【若木】辿り着いた帰宅と新たな門出
キャラクターノベル制作 広大野人納品 2022年05月02日 17時40分24秒
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「スゥーっと逝かないよう元気にしてたかな?」
修繕が進む塔の近くに急造された小屋に訪れたアルマ・ヴァレンタインが顔を見せた老ドワーフ、グダドワに声を掛けた。
いつも通りに元気な様子のアルマにグダドワは安心した趣きで深く頷く。
「わざわざ足を運んで貰ってすまんのぅ。より味気のない所じゃが、まぁ、入れ」
「住み込みなんて大変だね」
「登り降りするよりかは楽じゃがの」
ヴォーンの街から近い山頂に築かれた塔と砦。年老いたグダドワは職人として塔の修繕に勤しんでいるのだ。
隠居とは何だったのか……とも思える程、この老ドワーフの働きぶりは良いという。
「どうしたんじゃ?」
入口で、もそもそと荷を取り出そうとしているアルマにグダドワは尋ねる。
真剣な表情で、大事に包まれた物を手にすると、それを差し出した。
「開けてみて、グダドワさん」
「これは……なんじゃ?」
受け取ると、包みをゆっくりと剥がしていく……。
そこにあったのは一枚の肖像画。とあるドワーフの家族が描かれたものだった。
グダドワの喉を言葉が通るよりも先に、涙から床に向かって、一つ、また一つと落ちていく。
「……ありがとう……ありがとう……」
目を閉じて、老ドワーフはただただ感謝を繰り返す。
それ以外に伝えるべき想いが見当たらない。アルマからの手紙で、遺品があるのだろうと思っていたようだが、肖像画とは考えてもいなかったようだ。
「街は……どのような状態じゃったか?」
「復興はたぶん、難しいと思う……」
直接的な表現は避けてアルマは答えた。
だが、それだけでグダドワは察したようだ。職人であるグダドワには、建物や街の復興が困難という言葉の意味を、たぶん、よく理解している。
今、修繕が進んでいる塔と砦は、今後も活用される予定があるからこそ、修繕する意味があるのだ。
建物は直しても活用する者が居なければ意味はない。そういう意味で、復興は困難なのだ。
「残念じゃ……賑やかな街だったからの。やはり、クリーパーか?」
「うん。衛兵の記録によると、クリーパーに襲われると同時に魔獣にも襲われて籠城するしかなかったって……」
領主と兵士達は敗れ、街に残った衛兵と多くの市民達は逃げる事も出来なかった。
それでも、多くの市民は武器を取って戦ったと思われる形跡はあった。衛兵や兵士の詰所から武器や防具の類は全て持ち出されていたからだ。
「……そうか……」
グダドワは目を閉じて黙祷する。戦った市民の中に、きっと、自分の倅も居たのに違いないと……。
アルマも、そう確信できた。だって、目の前に居るこの老ドワーフの家族なのだから。
戦い抜いた先が悲劇だったけれど……一生懸命に生き残ろうとした生き様は、確かに心に届いた。それがグダドワにとって救いなのだ。
「ありがとう」
もう一度、グダドワは感謝を告げると、肖像画をよく見える棚の上に置く。
そして、感慨深く見つめてから、老ドワーフは小さく呟いた。
それが大切な家族に向けた言葉だったのか、気持ちを新たにする言葉だったのか、アルマには聞き取れなかったが……けれど、グダドワの背から発せられる優しい雰囲気で十分だった。
「儂は以前、生きていても意味が無いものだと思っておった……それが助けられてから、成すべき事を見つけ、そして、今……こうして、『再会』出来た……人生とはやはり、不思議なものだ。この歳になっても、まだまだ自分も家族の事も、知る事が出来るのだからの」
