焔の激闘
天魔大戦アポカリプス・ゼロ-四月革命- イベントノベル(テーマ)制作 崎田航輝納品 2022年05月09日 14時54分08秒
「あ~、ストレスフルで死ぬ……」
智天使カナメは山積する仕事に追われていた。
天界上層に座する一室。
造りこそ絢爛だが――そこは今書類の束と投影されたデータで一杯になっている。
戦略の立案。悪魔への警戒態勢の構築。
仕事を押し付けられるのは頭脳派の運命。とはいえ……もう長らくデスクワークに閉じ込められているのだった。
――だから。
カナメは手を止めて、ふと思い立った。
「うし、模擬戦すっか」
●蒼空にて
そのアイデアは即時に実行される事となった。
というのも――
「これが炎の柱ですか!」
純白のロリータドレスに身を包む権天使、キラが瞳を煌めかせる。
空と地続きの模擬戦空間に据えられたのは……巨大な砲口を持つ精霊兵器。
「いいですよね新兵器……迫りくる強敵に対抗するパワーアップイベント! これは燃えますよ!」
キラはぐっと期待を込める。
そう、先日鹵獲したこの“炎の柱”の試運転も兼ねる――そんな大義名分もあってカナメは机を離れる事が出来たのだった。
集まるメンバーは五人。
その一人、能天使バクルは……カナメを見つけて羽ばたいてくる。
「手入れしてる?」
「いや、最近ちょっとばかし忙しくてな」
「そう? 手入れしないとだめになっちゃうから――」
そうバクルがカナメから受け取るのは、武器である鎖。
他でもないバクルが制作したもので……暫し検分すると魔力の伝導率の上がる精油を塗り、繋ぎ目の強度も確かめてから渡していた。
それからキラの持つ魔法のステッキにも興味を示し、「すごく扱いやすそうだね」「ええ、とっても良いですよ!」と盛り上がったりする。
と――
そこへ高空から舞い降りる姿があった。
(みな あつまる してますか)
念話で皆に伝える――熾天使マカラエル。
“兵器には兵器相当のものをぶつけるべき”……そんな意図で決まった人選だ。
言葉に頷きながら、塔から伸びる空中通路を歩んでくるのは大天使ナサニエル。
「このメンバーで模擬戦に参加できるのは、光栄だね」
見回す仕草も流麗なままに、ふわりと空に浮かび上がる。
「では、早速始めるかい?」
●交錯
「はいっ、頑張りますよ!」
キラが声に気合を込める――それを機に五人は空で相対していた。
ナサニエルはマカラエルの隣に控えている。
この二人と残る三人で戦う形だ。
「噂の精霊兵器とやらがどんなものか試させて貰ういい機会だし――」
ナサニエルは鞭を慣らすようにひゅるりと振るう。
「火の天使ばかりが集まったのであれば、遠慮も必要なさそうだ」
故に、と隣へ視線を向けて。
「熾天使マカラエル、足手まといにならぬ様に力を尽くします」
つまりは、相手は三人居るから一人くらいは回してほしい、という意味だ。
(おれこそ たよる しますね)
マカラエルは肯定代わりに応えつつ――相手方に向き直る。
下位の天使達へ戦闘の手解きをする事は滅多にない。だから、実は心の中では緊張しているけれど……表情は平素のまま。
(だいじょうぶ ころすつもり きてください)
「分かりました!」
キラは明朗に応える。
戦いの場では皆が平等。ならば胸を借りる、なんて言うつもりはなく。
「勝ちに行きますよ!」
開始の合図と共にステッキに魔力を煌めかせ始めた。
とはいえ相手二人は空に佇んでいるだけでも鉄壁の守りに見えるが――
「一番困るのは、二人同時に前に出てこられる事だな」
カナメがふと声を投げた。
それはヒントを与えつつ“後は考えてみろ”という指示だ。
キラは一瞬だけ考えてから……「はいっ!」とステッキを前へ突き出している。初撃で相手に深いダメージを与える必要はない――それを理解したのだ。
まず必要なのは、相手の初動への足止めだから。
「えいっ!」
同時、ステッキに花を咲かすように幾重もの光を重ね――その全てを撃ち出していた。
花吹雪のように、無数の輝きとなって乱舞するそれは……衝撃の壁となって相手の前進を押し留める。
ナサニエルはそれを鞭で払うが――僅かにだけ眉を動かす。光が晴れた先、カナメの姿が無い事に気づいたのだ。
それこそがカナメの狙い。
「こっちだ」
高速で滑空していたカナメは既に下方。
次の瞬間、鎖を大きく振るう。宙を波打ちながら奔ったそれは、ナサニエルとマカラエルの体を縛りつけていた。
(今の内だね――!)
