へ吸い込まれるように墜ちていく。
リクエルは一瞥すらくれることなく、銃声をもって悪魔の撃墜と受け取った。
ロドリィが銃を撃ったのだ。
弾が敵を捉えていないはずなどない。
それがリクエルがロドリィへ向ける信頼だった。
そして銃声により、戦いの火蓋は切られた。
二人の天使を包囲せんと、黒が周囲の空を覆い尽くしていく。
「……先陣でそれか? 遅いな」
突出した悪魔の一体が、リクエルの剣に断たれた。
悪魔の胴を上下で泣き別れにせしめた、長剣の銘は銀氷――アルジェント。
氷のようにうすら寒く光る刃が、悪魔たちから次々と命の熱を奪っていく。
「二時の方角に小隊指揮級の悪魔。行ってこい」
「はいよ。氷の主天使様のいうとおり、ってな」
リクエルの指示に、ロドリィが軽口で返す。
氷の天使とは、冷徹な様子と魔術の性質からリクエルを揶揄する呼称だ。
「……ふん」
しかしリクエルもロドリィの言葉に悪意がないのは分かっているので、軽く鼻を鳴らすだけに留めた。
もとより階級的に上の立場にあるリクエルへロドリィが気軽に話している時点で、二人は特殊な関係なのだ。
「さて、これで遠慮はいらないな」
リクエルはロドリィが高速で離れていくのを見送った後、大地に向かって急加速した。
それを追う悪魔の群れが、黒雲のように空に線を描く。
「消えろ」
リクエルの剣が大地に突き立ち、剣と翼を囲む光輪が光を放った。
途端、六芒星の魔法陣が何重にも展開されたかと思うと、リクエルを包む空間から、熱という熱が――消える。
リクエルを追っていた悪魔たちが凍り付いて、生きることを止められた。
「逃げたつもりか。塵と帰せ」
どうにか難を逃れた悪魔へ、リクエルが剣先を向ける。
宙に描かれた紋様に切っ先が触れたことで、氷柱が飛び出して悪魔を貫いた。
「気づいた時にゃ真っ逆さま、ってな。獲物は声も無く墜ちるもんだぜ?」
ロドリィは聴覚を頼りに絶えず銃弾を放ち、次々と悪魔の急所に風穴を開けていた。
先程も悪魔の胸を貫通した銃弾には、複雑な紋様が光っている。
悪魔に再生を許さない、退魔の紋だ。
治癒の魔術に通じるロドリィであればこそ、回復を妨げる術にも明るくなれるものだ。
「そんなんで俺に追いつけるかよ」
放つのが銃弾であれば、ロドリィ自体もまた、銃弾のように鋭く空を飛翔する。
追いかけっこを続けても埒が明かないと悪魔も気づいたか、包囲網を敷こうとしてくるが――。
「ちったあ風の天使らしいところも見せてやるぜ」
ロドリィの銃が、何もない天空へと向けて続け様に吠えた。
刹那、戦場に突風が吹き荒れ、雷鳴が轟く。
嵐に体勢を崩した悪魔たちへロドリィが撃った銃弾は、落雷をまとっていた。
「……この軍勢の大将か」
その一方で、大柄な悪魔がリクエルを追い詰め始めていた。
悪魔はリクエルの放つ氷柱も避け、リクエルの懐に飛び込んでくるが――。
「……甘い。出し抜いたとでも?」
しかし、それこそがリクエルの罠だった。
悪魔はリクエルにまんまと行動を誘導されていたのだ。
剣で胸を串刺しにされ氷漬けとなった悪魔を、リクエルは蹴り飛ばして粉々に砕いた。
「終わったな」
「……流石に少し疲れたか。この後、ちょっと『妹語り』にでも付き合ってくれ」
合流したロドリィとリクエルが見渡した空に、もはや悪魔の姿は欠片も見当たらなかった。
目撃者は語った。
そこは氷と風の吹き荒れる。
吹雪のような戦場であったと――。
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二人は空を見下ろしていた。
通常、空は見上げるものだ。
だが空の青が二人の眼下に広がっていたのは確かである。
なにも逆立ちをしていたわけではない。
二人は空高く舞い上がっていたのだ。
その背には白き翼――そう、二人は天使である。
「……大勢きたな。数さえ揃えれば俺たちに勝てるつもりでいる。ご苦労なことだ」
二人のうち一人、水の主天使リクエル(だわ)が小さく呟いた。
しかしリクエルの視線の先を追っても、何もいない。
かと思えば、やがて地平線の上空を黒が塗りつぶしていった。