そして、その結果……新たな縁が紡がれていく。
紡がれた先に、また多くの人々に大きな影響がある事をまだグダドワもアルマもまだ知らないけれど。
「ちゃんと連れて帰って来れて良かったよ」
微笑を浮かべるアルマだった。
●
「火酒のセットと沢山のおつまみも持って来たよ」
「おう! それが楽しみにしておったんじゃ!」
グダドワは涙を拭ってから大きな声で応える。
山頂の砦には最低限の物資しか上げられないようで、とりわけ、食事に関しては不満が特に強いらしい。
「早速並べるかの……今、湯を沸かすが……なんぞ、すごい臭いがするが……」
「あーと……。他にもお土産持って来たから、『外』で開けて欲しいかな」
木箱と包みで厳重に封してある土産物をそっと玄関脇に置くアルマ。
今、開けられると流石に色々と大変な事になりそうな気がしたからだ。
「そうなんか? それじゃ砦の連中と一緒に開けるかの」
それはそれで大惨事な気もするが……娯楽のない此処では、それもある意味楽しい事になりそうだ。
「塔の修繕が進んでるって聞いたけど、どんな感じなのかな?」
「あー。それの事なんじゃが……実際に目で見た方が良いからのぅ。だが、残念な事に今日は塔の入口を閉めておるし……」
歯切れの悪い台詞にアルマは首を傾げる。
いつも遠慮のない雰囲気のグダドワにしては珍しい気がする。
そして、アルマが作ったおつまみを机の上に並べ始め、「おっ!」と歓声を上げた。
「これは……東の海で採れるメデガタイじゃないか!」
ぐりんぐりんとした目玉が特徴の鯛の仲間。その干物を焼いて持って来たのだ。
スンスンと海の香りを楽しむグダドワ。
「此奴は冷めれば冷めるほど、味が凝縮して旨いんじゃ。よぉー見つけたの!?」
「ちょうど、シャルガネで依頼があったから。お勧めされたんだ」
「火酒との相性も良いしの。ほほう、漬けもあるか」
塩分の濃い調味料に浸かった魚の切り身もまた、シャルガネのお土産だ。
全体的に味が強いものが揃っているが、度数の高い火酒にはピッタリな組み合わせ。狙った訳ではないが、丁度良かった。
「そういえば、冒険の中で岩喰蚯蚓とも対峙したよ」
「あれは鉱山の敵じゃからな。見つけたら小さいうちから駆除するのが一番じゃ。もっとも、喰えたもんじゃねぇが……やはり、大沼百足が一番じゃ」
干物の一欠けらを口の中に入れて味を噛み締めるグダドワ。
口の中で潮と旨味が渦巻いた。まるで、東の海の中に居るような錯覚を感じるほどに。
「これは……とんでもないのぉ~。酒が進むという話じゃないぞ!」
グイっと火酒が入ったグラスを呷る。
空になった所をすかさずアルマが注いだ。
「住み込みのようだけど、街の家の方は大丈夫なの?」
「知り合いに管理を頼んでおるからの。この前帰ったぶりじゃったが、まぁ、でも大分と変わったぞ。新しい領主になってから、色々と改革しておってな。塔を修繕する費用も出しておるんじゃ。なんぞ観光地にするとな」
「それで、登山道の工事もしていたんだ」
塔に来る最中の事を思い出すアルマ。
さすがに年寄りが登るのはまだまだキツいが、整備されれば何とかなるかもしれない。足腰を鍛えるにももって来いだろうか。
そんな事を考えている間に、グダドワが漬けた魚の切り身に手を伸ばす。
「ぬぅ! 調味料の味の中に魚本来の味が染み出して混ざり込んでおる。これは単なる漬けではない。実に見事な配分じゃ。何度も試行錯誤を繰り返したのに違いないぞ!」
表情豊かに、若干興奮気味のグダドワにアルマは思わず笑いそうになる。
「グダドワさん、評論家も向いているよ、きっと」
「いやいや、それは無いぞ。奴らは旨くもないものを旨いと言わなきゃならん時があるからの。儂がやったら、大惨事じゃ」