それに呼応して飛ぶのはバクル。
こちらもカナメとキラの動きから策を読み取って動いていた。次には掲げた鎌に魔力を込め、刃に焔を纏わせる。
身を躱す暇は、与えない。
――これで一気に優勢を。
その決定打になる威力を出せる自負はあった、が。
見上げるマカラエルは、あくまで表情を崩さない。
瞬間、自身を拘束する鎖を力尽くでばきりと外して戒めから逃れる。
すると同時に自由を得たナサニエルが、即座に意図を汲み取り――鞭を振り上げて弾くように鎌の威力を抑えた。
バクルの一閃も強力で、威力は殺しきれなかったが……勝敗が決するほどではない。
直後にはマカラエルがバクルへ肉迫して――
(れんけい いいかんじ ゆうこうです)
そう素直に褒める言葉を掛けながら、拳を握る。
マカラエルは武器を持たない。
他でもないその肉体と格闘技術が、“兵器に及ぶ”と言わせしめる力そのものだから。
刹那、真っ直ぐに放った拳打が同心円状に空圧を爆発させながら……バクルを蒼空へ吹き飛ばしていった。
●焔
「わっ……と」
体が軋むような痛みと共に、バクルは慌てて体勢を直す。
「大丈夫ですか!」
慌てて声をかけるキラに、頷きを返しながらも……無視出来ない痛みがあった。
が、それでもバクルの傷は浅い。
それはゆらりと揺蕩う炎の羽の為。自動で攻撃を迎撃するその魔術が、インパクトの直前にバクルの盾となったのだ。
「でも、何度も耐えられないかな――」
「ならそろそろ出番だな」
と、カナメはふわりと下方へ。炎の柱をスタンバイ状態から起こしていた。
「さて、いい子に働けよ」
巨大な魔力昇華機構と砲座を備えたそれは、口火となる少量の魔力を注ぐだけで精霊の力から莫大なエネルギーを生む。
充填時間が掛かるのがネックで、それがまだ終わっていないのだが――副砲は最初から使える造りだから。
「まずは挨拶代わり、と」
言いながらそれを利用し砲撃。巨大な槍型の焔を放出していた。
標的となったナサニエルは羽ばたいて避けようとする、が……それは誘導弾。軌道を曲げてこちらに接近してくる。
「成る程。だが――」
ナサニエルは焦らない。
高空で翻り、優美なまでの動きで焔に向き直ると……鞭で一閃。強烈な風圧で焔を両断した。
「威力はかなりのものだね」
(ちょくげき さける べきです)
マカラエルも言いながら、冷静。続く二弾目を裏拳で払ってゆく。
ただ――
「そりゃフェイクだ」
二者の頭上に影がかかる。
副砲はあくまで囮。飛び上がったカナメが鍵の杖を振り上げていた。
「――」
ナサニエルははっと仰ぐが、その反対からも羽ばたく音がする。
キラとバクルがタイミングを合わせて翼で風を叩き……下方へと舞い至っていたのだ。
「合わせるよ」
「はいっ!」
バクルに応えるキラは、ステッキへ膨大な魔力を練り上げている。
そのまま光の流線を棚引かせながら、狙いを定め――上方へ攻撃。星型の魔弾に二重螺旋を描かせ、眩くも美しい魔法を放っていた。
光に二人が包まれると同時、バクルも直上へ飛び抜けながら斬撃を繰り出す。
同時、カナメも杖を振り下ろすが――三人の手応えは浅い。
宙を踊るのはナサニエルの鞭だった。
大きな弧を描くように上下に奔らされたそれが……光の一部を弾き、斬撃と打撃を僅かに逸らしていたのだ。
(ナサニエル さすが です)
言ったマカラエルは反撃。隕石かと見紛うほどの蹴り落としでカナメを下方へ煽る。
同時、ナサニエルも鞭で一撃。紅蓮の炎を棚引かせながら二人を一手に打ち払っていた。
●決着
宙を回転しながらも、キラは何とかバランスを立て直していた。
「あ、危なかったです……!」
「流石に甘くはねぇな」
カナメも元の高度に戻りながら呟く。
ふと副砲を見下ろすと、オーバーヒートしているようだった。
「おーおー、世話が焼ける女王様なこって」
ただ、カナメの表情は不敵。
主砲の方は充填が完了していたのだ。それを確認するとキラへ向く。
「お前も好きに使ってみろ」
「いいんですか?」
「あぁ。ただし自己責任だ」