悪魔の大軍――リクエルはこの未来を『視た』のだ。
「さ、とっとと終わらせようぜ」
もう一人、『狩人』の異名を持つ風の権天使ロドリィ(マリィ・スノードロップ)が手にするはライフル銃。
ロドリィにはかつて人間界へ降り、銃火器の扱いや機械技巧に優れた人間に師事した過去がある。
そうした人間らとロドリィは家族として接してきたが、流行り病により彼らは命を落とした。
銃に与えられた『リウ=ライラ』の銘には失った人間の姓が冠せられており、『彼の命よ此処に在れ』の意が込められている。
「やれ」
ダンッ、と銃声が響いたのは、リクエルの指示と同時であった。
「聞いたろ、銃声。そのうち、お前の言葉より早く轟いてくっからよ」
「手間が省けて何よりだ」
ロドリィの構えた銃身の先、遥か遠くの空で、一体の悪魔が地の底へ吸い込まれるように墜ちていく。
リクエルは一瞥すらくれることなく、銃声をもって悪魔の撃墜と受け取った。
ロドリィが銃を撃ったのだ。
弾が敵を捉えていないはずなどない。
それがリクエルがロドリィへ向ける信頼だった。
そして銃声により、戦いの火蓋は切られた。
二人の天使を包囲せんと、黒が周囲の空を覆い尽くしていく。
「……先陣でそれか? 遅いな」
突出した悪魔の一体が、リクエルの剣に断たれた。
悪魔の胴を上下で泣き別れにせしめた、長剣の銘は銀氷――アルジェント。
氷のようにうすら寒く光る刃が、悪魔たちから次々と命の熱を奪っていく。
「二時の方角に小隊指揮級の悪魔。行ってこい」
「はいよ。氷の主天使様のいうとおり、ってな」
リクエルの指示に、ロドリィが軽口で返す。
氷の天使とは、冷徹な様子と魔術の性質からリクエルを揶揄する呼称だ。
「……ふん」
しかしリクエルもロドリィの言葉に悪意がないのは分かっているので、軽く鼻を鳴らすだけに留めた。
もとより階級的に上の立場にあるリクエルへロドリィが気軽に話している時点で、二人は特殊な関係なのだ。
「さて、これで遠慮はいらないな」
リクエルはロドリィが高速で離れていくのを見送った後、大地に向かって急加速した。
それを追う悪魔の群れが、黒雲のように空に線を描く。
「消えろ」
リクエルの剣が大地に突き立ち、剣と翼を囲む光輪が光を放った。
途端、六芒星の魔法陣が何重にも展開されたかと思うと、リクエルを包む空間から、熱という熱が――消える。
リクエルを追っていた悪魔たちが凍り付いて、生きることを止められた。
「逃げたつもりか。塵と帰せ」
どうにか難を逃れた悪魔へ、リクエルが剣先を向ける。
宙に描かれた紋様に切っ先が触れたことで、氷柱が飛び出して悪魔を貫いた。
「気づいた時にゃ真っ逆さま、ってな。獲物は声も無く墜ちるもんだぜ?」
ロドリィは聴覚を頼りに絶えず銃弾を放ち、次々と悪魔の急所に風穴を開けていた。
先程も悪魔の胸を貫通した銃弾には、複雑な紋様が光っている。
悪魔に再生を許さない、退魔の紋だ。
治癒の魔術に通じるロドリィであればこそ、回復を妨げる術にも明るくなれるものだ。
「そんなんで俺に追いつけるかよ」
放つのが銃弾であれば、ロドリィ自体もまた、銃弾のように鋭く空を飛翔する。
追いかけっこを続けても埒が明かないと悪魔も気づいたか、包囲網を敷こうとしてくるが――。
「ちったあ風の天使らしいところも見せてやるぜ」
ロドリィの銃が、何もない天空へと向けて続け様に吠えた。
刹那、戦場に突風が吹き荒れ、雷鳴が轟く。
嵐に体勢を崩した悪魔たちへロドリィが撃った銃弾は、落雷をまとっていた。
「……この軍勢の大将か」
その一方で、大柄な悪魔がリクエルを追い詰め始めていた。
悪魔はリクエルの放つ氷柱も避け、リクエルの懐に飛び込んでくるが――。
「……甘い。出し抜いたとでも?」
しかし、それこそがリクエルの罠だった。
悪魔はリクエルにまんまと行動を誘導されていたのだ。
剣で胸を串刺しにされ氷漬けとなった悪魔を、リクエルは蹴り飛ばして粉々に砕いた。
「終わったな」
「……流石に少し疲れたか。この後、ちょっと『妹語り』にでも付き合ってくれ」
合流したロドリィとリクエルが見渡した空に、もはや悪魔の姿は欠片も見当たらなかった。