「確かに!」
生き生きとしている老ドワーフの台詞にアルマは大いに笑いながら手を叩くのであった。
「スゥーっと逝かないよう元気にしてたかな?」
修繕が進む塔の近くに急造された小屋に訪れたアルマ・ヴァレンタインが顔を見せた老ドワーフ、グダドワに声を掛けた。
いつも通りに元気な様子のアルマにグダドワは安心した趣きで深く頷く。
「わざわざ足を運んで貰ってすまんのぅ。より味気のない所じゃが、まぁ、入れ」
「住み込みなんて大変だね」
「登り降りするよりかは楽じゃがの」
ヴォーンの街から近い山頂に築かれた塔と砦。年老いたグダドワは職人として塔の修繕に勤しんでいるのだ。
隠居とは何だったのか……とも思える程、この老ドワーフの働きぶりは良いという。
「どうしたんじゃ?」
入口で、もそもそと荷を取り出そうとしているアルマにグダドワは尋ねる。
真剣な表情で、大事に包まれた物を手にすると、それを差し出した。
「開けてみて、グダドワさん」
「これは……なんじゃ?」
受け取ると、包みをゆっくりと剥がしていく……。
そこにあったのは一枚の肖像画。とあるドワーフの家族が描かれたものだった。
グダドワの喉を言葉が通るよりも先に、涙から床に向かって、一つ、また一つと落ちていく。
「……ありがとう……ありがとう……」
目を閉じて、老ドワーフはただただ感謝を繰り返す。
それ以外に伝えるべき想いが見当たらない。アルマからの手紙で、遺品があるのだろうと思っていたようだが、肖像画とは考えてもいなかったようだ。
「街は……どのような状態じゃったか?」
「復興はたぶん、難しいと思う……」
直接的な表現は避けてアルマは答えた。
だが、それだけでグダドワは察したようだ。職人であるグダドワには、建物や街の復興が困難という言葉の意味を、たぶん、よく理解している。
今、修繕が進んでいる塔と砦は、今後も活用される予定があるからこそ、修繕する意味があるのだ。
建物は直しても活用する者が居なければ意味はない。そういう意味で、復興は困難なのだ。
「残念じゃ……賑やかな街だったからの。やはり、クリーパーか?」
「うん。衛兵の記録によると、クリーパーに襲われると同時に魔獣にも襲われて籠城するしかなかったって……」
領主と兵士達は敗れ、街に残った衛兵と多くの市民達は逃げる事も出来なかった。
それでも、多くの市民は武器を取って戦ったと思われる形跡はあった。衛兵や兵士の詰所から武器や防具の類は全て持ち出されていたからだ。
「……そうか……」
グダドワは目を閉じて黙祷する。戦った市民の中に、きっと、自分の倅も居たのに違いないと……。
アルマも、そう確信できた。だって、目の前に居るこの老ドワーフの家族なのだから。
戦い抜いた先が悲劇だったけれど……一生懸命に生き残ろうとした生き様は、確かに心に届いた。それがグダドワにとって救いなのだ。
「ありがとう」
もう一度、グダドワは感謝を告げると、肖像画をよく見える棚の上に置く。
そして、感慨深く見つめてから、老ドワーフは小さく呟いた。
それが大切な家族に向けた言葉だったのか、気持ちを新たにする言葉だったのか、アルマには聞き取れなかったが……けれど、グダドワの背から発せられる優しい雰囲気で十分だった。
「儂は以前、生きていても意味が無いものだと思っておった……それが助けられてから、成すべき事を見つけ、そして、今……こうして、『再会』出来た……人生とはやはり、不思議なものだ。この歳になっても、まだまだ自分も家族の事も、知る事が出来るのだからの」
そして、その結果……新たな縁が紡がれていく。
紡がれた先に、また多くの人々に大きな影響がある事をまだグダドワもアルマもまだ知らないけれど。