目を輝かすキラに言うと、後はバクルをちらりと見やった。
それ以上の指示は飛ばさない。状況から判るだろうという判断だ。
「それじゃあ、行こう」
バクルもそれにすぐに頷き、翼で風を捕まえる。直後にはカナメもそこに並び――相手方へ高速で距離を詰めていった。
無論、二人で抑えるには難しい相手だが……バクルが躊躇いなく飛び込むと、カナメも鎖を振るって挑発の声を飛ばす。
「どうした? 俺を焼き払ってみろよ」
「……」
ナサニエルは見据えながら、一瞬だけ思考を巡らせている。
挑発に乗るのも手だが、キラと炎の柱も無視は出来ないから。
「熾天使マカラエル」
(めのまえの あいて だいじです)
マカラエルは向けられた視線にそう応えた。
眼前の驚異が最優先という判断。故にバクルとカナメが繰り出す攻撃の連鎖に、マカラエルとナサニエルも反撃で応えてゆく。
その頃――キラは丁度、炎の柱のレバーを掴んでいた。
「これですね! 行きますよ!」
まずはレバーを引いてロックを解除。
すると充填されたエネルギーの第一層を消費して砲座が動き、投影された照準にマカラエルとナサニエルが捉えられる。
第二層が熱量に転換され、砲口内部に焔が圧縮され始めた。
「カッコいいですね……!」
光るゲージが満ちてゆくのに、キラはわくわく。アニメチックな起動シークエンスに心が踊っているのだった。
その内に第三層が注がれて準備が完了する。
後は手元に輝く粒子が、ボタン代わりだ。
バクルとカナメが離れると共に――
「発射です!」
キラがそれに触れると、空が眩む程の光量が生まれる。
炎の柱――その名に相応しいほどの膨大な焔が、雲を突き破る勢いで放出。戦場を熱と光に覆い尽くした。
轟音が劈き、風が荒れ狂う。
それは容易に逃れ得ぬ衝撃だった、が。
「――横へ!」
その只中でもナサニエルは冷静だった。
砲撃へ自身の炎をぶつけて威力を緩和させると、反作用も利用してマカラエルを掴みながら真横へ飛翔する。
それでも衝撃は襲ってくるが――
(ナサニエル たすかる しました)
後はマカラエルが一撃。背に迫る焔を周囲の大気ごと拳で薙ぎ払い――攻撃範囲から逃れ出ていた。
無論、被害は皆無とはいかず、二人は体から煙を漂わす。
だがそれによって初めて――マカラエルは本気になっていた。
瞳が発光し、十字の証が浮かび上がる。直後にはマカラエルは飛翔し反撃。飛び込みながら拳をカナメへ叩き込んだ。
カナメはその威力に苦渋を浮かべ……同時に血が騒ぐ。
(こりゃもう、理論がどうとかじゃねぇな)
次に浮かべるのは笑い。後は強者との戦いを楽しむように、打撃の応酬を交わしてゆく。
「助太刀します!」
そこへキラも舞い戻り、大きく飛び上がっていた。
アーチを描く軌道で、ステッキから降らすのは光の雨。きらきらと輝くそれは幾つもの色に明滅しながら相手の頭上に降り注ぐ。
ただ、それにはナサニエルが対抗。鞭を奔らせ、炎の斬線で傘を作るように……その大部分を弾き返していた。
戦況はマカラエル陣営優勢、だが。
「最後まで諦めないよ――」
バクルが空を一直線に飛び抜ける。
その瞬間、マカラエルとナサニエルの視界が僅かに揺れ動き……バクル達の姿がぶれはじめる。
それはバクルが熱で作り出した蜃気楼。
キラの姿もカナメの姿も確認は出来るが、全てが不明瞭。
ナサニエルとマカラエルは両者を攻撃する、が、どちらも現実のものではなく……衝撃が空を切っていた。
その一瞬にバクルが一閃。ナサニエルへ切り込んでいった。
「……流石だね」
だが刃を受けながら、ナサニエルもただでは倒れない。交錯させるように鞭を振るい――相打ちに持ち込んでいた。
マカラエルも消耗していたが、それはカナメ達も同じ。一瞬速く、マカラエルが打撃で二人の体力を奪い去り……勝利をもぎ取った。
智天使カナメは山積する仕事に追われていた。
天界上層に座する一室。
造りこそ絢爛だが――そこは今書類の束と投影されたデータで一杯になっている。
戦略の立案。悪魔への警戒態勢の構築。