「ちゃんと連れて帰って来れて良かったよ」
微笑を浮かべるアルマだった。
●
「火酒のセットと沢山のおつまみも持って来たよ」
「おう! それが楽しみにしておったんじゃ!」
グダドワは涙を拭ってから大きな声で応える。
山頂の砦には最低限の物資しか上げられないようで、とりわけ、食事に関しては不満が特に強いらしい。
「早速並べるかの……今、湯を沸かすが……なんぞ、すごい臭いがするが……」
「あーと……。他にもお土産持って来たから、『外』で開けて欲しいかな」
木箱と包みで厳重に封してある土産物をそっと玄関脇に置くアルマ。
今、開けられると流石に色々と大変な事になりそうな気がしたからだ。
「そうなんか? それじゃ砦の連中と一緒に開けるかの」
それはそれで大惨事な気もするが……娯楽のない此処では、それもある意味楽しい事になりそうだ。
「塔の修繕が進んでるって聞いたけど、どんな感じなのかな?」
「あー。それの事なんじゃが……実際に目で見た方が良いからのぅ。だが、残念な事に今日は塔の入口を閉めておるし……」
歯切れの悪い台詞にアルマは首を傾げる。
いつも遠慮のない雰囲気のグダドワにしては珍しい気がする。
そして、アルマが作ったおつまみを机の上に並べ始め、「おっ!」と歓声を上げた。
「これは……東の海で採れるメデガタイじゃないか!」
ぐりんぐりんとした目玉が特徴の鯛の仲間。その干物を焼いて持って来たのだ。
スンスンと海の香りを楽しむグダドワ。
「此奴は冷めれば冷めるほど、味が凝縮して旨いんじゃ。よぉー見つけたの!?」
「ちょうど、シャルガネで依頼があったから。お勧めされたんだ」
「火酒との相性も良いしの。ほほう、漬けもあるか」
塩分の濃い調味料に浸かった魚の切り身もまた、シャルガネのお土産だ。
全体的に味が強いものが揃っているが、度数の高い火酒にはピッタリな組み合わせ。狙った訳ではないが、丁度良かった。
「そういえば、冒険の中で岩喰蚯蚓とも対峙したよ」
「あれは鉱山の敵じゃからな。見つけたら小さいうちから駆除するのが一番じゃ。もっとも、喰えたもんじゃねぇが……やはり、大沼百足が一番じゃ」
干物の一欠けらを口の中に入れて味を噛み締めるグダドワ。
口の中で潮と旨味が渦巻いた。まるで、東の海の中に居るような錯覚を感じるほどに。
「これは……とんでもないのぉ~。酒が進むという話じゃないぞ!」
グイっと火酒が入ったグラスを呷る。
空になった所をすかさずアルマが注いだ。
「住み込みのようだけど、街の家の方は大丈夫なの?」
「知り合いに管理を頼んでおるからの。この前帰ったぶりじゃったが、まぁ、でも大分と変わったぞ。新しい領主になってから、色々と改革しておってな。塔を修繕する費用も出しておるんじゃ。なんぞ観光地にするとな」
「それで、登山道の工事もしていたんだ」
塔に来る最中の事を思い出すアルマ。
さすがに年寄りが登るのはまだまだキツいが、整備されれば何とかなるかもしれない。足腰を鍛えるにももって来いだろうか。
そんな事を考えている間に、グダドワが漬けた魚の切り身に手を伸ばす。
「ぬぅ! 調味料の味の中に魚本来の味が染み出して混ざり込んでおる。これは単なる漬けではない。実に見事な配分じゃ。何度も試行錯誤を繰り返したのに違いないぞ!」
表情豊かに、若干興奮気味のグダドワにアルマは思わず笑いそうになる。
「グダドワさん、評論家も向いているよ、きっと」
「いやいや、それは無いぞ。奴らは旨くもないものを旨いと言わなきゃならん時があるからの。儂がやったら、大惨事じゃ」
「確かに!」
生き生きとしている老ドワーフの台詞にアルマは大いに笑いながら手を叩くのであった。