仕事を押し付けられるのは頭脳派の運命。とはいえ……もう長らくデスクワークに閉じ込められているのだった。
――だから。
カナメは手を止めて、ふと思い立った。
「うし、模擬戦すっか」
●蒼空にて
そのアイデアは即時に実行される事となった。
というのも――
「これが炎の柱ですか!」
純白のロリータドレスに身を包む権天使、キラが瞳を煌めかせる。
空と地続きの模擬戦空間に据えられたのは……巨大な砲口を持つ精霊兵器。
「いいですよね新兵器……迫りくる強敵に対抗するパワーアップイベント! これは燃えますよ!」
キラはぐっと期待を込める。
そう、先日鹵獲したこの“炎の柱”の試運転も兼ねる――そんな大義名分もあってカナメは机を離れる事が出来たのだった。
集まるメンバーは五人。
その一人、能天使バクルは……カナメを見つけて羽ばたいてくる。
「手入れしてる?」
「いや、最近ちょっとばかし忙しくてな」
「そう? 手入れしないとだめになっちゃうから――」
そうバクルがカナメから受け取るのは、武器である鎖。
他でもないバクルが制作したもので……暫し検分すると魔力の伝導率の上がる精油を塗り、繋ぎ目の強度も確かめてから渡していた。
それからキラの持つ魔法のステッキにも興味を示し、「すごく扱いやすそうだね」「ええ、とっても良いですよ!」と盛り上がったりする。
と――
そこへ高空から舞い降りる姿があった。
(みな あつまる してますか)
念話で皆に伝える――熾天使マカラエル。
“兵器には兵器相当のものをぶつけるべき”……そんな意図で決まった人選だ。
言葉に頷きながら、塔から伸びる空中通路を歩んでくるのは大天使ナサニエル。
「このメンバーで模擬戦に参加できるのは、光栄だね」
見回す仕草も流麗なままに、ふわりと空に浮かび上がる。
「では、早速始めるかい?」
●交錯
「はいっ、頑張りますよ!」
キラが声に気合を込める――それを機に五人は空で相対していた。
ナサニエルはマカラエルの隣に控えている。
この二人と残る三人で戦う形だ。
「噂の精霊兵器とやらがどんなものか試させて貰ういい機会だし――」
ナサニエルは鞭を慣らすようにひゅるりと振るう。
「火の天使ばかりが集まったのであれば、遠慮も必要なさそうだ」
故に、と隣へ視線を向けて。
「熾天使マカラエル、足手まといにならぬ様に力を尽くします」
つまりは、相手は三人居るから一人くらいは回してほしい、という意味だ。
(おれこそ たよる しますね)
マカラエルは肯定代わりに応えつつ――相手方に向き直る。
下位の天使達へ戦闘の手解きをする事は滅多にない。だから、実は心の中では緊張しているけれど……表情は平素のまま。
(だいじょうぶ ころすつもり きてください)
「分かりました!」
キラは明朗に応える。
戦いの場では皆が平等。ならば胸を借りる、なんて言うつもりはなく。
「勝ちに行きますよ!」
開始の合図と共にステッキに魔力を煌めかせ始めた。
とはいえ相手二人は空に佇んでいるだけでも鉄壁の守りに見えるが――
「一番困るのは、二人同時に前に出てこられる事だな」
カナメがふと声を投げた。
それはヒントを与えつつ“後は考えてみろ”という指示だ。
キラは一瞬だけ考えてから……「はいっ!」とステッキを前へ突き出している。初撃で相手に深いダメージを与える必要はない――それを理解したのだ。
まず必要なのは、相手の初動への足止めだから。
「えいっ!」
同時、ステッキに花を咲かすように幾重もの光を重ね――その全てを撃ち出していた。
花吹雪のように、無数の輝きとなって乱舞するそれは……衝撃の壁となって相手の前進を押し留める。
ナサニエルはそれを鞭で払うが――僅かにだけ眉を動かす。光が晴れた先、カナメの姿が無い事に気づいたのだ。
それこそがカナメの狙い。
「こっちだ」
高速で滑空していたカナメは既に下方。
次の瞬間、鎖を大きく振るう。宙を波打ちながら奔ったそれは、ナサニエルとマカラエルの体を縛りつけていた。
(今の内だね――!)
それに呼応して飛ぶのはバクル。
こちらもカナメとキラの動きから策を読み取って動いていた。次には掲げた鎌に魔力を込め、刃に焔を纏わせる。
身を躱す暇は、与えない。
――これで一気に優勢を。
その決定打になる威力を出せる自負はあった、が。
見上げるマカラエルは、あくまで表情を崩さない。
瞬間、自身を拘束する鎖を力尽くでばきりと外して戒めから逃れる。
すると同時に自由を得たナサニエルが、即座に意図を汲み取り――鞭を振り上げて弾くように鎌の威力を抑えた。
バクルの一閃も強力で、威力は殺しきれなかったが……勝敗が決するほどではない。
直後にはマカラエルがバクルへ肉迫して――
(れんけい いいかんじ ゆうこうです)
そう素直に褒める言葉を掛けながら、拳を握る。
マカラエルは武器を持たない。
他でもないその肉体と格闘技術が、“兵器に及ぶ”と言わせしめる力そのものだから。
刹那、真っ直ぐに放った拳打が同心円状に空圧を爆発させながら……バクルを蒼空へ吹き飛ばしていった。
●焔
「わっ……と」
体が軋むような痛みと共に、バクルは慌てて体勢を直す。
「大丈夫ですか!」
慌てて声をかけるキラに、頷きを返しながらも……無視出来ない痛みがあった。
が、それでもバクルの傷は浅い。
それはゆらりと揺蕩う炎の羽の為。自動で攻撃を迎撃するその魔術が、インパクトの直前にバクルの盾となったのだ。
「でも、何度も耐えられないかな――」
「ならそろそろ出番だな」
と、カナメはふわりと下方へ。炎の柱をスタンバイ状態から起こしていた。
「さて、いい子に働けよ」
巨大な魔力昇華機構と砲座を備えたそれは、口火となる少量の魔力を注ぐだけで精霊の力から莫大なエネルギーを生む。
充填時間が掛かるのがネックで、それがまだ終わっていないのだが――副砲は最初から使える造りだから。
「まずは挨拶代わり、と」
言いながらそれを利用し砲撃。巨大な槍型の焔を放出していた。
標的となったナサニエルは羽ばたいて避けようとする、が……それは誘導弾。軌道を曲げてこちらに接近してくる。
「成る程。だが――」
ナサニエルは焦らない。
高空で翻り、優美なまでの動きで焔に向き直ると……鞭で一閃。強烈な風圧で焔を両断した。
「威力はかなりのものだね」
(ちょくげき さける べきです)
マカラエルも言いながら、冷静。続く二弾目を裏拳で払ってゆく。
ただ――
「そりゃフェイクだ」
二者の頭上に影がかかる。
副砲はあくまで囮。飛び上がったカナメが鍵の杖を振り上げていた。
「――」
ナサニエルははっと仰ぐが、その反対からも羽ばたく音がする。
キラとバクルがタイミングを合わせて翼で風を叩き……下方へと舞い至っていたのだ。
「合わせるよ」
「はいっ!」
バクルに応えるキラは、ステッキへ膨大な魔力を練り上げている。
そのまま光の流線を棚引かせながら、狙いを定め――上方へ攻撃。星型の魔弾に二重螺旋を描かせ、眩くも美しい魔法を放っていた。
光に二人が包まれると同時、バクルも直上へ飛び抜けながら斬撃を繰り出す。
同時、カナメも杖を振り下ろすが――三人の手応えは浅い。
宙を踊るのはナサニエルの鞭だった。
大きな弧を描くように上下に奔らされたそれが……光の一部を弾き、斬撃と打撃を僅かに逸らしていたのだ。
(ナサニエル さすが です)
言ったマカラエルは反撃。隕石かと見紛うほどの蹴り落としでカナメを下方へ煽る。
同時、ナサニエルも鞭で一撃。紅蓮の炎を棚引かせながら二人を一手に打ち払っていた。
●決着
宙を回転しながらも、キラは何とかバランスを立て直していた。
「あ、危なかったです……!」
「流石に甘くはねぇな」
カナメも元の高度に戻りながら呟く。
ふと副砲を見下ろすと、オーバーヒートしているようだった。
「おーおー、世話が焼ける女王様なこって」
ただ、カナメの表情は不敵。
主砲の方は充填が完了していたのだ。それを確認するとキラへ向く。
「お前も好きに使ってみろ」
「いいんですか?」
「あぁ。ただし自己責任だ」
目を輝かすキラに言うと、後はバクルをちらりと見やった。
それ以上の指示は飛ばさない。状況から判るだろうという判断だ。
「それじゃあ、行こう」
バクルもそれにすぐに頷き、翼で風を捕まえる。直後にはカナメもそこに並び――相手方へ高速で距離を詰めていった。
無論、二人で抑えるには難しい相手だが……バクルが躊躇いなく飛び込むと、カナメも鎖を振るって挑発の声を飛ばす。
「どうした? 俺を焼き払ってみろよ」
「……」
ナサニエルは見据えながら、一瞬だけ思考を巡らせている。
挑発に乗るのも手だが、キラと炎の柱も無視は出来ないから。
「熾天使マカラエル」
(めのまえの あいて だいじです)
マカラエルは向けられた視線にそう応えた。
眼前の驚異が最優先という判断。故にバクルとカナメが繰り出す攻撃の連鎖に、マカラエルとナサニエルも反撃で応えてゆく。
その頃――キラは丁度、炎の柱のレバーを掴んでいた。
「これですね! 行きますよ!」
まずはレバーを引いてロックを解除。
すると充填されたエネルギーの第一層を消費して砲座が動き、投影された照準にマカラエルとナサニエルが捉えられる。
第二層が熱量に転換され、砲口内部に焔が圧縮され始めた。
「カッコいいですね……!」
光るゲージが満ちてゆくのに、キラはわくわく。アニメチックな起動シークエンスに心が踊っているのだった。
その内に第三層が注がれて準備が完了する。
後は手元に輝く粒子が、ボタン代わりだ。
バクルとカナメが離れると共に――
「発射です!」
キラがそれに触れると、空が眩む程の光量が生まれる。
炎の柱――その名に相応しいほどの膨大な焔が、雲を突き破る勢いで放出。戦場を熱と光に覆い尽くした。
轟音が劈き、風が荒れ狂う。
それは容易に逃れ得ぬ衝撃だった、が。
「――横へ!」
その只中でもナサニエルは冷静だった。
砲撃へ自身の炎をぶつけて威力を緩和させると、反作用も利用してマカラエルを掴みながら真横へ飛翔する。
それでも衝撃は襲ってくるが――
(ナサニエル たすかる しました)
後はマカラエルが一撃。背に迫る焔を周囲の大気ごと拳で薙ぎ払い――攻撃範囲から逃れ出ていた。
無論、被害は皆無とはいかず、二人は体から煙を漂わす。
だがそれによって初めて――マカラエルは本気になっていた。
瞳が発光し、十字の証が浮かび上がる。直後にはマカラエルは飛翔し反撃。飛び込みながら拳をカナメへ叩き込んだ。
カナメはその威力に苦渋を浮かべ……同時に血が騒ぐ。
(こりゃもう、理論がどうとかじゃねぇな)
次に浮かべるのは笑い。後は強者との戦いを楽しむように、打撃の応酬を交わしてゆく。
「助太刀します!」
そこへキラも舞い戻り、大きく飛び上がっていた。
アーチを描く軌道で、ステッキから降らすのは光の雨。きらきらと輝くそれは幾つもの色に明滅しながら相手の頭上に降り注ぐ。
ただ、それにはナサニエルが対抗。鞭を奔らせ、炎の斬線で傘を作るように……その大部分を弾き返していた。
戦況はマカラエル陣営優勢、だが。
「最後まで諦めないよ――」
バクルが空を一直線に飛び抜ける。
その瞬間、マカラエルとナサニエルの視界が僅かに揺れ動き……バクル達の姿がぶれはじめる。
それはバクルが熱で作り出した蜃気楼。
キラの姿もカナメの姿も確認は出来るが、全てが不明瞭。
ナサニエルとマカラエルは両者を攻撃する、が、どちらも現実のものではなく……衝撃が空を切っていた。
その一瞬にバクルが一閃。ナサニエルへ切り込んでいった。
「……流石だね」
だが刃を受けながら、ナサニエルもただでは倒れない。交錯させるように鞭を振るい――相打ちに持ち込んでいた。
マカラエルも消耗していたが、それはカナメ達も同じ。一瞬速く、マカラエルが打撃で二人の体力を奪い去り……勝利をもぎ取った。